2013年2月12日火曜日

首都圏のジニ係数地図

 前回は,世帯単位でみた,首都圏の平均年収地図をつくりました。今回は,同じ資料を使って,首都圏のジニ係数マップを作成してみようと思います。

 ジニ係数とは,富の格差の度合いを計測するのによく使われる指標です。イタリアの統計学者ジニが考案したことにちなんで,このように呼ばれます。この指標を,首都圏(1都3県)の区市町村別に出すとどうでしょう。住民の富の格差が相対的に大きい地域はどこでしょうか。

 用いる基礎資料は,総務省『住宅・土地統計調査』から分かる,2008年の各地域の世帯年収分布です。このデータからジニ係数を出すやり方を,東京の新宿区を例に説明します。この大都市では,住民の富の開きはどれほどなのでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2008/index.htm


 当該区では,2008年の年収(世帯員全員分)が分かる世帯は,14万8,920世帯です。上表には,大よそ100万円区切りの分布が掲げられていますが,年収が200万に満たない貧困層もあれば,1,500万を超える富裕層もあり。年収の世帯分布は幅広いものになっています。

 われわれが出そうとしているジニ係数は,12の年収階層の世帯数分布と,各階層が手にした富量の分布がどれほどズレているかに注目するものです。

 階級値の考え方に依拠すると,後者の富量の総量は,以下のようにして算出されます。各階層に属する世帯の年収を,一律に中間の階級値とみなすわけです。

 (50万×9,650世帯)+(150万×17,810世帯)+・・・(2,000万×8,080世帯)=8,274億1千万円

 2008年中に,新宿区の全世帯にもたらされた富は,8,274億1千万円となります。さて問題は,この膨大な富が,各階層にどう配分されているかです。

 上表の実数を,全体を1.0とした相対度数に換算し,低い階層から累積した累積相対度数をみてみましょう。これによると,各階層の世帯数と,それぞれが受け取った富量の分布のズレが明瞭です。

 黄色のマークに注意すると,年収400万未満の世帯は,数の上では半分を占めていますが,この層が手にした富は,全体の2割に過ぎません。逆にいえば,数の上では5%を占めるに過ぎない年収1,000万以上の富裕層が,全富量の2割をせしめています。

 社会の成員(ここでは世帯)間の富の偏りがどれほどかを可視化してくれるのがジニ係数です。それを計算してみましょう。ジニ係数を出すには,ローレンツ曲線を描きます。横軸に世帯の累積相対度数,縦軸に富量のそれをとった座標上に,12の年収階層をプロットして線でつないだものです。


 
 お分かりかと思いますが,富の偏りが大きいほど,ローレンツ曲線の底は深くなります。つまり,図中の色つき部分の面積は大きくなります。われわれが求めようとしているジニ係数は,この面積を2倍した値です。この意味については,2011年7月11日の記事をご覧ください。

 さて,色つき部分の面積を出し,これを2倍すると0.423となります。2008年の大都市・新宿区のジニ係数(世帯単位)は,0.423と算出されました。ジニ係数は0.0~1.0の値をとりますが,0.4を超えるということは,社会が不安定化する恐れのある危険水準に達していることを示唆します。恐ろしや。

 まあ,全体的にみれば,こういう地域は多くはないでしょう。それでは,首都圏(1都3県)の218区市町村のジニ係数を同じやり方で出し,地図化してみましょう。


 いかがでしょう。濃い紫色は,ジニ係数が0.39を超える地域です。住民の富の不平等度が,ヤバい水準に達している地域でしょうか。この怪しい色は,都内や千葉の郡部に多く分布しています。

 ちなみに,rank関数にて,係数値の上位10位を割り出すと以下のようです。

1位 0.476 千葉・勝浦市
2位 0.423 東京・新宿区
3位 0.413 千葉・九十九里町
4位 0.411 千葉・銚子市
5位 0.409 東京・北区
6位 0.403 東京・杉並区
7位 0.401 東京・千代田区
8位 0.401 千葉・いすみ市
9位 0.400 東京・小金井氏
10位 0.399 埼玉・宮代町

 千葉の勝浦市ではジニ係数が0.476にもなりますが,国際武道大学があるこの市では,単身の学生さんが多いためではないでしょうか。千代田区は,全世帯の平均年収が800万近くでトップなのですが,地域内の格差も大きいのですね。

 社会の富の格差があまりに大きくなることは,当該社会の不安定化の要因にもなり得ます。2011年12月22日の記事では,都内の23区の統計を使って,ジニ係数と犯罪発生率の相関をとったのですが,+0.416という有意な正の相関関係が検出されたところです。

 最近は,当局の公表統計も非常に充実してきており,区市町村単位でいろいろなデータをとれるようになっています。こういう条件を存分に活用し,追試可能な公的エビデンスを蓄積していこうではありませんか。そうすることが,国を動かすことにもなるかと思います。

 「首都圏の**地図」と題する作品がたまってきました。随時,ツイッター上でも展示しております。どうぞ,ご覧ください。