2012年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が公表されました。教育社会学の研究者ならば,この調査資料について知らない人はおりますまい。学校数,児童・生徒数,教員数,そして卒業生の進路状況などを集計した,最も基本的な資料です。
政府統計の総合窓口(e-Stat)に,ホカホカの統計表がアップされています。公表データも,年々詳しくなってきているようです。さあ,どこから分析の手をつけたものか・・・。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040925&cycode=0
手始めに今回は,大学院博士課程修了生の進路状況をみてみましょう。2012年3月の修了生のデータです。「オーバードクター」,「無職博士」とは,すっかり言い古された言葉ですが,博士課程まで出てしまうと行き場がなくなるといわれます。
最高レベルの学歴を持つ無業者,行方不明者,自殺者・・・。この問題に関心をお持ちの方は多いようで,本ブログでも,「行方不明の博士」と題する記事の閲覧頻度が最も高くなっています。
この記事でみたところによると,ここ数年,毎年1,500人ほどの「死亡・進路不詳」の博士が輩(排)出されています。修了生全体に対する比は1割ほど。最新のデータではどうなっているのでしょうか。
2012年3月の博士課程修了生は16,248人。その進路構成を円グラフにしました。上記e-Statサイトの表45から数字を採取して作成した図です。
今年度から,就職者は「正規の職員等」と「正規の職員等でない者」に分けて集計されています。前者は「正規の職員・従業員,自営業主等」であり,後者は「雇用契約が1年以上かつフルタイム勤務相当の者」だそうです。非常勤講師の場合は,⑥の「一時的な仕事」に割り振られると考えられます。
図によると,正規就職が半数を占めます。短期雇用の特任講師・助教などは③に割り振られるでしょうから,任期のない正規の大学教員や研究所職員ということでしょうか。非正規就職までも含めると全体の66.8%,およそ7割。
狭義の就職率5割,非正規も含めた広義の就職率7割・・・。むーん。どうにもリアリティが湧かない数字です。まあ,専攻によって数字は大きく違うでしょうから,この点はひとまず置いておきましょう。
次に,おめでたくない部分に注視しましょう。上図の進路カテゴリーの⑥~⑧を合算した値が,定職に就けなかった「無職博士」です。全体の中での比率は30.8%,実数にして5,009人。そして最もカワイソウな「死亡・進路不明者」は全体の7.0%,その数1,142人なり。
今年の(悲惨)実績。無職博士5千人,死亡・進路(行方)不明博士1千人。水月昭道氏のいう「フリーター生産工場としての大学院」,さもありなんです。これから先,同じペースでこの手の輩が輩(排)出されていくと考えると,空恐ろしい思いがします。10年後,20年後には,相当な数になること請け合いです。
なお,専攻によって様相は異なります。下図は,修了生の進路構成を専攻別に帯グラフで表したものです。
ほう。人文科学系と芸術系では,無職者が6割を超えています。死亡・進路不明者は2割ほど。前者について,ドンブリ勘定ではなく,正確な数字を出しておきましょう。人文科学系の博士課程では,修了生の65.3%が無業者,19.0%が死亡・進路不明者です。
人文科学系では,狭義(正規)の就職率は16.3%,広義(非正規込)の就職率は29.7%なり。私としては,先ほどの円グラフでみた全体のデータよりは,こちらのほうにリアリティを感じます。
しかし,教育系の正規就職率が半分近くというのは,ホンマかいな?という感を禁じ得ません(私は教育系博士課程の修了生ですが)。現場の先生が学位を取って職場に戻ったというようなケースも「正規就職」としてカウントしているのでは・・・。他にもいろいろな細工が施されていそうなデータですが,ここではそれを追求する手立てはありません。
しかるに,人文科学系のデータは,そこそこ実感に近いな,という印象を持ちます。これよりももっと下った,専攻分野別のデータも出せます。人文科学系は,文学,史学,および哲学という分野を含みますが,これらの分野ごとの進路構成を出してみたらどうでしょう。文学専攻などは,無職率や死亡・進路不明率の値がぶっ飛んでいそうだなあ。
長くなりますので,今回はこの辺で。次回に続きます。