2012年3月22日木曜日

精神疾患による教員の休職率(学校種別,年齢層別)

前回は,精神疾患による教員の休職率を年齢層別・都道府県別に明らかにしました。その結果,多くの県において,中年層(40代)の休職率が高いことを知りました。

 しかるに,前回のデータは,性質を異にする学校種(小学校,中学校,高校)を一緒くたにしたものです。それぞれの学校種ごとに,年齢層別の休職率を出す作業も必要かと思います。精神疾患を罹患しやすい層(要注意層)を,より精密に析出するためです。

 前回使った当局の内部資料から,精神疾患で休職した教員の数を,学校種別・年齢層別に得ることができます。2009年度間の数値です。これを,学校種別・年齢層別の教員数で除して,各カテゴリーの休職率を計算します。

 分母の教員人口は,2010年の文科省『学校教員統計調査』から分かる,2010年10月1日時点のものです。2009年の年齢別の教員数を知ることはできませんので,1年ズレますが,2010年の教員数を母数に充てることとします。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001033683&cycode=0

 では,公立小学校,中学校,高等学校に分けて,精神疾患による休職率(以下,精神疾患率)を年齢層別に出してみましょう。


 3校種×4年齢層=12のカテゴリーについて,精神疾患率を出しました。12カテゴリーの中で率が最も高いのは,中学校の40代です。小学校の40代,中学校の50歳以上がそれに次ぎます。40代の精神疾患率が高いのは前回もみましたが,とりわけ中学校の40代が要注意層として検出されます。

 次に,大都市の東京と大阪について,同じく12カテゴリーの精神疾患率を出してみましょう。この2都府の場合,分子の休職者数が多いので,12のカテゴリーに細分しても問題はないと思われます。下表は,全国,東京,そして大阪のカテゴリー別の精神疾患率を整理したものです。


 値が上位3位の層の数値は赤色,最も高い層の数値はゴチの赤色にしています。精神疾患率が最も高い層をみると,東京は小学校の40代,大阪は中学校の40代です。大阪の場合,中学校の40代の率は22.9‰,およそ44人に1人の割合です。この層の率が他を圧倒しています。

 なお,赤色の数字の位置をみると,東京は全国的傾向と同じですが,大阪は少し違っています。小学校の50歳以上,高校の40代に色がついています。大阪は,高校の中高年層の率が高いことが特徴です。

 表の右欄は,全国の値を1.0とした場合の相対倍率です。1.8倍を超える箇所には,黄色のマークをしています。東京は高校の若年教員,大阪は中学・高校の中高年教員の精神疾患率が比較的高いことが読み取れます。

 どうでしょう。校種ごとに分けてみても,40代あたりの中年教員の危機が色濃いことは変わらないようです。都市部では,そうした傾向が比較的顕著です。

 40代といえば中堅期で,主任などの役職をあてがわれる時期です。後輩教員の指導も任されるなど,業務負担が増す時期といえるでしょう。その一方で,生理的には体力が落ちてきます。40代の危機は,常識的には,こうした視点から解釈できると思われます。

 しかるに,ライフサイクル上の役割変化という視点からの考察もあります。紅林伸幸教授は,教員の中堅期の役割変化を,「実践家教師から管理職教師へ」という言葉で表現しています(「教師のライフサイクルにおける危機」油布佐和子編『教師の現在・教職の未来』教育出版,1999年)。

 学校には,「学級サイズの教授実践」を主に担う一般教諭と,「学校規模の教育活動や教師集団の組織・管理」を主たる職務とする管理職という,2種類の教員がいます。前者から後者への過渡期にある中堅教員は,実践に成熟してきたところで,実践の場を奪われる位置にあります。事実,教務主任や校務主任ともなれば,学級の担任を外れるケースも多いでしょう。つまり,実践家から管理職へのアイデンティティの変更を迫られるわけです。

 こうした制度上の要請が,中堅教員にとっての葛藤を準備すると,紅林教授は指摘されています。紅林教授の調査データによると,教師を辞めたい理由として最も多いのは,一般教師と学年・研修主任の場合は「仕事量の過重」ですが(49.6%,63.4%),教務・校務主任の場合,「仕事内容に生きがいが見出せなくなった」が42.9%で最多であるそうです(前掲論文,44頁)。

 うーん。教員の危機は,過労やバーンアウトという観点からのみ捉えられがちですが,もっと深いところには,個々の教員の努力では如何ともし難い,ライフサイクル上の役割葛藤という問題が潜んでいるとみられます。

 このような中堅期の役割葛藤の量を測る指標(measure)としては,どういうものがあるかなあ。主幹教諭や指導教諭といった,中間管理職的な職階の教員がどれほどいるか,というのはどうでしょう。これは,県別に出すことができます。教務主任や学年主任の数も『学校基本調査』から知ることができます。

 教員集団がどれほど複雑に階層化されているか,官僚制化されているかということも,教員の危機を規定する社会学的な要因といえるかもしれません。

 教員の危機状況は,各人の気質や心理的ストレスの点から論じられることが多いのですが,その外側には,全体社会の要因(マクロレベル),教員を取り巻く教員集団(ミドルレベル)の要因が位置しています。この3つのレベルの要因の中で,最も政策的に可変的であるのは,中間にある教員集団の要因でしょう。

 この部分の要因の解明にねらいを定めた実証研究が望まれると思います。教員の精神疾患率(離職率)の地域差の要因分析は,この仕事に属するものと考えます。現在,私が力点を置いている研究テーマです。

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