世には無数の夫婦が存在しますが,就業という点で分類すると,夫・妻ともフルタイムでバリバリ働いている夫婦もあれば,夫がフルタイム就業,妻は家計の補助的なパートないしは専業主婦という型もみられます。わが国では,後者のいわゆる伝統的な夫婦が多いことでしょう。
こうした夫婦タイプの構成がどうなっているかですが,国内の時代比較や地域比較はよく見かけます。しかるに国際比較の資料はないものかと前から思っていたのですが,PISAの生徒質問紙調査のデータを使うことで,実態を明らかにできることを知りました。
PISAとは,各国の15歳の生徒を対象に,OECDが定期的に実施している国際学力調査ですが,対象生徒の生活や意識について尋ねる質問紙調査も含まれています。そこでは,父母の就業状態について尋ねており,①フルタイムで働いている,②パートタイムで働いている。③働いていないが,仕事を探している,④専業主婦(夫)・退職など,のいずれかを選んでもらっています。
私は,各国の生徒の回答を,フルタイム就業(①)とその他(②~④)の2区分にリコードしました。こうすると,生徒の父母の就業組み合わせとして,2×2=4タイプが析出されることになります。
最新のPISA2009の結果によると,父母双方の就業状態が判明する日本の生徒は5,503人です。このうち,父がフルタイム就業,母がその他という者が3,287人で最も多くなっています。全体の約6割が,こうした伝統タイプであることが知られます。
では,想定される4タイプの内訳をみてみましょう。下図は,各タイプの相対量を正方形の面積で表現したものです。比較対象として,北欧のスウェーデンの結果も描いています。ちなみに,ここで提示するデータは,上記調査の未加工データを,私が独自に加工して作成したものであることを申し添えます。ローデータは,下記サイトよりDL可能です。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php
日本では,「父フルタイム&母その他(パート,専業主婦等)」という伝統型が最多ですが,スウェーデンでは,父母ともフルタイムという生徒が最も多くなっています。母がフルタイムで父がその他という非伝統型が,わが国より多いのも注目されます。
スウェーデンは,女性の社会進出が進んだ国といわれますが,15歳生徒の親世代夫婦(40代くらい)の就業組み合わせタイプにも,それが表れていますね。
PISA2009の対象となっているのは74か国ですが,他の社会のタイプ構成も明らかにしてみました。その全貌を示すことはできませんが,量的に多い第1象限(右上)と第4象限(右下)の比重をご覧にいれましょう。
下図は,横軸に「父フルタイム&母その他」型,縦軸に「父母ともフルタイム」型の生徒比率をとった座標上に,74の社会をプロットしたものです。
フルタイム共働き型が伝統型より多い社会とその逆の社会は,数的にはほぼ半々です。大雑把にいうと,北欧諸国や米英仏は前者に属し,日本やアジア・アフリカ諸国は後者に属します。男女共同参画,女性の社会進出の進展具合を表す,一つの見取り図とみてよいでしょう。ドイツが右下にあるのがちょっと意外ですが・・・。
昨年実施されたPISA2012の結果は,今年の12月に公表されます。2012年のわが国の位置はどうなっているでしょう。斜線(均等線)を越え,フルタイム共働き型が伝統型より多い社会の仲間入りを果たしているでしょうか。ここ数年の男女共同参画政策の成果は如何。
なお,ここで検出した父母の就業タイプによって,生徒の社会化の有様がどう異なるかも興味深いところです。たとえば,フルタイム共働き型や非伝統型(父その他,母フルタイム)の家庭では,生徒,とりわけ女子生徒の将来展望はどういう方向に仕向けられるでしょう。
PISAの生徒質問紙調査では,将来展望をはじめとした各種の生活意識についても問うています。父母の就業タイプをコアにしたクロス集計により,この点を吟味することが可能です。面白い結果が出ましたら,ご報告します。