昨日の『クローズアップ現代』で,ブラック企業の特集をやっていました。悲惨な実例がいくつか紹介されていましたが,「みなし労働」の制度が悪用されているケースが多いようです。
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3403.html
所定内就業時間以外に「*時間働いた」と一律にみなすことですが,これは本来,外回り営業や記者など,就業時間が管理しにくい職業にのみ認められるものです。しかるに,就業時間が計測可能な職業にもこれが適用されているとのこと。企業の側は,どれだけ長時間働かせようと,「みなし」た分の給与だけ払えばよい,という構図です。
こんなですから,事業所にある就業時間記録は,実情とかけ離れていることがしばしばでしょう。やはり,どれだけ働いたかは個々の労働者に聞かないといけないようですが,総務省の『就業構造基本調査』はこの条件を満たしています。
同資料には,有業者の年間就業日数・週間就業時間の統計が載っていますが,これを使って,ブラック的な働き方をしている者の数を割り出すことができます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
人手不足で長時間労働が常態化しているといわれる,お医者さんの例をみてみましょう。最新の2012年調査の結果によると,病院に勤務している正規雇用の医師(歯科医師,獣医師は除く)は168,400人です。これらの医師を,「年間就業日数×週間就業時間」のマトリクスに散りばめると,以下のようになります。
ほう。年間300日以上&週75時間以上働いている,スーパーブラックの医師が最も多いではないですか。その数23,100人であり,正規雇用の医師全体の13.7%に相当します。7人に1人です。
年間300日以上ということは,月あたり25日勤務,週6日ということになります。週6日で75時間以上ということは,1日あたり12~13時間。よって翻訳すると,週6日,1日12時間以上働いていることになります。1日4時間超,月あたり100時間以上の残業。過労死ラインを軽く越えています。まさにブラックです。病院のお医者さんの7人に1人が,こうしたブラック・ドクターであることが知られます。巷でいわれていること,さもありなんです。
医師のブラック就業率は13.7%と算出されましたが,他の職業はどうでしょう。私は,67の職業について同じ値を計算してみました。以下に掲げるのは,ランキング表です。単位は‰としています。正社員1,000人あたりの数であることに留意ください。
1位は宗教家で146.3‰です。昼夜問わずの布教活動なども職務に含まれているためでしょう。2位は先ほどみた医師,3位は法務従事者なり。法務従事者のほとんどは弁護士ですが,弁護士の常軌を逸した長時間労働もよくいわれるところです。
編集者が8位。これも納得。私が知る某編集者氏からくるメールとか,発信時間が夜の11時を過ぎてることなんてザラだものなあ。
学校の教員も高位にランクインにしていますね。教員の過労やバーンアウトの問題は広く知れ渡っています。教員のブラック率は30.1‰ですが,私立や部活指導がある中高の教員に限定すれば,率はもっと上がるのでは。
公立学校の教員は公務員ですから,残業代もバッチリ払われていると思われるかもしれませんが,さにあらず。公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法によって,「教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない」と定められています。
その代わり,時間外勤務を一律評価して教職調整額が支給されるのですが,これがまた安い。月給の4%相当。つまり,月給30万円の教諭なら,部活指導やら個別指導やらでどんなに働こうが,上乗せされるのは一律1万2千円ということになります。これも「みなし労働」かしらん。
「みなし労働」悪用の典型は,1日あたり法定の8時間労働ということにして,12時間やそこら働かせる,というものでしょう。この「みなし」の相場を,業界の実労働時間の平均とかを参考にして決めることにしては。
そのためにも,労働者の自己申告による就業時間の統計を丹念に収集することが求められます。性,年齢,地域,業種別等,いろいろな層を設けてです。既存統計はこういうことに用いられるべきであり,職業別・産業別のブラック率の表を定期的に作成・公表し,業界に注意を呼び掛けることも必要であると思います。