2015年11月15日日曜日

キレる高齢者

 前世紀の末に,栃木県で中1生徒が女性教師をナイフで刺殺す事件が発生し,「キレる子ども」の存在が話題になりました。学校にナイフを持ってくる生徒もいるとのことで,当時の文部大臣が「ナイフを持つのは止めよう」と呼びかけていたのを覚えています。

 しかし最近キレるのは大人,それも高齢者であるようです。一昨日のJ-castニュースにズバリ「キレる高齢者・各地で大暴れ」と題する記事が公開されています。
http://www.j-cast.com/tv/2015/11/13250510.html

 まあ私の経験でも,電車やバス車内でケータイで通話し,注意されて逆ギレする高齢者をよく見かけます。

 統計でも,キレる統計者の増殖が観察されます。私は警察庁の犯罪統計に当たって,1995年から2012年までの高齢者の暴行検挙人員数を調べました。ついでに,犯罪の代表格である窃盗(≒万引)の数も拾ってみました。

 下の表は,少年と高齢者の数の推移を整理したものです。上段は実数,下段は始点の1995年を1.0とした指数です。


 高齢者(60歳以上)の暴行検挙人員は1995年では193人でしたが,2012年では4989年にまで激増しています。25倍以上の増です。少年の暴行検挙人員は減っているのと対照的。

 これは少子高齢化という人口変動要因だけで説明できる現象ではありません。高齢人口はこの期間で1.6倍にしか増えていませんが,暴力沙汰を起こした高齢者は25倍以上の増。明らかに,キレる高齢者が増えているといえましょう。

 若いころ学生運動などで大暴れした団塊の世代ですが,定年退職して,そのエネルギーが再燃しているのでしょうか。だとしたら,それが別の方向に向くよう仕向けたいものです。

 なお,窃盗で捕まる高齢者も増えています。1995年から2012年にかけて3.7倍の増。多くは万引です。この種の犯罪は少年の専売特許のような感がありますが,2012年では検挙人員の実数でみて,高齢者が少年を抜いています。

 生活苦による部分が大きいでしょうが,孤独な状態に置かれ,どうにかして人と関わりたい,話を聞いてほしい,という欲求もあるでしょうね。480円の和菓子を万引きし捕まった高齢者が,罰金の40万円を即日納付したケースもありますし。捜査関係者のコメント=「この人,お金持ってるんですね」。
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1856485.html

 近年の高齢者の苦境は,経済的なものだけではないと思います。

 上記表の暴行検挙人の指数推移をグラフにしておきましょう。青色は少年,赤色は高齢者の推移線です。


 これをもって,短気な暴走老人,何もかも希望が叶ってきた団塊世代のワガママというような,個々人の資質だけに原因を帰すのは誤りでしょう。

 急速に少子高齢社会に突入している我が国では,高齢者の生活を保障する制度の整備が追い付いていません。年金などの経済面だけでなく,高齢者の居場所・つながりの創出といった面でもです。これまでは家族依存型の福祉で何とかやってこれましたが,今後はそれも通用しなくなる。

 変動の時代は危機の時代といいますが,上記の折れ線は,こうした過渡期におかれた高齢者の苦悩・葛藤の現れとも見るべきだと思います。