現代日本では,血縁,地縁,社縁など,あらゆる「縁」から断絶された,孤独な人間が増えているといわれます。無縁社会の到来です。2010年11月に刊行された,NHK無縁社会プロジェクト取材班『無縁社会-無縁死3万2千人の衝撃-』(文藝春秋)は,大きな反響を呼びました。
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784163733807
この本では,誰にも看取られることなく息絶え,かつ遺骨の引き取り人もいない,無縁死を遂げた人間の数が明らかにされています。その数が,副題に掲げられている「3万2千人」であるとのことです。これは,年間の自殺者よりも少し多い数に相当します。
本書で無縁死とされているのは,行旅病人及行旅死亡人取扱法第1条2項がいう「住所,居所若ハ氏名知レス且引取者ナキ死亡人」です。このような形の死亡者は,自治体が火葬・埋葬することとされています。その件数を,NHK取材班が全国の自治体に問い合わせ,総計した結果,上記の数になったということです。
さしあたりこの数が,無縁死の量を最も正確に表現しているとみてよいでしょう。ですが,時系列推移をたどれない,属性別の数を知ることができない,という不満も残ります。そこで,何か別の尺度はないかと探したところ,厚労省『人口動態統計』の死因統計の中に,「立会者のいない死亡」という死因カテゴリーがあることに気づきました。
「診断名不明確及び原因不明の死亡」という大カテゴリーに含まれる,小カテゴリーの一つです。死亡時に立会人がおらず,死因を特定できない死亡者です。原因不明の死亡に限定されますが,誰にも看取られることなく息絶えた人間の数を表していることは確かです。
私は,「立会者のいない死亡」という死因カテゴリーに相当する死亡者の数をもって,無縁死の量を測ることとしました。なお,「孤独死」という言い方のほうがポピュラーであると思うので,以下ではそういうことにします。
まずは,この数の時系列推移をたどってみましょう。『人口動態統計』については,政府統計の総合窓口(e-Sata)にて,1997年以降の結果を閲覧することができます。この年から2011年までの間に,立会者のいない死亡者の数がどう変化したかを跡づけました。以下では,孤独死者といいます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
孤独死者の数は,年々増えています。世紀の変わり目に1,000人を超え,リーマンショックの翌年の2009年には2,000人に達しました。最新の2011年の年間数値は2,304人です。均すと,1日に約6人に割合で孤独死者が出ていることになります。
NHK取材班が明らかにした「3万2千人」よりもかなり少なくなっていますが,これは,原因不明の死亡に限定されているためと思われます。ちょっと「?」がつく数字ですが,先に記したように,孤独な死を遂げた人間の数であることは間違いないので,孤独死の現実数の相似値であるとみなす分には問題ありますまい。
原因不明の死亡に限られているというデメリットがありますが,それに代わるメリットもあります。属性別の数が分かることです。孤独死というと高齢者に固有の現象とみられがちですが,そうとは限りません。私くらいの年齢層でも起こり得ることです。上表の孤独死者数のトレンドを,年齢層別に分解してみましょう。
結果を一覧表で示すのは煩雑ですので,表現方法を工夫します。各年・各年齢層の孤独死者数を,上から俯瞰することのできる図をつくりました。恩師の松本良夫先生が考案された,社会地図図式です。
該当箇所の孤独死者数の概数が色で示されています。たとえば,2011年の60代の孤独死者数は699人ですから,黒色になっている次第です。
ざっとみてどうでしょう。時の経過とともに,50~70代あたりの部分に怪しい色が広がってきています。現在では,孤独死者数が最も多いのは60代です。2011年でいうと,60代の数(699人)が,全体の30.3%を占めています。
年齢が高いほど孤独死が多い,ということではなさそうです。80代や90代になると,施設に入所する高齢者が多いためと思われます。
ところで,若年層でも孤独死が増えてきています。私が属する30代でいうと,1997年では16人でしたが,2011年では97人です。未婚,ニート,ヒッキーなど,若年層の孤独を言い表す語は数多し。今後は,若年層の動向にも目配りする必要があるでしょう。
上図は,「孤独死化」という,現代日本社会の病理兆候を可視的に表現した図ととってください。次回は,同じく『人口動態統計』の死因統計を使って,また違った面の病理を表現してみようと思います。それは「餓死化」です。
ではこの辺りで。