2011年6月12日日曜日

通塾と学力の相関

 6月9日の記事では,各県の通塾率を明らかにしました。興味が持たれるのは,この通塾率の高低が,各県の子どもの学力とどう関連しているかです。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,生活状況に関する設問への回答と,教科の成績との相関係数が示されています。これは,個人単位で計算されたものです。しかるに,各人の通塾状況と教科の成績との相関係数は明らかにされていません。これは,通塾状況の設問の選択肢が,連続量になっていないためと思われます。1.「通っていない」,2.「学校の勉強より進んだ内容や難しい内容を勉強している」,3.「学校の勉強でよく分からなかった内容を勉強している」…というように。

 よって,通塾と学力の関連をみるには,県レベルのマクロデータを使用せざるを得ないことになります。私は,2010年度調査の県別の結果を使って,この両者の相関をとってみました。通塾率は,先の記事で明らかにしたものです。学力は,各教科の平均正答率(%)です。教科の内訳は,小学校6年生は,国語A,国語B,算数A,算数B,です。中学校3年生は,国語A,国語B,数学A,数学B,です。Aは知識を問うもの,Bは活用を問うものです。ここで用いるのは,公立学校のデータであることを申し添えます。
http://www.nier.go.jp/10chousakekkahoukoku/index.htm

 まずは,上記の各教科の正答率が県によってどれほど違うかを概観することから始めましょう。下表をみてください。


 表には,47都道府県間の極差(=最大値-最小値)と標準偏差が示されています。これらの値によると,国語よりも算数,AよりもBにおいて,地域差が大きいようです。また,全体的に,小6よりも中3で差が大きくなっています。最も地域分散が大きい,中3の数学Bでいうと,最大の52.9%から最小の30.0%まで,22.9ポイントも平均正答率が開いています。前者は福井,後者は沖縄です。

 では,こうした平均正答率の違いが,各県の通塾率とどう相関しているかをみてみましょう。まずは,小6について,通塾率と国語Aの正答率の相関をとってみます。下図は,その相関図です。

 
 図をみると,傾向としては,負の相関です。塾通いをしている子どもが少ない県ほど,学力が高い傾向にあります。相関係数は-0.403で,1%水準で有意と判定されます。図をみても,通塾率が最も低い秋田が,正答率では最上位にあることが注目されます。

 これは,小6の国語Aとの相関ですが,他教科との相関もとってみましょう。すべてについて,相関図を描くのは煩雑ですので,下表に,相関係数のみを掲げます。


 通塾率と正答率の相関は,中3の数学を除いて,軒並み負の相関です。相関係数の絶対値は,算数(数学)よりも,国語で高くなっています。国語の学力向上には,塾通いよりも,日々のゆとりある生活の中での読書というような要因の寄与が大きいのではないでしょうか。

 いずれにせよ,常識的に予想されるような,塾通いと学力の正の相関は見出されませんでした。学力と正の相関関係にあるのは,表の右欄の朝食摂取率のような指標です。この指標は,「朝食を毎日食べているか」という問いに,「している」あるいは「どちらかといえば,している」と答えた者の比率(%)です。5月17日の記事でみた,朝食欠食傾向児出現率を裏返したものです。

 ここで明らかにしたのは,単なる相関関係であり,これが因果関係であると断定するには,他の要因をも取り込んだ重回帰分析の結果を待たねばなりません。しかるに,上記の関係が因果関係である可能性がある,という前提を置いてコメントをするならば,やはり,「基本的な生」が重要である,ということでしょう。

 寝る,食べる,遊ぶ,学ぶ,交流する…何のことはありません。ただ,フツーに生きる,というだけのことです。受験一辺倒の学力ではなく,近年,文科省が重視しているような「確かな学力」(知識や技能はもちろんのこと,これに加えて,学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの)を身につけるには,今述べたような要素からなる「基本的な生」をバランスよく営むことが重要かと思います。

 過度の塾通いは,この中の「学ぶ」の領域のみを肥大させ,他の領域を侵食してしまう恐れがあります。通塾率と学力の負の相関は,このような面から解釈できるのではないかと,私は思います。