2015年1月9日金曜日

人生の読書遍歴

 「モノやお金は時によって価値が変わるけれど,頭に入れた知識は生涯の肥やしになってくれる。だから,できるだけたくさんの本を読みなさい」。小学校時代の恩師のお言葉です。

 読書が人間形成に大きな影響を与えることにかんがみ,近年の学校現場では,子どもの読書活動推進の取組が盛んです。しかし,子どものみならず大人にとっても読書は大切。とくにわが国の場合,成人期以降は会社という一つの組織に埋没しがちで,合理的な思考を失いがちです。なるべく本を読んで,外部の空気(知識)を吸収しないといけません。

 私は,成人期以降をも射程に入れたロング・スパンの読書率のデータをつくってみました。資料は,国立青少年教育振興機構の『子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究』(2013年)です。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/72/

 本調査は中高生と20~60代の成人を対象としていますが,成人調査において,これまでの人生の各時期にて本を読んだかを尋ねる設問があります。対象者に回顧してもらう形式です。6つのジャンルの本を提示し,読んだものにチェックを入れてもらっています。

 この設問の回答結果を整理し,グラフにしてみました。各時期において,当該ジャンルの本を読んだ者の割合です。回顧形式による,人生の読書遍歴図をご覧ください。


 まず,「ほとんど本を読まなかった」者の率は子ども期にかけて減少し,成人期以降は2割弱で推移します。残りが何らかの本を読んだ者ですが,どういう本が多いかは時期ごとの特徴が出ています。

 幼少期は物語・フィクションが多いですね。ピークは小学校高学年で63%です。このジャンルはどの時期でも一番読まれていますが,読書率の水準は加齢と共に下がってきます。それと対をなしているのは,趣味の本です。一貫して右上がりのタイプ。実用書は,働き盛りの30代がピークでその後は減少します。

 残りの3ジャンル(自然科学,社会学,生き方・人間関係)のピークは,大学生の時期です。一番時間がある時ですものね。自己アイデンティティ確立のため,いろいろなことをするのを許されるモラトリアムの時期。なお,6ジャンルの読書率を累積すると,ピークはこの時期になります。人生で一番本が読まれる時期なり。

 20~60代の対象者に,これまで経てきた時期の読書経験を振り返ってもらった結果ですが,軒並み「右下がり」というような図柄でないことに,ちょっとばかり安堵しました。しかし,絶対水準としてはいかにも低い。良識ある公民たるべく,社会科学書籍の読書率などはもっと上がって然るべきでしょう。

 最近は,公共図書館のサービスも充実してきています。お目当ての本が所蔵されていなくとも,頼めばすぐに取り寄せてくれます。また電子書籍も登場し,昔の名著はタダで自分の端末に入れて,好きなだけ読むことができます。こういう条件を積極的に活用しようではありませんか。