2016年2月13日土曜日

中学校教員の年齢層別の課外活動指導時間

 最近,学校現場でいろいろ取りざたされている部活ですが,その指導負担の重さに耐えかねた教員らが動き出したようです。部活顧問をするかどうかの選択権を教員に与えるべきと,公立中学校の若手教員がネット署名を募っています。
http://www.asahi.com/articles/ASJ2D4V8VJ2DUTIL031.html

 部活は,課外活動に属し,正規の授業には含まれません。よって,教員免許を持つ教員が指導に当たる必要はないのですが,日本ではその指導の多くを教員が担っており,過労・多忙の大きな原因となっています。

 それはとくに深刻なのは,若手でしょう。体力のある若手教員は運動部の指導を任され,練習や試合の引率なので,土日や長期休暇も返上になる。平日においても,朝練や夕方遅くまでの練習など。こういう声は,至るところで聞かれます。

 前に,課外活動指導時間の国際比較をしたのですが,日本の中学校教員の平均指導時間は7.8時間で,世界一でした。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/09/blog-post_23.html

 これは若手や年輩も含めた全教員の平均ですが,今回は,年齢層別の平均指導時間を出してみようと思います。若手ほど長いことは誰もが肌感覚で知っていますが,数値でそれを表してみましょう。

 資料は,2013年にOECDが実施した国際教員調査「TALIS 2013」です。この調査では,各国の中学校教員に対し,週間の課外活動指導時間を尋ねています。直近の1週間の指導時間(H)を記入してもらう形式です。
http://www.oecd.org/edu/school/talis-excel-figures-and-tables.htm

 私は,本調査のローデータを使って,各国の年齢層別の平均値を計算してみました。下表は,32か国の一覧表です(ドイツは不参加)。


 どの年齢層も,日本がトップです。日本の場合,そのほぼ全ては部活指導でしょう。しかし,北欧のスウェーデンなんかは,全然違いますねえ。どの層も,この手の課外活動指導にはほぼノータッチ。学校での部活という概念がなく,日本でいう運動部の活動などは,地域のスポーツクラブに委ねれていると聞きます。

 日本国内でみると,予想通り,若い層ほど週間の平均指導時間が長くなっています。20代が9.6時間,30代が8.9時間,40代が7.8時間,50代が5.7時間です。上記の署名活動の担い手が若手というのも,分かる気がします。

 わが国は年功序列のお国柄も反映してか,年齢差が大きいことにも注目。20代は9.6時間,50代は5.7時間で,4時間近くも違います。対して他の先進国では,さほど年齢差はないようです。

 こうした若手と年輩の距離を可視化してみましょう。課外活動指導時間だけでなく,授業なども含めた総勤務時間の差も考慮します。横軸に後者,縦軸に前者の平均週間時間をとった座標上に,主要国の20代(○)と50代(●)のドットを配置すると,下図のようになります。


 各国の線分の長さが,若手と年輩の距離に相当します。役割差の大きさの表現といってもよいでしょう。

 主要国でみると,日本の線分が飛びぬけて長くなっています。年齢による役割規範が大きい風潮が表われていますね。欧米では,こうした違いはほとんどありません。米仏では,線分が見えないほどです。

 まあ,いつの時代も同じといえばそうなのですが,最近は教員集団の年齢構成も逆ピラミッド型になっていることから,少数の若手に負荷が凝縮される構造になっているともいえるでしょう。

 1月27日のプレジデント記事でみたように,教員の病気離職率は,近年では20代で最も高くなっています。この層に対するサポート,負担緩和が必要であることは,既に指摘しました。上の世代は,下の世代の重荷になるのではなく,サポート資源にならないといけません。でないと,2004年に起きた新人女性教員の自殺事件のような悲劇が,また繰り返されます。

 部活の話から逸れましたが,課外活動の指導を教員が一手に担う日本の現状は,国際的にみたら特異です。年齢層別にみると,それにより若手に大きな負荷がかかっているのは明らか。冒頭の朝日新聞記事で,学習院大学の長沼教授が言われているように,「今回の署名運動は現場からの「NO」の声だ。運動を機に,今年を「部活改革元年」としてきたい」ものです。

 それを具現する手立ては,既に示されています。「チーム学校」という人材組織を学校に導入することです。その中には,部活動支援員というスタッフも含まれます。こうした人的資源の活用により,国際標準から隔たった日本の学校現場が変わることを願います。