前回の続きです。今回は,学習塾で働く従業員についてです。学習塾の従業員には,授業を行う講師のほか,経営層や事務職員もいるでしょうが,多くは講師と思われます。
2010年の経済産業省『特定産業サービス実態調査』によると,同年の学習塾の従業員数は321,764人だそうです。この年の小・中・高校の教員数(1,040,919人)に比べたら,かなり少なくなっています。事業所数は,小・中・高校の数よりも多いのとは対照的です。これは,前回みたように,ごく小規模の学習塾が多いためです。
さて,学習塾の従業員ですが,どういう雇用形態の者が多いのでしょうか。近年,学校教員の「バイト化」が進んでいるのは6月30日の記事でみたとおりですが,学習塾にあっては,従業員のバイト率はさぞ高いと思われます。
下図は,2010年の学習塾従業員321,764人の雇用形態を円グラフで示したものです。
ほう。全体のちょうど7割が,パート・バイトないしは臨時雇用で占められています。紫色の中には,大学生のバイト講師も多く含まれていることでしょう。業主,役員,および正職員は3割なり。
塾業界は,安価な学生バイトで支えられているといいますが,なるほど,そうであることがうかがわれます。
なお,学習塾といっても規模はさまざまですが,従業員数でみた規模別に,同じデータを出すと,下図のようになります。
従業員が5人未満の零細塾では業主が最多ですが,この規模ではそうでしょう。経営から事務,さらには授業まで,掛け持ちしている者でしょう。
5人以上の事業所では,規模を問わず,パート・バイトのウェイトが最も大きくなっています。10人~49人の中規模事業所では,全体の実に8割がパート・バイト,ないしは臨時雇用です。100人以上の大規模事業所になると,正社員率が増しますが,それでも3割というところです。
どの規模であれ,学習塾は多くのバイト講師で成り立っていることが知られます。先ほども言いましたが,この中には,大学生のバイト講師が多く含まれると思います。このことは,パート・バイト・臨時雇用率の県別データからも推測されるところです。
学習塾従業員のパート・バイト・臨時雇用率は,全国統計では7割ちょうどですが,県によってかなり差があります。上の地図から分かるように,数値が高いのは,首都圏や近畿圏といった都市部です。首都圏は真黒に染まっています。いずれも,学生の安価なバイト労働力が豊富な地域です。
少子化による顧客減の中,学習塾も経営が大変でしょうから,講師や職員の「バイト化」を進めざるを得ないのでしょう。このことについて,とやかく言うものではありません。
ところで最近は,塾や予備校講師の中で,博士号学位取得者も珍しくはないそうです。大学の非常勤講師や研究員の給与だけでは足りず,こうしたバイトで糊口をしのいでいる無職博士でしょう。
私の知人(学位保有者)で,塾講師のバイトをしようと面接に行った人がいます(結局,やめたそうですが)。さぞ驚かれるだろうと思いながら,「博士号学位取得」と記載した履歴書を出したところ,先方は全く気にもとめなかったそうです。聞けば,当該の塾のバイト講師6人のうち4人は学位保有者とのこと。
程度の問題ですが,莫大な国税で育成した知的資源が,塾産業に流れるばかりというのは,いかがなものか,という気もします。塾産業の側にすれば,とてもありがたいことなのでしょうが。
上記の経済産業省調査では,学習塾従業員の学歴構成は明らかにされていません。今指摘した問題があるかどうかについては,この統計をみないと何ともいえません。重要なデータであると思うので,今後の調査項目の中に加えていただけたらと思います。