2017年1月20日金曜日

大卒女性のすがたの国際比較

 先日,ツイッターにて,「大卒有業者の正規職員率」のグラフを発信したところ,たくさんの方が見てくださいました。年齢を上がるにつれて,男女の乖離がどんどん大きくなっていく,同じ大卒といえど,女性はどんどん非正規に追いやられる・・・。この様が,見事なまでに描かれているためでしょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/820566840237662208

 ここに,再掲しておきます。


 言わずもがな,結婚や出産,さらには介護などがネックになるため。女性のハイタレントの浪費ですが,これは日本の特徴なのか。社会学をやっている人間なら,こういう問いが出てきます。

 『世界価値観調査』にて,高等教育卒業の女性のフルタイム就業率を出せないことはないですが,年齢を統制すると,多くの国でサンプルが少なくなり,傾向が不安定になります。

 そこで何かいいデータはないかと探していたところ,OECDの国際学力調査「PISA 2012」にて,対象の15歳生徒に対し,母親の就業状態(地位)を尋ねていることに気づきました。カテゴリーは,①フルタイム就業,②パートタイム就業,③失業,④その他(主婦等),です。

 PISA調査は大規模調査ですので,サンプル数は全然大丈夫。日本は6千人超!なり。

 15歳生徒の母親ですから,そうですねえ,だいたい40歳くらいでしょうか。この問いの回答から,40歳くらいの既婚・子持ち女性のフルタイム就業率の国際比較ができます。学歴も訊いていますので,大卒の母親に限った比較も可能です。

 私は,63の国について15歳生徒の母親のフルタイム就業率を計算し,高い順に並べてみました。左は母親全体,右は大卒の母親に限ったデータです。下記サイトでのリモート集計によりますので,%値が粗い整数値であることをお許しください。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 以下の表は,「母親がフルタイム就業」と答えた生徒の比率のランク表です。無回答や母親がいない生徒は分母から除いて率を出してます。


 まず左の全体をみると,日本は37%で,63か国中47位です。低いですねえ。色をつけた主要国の中では最下位です。

 しかるに大卒の母親に限ると順位はもっと下がり,57位まで落ち込みます。相対的な傾向ですが,高学歴の層に限ると,日本の女性の社会進出の遅れがいっそう際立ちます。他の社会に比して,女性のハイタレントが活用されていない,ということです。

 その分,パートや主婦が多いのですが,この部分も加味した,国際的な構造図を描いてみましょう。横軸にパート就業・主婦,縦軸にフルタイム就業の比率をとった座標上に,63の社会を位置づけてみました。大卒の母親のすがたの国際比較図です。「瑞」とは,スウェーデンをさします。


 2つの指標はほぼ表裏ですので「ナナメ」の配置ですが,左上は高学歴女性の社会進出が進んだ国で,右下はその逆です。斜線より下は,フルタイムよりパート・主婦が多い社会なり。

 日本は右下にあり,宗教的な理由で女性の社会進出が制限されている,イスラーム諸国と同レベルです。欧米の主要国から大きく外れています。

 まえに,『日経デュアル』の記事にて,30~40代女性全体のデータで,同じようなグラフを作ったことがありますが,そのグラフでは,日本はちょうど中ほどでした。しかし高学歴層に限ると,上図の通り,右下に位置してしまっている。女性の社会進出の制限は,高学歴層でとりわけ顕著であることになります。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=5728

 左上には,旧共産圏の社会が多いですね。これは,国民皆労働の伝統が強いためではないでしょうか。

 日本の女性の社会進出の制限はよく知られていますが,国際比較でみると,高学歴層でそれが顕著である。せっかくの女性のハイタレントを活用できないでいる社会。それがここでのファインディングです。

 こういうデータをみると,子ども期・青年期の教育よりも,待機児童対策やリカレント教育推進に資源を投じたほうがいいように思えてきますねえ。前者に力を入れたところで,そこで育てたマンパワーはどうせ活用されないのですから。

 これは冗談として,日本が相当の「ムダ」をしている社会であることは,間違いないように思えます。