2015年1月7日水曜日

どれほどヤバい時代を生きてきたか(改)

 前々回の記事では,自殺率で塗り分けた年譜の上に,各世代が生きてきた軌跡線を引いてみたのですが,この図を見てくださる方が多いようです。

 いろいろコメントをいただきましたが,「自殺率は年齢によって異なるので,人口全体の自殺率で色分けするのは乱暴ではないか」という指摘が多々ありました。ごもっともです。現在の大学生の世代は,平成不況の暗黒期を生きてきましたが,乳幼児や児童であった彼らが自殺へと仕向けられたわけではありません。この発達段階では,自殺率はほぼゼロです。

 私は,各時代の年齢層ごとの自殺率で色分けした譜面をつくり,その上に,それぞれの世代が生きた軌跡を描いてみました。こうすることで,各世代が直面した危機をより立体的に知ることができると考えたからです。

 私は,1950~2013年の各年について,5歳刻みの年齢層別の自殺率を計算しました。各層の自殺者数を当該層の人口で除した値です。分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『人口推計年報』のものを使いました。

 その一覧表をみて,自殺率の水準として6段階を設定しました。①10万人あたりの自殺率15未満,②15以上20未満,③20以上25未満,④25以上30未満,⑤30以上35未満,⑥35以上,です。これに依拠して,各年・各年齢層のセルを黒の濃淡で塗り分けました。その上に,4つの世代の軌跡線を引いた次第です。

 ブツを以下に掲げます。


 どうでしょう。1950年代では,青年期の箇所に黒色の膿がみられますが,師匠の松本良夫先生の世代(1931~35年生)は,この上をもろに通過しています。青年期に,大きな困難に遭遇した世代です。

 戦前と戦後の価値観が混沌としている世相にあって,青年期の課題である「自己アイデンティティの確立」を達成するのは容易ではなかったと思われます。ちなみに当時の自殺統計をみると,自殺動機のトップは「厭世」です。世の中が厭(いや)になったということです。青年期という時期を,混乱の世の中で過ごしたことの不幸は大きかったといえるでしょう。

 一回り下の団塊世代(黄色)は,50代の時期に不幸に遭遇しています。前世期末から今世紀初頭にかけて,自殺者が毎年3万人を超える事態が続いたのですが,その主な担い手はこの世代であったようです。無慈悲なリストラによる自殺もさぞ多かったことでしょう。

 今の大学生の世代(ピンク色)は,前々回の図では暗黒期を生きてきた印象でしたが,上記の図では白一色です。これは,子どもは滅多に自殺はしないという発達段階的な特性によるものであり,どの時代でも同じです。しかし,平成不況が本格化した「どんより」としたムードの中で人間形成をしてきたのは,この世代の特徴です。「さとり世代」の所以はこういうところに求められると思われます。

 前々回の図の補足版として,掲載しておこうと思います。自殺率ではなく,不慮の事故死率で譜面を塗り分けても面白いですよね。この指標なら,乳幼児期や児童期も,不気味な色で染まるはずです。人生初期の経験が世代によってどう違うかも可視化されるでしょう。

 この「ジェネレーション・グラム」の図法は,いろいろな可能性を秘めています。電車のダイヤグラムの応用ですが,これを世代理解のツールに仕立て上げた松本良夫先生の功績に,改めて敬意を表したいと思います。