現代の若者の逸脱行動として注目されるものに,自傷行為があります。自傷行為とは,自分で自分の身体を傷つける行為の総称であり,壁に頭を打ちつける,自分の頭や顔をたたく,爪でひっかく,噛みつく,さらには手首を切る(リストカット)など,行為形態はさまざまです。
この自傷行為の数を表す統計がないものか探していたのですが,『東京消防庁統計書』という資料において,自損行為によって救急車で搬送された人間の数が集計されていることを知りました。
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-kikakuka/toukei/index.html
おそらくは,リストカットやオーバードーズなどによって,救急車で運ばれた者の数であると思います。中等度以上の自傷行為の数を表す指標とみてよいのではないでしょうか。
私は,上記資料のバックナンバーにあたって,1990年から2011年までの年間搬送者数の推移をたどってみました。申すまでもなく,東京都内の統計です。
自損行為者の数は,1990年代の半ば以降,ぐんと増えています。97年から98年にかけて大きく伸びていること(3,186人→3,719人)は,自殺者の傾向とそっくりです。自殺未遂者数の指標として読んでもいいかもしれません。
2005年の4,933人をピークにやや減少し,近年は横ばいです。最新の2011年の年間搬送人員数は4,775人となっています。この年の東京の人口は1,319万人ほどですから,10万人あたりの出現率にすると,36.2人となります。
この値を日本の総人口(1億2千万人)に乗じると,4万3,440人という数が出てきます。わが国の自殺未遂者数の試算値です。年間の自殺者はだいたい3万人ほどですが,その裏には,結構な数の未遂者がいることがうかがわれます。
話が逸れましたが,上記の4,775人を性別に分解すると,男性が1,765人,女性が3,020人であり,女性のほうが多くなっています。自殺者では男性のほうが圧倒的に多いのですが,自損行為でいうと,女性のほうが多し。そういえば,リストカットなどは,アイデンティティクライシスに悩む若年女性が,生きていることを実感するためになす行為である,というイメージがあります。
次に,年齢層別にみるとどうでしょう。1990年以降の年齢層別の搬送人員数をグラフにしてみました(隔年)。それぞれの年の各年齢層の数値を,上から俯瞰する社会地図方式です。色の違いに依拠して,大よその数を読み取ってください。
どの年でも,20代が最も多くなっています。今世紀以降では,20代の搬送者数は毎年1,200人を超えています(黒色)。自損(傷)行為は,やはり若年層で多いことが分かります。
あと一点,都内の地域別の統計もご覧にいれましょう。上記資料では,都内の市区町村別の搬送人員数も計上されています。救急車が出向いた先の地域に依拠して作成されたものです。私が住んでいる多摩市の場合,2011年の年間搬送人員は45人です。同年10月時点の同市の人口は14万7千人ほどですから,人口10万人あたりの比率にすると,30.7人となります。
私は,この値を都内48市区について計算しました。4町村は,搬送者の数が少ないので出現率の計算は控えました。稲城市は神奈川県川崎市の管轄なので,搬送人員のデータが載っていませんでした。下図は,これら5市町村を除く48市区の搬送人員の出現率を,地図で表したものです。
大雑把にいうと,東高西低という構造であり,東の区部において出現率が高くなっています。10万人あたりの出現率が50を超えるのは,千代田区,新宿区,そして台東区です。区部では,単身の若者が多いことを考えると,さもありなんという感じです。
未だ描かれたことのない,自傷行為マップの試作品として,上図を展示しておきます。
最近は当局の公表資料が充実してきており,厚労省の『人口動態統計』では,各県内の市区町村別の年間自殺者数も明らかにされています。自殺者の居住地に基づく統計です。これを使えば,市区町村別の自殺率を出すこともできます。機会をみつけて,都内の自殺率マップもつくってみるつもりです。