総務省『就業構造基本調査』では,就業者の年間就業日数と週間就業時間のクロス表が公表されています。2012年の正規職員(正社員)のデータは,以下のようになっています。規則的就業でない者が多い年間200日未満就業者を除いた,3092万人の分布表です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
数の上では,「年間200~249日就業」×「週35時間以上43時間未満就業」の者が541万人と最も多くなっています。このセルだけで,全体の17%ほどを占めます。
左上の青色の網をかけたゾーンは,およおそ法律の規定に合致するホワイト就業者です(年間200~249日・週43時間未満)。その数は596万人,全体の19.3%なり。法定の働き方をしている正社員は,およそ5人に1人ということになります。
その一方で,法律なんぞクソ喰らえのメチャクチャな働き方をしている者もいます。右下のブラックゾーンです。年間300日以上・週60時間以上働いているブラック就業者ですが,その数は114万人,全体の3.7%ほどです。これに隣接するゾーンは,グレーゾーンと性格づけることができます。
それでは,上記の表のデータを視覚化してみましょう。タテの週間就業時間は3カテゴリー(a~c)に簡略化し,3×3の領分の比重図にしてみました。正社員全体の図に加えて,私が興味を持つ5つの職業の図もつくってみました。管理公務員,医師,教員,介護サービス,そして飲食調理です。
ヨコのA~Cは年間就業日数の3区分,タテのa~cは週間就業時間の3区分です。「A×a」はホワイト,「C×c」はブラックの領分を意味します。
全正社員3092万人の図は「まあ,こんなものだろう」という感じですが,職業ごとにみると色が出ていて,医師ではブラックゾーンが広くなっています。ブラック就業者率は27.1%で,4分の1を超えます。後でも触れますが,これは全職業の中で最高です。医師の過労がよくいわれますが,さもありなんです。
キツイといわれる飲食,多忙が社会問題化している教員も,ブラックないしはグレーの比重が大きいですね。対して,さすがといいますか,右上の公務員は,法定のホワイトの領分が広くなっています。介護サービス職のホワイトの比重が高くなっていますが,給与という軸を据えたら,図柄はガラリと変わると思われます。
以上は5つの職業の図ですが,他の職業はどうか。2012年の『就業構造基本調査』から67の職業のデータを得ることができますが,これら全部の組成図を書くことはできません。そこで,左上のホワイト就業者と右下のブラック就業者の比率を出し,この2変数のマトリクス上に,それぞれの職業を散りばめてみました。
左上にあるのは,ホワイトが少なくブラックが多い「ブラック職業」,右下に位置するのはその反対の「ホワイト職業」といえます。
先ほどみた医師と宗教家が左上のかっ飛んだ位置にありますね。宗教家は,昼夜問わずの布教活動などによるとみられます。
飲食調理,芸術家,バスやタクシーなどの自動車運転手も斜線より上にあり,「ブラック>ホワイト」の職業であることが知られます。教員も,あとちょっとでこのラインを超えるところ。教員定数削減の方針が打ち出されましたが,あと数年したら,教員もブラック職業の仲間入りを果たすかもしれません。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG08HBM_Y5A100C1CR8000/
私は最近,それぞれの成分量を面積で表現する図法にハマっています。ヨコ(X)とタテ(Y)に加えて,Zの軸を加味することもできます。たとえば,転職・就業休止希望率(ウツリタイ・ヤメタイ)率の水準で,上図の9つの領分を塗り分けてもよいでしょう。おそらくは,右下に膿ができることと思います。
師匠の松本良夫先生は,「出身階層×最終学歴」の面積図をつくり,それぞれの領分を非行少年の出現率で塗り分けた図を公表されています。言わずもがな,「Bカラー家庭出身×中卒」の群の非行率が飛びぬけて高い傾向です。時代が経つにつれ,この層がマイノリティー化するに伴い,この傾向がどんどん顕著になるという発見もされています。困難の凝縮化現象です。
面積図。社会現象の可視化にあたって,有効なツールであると思います。