日本の自殺率の長期推移を描くと,下図のようになります。1900(明治33)年から2013(平成25)までの,100年以上にわたる曲線です。自殺率とは,人口10万人あたりの自殺者数であり,厚労省の『人口動態統計』に,計算済みの数値が掲載されています。
自殺率は時期によってかなり違いますが,その水準を5段階に区分してみました。①16未満,②16以上18未満,③18以上20未満,④20以上22未満,⑤22以上,です。この段階分けは,社会の「ヤバい」度レベルとみなせます。
⑤の時期に該当するのは,1954~1959年と1998~2011年です。戦後混乱期から高度経済成長期への移行期(激変期),および平成不況が本格化した時期です。歴史的にみて,社会が最も病んでいた時期といえましょう。現在もレベル④であり,予断を許さない状況です。
これで日本社会の暗雲度を色分けする基準を得ましたが,上記の5段階で塗り分けた年譜の上に,それぞれの世代が生きた軌跡線を引いてみました。師匠の松本良夫先生が属する1931~35年生まれ世代の場合,(0~4歳,1935年)と(60~64歳,1995年)を結んだ直線で表されます。
松本先生の世代のほか,5つの世代の斜線をも書き込んでいます。各世代がどれほどヤバい時期を生きてきたか。乳幼児期,児童期,青年期といった発達段階を,どういう時代で過ごしたか。これらの点を視覚的にみてとることができます。
色が濃いほど,自殺率が高いヤバい時代ですが,松本先生の世代(青色)は,ちょうど青年期と重なっています。時代は1950年代の後半。戦前と戦後の新旧の価値観が混在していた頃ですが,こうした不安定な時期に,自己のアイデンティティ(生き方)を確立するのは容易ではなかったこと思います。
私の世代(緑色)は,ちょうど社会に出る頃,暗雲期に突入します。わが国の自殺率は97年から98年の間に急騰し,自殺者数も3万人台にのったのですが(98年問題),私が大学を出たのは翌年の99年です。人呼んで,ロスジェネなり。
黄色の団塊の世代は,50代の時期にこの暗雲期を経験しましたが,無慈悲なリストラによる自殺者数を多く出したことでしょう。総決算でみると,自殺者を最も多く輩出したのは,この世代かもしれません。青年期は白色の高度経済成長期でしたが,定年間際の50代は暗雲期。苦も味わっているわけです。この世代を見る眼差しが,ちょっと変わりました。
一番下のピンク色は,今の大学生の世代ですが,幼少期からブラックの暗雲期を過ごしてきています。この世代は「さとり世代」などといわれますが,現実を悟っているクールなメンタリテは,彼らが育ってきた時代状況と無縁ではないでしょう。
今回は自殺率でしたが,景気動向指数や失業率で塗り分けた図面の上に,各世代の軌跡を引いてみるのもいいかもしれませんね。前回の学習指導要領の図も合わせて,こういう素材を蓄積することで,異世代間の理解もいっそう深まると思います。