昨年の4月23日の記事では,図書館職員の女性非常勤比率を出したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。
図書館職員の非正規化はよくいわれますが,それをジェンダーの視点でみると,非正規化の多くは女性によって担われていること。その結果,職員全体に占める女性非常勤比率がとみに上昇していること。これがファインディングスです。
今回は,こうした傾向がどれほど顕著かを都道府県別にみてみましょう。先の記事でみたのは全国のものですが,県別に観察すると様相は多様でしょう。公共図書館の管理主体は,それぞれの自治体ですしね。
文科省『社会教育調査』から,各県の図書館の職員数を知ることができます。最新の2011年度調査によると,東京都の図書館職員数(専任+兼任+非常勤)は4,642人です。この中には,指定管理業者の職員は含みません。このうち,女性の非常勤職員は2,323人。よって,東京の女性非常勤率は50.0%,ちょうど半分ということになります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm
大都市の東京では,図書館職員の半分が女性の非常勤職員です。では,他の県はどうでしょう。同じ値を全県について出し,地図をつくってみました。2011年度のマップです。
ほう。県によって値が大きく違っていますね。最高は群馬の59.7%,最低は青森の33.8%です。色が濃いのは50%(半分)を超える県ですが,関東と甲信越のゾーンが濃く染まっています。図書館職員の(女性)非正規化には,地域性もありそうです。
なお,過去からの変化という点でいうと,率の上昇幅が最も大きいのは山梨県です。図書館職員の女性非常勤率は1999年度は18.6%でしたが,2011年度では57.6%にまで激増しています。3倍以上です。全国レベルでみた増加幅(24.1%→49.0%)を大きく上回っています。
この県の図書館職員数がどう変わったかを実数で示すと,下表のようです。
この12年間で職員総数は226人から356人へと増えましたが,増分はもっぱら女性の非常勤職員に担われています。表から分かるように,増えているのはこのカテゴリーだけであり,その増え方もハンパじゃありません(42人→205人)。
この表のデータを視覚化してみましょう。6カテゴリーの量を四角形の面積で示した,面積図にしてみました。
何も言いますまい。よく指摘される図書館職員の非正規化は,もっぱら女性によって担われています。別の言い方をすると,今世紀以降,図書館のような公共施設で働く女性は増えたが,増分のほとんどは非正規。わが国の女性の社会進出は「非正規依存型」といいますが,その様がまざまざと表れています。
この中には,育児や介護等で忙しく,パートタイムの働き方を自ら望んだ女性もいることでしょう。しかるにそのこと自体,諸々の家事が女性に集中しており,彼女らにとって職域は二次的な場所という,ジェンダーの問題を象徴しているともいえます。
この図を外国の人が見たらどういう反応を示すか興味深いところですが,われわれは,女性の社会進出と雇用の非正規化という社会変動を,別個に切り離すのではなく,相互にリンクさせて観察する必要があるようです。上記の図の縦軸・横軸のいずれか一方だけを観察するだけでは不十分でしょう。
今回みたのは図書館職員ですが,他の職業についても,性×地位というフレームにおいて,最近の変動過程を明らかにしてみたらどうでしょうか。間もなく始まる調査法の課題の一つにしようかと。今年度の本授業が目指すのは,社会現象の「見える化」技法の体得です。