これまで3回にかけて,超長時間就業(ブラック就業)の率に関する記事を書きましたが,やや細部に入り過ぎた感があります。今回は,組織に雇われて働いている雇用労働者のうち,ブラックな働き方をしている者がどれほどいるか,属性別の変異はどうかという,基礎データを整理しようと思います。
2012年の総務省『就業構造基本調査』によると,わが国の15歳以上の雇用就業者は5,701万人ほどです。パートやバイト等の非正規雇用も含みます。このうち,年間300日以上かつ週75時間以上勤務しているブラック就業者は約56万人。よって,全雇用者でみた場合,ブラック就業率は9.9‰となります。およそ100人に1人です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
「もっといるだろう」と思われるかもしれませんが,用意されているカテゴリーのマックスで拾い出した,厳選されたブラック就業者です。週6日,1日12時間以上勤務の純ブラック。その量(magnitude)は,まあこんなものでしょう。
では,この数値が属性ごとにどう違うかをみていきましょう。まずは,性,年齢,および学歴という,就業者個々人の基本属性に注目してみます。属性不明の者は入っていませんので,各カテゴリーの分子(分母)の総和が,先ほど示した全体値と一致しないことに留意ください。
女性より男性の率が高いのは予想通りですが,年齢層別にみると,ピークは30代にあります。その次は40代。子育て期の層です。父親のブラック就業が子どもの人格によからぬ影響を及ぼす可能性があることは,前回のマクロ分析から示唆されるところですが,この年代に困難が集中していることは問題であるといえましょう。
学歴別の傾向は,短大・高専卒がボトムのU字型になっています。高学歴層のブラック率が高いのは,専門職や管理職のように,職務の境界が不明瞭な職に従事している者が多いためでしょう。
しかし,マックスは大学院卒ではないですか。22.0‰,45人に1人がブラックです。研究職に就いている者が少なくないと思いますが,4月16日の記事でみたように,大学教員の職務時間って普通の労働者よりも長いのですよね。広くとれば,自宅での読書等も「研究」という名の職務ですから。
あと考えられるのは,弱い立場で酷使されている任期付き研究員やポスドクとかでしょうか。・・・分かるような気がします。
今度は,就いている仕事の条件による変異に注目してみましょう。勤務先の規模,就業形態,産業,および職業別のブラック率を出してみました。
ブラック就業率は企業規模とリニアに関連しており,零細企業ほどブラック化が進んでいますが,官公庁でも率が高くなっています。国家公務員とか,大変だっていうしな(ブラック公務員)。
雇用形態別では,正規>非正規 なり。産業別では,宿泊・飲食業,運輸・郵便業の順に高くなっています。ブラック企業はこれらの業種に多いという感じですが,それは数字にも表れています。
職業別では,管理職がダントツ。管理職従事者のブラック率は30.9‰,32人に1人です。この職の業務の境界はないようなものであり,残業代も払わなくてよいことになっていますが,飲食店の「名ばかり店長」等も含まれていると思われます。
最後に,地域差もみておきましょう。それぞれの県について,15歳以上の雇用者中のブラック就業者率を計算し,地図化してみました。前々回の記事では,20代正社員のブラック率地図を掲げましたが,非正規も含む雇用者全体の地図は,模様がやや違っています。
黒色は値が10‰を越えるブラック県ですが,近畿や九州が黒く染まっていますね。今月から始まる厚労省の摘発では,重点地域を大阪に定めていますが,確かに的を射ています。しかし,重点をおくべき地域は他にも多し。
官庁統計から割り出すことができる,ブラック就業の基礎データは以上のごとし。ブラック生態学の基礎統計です。「日本を食い潰す妖怪」(今野晴貴氏)の分布は,一定の傾斜構造を持っています。それを精緻に明らかにし,対策を講じること。エビデンス・ベイスド・ポリシーの重要性は分野を問いません。