前々回の記事では,勉強の得意度と自尊心の関連を明らかにしました。小4と高2のデータを比べたのですが,高2になると,ごく一部の勉強の得意な層だけが高い自尊心を保持し,他の大多数の層がそれを剥奪される傾向がみられました。
自尊心の基盤が勉強のでき具合だけに収束してしまう,憂うべき現象ですが,自尊心の多寡を規定する要因は他にもあるでしょう。スポーツができるか,友達がどれほどいるかなど・・・。今回は,勉強の対である運動の得意度という変数も組み込んで,自尊心の分布を明らかにしてみようと思います。
前々回と同じく,国立青少年教育振興機構の『青少年の体感活動等に関する実態調査』(2012年度)のデータを使います。あいにく,運動ないしはスポーツの得意度を直に尋ねた設問はないのですが,「体力には自身がある」という項目への反応を問う設問がありますので,これに対する回答をもって,運動の得意度の指標といたしましょう。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/84/
私は,上記調査のローデータを使って,「勉強の得意度」と「体力の自信度」のクロス表をつくりました。4×4の16セルのクロス表です。前々回と同様,小4と高2の表を作成しました。以下に,実数の原表を掲げます。
私の世代がみてきたアニメには,勉強はできないがスポーツは得意なガキ大将,その逆のモヤシ君がよく描かれていますが,上表のデータによると,勉強の得意度と体力の自信度は,正の相関関係にあります。赤字はタテ方向の最頻値ですが,勉強が不得意な群ほど,体力に自信がない者が多くなると。
これは私にとっては発見ですが,今回の主眼は,この「勉強×体力」のマトリクス上に,高い自尊感情がどう分布しているかです。換言すると,自尊感情の規定要因として,どちらが大きいかを調べることです。
私は,4×4の16の群について,「自分がとても好き」と答えた児童・生徒の割合を明らかにしました。たとえば,小4の一番左上の群(A×a)では,214人のうち122人が「とても自分が好き」と考えています。よってこの群の場合,高い自尊心の保持率は,122/214=57.0%です。
前々回の手法を継承し,まず,16の群の量的規模を表現した比重図を用意しました。次に,それぞれの群の四角形を,上記の比率(高い自尊心の保持率)の水準で塗り分けてみました。40%以上,30%以上40%未満,20%以上30%未満,20%未満の4階級を設け,濃淡の色をつけました。
こうすることで,各群が置かれた文脈と自尊心の程度を同時に見てとることができます。ブツは,以下です。
小学校4年生では色つきのゾーンが多いですが,高校2年生になると,自尊率2割未満の白色が大半になります。後者では,左上の「A×a」の群の自尊感情率が82%と飛びぬけて高くなっています。少数の層に自尊感情が凝縮される構造は,ここでも見受けられます。
なお,勉強と体力の規定力をみると,小4では図の模様がナナメ方向であることから,双方が効いているようです。しかるに高2では,勉強の得意度の影響が大きいようで,勉強がとても得意なA群の箇所に色が集中しています。体力に自信があっても(a群),勉強が不得意な群(C~D)では色はついていません。
前々回の分析に追加される知見は,以下のごとし。
①:勉強だけでなく,体力に自信がある生徒も,加齢と共に減少する。
②:量的に少ない,勉強・体力共に自信がある群に,高い自尊心が凝縮される傾向がある。
③:自尊心に対する規定力としては,体力の自信度よりも勉強の得意度が大きい。
とくに②が重要であり,これを「自尊心の凝縮化現象」と命名しておきましょう。日本の思春期・青年期に固有の現象であるのか,大変興味が持たれるところです。