2012年6月23日土曜日

幼稚園教員の苦悩

文科省の『学校教員統計』では,調査年の前年度間に離職した教員の数を,離職の理由別に明らかにしています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172

 設けられている離職理由のカテゴリーの中に「病気」というものがあります。最新の2010年調査によると,前年の2009年度間において,病気という理由で離職した教員数は,幼稚園で545人,小学校で629人,中学校で346人,高校で258人,特別支援学校で94人,となっています。

 この数を,各学校種の本務教員数で除すことで,病気による教員の離職率を算出することができます。結果は,下表のごとし。分母の本務教員数は,2009年5月1日時点のもので,出所は同年度の文科省『学校基本調査』です。


 ベースの規模を考慮した離職率でみると,病気を患って職を辞す確率は,幼稚園の教員で各段に高くなっています。小中高特の比ではありません。

 いつ頃からこうした事態になっているのかを突き止めるため,病気による離職率の時系列推移をとってみました。1979~2009年度までの30年間の変化をみてみます。3年刻みなのは,上記の文科省調査が3年間隔で実施されていることと対応しています。


 どの時期でも,幼稚園教員の病気離職率はダントツで高かったようです。しかるに今世紀以降,幼稚園教員の病気離職率が加速度的に上昇し,他の学校種との差が広がっています。

 幼稚園は,学校教育法第1条が定める正規の学校であり,「満3歳から,小学校就学の始期に達するまでの幼児」を教育する機関です(第26条)。義務教育学校ではありませんが,就学前教育が普及している今日,多くの幼児が幼稚園に通っています。

 幼稚園の教員は,低年齢の幼児を相手にするだけに,さぞ神経を使うことでしょう。今は保護者がうるさくなっていますから,かすり傷一つでもつけようものなら大変です。少子化により「希少財化」した幼児を,腫れものに触れるかのごとく丁重に扱うことには,多くの気苦労が伴うことと思います。

 「しつけをしてほしい」,「もっと長時間預かってほしい」などと,理不尽な要求を突きつけてくる保護者も少なくないことでしょう。こうしたモンスター・ペアレントは,小・中学校よりも幼稚園で多いのではないか,という見方もできます。

 また最近は,多くの幼稚園が保育所との競合にさらされています。共働き世帯が増えるなか,長時間預かってくれる保育所への需要が高まっています。保育所の在所児数は,2000年の190万人から2010年の206万人へと増加しています(厚労省『社会福祉施設等調査』)。一方,幼稚園児数は177万人から161万人へと減っているのです。

 少子化によりただでさえ少なくなっている顧客を持っていかれるのは脅威です。幼稚園教員の肩には,通常の教育活動に加えて,園児獲得のための営業活動ものしかかっているのではないでしょうか。申すまでもないですが,幼稚園の大半は私立です。

 推測を述べるのはいくらでもできますが,もう少し細かい統計を提示しましょう。下表は,2009年度間の幼稚園教員の病気離職率を,属性別に出したものです。年齢層別の分母は,2009年の数値が得られませんので,2010年の『学校教員統計』からとりました。よって全年齢層の合計が,最下段の数値と一致しないことに留意ください。


 設置主体別にみると,私立幼稚園の病気離職率が高くなっています。性差はほとんどなし。年齢層別では,20代の若年教員の率が圧倒的に高いようです。

 若年教員は,業務の最前線に立たされると同時に,各種の雑用もこなさなければならない年齢層です。先ほど述べた諸々の困難に遭遇する確率が最も高い年齢層であるといえましょう。ちなみに,20代の病気離職者392人のうち,ちょうど半数が精神疾患による離職者となっています。

 幼稚園の教員の問題への注目度は,小中高に比して低いように感じます。朝日新聞教育チームの『いま,先生は』(岩波書店,2011年)をみても,取り上げられている事例に幼稚園教員は一人も含まれていません。

 しかるに,統計によって客観的に計測してみると,幼稚園教員の危機状況がダントツで強いことが知られます。保育士も含めて,就学前教育を担う教職員の問題にもっと目が向かられるべきかと存じます。

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