前回は,20代の正社員のブラック企業勤務者率を試算したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。厚労省がブラック企業相談を行っていますが,時宜に適っているためでしょうか。
ツイッター上のコメントを拝見すると,「産業別の率も知りたい」「飲食とかすごそう」「ブラックを糾弾しているマスコミは労基法守ってんのか」というものがみられます。
なるほど。確かに,社員がどれほどブラック化しているかは業種によって異なるでしょう。今回は,正社員のブラック率を産業別に出してみようと思います。自分が勤めている,ないしは志望している業種の位置はどこ辺りか。とくとご覧ください。
本記事でいうブラック企業勤務者とは,年間300日以上かつ週75時間以上勤務している正社員のことです。翻訳すると,週6日,1日12時間以上働いている者です。法定労働時間は1日8時間ですから,1日4時間超の残業。月あたりの残業時間数は100時間を超えます。推測ですが,サービス残業も多く含まれていることでしょう。まさにブラックです。
2012年の総務省『就業構造基本調査』によると,15歳以上の正規職員・従業員数は3,311万人。このうち,上記の基準以上働いているブラック正社員は39万人。ゆえに,この年の正社員のブラック企業勤務者率は11.7‰となります。千人あたり11.7人,およそ85人に1人です。
前回出した20代正社員のブラック率(10.8‰)よりもちょっと高いくらいですが,正社員全体でみれば,まあこんなところでしょう。
では,同じ値を産業別に計算してみましょう。私は,103の産業の正社員総数とブラック社員数を収集し,割り算をしました。ソースは,下記サイトの表32です。雇用形態別・産業別の「年間就業日数×週間就業時間」のクロス表です。追試をしてみたいという方は,当たってみてください。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search
まずは,1~50位までのブラック率ランキング表をみていただきましょう。
正社員のブラック率トップは宗教で,116.0‰なり。百分比にすると11.6%,およそ9人に1人がブラック社員ということになります。昼夜問わずの布教活動などでしょうか。
その次は飲食業で73.2‰(13人に1人)。ブラックは飲食に多いといわれますが,そうした感覚が裏づけられています。漁業や農業といった,自然を相手にする1次産業も率が高いですね。
目ぼしい産業はマークをしましたが,ほう,学校教育が10位にランクインしています。ほとんどが教員ですが,およそ39人に1人がブラックと判定されます。確かに,休日の部活指導や持ち帰り仕事等も含めれば,「年間300日以上&週75時間超」のブラック・ティ―チャーがちらほら出てきても不思議ではありません。教員の過労はよくいわれるところです。
国家公務員は18位。深夜のタクシー行列は,霞が関ではお馴染みの光景ですが,さもありなん。学術研究機関は32位なり。*大学教員はこの中ではなく,「学校教育」のほうに含まれると思われます。
続いて,51位以降のランキング表を掲げます。
こちらは現業系が多くなっています。「ここからここまで」というように業務の境が明確であるためかしらん。やろうと思えば業務が際限なく拡張する教員とかとは対をなしています。
以上が,官庁統計から試作した,103産業のブラック・ランキング表(2012年)です。ブラック企業摘発の重点の置きどころを定めるにあたって,前回の地域別統計も合わせて,資料として使っていただけたらと思います。さしあたり,前回分かったブラック県の上位10位の産業に要注意,というところでしょうか。
『就業構造基本調査』を詰めれば,ブラック企業という「妖怪」の情報をもっと取り出せるはず。ヒマをみて,こうした実態解明の作業を続けていこうと思います。