2011年6月14日火曜日

いじめ容認率の解析

 4月11日の記事で,中学生のいじめ容認率がどれほどかを明らかにしました。2010年度の文科省『全国学力・学習状況調査』の結果によると,公立中学校3年生の値は,8.7%でした。およそ11人に1人が,いじめを容認しているわけです。

 ここでいう,いじめ容認率とは,「いじめは,どんな理由があってもいけないと思うか」という問いに対し,「あまり当てはまらない」ないしは「当てはまらない」と答えた者の比率です。

 ところで,いじめ容認率が高いのはどういう属性か,ということも気になります。上記の文科省の調査から,学校の設置主体別,地域類型別に,いじめの容認率を知ることができますので,それをご覧に入れます。2009年度調査の数字です。2010年度調査から抽出調査となり,サンプルが少なくなった関係上,こういう細かい分析はなされていないようです。よって,悉皆調査の最後となった,2009年度調査の結果をみることにします。
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/index.htm


 上表は,調査対象の小学校6年生,中学校3年生について,属性別に値を出したものです。まず,国公私別にみると,小6では大差ないですが,中3になると,国私と公とで差が出るようになります。私立中学校3年生では,いじめを容認する生徒が13.5%います。およそ7人に1人です。地域類型別にみると,予想されることですが,田舎よりも都会で,いじめを容認する児童・生徒が多いようです。

 しかしまあ,国立や私立の中学生で,いじめ容認率が高いことが注目されます。2010年度の統計によると,中学生全体に占める,国立・私立生の比率は8.1%です(東京は27.1%)。量的にはマイノリティですが(東京は別),彼らに,どういうメンタリティが植えつけられているかが気がかりです。幼少の頃からあくせく塾通いし,受験勉強にどっぷりつかることで,競争的なメンタリティが育まれてしまっているのでしょうか。

 ここで「塾通い」という言葉が出ましたが,6月9日の記事で,都道府県別の通塾率を明らかにしました。4月11日の記事では,いじめ容認率を,同じく県別に算出しています。私は,両者の相関関係をとってみました。双方の指標とも,公立中学校3年生のもので,2010年度の文科省『全国学力・学習状況調査』から計算したものです。下図は,相関図です。


 図によると,塾通いをしている生徒が多い県ほど,いじめ容認率が高い傾向にあります。相関係数は0.583で,1%水準で有意です。両指標の正の相関関係を考えると,幼い頃より塾通いを経験したであろう,国・私立中学生において,いじめ容認率が高い,というのも分かる気がします。

  もっとも,通塾率,いじめ容認率とも,都市的な環境と深く関連しています。よって,上図の相関は,単なる疑似相関であるのかも知れません。しかるに,疑似相関であると言い切ることもできません。私は,上記の相関は,因果関係的な面を持っているのではないか,と思います。

 前回みたように,県レベルの統計でみる限り,通塾率と学力の間に正の相関はありません。その一方で,通塾率は,子どもの人格の歪みを表す指標と関連しています。「食育」,「早寝早起き朝ごはん」,「ライフ・ワーク・バランス」などの言葉に象徴されるように,基本的な「生」を見直すことが求められている今日,子どもの世界で,過度の塾通いが蔓延することは好ましくない,と私は思います。

 しかるに,これから少子化が進むにつれ,数の上で少なくなっていく子どもを,多くの教育関係者が奪い合う,というような構図になっていくでしょう。今から50年後には,子どもの数よりも,教育関係者(学校教員,学習塾従業者,教育評論家…)の数のほうが多くなるかもしれません。「教育過剰社会」の到来です。公表されている統計資料を使って,でき得る限りの将来予測を手掛けてみようと思っています。