2012年8月29日水曜日

大学院博士課程修了者の進路(2012年3月)

 2012年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が公表されました。教育社会学の研究者ならば,この調査資料について知らない人はおりますまい。学校数,児童・生徒数,教員数,そして卒業生の進路状況などを集計した,最も基本的な資料です。

 政府統計の総合窓口(e-Stat)に,ホカホカの統計表がアップされています。公表データも,年々詳しくなってきているようです。さあ,どこから分析の手をつけたものか・・・。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040925&cycode=0

 手始めに今回は,大学院博士課程修了生の進路状況をみてみましょう。2012年3月の修了生のデータです。「オーバードクター」,「無職博士」とは,すっかり言い古された言葉ですが,博士課程まで出てしまうと行き場がなくなるといわれます。

 最高レベルの学歴を持つ無業者,行方不明者,自殺者・・・。この問題に関心をお持ちの方は多いようで,本ブログでも,「行方不明の博士」と題する記事の閲覧頻度が最も高くなっています。

 この記事でみたところによると,ここ数年,毎年1,500人ほどの「死亡・進路不詳」の博士が輩(排)出されています。修了生全体に対する比は1割ほど。最新のデータではどうなっているのでしょうか。

 2012年3月の博士課程修了生は16,248人。その進路構成を円グラフにしました。上記e-Statサイトの表45から数字を採取して作成した図です。


 今年度から,就職者は「正規の職員等」と「正規の職員等でない者」に分けて集計されています。前者は「正規の職員・従業員,自営業主等」であり,後者は「雇用契約が1年以上かつフルタイム勤務相当の者」だそうです。非常勤講師の場合は,⑥の「一時的な仕事」に割り振られると考えられます。

 図によると,正規就職が半数を占めます。短期雇用の特任講師・助教などは③に割り振られるでしょうから,任期のない正規の大学教員や研究所職員ということでしょうか。非正規就職までも含めると全体の66.8%,およそ7割。

 狭義の就職率5割,非正規も含めた広義の就職率7割・・・。むーん。どうにもリアリティが湧かない数字です。まあ,専攻によって数字は大きく違うでしょうから,この点はひとまず置いておきましょう。

 次に,おめでたくない部分に注視しましょう。上図の進路カテゴリーの⑥~⑧を合算した値が,定職に就けなかった「無職博士」です。全体の中での比率は30.8%,実数にして5,009人。そして最もカワイソウな「死亡・進路不明者」は全体の7.0%,その数1,142人なり。

 今年の(悲惨)実績。無職博士5千人,死亡・進路(行方)不明博士1千人。水月昭道氏のいう「フリーター生産工場としての大学院」,さもありなんです。これから先,同じペースでこの手の輩が輩(排)出されていくと考えると,空恐ろしい思いがします。10年後,20年後には,相当な数になること請け合いです。

 なお,専攻によって様相は異なります。下図は,修了生の進路構成を専攻別に帯グラフで表したものです。


 ほう。人文科学系と芸術系では,無職者が6割を超えています。死亡・進路不明者は2割ほど。前者について,ドンブリ勘定ではなく,正確な数字を出しておきましょう。人文科学系の博士課程では,修了生の65.3%が無業者,19.0%が死亡・進路不明者です。

 人文科学系では,狭義(正規)の就職率は16.3%,広義(非正規込)の就職率は29.7%なり。私としては,先ほどの円グラフでみた全体のデータよりは,こちらのほうにリアリティを感じます。

 しかし,教育系の正規就職率が半分近くというのは,ホンマかいな?という感を禁じ得ません(私は教育系博士課程の修了生ですが)。現場の先生が学位を取って職場に戻ったというようなケースも「正規就職」としてカウントしているのでは・・・。他にもいろいろな細工が施されていそうなデータですが,ここではそれを追求する手立てはありません。

 しかるに,人文科学系のデータは,そこそこ実感に近いな,という印象を持ちます。これよりももっと下った,専攻分野別のデータも出せます。人文科学系は,文学,史学,および哲学という分野を含みますが,これらの分野ごとの進路構成を出してみたらどうでしょう。文学専攻などは,無職率や死亡・進路不明率の値がぶっ飛んでいそうだなあ。

 長くなりますので,今回はこの辺で。次回に続きます。

3 件のコメント:

  1. 人文科学系には博士号を取らないで在学年限を終える人がおおいと思います。このデータの修了者は全員は博士をとったと理解していいのでしょうか。

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    1. 『学校基本調査』でいう修了生には,単位取得満期退学者も含まれるようです。

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  2. かと言って、新規採用や補充採用には「修士号以上」から「博士号取得者が望ましい」になってきている。私は90年代に論文博士を用意したがある事情があって、そして93年度に開設された金沢大学総合大学院(後期博士課程)教員人事で文部省資格者審査(D号)承認され(2期目以降〇D扱い)されたこともあり、若い頃の職革暴れも憚れて辞し、本務(富山大学)定年と同時に併任を解いてもらった。幸せな時代だったと感謝している。教え子の中には号を取る機会は最大限面倒見てあげたが、中には海外取得ながら機会に恵まれなかった人もいて気持ちが重たい。

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