一昔前,「東京で石を投げれば大学生に当たる」といわれていました。現在,都会でランダムに石を放り投げた場合,どういう人間に命中するでしょうか。このご時世です。皆,浮かない顔をして歩いています。不安定就労や失業中というような,おめでたくない状態にある方にヒットする確率も高いと思われます。そういう方はイライラがつのっているでしょうから,何をされるか分かりません。恐ろしや。
2010年の総務省『国勢調査』の産業等基本集計結果から,15歳以上の国民の労働力状態や就業形態の内訳を知ることができます。現在,22の県の分が公表されていますが,この中で最も都市性が高い(全国の縮図に近い)と考えられる栃木県のデータを使って,国民の素状を観察してみましょう。
2010年10月1日時点における,栃木県の15歳以上人口は約172万人だそうです。この172万人のうち,就業者が何人,失業者が何人,家事従事者が何人というような,労働力状態の統計は,下記サイトの表2-1から得ることができます。また,就業者の就業形態の内訳(正規,派遣,バイト・・・)は,表3から知ることができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037602&cycode=0
これらの統計を用いて,就業状態という観点からした,172万人の組成を明らかにしました。下図をご覧ください。
「正規」から「家族従業等」までの4カテゴリーが就業者,それ以外(不詳除く)が非就業者ということになります。最も多いのは,正規雇用の就業者です。およそ3人に1人。次に多いには,「派遣・バイト」と「その他」です。「その他」とは,就業も通学も家事もしていない者です。職をリタイアした高齢者が大半ですが,若者もいます。若者の場合,俗にいうニートに近い輩であると解されます。
家事従事者も全体の15%ほどいます。ほとんどが女性です。なお,全体の3.8%,およそ26人に1人が,足繁く求職活動を行っている失業者です。
これは,15歳以上人口全体の傾向ですが,各カテゴリーの組成は,年齢層によって大きく異なるでしょう。私は,5歳刻みの年齢階層ごとに,同じ統計をつくってみました。男性と女性に分けて,結果を人口ピラミッド図の形で示します。目盛の単位は千人です。*就業状態の人口ピラミッドは,昨年の7月26日の記事でもつくったのですが,今回のものは,カテゴリーの区分が細かい,精密度の高いものであることを申し添えます。
人口ピラミッドの形は,真ん中より少し上の層が厚い「つぼ型」です。全国的な傾向と同じです。当然ですが,低年齢層では「通学」,高齢層では「その他」の領分が大きくなっています。
さて,生産年齢段階の色分けをみると,女性では家事(オレンジ色)や派遣・バイト(赤色),男性では正規雇用(青色)のシェアが広いようです。就業者の雇用形態の非正規化,不安定化が問題になっていますが,それはとりわけ女性で顕著です。女性では,20~50代の就業者のうち,派遣・バイト(赤色)が占める比率は47.4%にも達します。ほぼ半分です。
ところで,ロスジェネといわれる私の世代はどうなのでしょう。上図でいう「35~39歳」の層ですが,第2次ベビーブーマーに該当するので,他の世代に比べて人数が多くなっています。男性は7万9千人,女性は7万2千人です。
この層に拡大鏡をあててみましょう。下表に,各カテゴリーの人数と,全体に占める構成比(%)を整理しました。
ロスジェネ世代の女性では,派遣・バイト従事者が最も多くなっています。全体の3割です。この世代の女性集団に石を投げた場合,不安定就労者に当たる確率が最も高いわけです。専業主婦ではありません。
男性でも,派遣・バイトと失業を合わせると12.1%,それにニートも加えると14.0%です。およそ7分の1の確率で,この手の輩に石が命中することになります。
私は大学非常勤講師ですので,上表のカテゴリーでいうと,まぎれもなく「派遣・バイト」に含まれます。6.4%,16人に1人の枠に入っているのか・・・。自分の位置を知ることができました。
『国勢調査』の産業等基本集計の全国結果が公表されるのは,4月の下旬だそうです。その時になったら,全国についても,同じ統計をつくってみるつもりです。また,首都の東京のピラミッドも描いてみる予定です。大都市の場合,また違った模様になることが予想されます。