文科省の『全国学力・学習状況調査』の児童・生徒質問紙調査では,2012年度より,理科に関する設問がいくつか盛られています。その中の一つに,「理科の勉強は好きですか」というものがあります。
http://www.nier.go.jp/12chousakekkahoukoku/index.htm
オーソドックスな設問ですが,これに対する回答を分析することで,児童・生徒の理科嫌い率を明らかにすることができます。子どもの理科離れがいわれていますが,その程度はどれほどなのでしょう。
上記の設問に対し,「どちらかといえば当てはまらない」あるいは「当てはまらない」と答えた者の比率をもって,理科嫌い率とみなすことにしましょう。
結果は,公立小学校6年生で18.2%,公立中学校3年生で37.9%です。ほほう。3年間で,理科嫌いの子どもの比率は倍増するのですね。学年を上がるにつれ内容の抽象度が増し,実験や観察の比重も小さくなるためでしょうか。
しかし,中学校3年生の理科嫌い率が4割近くにもなるというのは驚きですが,都道府県別にみると,もっと高い値が出てきます。公立中学校3年生について,上記の意味での理科嫌い率を県別に出し,それに基づいて塗り分けした地図をつくってみました。名づけて「理科嫌いマップ」。
同じ中3でも,理科嫌いの生徒の比率は,地域によってかなり違っています。最高は奈良の46.4%,最低は岩手の27.9%です。奈良では,公立中学校3年生の半分近くが理科嫌いということになります。
濃い青色は理科嫌い率が40%を超える県ですが,近畿圏がこの色で塗りつぶされています。首都圏の1都2県(東京,埼玉,神奈川)も然り。一方,北部のほうは全般的に色が薄くなっています。
この地図の模様から,理科嫌いは都市地域に多いのではないか,という仮説が提起されます。2010年の『国勢調査』から得られる人口集中地区居住率でもって,各県の都市性の程度を測ることとし,上図の理科嫌い率との相関をとってみましょう。
人口集中地区居住率が高い県ほど,つまり都市的な県ほど,生徒の理科嫌い率が高い傾向です。両指標の相関係数は+0.442であり,1%水準で有意です。
あくまで大雑把な傾向であり,撹乱は多々ありますが,都市的環境と理科嫌いの関連をどう解釈したものでしょう。自然環境の違いでしょうか。理科の抽象的な内容を,身近な自然環境を題材にして肌身で理解する機会が,都市部では確かに乏しいことでしょう。
地域類型別(大都市,中都市,町村・・・)の理科嫌い率が分かればなあ。このデータでもって,都市性の程度と理科嫌い率のリニアな関連が明らかになれば,理科教育において,自然観察活動を推進することの意義の実証的根拠が得られることになります。
東京都は2013年度より,理科好きの中学生を対象に,自然観察などを盛り込んだ「日曜特別授業」を開く方針だそうです。「時間の限られた授業では実験や観察が少なくなってしまう。体験を通して理科の学力アップにつなげたい」というねらいとのこと。こうした取組の有用性を裏付ける実証データにもなることでしょう。
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20130111ddlk13100195000c.html
全数調査だった2009年度調査までは,地域類型別の結果も公表されていましたが,抽出調査となった2010年度調査より,この集計はなされなくなっています。しかし,この4月に実施される2013年調査より再び全数に戻るとのこと。仔細な結果の公表が復活することを願っています。