2015年1月20日火曜日

1コマの意味

 昨日で後期の授業が終わりました。これから,冬・春休みです。まあ私の場合,年中休みのようなものですが,ブログを書いたり,新刊の構想をしたりして過ごそうかな,と思っています。家に篭りっぱなしというのは精神衛生上よくないので,週1のペースで国会図書館や統計図書館通いもしようかと。

 さて私は大学の非常勤講師をしているのですが,編集者さんとの会合の席で「ぶっちゃけ,大学の講師の給料ってどれくらいなんですか?」と聞かれることがあります。普通のリーマンなら月収額を答えるのでしょうが,非常勤講師の給与は受け持った授業数(コマ数)の関数ですので,「1コマ**円」と答えるのが慣例です。

 そこで私は指を3本立てて,「1コマ3万ってとこが相場です」と答えます。しかし,この意味を勘違い(誤解)なさる方が多い。これを聞いた,ある若い編集者さんは,少し興奮した様子でまくし立てました。

 「へえ,1回の授業が3万ってことですよね。じゃあ月額は3×4=12万,授業を3,4つ受け持てば,余裕で月30~40万になるじゃないですか。すごいですねえ」。

 私は呆れを通り越して,ちょっとした憤りを感じつつ,1コマの意味を説明しました。われわれの業界でいう「1コマ**円」とは,月当たりの額です。よって「1コマ3万」というのは,90分の講義4回分の給与月額という意味です。だからおあいにく様,授業を4コマ持ったとしても,月収はせいぜい12万くらいということになります。

 私が語気を強めたこともあったでしょうが,相手は「ぐうの音」も出ないという感じでした。そしてこう呟きました。「実は,私の上司で大学で非常勤で教えないかと打診されている人がいるんです。出版社希望の学生が多いので,ジャーナリズム関係の講義をしてくれって。・・・でもそうなんですか。勉強になりました。伝えておきます・・・」。

 おそらくその上司の人は,「手当は1コマ**円」いうような言い回しで打診されているのでしょう。でも考えてみれば,「1コマ3万円」と言われた場合,それは1回90分あたりの対価だと考えるのが普通かもしれませんね。仮にも大学教員が,3万円で1カ月も働くなどと考える人のほうが少数派でしょう。

 実際,こういう勘違いをして酷い目にあった方もおられるようです。首都圏大学非常勤講師組合は『控室』という機関誌を出しているのですが,以前の号には,非常勤講師の悲惨な体験談がたくさん載っていて面白いです(最近はそれがなくて残念)。

 1997年1月19日号に「バカにするな!-1コマの意味を理解していて本当に良かった-」という記事が載っています。筆者は,とある児童文学者の方。
http://hijokin.web.fc2.com/hikaeshitsu/anteroom0006.html

 1コマ2万7千円の講義を3コマ頼まれたのですが,提示された額を1回90分あたりの謝礼額と誤解してしまったようです。よって,2万7千×3コマ×4週間=32万4千円の月収を想定していたのですが,支払われた額はその4分の1。明細をみて飛び上がり,事務に電話して,1コマの正確な意味を教えてもらったのこと。

 その後,母校から「1コマ2万円で講義をしないか」と話がきますが,よほど頭にきたのでしょう。「バカにするな!」という強い文面ではね付けています。まさに,「1コマの意味を理解していて本当に良かった」ですね。

 こういう話は,掘ればいくらでも出てくるのではないでしょうか。今日の午後,この話題をツイッターでボソボソ呟いたところ,「知らんかった。勉強になった」というリプもありました。
https://twitter.com/katsuyatakasu/status/557417215780065280

 最近は,社会人に非常勤を依頼する大学も多くなっていることと思います。「対価は1コマ**円です」。依頼の定型文句はコレでしょうが,ここでいう「1コマ」とはどういう意味合いか。先ほどの編集者氏の上司さんも,この点をご存じないのでは・・・ これは知らしめる必要があるかなと思い,本記事を書いた次第です。