2013年度の文科省『全国学力・学習状況調査』では,子どもの学力や生活習慣に加えて,家庭環境も調査しています。「きめ細かい調査」というやつです。
先月の末に,この特別調査の部分も交えた集計結果が公表されました。『平成25年度 全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究』と題する報告書であり,お茶の水女子大学の研究グループによる執筆となっています。
http://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/hogosya_chousa.html
上記サイトにて報告書の全文をダウンロードし,中をみると,あるわあるわ,家庭環境の設問と学力(平均正答率)のクロス表がわんさと載ってます。以前は半ばタブー視されていた学力の社会的規定性の問題に,公的な関心が高まっているのですね。結構なことです。
報告書の40ページに,家庭の年収別にみた平均正答率の表が掲載されています。分散が大きい算数B(小6)と数学B(中3)の結果をグラフにしてみました。
ほう。年収が高い群ほど正答率が高い傾向がみられます。右上がりになるのは間違いないと思っていましたが,ここまでクリアーに出るとは驚きです。モヤモヤとしていた印象が,はっきりと「見える化」されました。
参考書や通塾の費用負担能力,自室などの勉学環境の有無…。家庭の経済状況と子どもの学力の関連経路はいろいろ想起されます。
また,文化的な要因も無視できません。抽象度の高い学校知に親しみやすいのは,どういう家庭の子どもか。書籍が多くある,美術鑑賞などに頻繁に連れて行ってもらえる…こんな家庭でしょう。ブルデューは,こうした文化資本を媒介して,親から子へと地位が「再生産」される過程を暴いてみせました(文化的再生産)。
家庭の文化嗜好は,父母の学歴によって推し測ることができるでしょう。父母の学歴別に平均正答率を集計した表がありますので(40~41ページ),それを視覚化してみました。
小6の算数B,中3の数学Bとも,父母の学歴が高い群ほど正答率が高くなっています。親が高学歴の子どもほど,諸々の文化的環境(働きかけ)により,学校で教授される(抽象的な)知識への親和性が高くなる。その結果,高いアチーブメントを収める…。このような経路もあることでしょう。
父親と母親の曲線を比べると,後者のほうが少し傾斜が急になっています。子どもと接する時間が長い母親の影響力が大きいのでしょうか。とくに,母親が大卒以上であるかが分岐点のようです。
報告書には他にも,興味深いクロス表が盛りだくさんです。複数の変数を同時に取り込んだ重回帰分析のような,精緻な分析もなされています。学力の規定因子としてどれが一番大きいのかを教えてくれます。
さらに,家庭環境の条件が悪くとも高いアチーブメントを出している子どもの特性は如何。こういう問題も検討されています。これなどは,学力の社会的規定性の克服に向けた取組に際して,大きな示唆を与えてくれます。
学力の社会的規定性を個人レベルで明らかにした,貴重な研究報告です。これから先,この分野の研究のバイブルとして広く引用されることとなるでしょう。お茶の水女子大学の研究チームの仕事に敬意を表したいと思います。