2012年3月7日水曜日

教員のパフォーマンス指数(授業)

子どもの「がんばり度」は,学力テストや体力テストの結果などを使って計測できるのですが,教員の「がんばり度」を測る指標(measure)はないものかと,前から思っていました。

 子どもの場合,一定水準の学力や体力をつけるというように,期待されている役割が明確なのですが,教員に期待される役割とは何でしょう。

 まず,教えることのプロとして,知識や技術が子どもに確実に伝わるような,分かりやすい,工夫された授業を行うことが求められます。また,日々の業務遂行に際しては,上司や同僚,さらには外部の諸主体(教育委員会,保護者・・・)と連携・協力することも要請されます。教育が高度に組織化・体系化されている今日,個々の教員の身勝手な「個人プレー」は歓迎されません。あと一点,専門職としての教員は絶えず研修に励む必要があります。このことは,教育基本法や教育公務員特例法において,明確に法定されています。

 私は,(1)授業,(2)連携・協力,そして(3)研修という3つの観点から,教員の役割遂行(パフォーマンス)の度合いを計測する指数を構成してみようと考えました。教員とは,公立の義務教育学校(小・中学校)の教員とします。なお,教員といっても地域によって状況は異なるでしょうから,指数を県別に計算し,比較してみます。

 今回は,1番目の「授業」の観点から,各県の公立小・中学校の教員のパフォーマンスを観察してみようと思います。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,対象となった学校に対し,日々の授業実践について尋ねています。授業に関連する設問は多いのですが,私は,以下の6つの設問への回答に注目しました。

①:児童(生徒)の様々な考えを引きだしたり,思考を深めたりするような発問や指導をしていますか。
②:児童(生徒)の発言や活動の時間を確保して授業を進めていますか。
③:国語の指導として,補充的な学習の指導を行いましたか。
④:国語の指導として,発展的な学習の指導を行いましたか。
⑤:算数(数学)の指導として,補充的な学習の指導を行いましたか。
⑥:算数(数学)の指導として,発展的な学習の指導を行いましたか。

 ③~⑥の補充的ないしは発展的な指導は,個に応じた指導の一環として,学習指導要領の上でも推奨されているものです(たとえば,小学校学習指導要領総則第4の2の6)。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/sou.htm

 調査対象となった公立の小・中学校のうち,これらの各問いに対し,最も強い肯定の回答(「よく行った」)を寄せた学校の比率を計算しました。使ったのは,2009年度調査のデータです。2010年度調査のデータが最新ですが,全学校を対象とした悉皆調査である2009年度調査の結果を用いることとしました。
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/index.htm

 上記の6つの設問に対し,「よく行った」と答えた学校の比率(以下,実施率)を都道府県別に明らかにしました。単位は%です。下表に,全国値と,47都道府県中の最大値と最小値を示します。


 各学校の自己評価の結果ですが,授業の工夫の実施率は,県によってかなり異なるようです。②の「自主性を重んじる指導」の実施率は,岐阜と沖縄では40ポイント近くも違います。③~⑥の補充的・発展的な指導の実施率は,軒並み滋賀で低いようですが,当県では,それぞれの学校の自己評価が厳しかった,ということでしょうか。

 では,6つの実施率を合成して,授業面での教員のパフォーマンスを測る指数を構成してみましょう。各県の①~⑥の実施率を,47都道府県中の順位に基づいて,1~10点の点数に換算します。

 1~5位=10点,6~10位=9点,11~15位=8点,16~20位=7点,21~25位=6点,26~30位=5点,31~35位=4点,36~40位=3点,41~45位=2点,46~47位=1点,とします。

 6つのスコアの平均値をもって,授業面での教員のパフォーマンス指数といたしましょう。私が在住している東京の場合,実施率の順位は,①が20位,②が39位,③が29位,④が6位,⑤が21位,⑥が2位,です。よってスコアは順に,7,3,5,9,6,10,となります。6つのスコアを平均して,東京のパフォーマンス指数は,6.67と算出されます。

 下表は,6つのスコア値と,それらを平均したパフォーマンス指数の県別一覧表です。最大値には黄色,最小値には青色をつけました。また,指数が7.00以上の場合は赤色にしました。


 右端の指数をみると,最も高いのは茨城,最も低いのは滋賀です。茨城の10.00は,考えられ得る値の最大値です。全項目の実施率が5位以内にランクインしているので,このような結果になっています。

 一方,滋賀は,考えられ得る値の最小値(1.00)を記録しています。うーん,やはり,調査対象となった各学校の自己評価が厳しかった,ということなのかなあ。

 なお,指数が7.00を超えるのは,11県です。茨城,栃木,群馬,新潟,石川,福井,広島,山口,高知,大分,そして鹿児島です。これらの県は,授業面における教員のパフォーマンスが比較的良好であると判断されます。*あくまで自己評価の結果ということを申し添えなければいけませんが。

 最後に,右端の指数に基づいて,各県を色分けした地図を掲載しておきましょう。4未満,4台,5台,6台,および7以上という5段階を設けました。


 指数が高い白色の県は,北関東や北陸などに分布しています。一方,近畿県の多くは黒色です。北陸は白色・・・子どもの学力水準と関連していそうです。福井は,学力テストの上位の常連県です。授業の工夫の実施頻度が高い→子どもの学力アップ,という因果関係は分かりやすいところです。

 子どもの県別の学力水準は,昨年の6月12日の記事で明らかにしています。早速,両者の相関分析をしてみたいのですが,教員のパフォーマンス指数のほうを,もう少しブラッシュアップしてからにしましょう。

 次回は,「連携・協力」の側面から,各県の教員のパフォーマンス指数を出してみようと存じます。