前回は,2012年3月の大学院博士課程修了生について,無業者率と死亡・進路不明率を計算しました。文科省の『学校基本調査』では,博士課程修了後の進路として,以下のカテゴリーが設けられています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
①:進学
②:正規就職
③:非正規就職
④:臨床研修医
⑤:専修学校・外国の学校等入学
⑥:一時的な仕事
⑦:左記以外の者
⑧:死亡・進路不明
無業者率とは,⑥~⑧の者が全体に占める比率です。要するに,定職に就けなかった者の比率です。死亡・進路不明率とは,⑧の比率のことをいいます。前回の記事で出した数字によると,人文科学系博士課程修了生の65.3%が無業者,19.0%が死亡・進路不明者という惨状です。
ところで,人文科学系は,文学,史学,そして哲学という専攻を内包しています。これらの下位の専攻ごとに同じ数字を出してみること,それが今回の課題です。
今回用いるのは,2011年3月の博士課程修了生のデータです。2012年3月の修了生の統計では,系の下にある専攻ごとの集計はなされていませんので,前年のデータを使います。
なお,細かい専攻まで下りると修了生の数が非常に少ないケースが出てきます。たとえば,私が出た教員養成専攻の博士課程修了生は53人です。中には,たったの4人という専攻もあります。これでは,出てきた数字の信憑性に疑問符がつきます。そこで,修了生数が100人に満たないケースは除外することとします。
このようなセレクトを行い,30の専攻の修了生について,無業者率と死亡・進路不明率を計算しました。結果をベタな一覧表の形で示すというのは芸がないので,視覚的にみてとれるような工夫をしましょう。横軸に無業者率,縦軸に死亡・進路不明率をとった座標上に,30の専攻を位置づけてみました。点線は,修了生全体(15,892人)の比率を意味します。
右上にあるのは,無業者率,死亡・進路不明率とも高い専攻です。左下に位置する専攻は,その反対です。
いかがでしょうか。右上のデンジャラス・ゾーンに位置しているのは,ほとんどが文系の専攻です。とくに,人文科学系の文学と史学,社会科学系の法学・政治学専攻の惨状が際立っています。文学専攻の無業者率は65.5%,死亡・行方不明率は25.8%です。法学・政治学専攻は,無業者率56.5%,死亡・進路不明率29.2%なり。修了生の3人に1人が死亡・進路不明。全専攻の中で最も高い率です。
修了生全体では3人に1人が無業者,10人に1人が死亡・進路不明者です。しかるに,最も悲惨な専攻では,3人に2人が無業者,3人に1人が死亡・進路不明者であることが分かります。
修了生全体→専攻系列→専攻下位分野,というように下りてみると,それなりにリアリティのある数字が出てきます。分析とは,データを仕「分」けて,表面からは見えない傾向を「析」出することです。こういう作業って大事だと思っています。
先に記したように,2012年3月の修了生については,こうした細かい専攻ごとの集計データが未公表なのですが,この種の分析をしてもらいたくない,という思惑があってのことでしょうか。意地の悪い見方ですが。
おしらせ:9月4日の記事にて,分析の補正を行いました。ご覧いただけますと幸いです。