「文系と理系,どっちが有利なの?」 こういう問いをよく聞きます。日経デュアル誌にて,大卒者の専攻別の正社員率を明らかにしたことがありますが,当該の記事がよく読まれているそうです。結果は,理系が圧倒的に有利(とくに女子)というものでした。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3276
今回はもっと,卑俗なテーマを追及してみましょう。年収はどれほど違うかです。性別,学歴,職業などによる年収差は嫌というほど分析されていますが,学校時代に学んだ専攻ではどうちがうか。文系出身者と理系出身者でみて,稼いでいるのはどちらか。
国立青少年教育振興機構の『子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究』(2013年)のローデータをもとに,上記の問いに答えるデータをつくってみました。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/72/
この調査は,読書の頻度と生活意識の関連を明らかにすることを主眼としていますが,20~60代を対象とした成人調査では,細かい属性を尋ねています。学歴,年収,さらには最終学校での専攻まで問うています。これらの変数を多重クロスにかけることで,目当ての分析をすることが可能です。
私は,大卒男性のサンプル(60代は除外)を取り出し,在学時の専攻と現在年収の関連を明らかにしました。専攻は,人文科学と社会科学を文系,理学,工学,農学を理系としました。取り出されたサンプル数の総計は,文系が575人,理系が336人です。
これらを4つの年齢層に分かち,それぞれの年収分布をとってみました。下表は,構成比によるの分布表です。サンプル数は,< >内に示しています。
どうでしょう。グラフでないので分かりにくいかもしれませんが,どちらかといえば理系の方が高いゾーンに多く分布しています。私の年齢層の30代では,最頻の階級が2つもズレています。差が最も大きいのは40代のようで,年収750万超の者の比率は,文系では19.4%ですが,理系では29.6%と,10ポイント以上も開いています。
上記の分布を,一つの代表値で簡約してみましょう。各階級の中間の値(階級値)を使って,平均値を計算します。*年収1500万超の階級は,ひとまず一律2000万円と仮定しましょう。
得られた平均値を折れ線グラフにすると,下図のようです。
加齢とともに「理>文」の差が広がり,働き盛りの40代では45万円の差がつくに至ります。しかし引退間際の50代では逆転し,文系のほうが高くなります。社長さんとかが多くなるのでしょうか。
あまり明らかにされたことのない,文系出身か理系出身かによる年収の違いは,こんな感じです。まあ,通説が確認されたってとこでしょうか。
上記の調査では,対象の成人に,回顧形式の設問をいろいろ投げかけているのですが,大学時代どれほどマジメに勉強したか,という問いも入れてほしかった・・・。大学時代の過ごし方の差が,成人後の人生にどう影響するか。とても重要なテーマです。大学教育の抜本改革が議論されている今日にあってはなおのこと。
子ども期の過ごし方と成人後の人生の関連。特定の個人を追跡する調査が望ましいのですが,回顧形式の調査法でも,ある程度のことは明らかにできます。今回用いた『子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究』の成人調査では,子ども時代の読書頻度や体験の豊かさなども尋ねています。さしあたり,これを十分にしゃぶり尽くそうかと。
こういう作業は,できるだけ多くの人による,多様な視点からなされることが望ましいでしょう。上記のリンク先から,ローデータの申請の手続きをすることができます。申請書を送ると,ソッコーでエクセルファイルのローデータが送られてきます。向こうも,データを使ってほしいのでしょうね。有志の方は,今すぐ申請されたい。