2012年3月29日木曜日

教員給与と教員採用試験競争率の相関

閑話休題。前々回の続きです。各県の対民間の教員給与水準は,教員採用試験の競争率とどういう関係にあるのでしょうか。常識的には,給与が高い県ほど,それに魅せられて志願者が多く集まると考えられますが,実情はどうなのでしょう。

 前々回の記事では,公立学校の男性教員の給与が,同性・同学歴の民間労働者の何倍かという相対倍率を県別に明らかにしました。3月6日の記事では,各県の2011年度教員採用試験の競争率を調べました。この両者の相関関係をみてみます。学校種ごとの試験区分を設けていない福井を除いた46県のデータを使います。

 下図は,横軸に教員給与,縦軸に試験の競争率をとった座標上に,46都道府県を位置づけたものです。左側は小学校,右側は中学校の相関図です。なお,中学校の図の競争率は,中高をひっくるめた競争率です。東京のように,中学と高校の試験を合同で実施している県が若干あるため,このような措置を取りました。


 小学校でも中学校でも,おおよそ,教員給与が民間に比して高い県ほど,試験の競争率が高い傾向にあります。相関係数は,小学校は0.464,中学校は0.566です。いずれも1%水準で有意と判断されます。

 図の右上には地方県,左下には東京のような大都市県が位置しています。周知の通り,東京は競争率が低いのですが,その一因は,民間と比べた教員給与が低いためであったりして・・・。

 むろん,試験の競争率を規定する最も大きな要因は,退職教員の量というような人口学的なものでしょう。しかるに,上記の相関が因果関係的な要素を全く含んでいないとは言い切れますまい。

 教員採用と教員給与(待遇)の問題は,切っても切れない関係にあります。前回書きましたが,私は今,昔の教員の悩みや苦境に関連する新聞記事を集めています。今日も図書館に出向き,新聞の縮刷版をくくってきました(ヒマ人!)。今日調べたのは,1940年(昭和15年)から1942年(昭和17年)までの分です。戦時下にあった頃ですね。

 どうやらこの頃は,慢性的な教員不足の状態だったようです。いくつかの目ぼしい記事を採集し,例の『教員哀帳』にスクラップしました。その一部をお見せします。


 左側は1941年2月11日,右側は同年2月21日の朝日新聞の記事です。右側の記事では,「先生を大量募集:都下小学校,千余名の不足」という見出しが出ています。千余名の不足!今だったら,「じゃあ僕を,私を」と多くの学生さんが殺到することでしょう。

 また,教員を養成する師範学校への入学志願者も減っていたようです。師範学校は学費はタダ,それどころか,在学中は生活費までが支給されます。戦前期は,こういう学校で教員が養成されていたのだよと学生さんに話すと,異口同音に「チョー,いいじゃないっすか!」という反応が返ってきます。

 しかるに,このような(夢のような)学校への志願者を減少せしめるほど,当時は,教員という職業の魅力が落ちていたようです。

 その原因は何でしょう。キツイからでしょうか。それもあると思いますが,一番の原因は待遇の悪さだったようです。事実,上記の記事の周辺には,教員(とくに小学校)の待遇が劣悪であること,教員手当を急ぐ必要があることを訴える社説やコラムがちらほら見られます。

 このような世論を受けてか,1943年に師範学校令が改正され,師範学校は専門学校と同程度の学校に昇格しました。このことにより,同校の卒業生の初任給は増額されることとなりました(男子は15円アップ)。また,義務教育費国庫負担法等の改正により,国民学校(以前の尋常小学校,高等小学校)の俸給は公立中学校と同じになりました。*文部省『学制百年史』を参照。

 それから約70年を経た現在はというと,給与でみる限り,教員の待遇が下げられる傾向にあるようです。前々回の記事でみたように,学校種を問わず,ここ10年にかけて教員給与は低下の一途をたどっています。

 とくに気になるのは東京の小学校で,文科省『学校教員統計』から分かる平均月給が,2001年の40.5万円から2010年の35.5万円まで,5.0万円も減っていることです。全国データで観察される減少幅(3.6万円)を大きく上回っています。

 昨年の大地震の復興財源確保など,いろいろな事情があるかと思いますが,このことがよからぬ事態をもたらしはしないかと気がかりです。

 上記写真の左側の記事の見出しは,「青年教員の転職」となっています。当時は,人材が入ってこないばかりか,人材が出ていく問題にも直面していたようです。戦時下でインフレが進行していたにもかかわらず,教員給与はほぼ据え置きのままであったので,生活に困窮した者も多かったことでしょう。給与が安い若年教員は生活もままならず,転職に踏み切らざるを得なかったのではないでしょうか。

 「歴史は繰り返す」といいますが,これから先,どうなるでしょう。教員の離職率が上昇傾向にあることは,昨年の5月8日の記事などで明らかにしました。そこで観察したのは2006年度までの統計ですが,それから離職率はどうなったのでしょう。増えたのでしょうか。減ったのでしょうか。

 一昨日,2010年の『学校教員統計調査』の詳細結果が公表されたところです。この資料から,2009年度の教員の離職率を計算できます。目下,その作業中です。性別,属性別,地域別など,細かい属性別の率も算出可能です。結果が出次第,この場で随時公表していきたいと思います。