7月24日の記事では,公立学校の新規採用教諭の年齢構成が,ここ30年ほどでどう変わってきたかを明らかにしました。今回は,採用前の状況の長期変化をみてみます。新卒が何%,社会人が何%というようなデータです。
なお,最近10年ほどの変化については,4月23日の記事で明らかにしました。今回は,そこでのデータをもっと延ばすことになります。
文部科学省の『学校教員統計』から,新規採用教員の採用前の状況を職名別に知ることができます。この記事では,新規採用「教諭」に注目することになります。ヒラの教諭ですから,教員採用試験の合格者と近似する集団とみてよいでしょう。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
公立学校の新規採用教諭の量的変化については,7月24日の記事を参照ください。ここでは早速,採用前の状況の構成変化を示した面グラフを提示したいと思います。観察期間は,1982年度から2009年度までです。上記文科省調査は3年刻みに実施されるので,3年間隔のデータになっています。
近年になるほど,「その他」というカテゴリーの比重が大きくなってきます。多くは,非常勤講師等をしながら教員採用試験に複数回トライした浪人組です。採用試験の難関化に伴い,この手の輩が増えている,ということは頷けます。
右下の折れ線グラフによると,公立小学校の新規採用教諭全体に占めるこのグループの比重は,始点の1982年度では26%でしたが,2009年度では48%と半数に近くになっています。中学校では55%,高等学校では実に63%をも占めています。
このことは,別に悪いことではありません。非常勤とはいえ,それなりに現場経験を積んだ,即戦力のある人間が集うわけですから。しかるに,影の側面もあります。この点については,6月14日の記事をご覧ください。日本教育新聞の記事をもとに考察しています。
さて,非常勤講師等(既卒者)が増えている分,新卒者のウェイトは減じてきています。最近はやや持ち直していますが,1980年代に比べれば低い水準です。2009年度の新卒率は,公立小学校で46%,中学校で37%,高等学校で26%なり。1982年度(68%,69%,59%)とは大違いですね。
新卒の中身をみると,県内の国立大学出身者(青色)の比重が低下しています。各県の国立大学の機能の一つに,自県の教員養成というのがありますが,その機能が弱まってきていることがうかがわれます。むろん,既卒者(水色)の中にも県内国立大学出身者はいるでしょうが,新卒者でいうと,減少の傾向なのです。
次に,青色と赤色を足した県内大学出身者という点でみると,こちらも低下傾向です。2009年度の採用者でいうと,県内大学新卒者の割合は,公立小学校が18%,中学校が15%,高等学校が9%です。既卒者を度外視していますが,地元出身者の比重が小さいな,という印象を持ちます。このことは,教育界と地域社会のつながりの希薄化という問題とも連関するでしょう。
紫色の社会人(官公庁,民間,自営業)の比重は,前世紀と比べれば微増というところでしょうか。近年,現場に多様な人材をということで,社会人特別選抜を実施している自治体も少なくありません。2009年度の社会人比率は,公立小学校で6%,中学校で8%,高等学校で12%なり。こちらは,上の学校ほど高くなっています。
私は,地域社会と教育の関連に興味を持つ者ですが,新規採用教員の組成という点(地元出身者率低下)から,両者の関連の希薄化傾向が看取されることに,若干の危惧を抱きます。
上記のデータをどうみるかは,人によって異なるでしょう。新規採用教員の今日的な姿は,統計でみるとこうである,ということをご報告いたします。