2011年6月28日火曜日

失業のリスク

 総務省『労働力調査』によると,2010年の完全失業者数は,334万人だそうです。334万人といったら,静岡県の人口よりも少し少ないくらいです。総人口(1億2,700万人)に占める比率は,およそ2.5%。国民の40人に1人が,働きたいのに働けないという,辛い状態におかれた人間であることになります。


 失業者数の長期的な推移をとると,上図のようになります。戦後混乱期から立ち直るにつれ,失業者の数は減少し,高度経済成長期の1960年代では,おおよそ60万人前後という低い水準で推移します。しかし,オイルショックのあった74年の翌年に100万人を超え,80年代半ば頃までじわじわと上昇します。バブルが崩壊した90年代の初頭から失業者は加速度的に増え,2002年には359万人のピークに達します。その後,減少しますが,08年のリーマンショックの影響から,翌年には再び300万人台にのっているという具合です。ちなみに,どの時期でも,失業者のほぼ6割が男性で占められています。

 就労意欲があるにもかかわらず無職状態に留置かれるという,完全失業者が増えることは,社会にとってよろしくないことです。生活態度が不安定化した彼らは,些細なことがきっかけで,犯罪や自殺などの逸脱行動に走る危険性があります。わが国では,自らを殺めるというような内向的な逸脱が多いようですが,無差別殺人のような外向的な破壊行動も起きています。

 はて,失業者が犯罪や自殺に走る確率というのは,常人に比べてどうなのでしょうか。警察庁の『犯罪統計書』から,犯罪で検挙された失業者の数を知ることができます。また,同庁の『自殺の概要資料』から,同じく失業者の自殺者数を知ることができます。私は,最新の2009年の統計を使って,失業者の犯罪者出現率や自殺者出現率を明らかにし,人口全体のものと比較してみました。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm


 上表によると,2009年の失業者336万人のうち,犯罪で検挙された者は9,352人,自殺をした者は2,341人です。10万人あたりの出現率にすると,犯罪率は278.3,自殺率は69.7となります。いずれも,人口全体の同じ値よりも高くなっています。失業者の自殺率は,人口全体のそれの2.7倍です。犯罪率は,意外と差が小さくなっています。

 ですが,罪種別にみると,少し違った様相も見えてきます。失業者の放火犯の出現率は人口全体の率の2.5倍,強盗犯出現率と知能犯出現率は1.7倍です。失業者の知能犯としては,「オレオレ詐欺」などを引き起こす,20代や30代の若年者が多いことでしょう。また,高度な知識を身につけたにもかかわらず,職に就けない高学歴層も少なくないことと思います。

 失業(unemployment)という状態が,犯罪や自殺の促進要因になり得ることは,統計からもうかがわれます。雇用対策に要する経費は大きいでしょうが,破壊行動が起こった際の被害者のケアや加害者の矯正に要する費用は,もっと大きいことと推察されます。

 今後,孤族化が進行し,一人ぼっちの人間が増えるなか,失業という事態の重みは,ますます増大していくことでしょう。となると,上記でみたような,失業者の犯罪率や自殺率の相対水準は,ますます上がっていくのではないでしょうか。このことを確証する手立てとして,過去から現在にかけて,それがどう変化してきたかを明らかにしてみようと思っています。歴史は,未来を展望するための実験データであるとは,私の恩師がおっしゃったことです。