批判を込めていうのではないですが,教員は視野が狭いといわれます。子ども期を終え,就職した後もずっと学校で過ごすのですから,学校の外の社会に接する機会を持ち得ないわけです。
このことにかんがみ,教員研修の中に,「社会の構成員としての視野を拡大する等の観点から,現職の教員を民間企業,社会福祉施設等学校以外の施設等へ概ね1か月から1年程度派遣して行う研修」が組み込まれています。長期社会体験研修というものです。2010年度では,543人の教員が民間企業等に派遣されたとのこと(文科省調べ)。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kenshu/index.htm
ところで,教員の生活世界が狭いことをうかがわせる統計があります。同業婚の多さです。PISA2006の生徒質問紙調査では,対象の15歳の生徒に対し,両親の職業を尋ねています。この結果を使って,職業別の同業婚率を試算してみました。用いたのは,同調査のローデータです。
http://pisa2006.acer.edu.au/downloads.php
Q8aでは,父親の職業を問うています。職業名を記入してもらい,それを後から分類するアフターコード形式です。日本の生徒の回答をみると,有効回答を寄せた5,475人のうち,247人の回答が"TEACHING PROFESSIONALS"と括られています。小・中・高の教員のほか,特別支援学校教員,大学教員,視学官,および他の教育専門職も含む雑多なカテゴリーですが,多くは小・中・高の教員であると思われます。以下では,単に「教員」ということにしましょう。
Q5aでは,母親の職業を聞いています。先ほどの設問への回答とのクロスをとると,父の職業が教員である247人のうち,110人の生徒が,母の職業も教員と分類されています。この結果をもとにすると,男性教員のうち,妻も教員であるという者の比率は,110/247 ≒ 44.5%となります。この値をもって,同業婚率とみなしましょう。男性の側からしたものです。
ほう。教員の場合,同業婚率は半分近くにもなるのですね。はて,この値は高いのか低いのか。他の職業と比べてみましょう。19の職業カテゴリーについて,同じやり方で同業婚率を出してみました。当該職業の父を持つ生徒数(a)が50人に満たないカテゴリーは,分析の対象としていません。
職業カテゴリーの名称は,コードブックに記載されている英文表記を転写しました。私の拙い英語力で訳すよりも,こちらのほうがよいと考えたからです。
教員の同業婚率は,19の職業カテゴリーの中で最も高くなっています。その次が,熟練農漁業労働者(6100)で,38.3%となっています。農村の第1次産業では,同業の夫婦の共働きが多いためでしょう。
3番目は,医療専門職(2200)です。同業婚率35.2%なり。お医者さんなどは,階層的閉鎖性が結構強そうだなあ。
ここで出したのは,子どもの回答を介した同業婚率です。子がいない夫婦はオミットされています。多忙のゆえか,教員はDINKSが結構多いような印象を持ちますが,子がいない夫婦も加味したら,教員の同業婚率はもっとアップしたりして・・・。
大雑把な職業カテゴリーであることに注意を要しますが,教員の同業婚率が高いことを知りました。咎めるようなことではありませんが,先に述べたように,教員の生活世界が狭いことを示唆しているように思います。
教員にあっては,結婚の半分近くが,職場での出会いによる同業婚。学校という職域が生活構造の多くを占め,家庭やその他第3の場での生活が圧迫されているのではないでしょうか。
現在,教員免許更新制導入など,長期休業中まで,教員の生活の「学校化」を押し進める政策がとられています。8月14日の記事でも申しましたが,休みの期間くらい,教員をして「黒板とチョークの世界」から解放すべきであると存じます。8月28日の中教審答申がいうところの,「総合的な人間力」を培養するためにもです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325092.htm
あと一点。5月11日の記事でみたように,教員の自殺原因では,「夫婦間の不和」というものが比較的多いのですが,同業婚が多いことからすると,お互い多忙で,知らぬ間に夫婦関係に亀裂が走る,というようなことが多いのかもしれません。学校のみならず,癒しの場であるはずの家庭までもが「戦場」と化したのでは,たまったものではありますまい。
私は,現代の教職危機というのは,生活者としての教員のトータルな生活構造の面から考察しなければならないと考えています。同業婚を通して,教員の生活構造の歪み・偏りが透けて見えるような気がします。
蛇足ながら,今朝撮った写真を一枚。自宅近くから撮った富士山です。名づけて「朝富士」。
では,よい休日を。