現在では同世代の2人に1人が大学に進学しますが,大学進学率は,この2年間続けて下がっている模様です。2011年春が51.0%,2012年が50.8%,そして2013年が49.9%なり。
これは浪人込みの進学率ですが,浪人込みの率なんて出せるのか,という疑問もあるかと思いますので,当局の計算方法を説明いたしましょう。
大学進学率とは,同世代のうちどれほどが大学に進学したかという指標です。ベースは高卒者ではありません。文科省の『学校基本調査』からこの値を計算する場合,当該年に大学に入った者の数を,推定18歳人口(3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者)で除すことになります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
分子の大学入学者数には,より上の世代(いわゆる浪人生)も含まれますが,当該年の18歳人口からも,浪人を経由して大学に入る者が同じくらい出ると仮定し,両者が相殺するものとみなします。よって,このやり方で算出される進学率は,浪人込みの率ということになります。あくまで見立て値ですが,公的に採用されている計算方法です。
2013年春の大学入学者数は614,182人(短大は含みません)。3年前の2010年春の中学校・中等教育学校前期課程卒業者は1,231,117人。よって,今年の大学進学率は49.9%となる次第です。ちょうど半分。同世代の2人に1人とは,こういうことです。
これは新聞等でよく見かける数値ですが,都道府県別に細かく出したらどうでしょうか。同世代の半分というのは全国値であって,県ごとにみたら,かなりのバラツキがあるのではないかと思います。地方は大学が少ないですし。
私は,上記と同じやり方で,2013年春の大学進学率を県別に計算してみました。分子は当該県の高校出身の大学入学者数,分母は3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数です。
下表は,県別大学進学率の一覧です。ジェンダー差が分かるよう,男女の率を出し,男子が女子の何倍かという倍率も掲げました。進学率のジェンダー倍率とでも呼んでおきましょう。黄色は最高値,青色は最低値です。上位5位の数値は赤色にしています。
大学進学率は全国値では50%ですが,県別にみると,最高の71.3%から最低の33.9%まで甚だ大きな開きがみられます。東京では10人に7人ですが,岩手では3人に1人です。スゴイ格差です。
男女別の進学率をみると,どの県でも男子のほうが高くなっていますが,性差が大きい県もあります。マックスは北海道で,男子の進学率は女子の1.4倍です。その次は,わが郷里の鹿児島で1.38倍。鹿児島の女子の進学率は3割未満で,全国で最も低いのか。知らなかった。
ちなみに,大学進学率は都市で高く地方で低いという,明瞭な地域構造を持っています。この点を可視化しておきましょう,下図は,男女計の進学率地図です。5%区分で各県を塗り分けています。
首都圏,近畿圏,ならびに地方中枢県が濃い色になっていますね。一方,北東北や南九州は真っ白です。これほどまでにクリアーな図柄も珍しい。
大学進学とは,生徒個々人の意向や能力によってなされるものと思われていますが,それを集積してみると,社会現象としての側面がくっきりと浮かび上がります。子どもの学力上位常連の東北や北陸県の進学率が高くないことにも注意しましょう。
わが国の高等教育は,私学依存・大都市偏在という構造的特性を持っていますが,大学進学には膨大な経費がかかり,地方の生徒の場合,地域移動(下宿)のコストも上乗せされます。上図の模様は,こうした条件に由来することは間違いありますまい。
事実,各県の大学進学率は住民の所得水準と強い正の相関関係にあります。下図は,今年の進学率と県民所得の相関図ですが(県民所得は,『日本統計年鑑2013』掲載の2009年の数値),相関係数は+0.7886にもなります。
他にも,自県に大学がどれほどあるか(大学収容力),住民の学歴水準はどうか(高学歴人口率)など,各県の大学進学率と関連する要因は数多し。この種の要因分析は,多くの研究者が手掛けてきています。まさに,教育社会学のメインテーマの一つなり。これまでの先行研究の到達点を知るには,最近公表された,朴澤泰男氏のレビュー論文が参考になるかと思います。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40019520987
同世代の2人に1人が進学というのは一部の地域に限った話であり,目を凝らしてみるならば,大学進学機会の地域格差(階層格差)という現象が厳として存在することを,われわれは忘れるべきではないでしょう。
追記:
最新の2015年春の県別・性別大学進学率を計算しました。興味ある方は,どうぞご覧ください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/08/2015.html