2016年2月28日日曜日

就業者の公務員比率の国際比較

 先日のニューズウィーク日本版サイトに,「育児も介護も家族が背負う,日本の福祉はもう限界」と題する記事を書いたのですが,読んでくださる方が多いようです。おりしも,認可保育所の4月入所可否が通知される時期ですので,時宜にかなったのでしょうか。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4532.php

 この記事でみたところによると,北欧の福祉は公型,日本の福祉は「」型と性格づけられるのですが, 保育所の公私割合もそうなっているでしょう。

 保育や介護といった福祉は,あまり民間に委ね過ぎるのは好ましくなく,基本的に「公」が担うのがよしとされます。しかし日本の現状は,それとは隔たっていて,たとえば保育所の大半は私立です。

 ここで,ふと素朴な疑問がわきます。働いている人のうち,公務員は何%くらいかです。それは『国勢調査』や『就業構造基本調査』をみれば分かりますが,他国との比較をしたいので,『世界価値観調査』のデータから計算してみました。

 この調査では,就業者に対し,どのセクター(部門)で働いているかを尋ねています。用意されている選択肢は,公的機関,民間企業,非営利団体(NPO)です。2010~14年の調査データを使って,公的機関と答えた者(公務員)の比率を国ごとに出し,ランキングにすると,下表のようになります。無回答・無効回答はベースから除いて出した百分比です。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp


 日本は10.7%ですが,調査対象の58か国の中では,下から2番目です。就業者の1割が公務員というのは,われわれの肌感覚に照らせば「そんなもんだろう」ですが,国際的にみたら特異なのですね。

 58か国の平均値は32.6%です。国際的にみると,就業者の3人に1人が公務員というのが標準のようです。もっと高い国も多く,北欧のスウェーデンは46.2%,旧共産圏の社会では6~7割となっています。

 何から何まで「私依存」,好んで使われる言葉が「自己責任」の日本ですが,この国のそういう風潮が,就業者の公務員比率にも出ているような気がします。

 しかるに,わが国では公務員は人気です。学生の公務員志望率も,年々高まっているといいます。民間に比して,優遇されているためでしょう。

 上記の『世界価値観調査』では,対象者に対し,自分が属する世帯の収入の水準を問うています。10段階で自己評定してもらう形式です。日本の場合,公務員の平均点が4.89点,民間・NPO勤務者のそれは3.93点です。前者は,後者の1.24倍

 この指標は,民間に比した公務員の優位度と読めますが,先ほど明らかにした公務員比率と絡めてみると,各国の公務員の地位文脈が可視化されます。下図は,横軸に就業者の公務員比率,縦軸に公務員の収入の対民間倍率をとった座標上に,58の社会を配置したグラフです。


 傾向としては,公務員が少ない国ほど,公務員の優位度が高くなっています。相関係数は-0.5605で,1%水準で有意です。

 左上にあるのは,公務員のプレミアが高い社会ですが,日本はこのタイプの典型です。逆に,右下の旧共産圏では,公務員のプレミアはなく,収入は民間より低いくらいです。

 日本では,ただでさえ少ない公務員をさらに減らす方針だそうですが,上図でいうと,ますます左上に昇天していくのでしょうか。

 私としては,その反対方向,右下にもっとシフトしてほしいと思います。公務員給与を民間にもっと近づけ,その分,量を増やす。福祉をはじめとした,諸々の社会制度充実の条件になるのではないでしょうか。憶測ですが,そう考えている人も少なくないと思います。