音楽家になりたいという夢を持って,音楽系の大学(以下,音大)に進む若者もいるかと思いますが,その夢が叶う確率はどれほどなのでしょう。巷でいろいろな説が飛び交っていますが,一応の統計的な手続きで試算した結果,こうなったということをご報告いたします。
2011年度版の文科省『学校基本調査報告(高等教育機関編)』によると,同年春の大学の芸術関係学科卒業生のうち,芸術家(美術,写真,デザイナー,音楽,舞台芸術家)に就職したのは2,066人です。*出所は下記サイトの表81です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037175&cycode=0
この2,066人のうち,音楽家はどれほどなのでしょう。社会全体の職業構成の統計を使って推し量ってみます。
2010年の『国勢調査』の抽出速報結果から,就業者の職業小分類を知ることができます。それによると,職業が芸術家(美術家,デザイナー,写真家,映像撮影者,音楽家,舞台芸術家)という者は361,300人です。このうち音楽家は23,800人です。よって,音楽家が芸術家全体に占める比率は6.6%となります。芸術家の中で,音楽家というのは相当少ないのですね。
さて,この比率を先の2,066人に乗じると,136人という数が出てきます。この数が,芸術関係大学卒業生のうち,音楽家という職業に就職した者の数であると推定されます。芸術家全体の中における音楽家の割合を適用して推し量った値です。
この推定音楽家就職者136人は,ほぼ全てが音楽関係学科の卒業生とみてよいでしょう。同年春の大学の音楽関係学科卒業生は4,485人です。したがって,音大卒業生のうち,晴れて音楽家になれたのは,136/4,485 ≒ 3.0%と算出されます。
音大卒業生100人のうち,音楽家になれるのは3人。競争率になぞらえると33倍。まあ,公務員試験や教員採用試験だって,競争率がこれくらいの水準に達することはしばしばですので,音楽家への道の狭さを殊更に強調するのは間違いであるかもしれません。
しかし,「大変だなあ」という印象は持ちます。わが子を音大に入れようとしている親御さんがこの数値をみたら,どういう反応を示されるでしょう。むろん,音大に進む学生の全てが音楽家を目指しているわけではありませんが。
ところで,大学院博士課程に進学することは,アーティストを目指すことと同じだ,という主張があります。博士課程への進学者の多くは大学教員になることを夢見ていますが,なるほど,それが叶う確率は,アーティストになれるのと同じくらい低いであろうという推測は,十分成り立ちます。
http://news.nicovideo.jp/watch/nw161379
「博士課程修了者が大学教員になれる確率」という問題を立ててみるとどうでしょう。2011年度版の文科省『学校基本調査報告(高等教育機関編)』によると,同年春の大学院博士課程修了者15,892人のうち,大学教員に就職したのは2,369人だそうです。比率にすると14.9%,7人に1人です。教育系の博士課程の場合は,この比率は28.2%となります。
むーん,リアリティのかけらもない数値です。私は教育系の博士課程を出ましたが,本当に28.2%(3人に1人)もがストレートで大学教員になっているのでしょうか。おそらく,当局の統計でいう大学教員就職者の中には,1年ほどの任期の特任助教なども含まれているのでしょう。非常勤講師であっても,週5コマほどの授業担当であれば,常勤に近い雇用形態として数に含めていたりして・・・。
最近,無職博士問題が取り沙汰されていることから,各大学が文科省に報告する数値には,さまざまな細工が施されている可能性があります。このような疑念を晴らすことのほか,問題を正確に追究しようとすれば,博士課程修了後の数年間を追跡しなければならないなど,いろいろ厄介なことも伴います。
私のような輩の手に負える仕事ではありません。文科省のみなさま,多大な資金を投じてでも,追究に値するテーマであると存じます。ぜひとも手掛けていただき,ローデータを含めて,結果を公表してください。
話が脱線しました。この辺りで。