2016年2月20日土曜日

東京都内49市区の保育所供給率(2015年)

 認可保育所の4月入園可否の通知が届く時期です。全国の至る所で,安堵と落胆の声が上がっています。「保育所落ちた 日本死ね」と叫んだ,匿名ブログが話題になっています。
http://www.j-cast.com/2016/02/17258821.html

 共働き夫婦が子どもを預ける保育所不足による,待機児童問題が深刻化していることは,誰もが知っています。とりわけ,核家族化が進んだ都市部ではそれが顕著です。

 たとえば大都市の東京都ですが,都内の地域別にみても,認可保育所に入れている乳幼児の数は違っています。

 東京都の『福祉衛生統計年報』(2014年度)という資料に,2015年4月1日時点の認可保育所在所児数が,都内の市区町村別に載っています。これを,同年1月1日時点の0~5歳人口で除して,各地域の保育所供給率を試算してみました。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/nenpou/2014.html

 乳幼児人口の何%が保育所に入れているかです。下表は,算出された都内49市区の保育所供給率の一覧表です。分母の0~5歳人口は,0~4歳人口に,5~9歳人口の5分の1を足して出していること申し添えます。地域別の人口統計は5歳刻みの公表なので,こうした便法をとりました。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値を意味します。2015年の都内49市区の保育所供給率は,最低の24.3%から最高の54.2%まで,広く分布しています。赤字は上位5位ですが,保育所供給率が高い地域は,西のほうに多くなっています。

 ママたちの保育所増設運動が起きた,杉並区や世田谷区の値は低し。30%未満です。

 各市区の保育所供給率は当然,幼子がいるママの就業率と相関していることでしょう。ちょっと古いですが,2010年の『国勢調査』のデータを使って,6歳未満の子がいる母親の就業率を市区別に計算してみました。夫がいる核家族世帯の妻の就業率です。

 表の右欄の数値がそれですが,こちらも地域差が大きくなっています。最低は東村山市の29.7%,最高は千代田区の44.7%です。

 上表の保育所供給率と母親の就業率の相関図を描いてみましょう。横軸に後者,縦軸に前者をとった座標上に,49市区を配置したグラフです。


 攪乱がありますが,おおよそ,保育所供給率が高い市区ほど,乳幼児がいる母親の就業率が高い傾向がみられます。回帰直線は右上がりです。相関係数は+0.5467で,49というケース数を考慮した場合,1%水準で有意と判断されます。

 横軸が2015年,縦軸が2010年というように,データのタイムラグがあるのですが,これを埋めたら,相関はもっとクリアーになるのでは。2015年の『国勢調査』のデータ公表が待ち遠しいです。

 上図に出ているのはあくまで相関ですが,「保育所の不足→母親の就業機会のはく奪」という因果経路を,多くの方が想像するかと思います。働く母親が少ない(需要がない)から,保育所を作らないなどという,逆の解釈は正しくないでしょう。

 認可保育所の入園可否が決まる時期ということもあってか,先日,保育意識の国際比較をしたニューズウィーク記事がよく読まれているようです。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4532.php

 就学前の乳幼児の世話は誰がすべきかに関する意識の比較ですが,日本は「家族」という回答が多いのに対し,北欧は「政府機関」と考える人がマジョリティー。「私型」の保育と「公型」の保育の違いがはっきり出ています。

 スウェーデンでは,希望者を保育所に入れるのは自治体の法的な義務であり,日本でいう待機児童はほぼゼロだそうです。

 ヨーロッパ諸国とわが国では社会構造が違うといわれそうですが,核家族化のレベルはそれほど違いません。上記のNW記事でも書きましたが,北欧よりも日本のほうが,核家族世帯率は高くらいです。

 にもかかわらず,日本の「私」型保育は変わっておらず,むしろそれを強化する方針すら出されています(三世代同居の推奨など)。これでは,少子化は進もうというものです。

 少子高齢化,核家族化が進んだ今の日本では,家族依存型福祉はもう限界に来ています。それにかんがみ,公のサポートを増やす時期にきています。その策の一つは保育士の待遇改善ですが,私は,そのための公的な基金を設けてもよいと考えています。保育所の非利用者から反発があるでしょうが,保育を充実できるかどうかは,社会の維持・存続にかかわる大問題です。子がおらず,保育所とは縁のない人とて,将来は下の世代に支えられることになるのですから。