前回の記事では,高齢者の暴行犯検挙人員が近年激増していることをみました。それでもって,「キレる高齢者」の増加と読んだのですが,これは人口変化を考慮していない実数です。
まあ,1995年から2012年にかけて60歳以上人口は1.6倍の増なのに対し,当該年齢の暴行検挙人員は25倍以上の増。この事実から上記の解釈が的外れでないことは明らかですが,検挙人員をベース人口で除した出現率の推移をみるのがスマートでしょう。また,少年と高齢者だけでなく,他の年齢層の動向も気になります。
そこで今回は,人口あたりの暴行検挙人員の出現率を出してみます。当該年齢人口10万人あたりでみて,暴行検挙人員が何人かです。2012年の警察庁『犯罪統計書』によると,同年中の14~19歳の暴行検挙人員は1496人,同年10月の当該年齢人口は約725万人(総務省「人口推計年報」)。したがって,この年の少年の暴行犯出現率は,20.6となります。
私は,この暴行犯出現率の推移を年齢層ごとに明らかにしました。前回は90年代半ばからの近況でしたが,今回は1960年からの半世紀の長期推移をたどってみます。下の図は,そのグラフです。
暴行犯出現率は,概して昔のほうが高かったようです。とくに若者はそうで,現在の比ではありません。まあ,当時の時代状況を思えばさもありなん。20代のピークは60年代後半ですが,学生運動の全盛期だったころです。
10代のピークは1964年。東京オリンピックの年ですが,当時は今みたいに大半が上級学校(高校,大学)に行く時代ではなく,少年の世界は,学生と勤労青年にほぼ2分されていました。つまり地位の分化(segregation)が大きかったのですが,それゆえに地位不満に由来する葛藤型の暴力犯罪が多発していたそうです。
こうした激しい時代が終わり,社会が安定するにつれ暴力沙汰も減ってきますが,世紀の変わり目を境に再び増加に転じてきます。
最近では,30~40代の暴行犯出現率が最も高くなっています。不遇にさらされた,ロスジェネの怒りってやつでしょうか。20代と50代も,暴行発生率が少年を超えています。最近キレるのは子どもではなく,大人であるようです。
前回注目した高齢者は,人口当たりの出現率は他の年齢層に比して低いですが,過去と比べた増加率はマックスです。この面での変化も視覚化しておきましょう。始点の1960年の暴行犯出現率を1.0とした指数をグラフにすると,以下のようになります。
最近の高齢者の暴行犯出現率は,高度経済成長期の頃に比べて3倍。今世紀以降の伸びが大きくなっています。人口あたりの出現率の指数値ですので,「キレる高齢者」の増加と読み取ってよいでしょう。
これを団塊世代の世代要因に帰す見方があるようですが,今世紀になって他の年齢層の指数も増えていますので,特定世代云々ではなく,近年の社会状況の影響とみるのが妥当かと思います。40代や50代も過去最高ですが,老後の展望不良なども関与しているのではないでしょうか。ハーシのボンド理論ではないですが,失うものがない人間は自棄になりやすい…。
前回の分析の補足でした。