武蔵野大学の藤原千賀教授より,『男女共同参画社会と市民』(武蔵野大学出版会,2012年)を謹呈いただきました。構成のバランスがよく,主要分野について,男女共同参画やジェンダーに関連する統計資料が数多く提示されており,とても参考になります。
http://www.musashino-u.ac.jp/shuppan/books/detail/bookdanjo.html
私がとくに関心を持ったのは,2章の「教育・学習分野の男女共同参画」です。24頁に,大学生の女性比率が専攻分野別に掲げられているのですが,工学は10.6%,理学は25.8%,医科・歯科は33.6%というように,理系の分野では,女子学生が殊に少なくなっています(2004年,『学校基本調査』)。
世の中には男女が半々ずついることを考えると,これはすごい偏りといえます。まあ,文系には女子が多く,理系には男子が多いというのは,よく知られていることですが,女子の理系志向が少ないことは,わが国に固有のことなのでしょうか。
今回は,日本の女子生徒の理系志向を数量化し,その値を国際データの中に位置づける作業をしてみようと思います。
毎度使っているPISA2006の生徒質問紙調査のQ29では,対象の15歳の生徒(わが国は高校1年生)に対し,「以下のことがどれほど当てはまるか」と尋ねています。
いずれの項目も,理系志向の強さを測る尺度として使えます。「1」という回答には4点,「2」には3点,「3」には2点,「4」には1点,というスコアを与えましょう。この場合,対象となった生徒の理系志向の強さは,4点から16点までのスコアで計測されます。全部1に丸をつける,バリバリの理系志向を持った生徒は16点となります(4点×4=16点)。逆に,全部4を選ぶ理系忌避型は4点となる次第です。なお,いずれかの項目に無回答ないしは無効回答がある生徒は,分析から除きます。
私は,上記PISA調査のローデータに当たって,対象の57か国,19万6,490人の女子生徒について,このスコアを計算しました。以下では,理系志向スコアといいます。下図は,57か国全体,日本,そしてアメリカのスコア分布を図示したものです。カッコ内は,サンプル数です。日本の場合,2,937人の女子生徒の分布が描かれています。
http://pisa2006.acer.edu.au/downloads.php
いかがでしょう。57か国全体とアメリカの場合,ピークは8点です。8点とは,4項目全てに「3」(そう思わない)と回答した場合の点数です。57か国全体でみたら,平均的な女子生徒の姿はこんなものでしょうか。
さて日本はといえば,同じく8点の生徒が3割ほどで多いのですが,それよりも多数なのは4点の生徒です。4点ということは,全項目に対し「4」(全くそう思わない)と答えたことになります。わが国では,女子生徒の34.8%(3人に1人)が,この最低点の生徒です。
上図の分布を簡略な代表値で要約しましょう。何のことはありません。ただ平均(average)を出すだけです。日本の場合,以下のようにして求められます。
{(4点×34.8)+(5点×8.0)+(6点×5.6)+・・・(16点×1.7)}/100.0 ≒ 6.9点
6.9点(≒7.0点)ということは,3項目に「3」,1項目に「4」と答えた場合のスコアに相当します。これが日本の女子高生の平均的な理系志向のようです,
それでは,このスコア平均を他の56か国についても計算し,高い順に並べてみましょう。わが国の値(6.9)は,どこに位置づくか??
わが国の女子生徒の理系志向スコアは,57か国中最下位です。4つの項目から切り取った,限られた断面だけをみたものですが,日本の女子生徒の理系志向は,国際的にみて低いことが知られます。
これは現実ですが,次なる関心は,上図の各国のスコアが,どういう要因と関連しているかです。上位2位は,チュニジアとカザカフスタンです。下位2位は,韓国と日本です。私はこの両端をみて,先日シノドスジャーナルに寄稿した文章のことを思い出しました。「高校理科の授業スタイルの国際比較」と題するものです。
http://synodos.livedoor.biz/archives/1990703.html
この文章では,同じくPISA2006のローデータを使って,57か国の高校理科の授業が,どれほど実験や討議を重視する開発主義的なものかを測ったのですが,その順位構造が,上図と似ているような気がします。
仮に,両者が正の相関関係にあるとしたら,理科の授業の有様が,生徒の理系志向に影響することが示唆されることになります。
長くなりますので,今回はこの辺で。次回に続きます。