前回は,東京都内の地域統計を使って,幼子がいる母親の就業率と保育所供給率の関連を明らかにしました。分かったのは,両指標の間に強い正の相関関係がある,ということです。
ところで,東京に土地勘がなく,いまいちピンとこなかった方もおられるのではないでしょうか。また,東京という局所(大都市)でいえることがどれほど普遍性を持つのか,という疑問もあろうかと存じます。
そこで今回は,分析の次元を引き上げて,47都道府県のデータを用いて同じ分析をしてみようと思います。保育所の供給が多い地域ほど,幼子を抱える母親の就業率は高いか。県レベルのデータをもとに,追試をしてみましょう。
私が住んでいる東京都を例に,指標の計算方法を説明します。まずは,幼子を抱える母親の就業率です。2010年の『国勢調査』によると,都内に居を構える核家族世帯のうち,6歳未満の幼子がいる世帯は418,670世帯です(末子年齢による)。このうち,母親が就業している世帯は153,981世帯。よって,幼子がいる母親の就業率は36.8%となります。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm
ここでいう核家族とは,夫婦がいる核家族であり,母子世帯は含んでいません。また,今出した就業率は,パート等の非正規も含む値であることに留意ください。
次に,保育所供給率です。厚労省の『福祉行政報告例』(2010年)によると,同年4月1日時点における都内の認可保育所の定員数は173,532人となっています。このイスを求める需要者数として,幼子がいる核家族世帯の数を充てることとしましょう。先ほど示したように,その数418,670世帯。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html
こう考えると,東京の保育所供給率は,173,532/418,670=41.4%と算出されます。幼子がいる核家族世帯(需要者)に対し,イスがどれほど供されているか,という意味の指標です。
私は,同じやり方にて,この2つの指標を47都道府県について計算しました。下表は,その一覧です。計算に使った分子と分母の数値も漏れなく掲げます。なお,政令指定都市の認可保育所定員(c)は,当該市がある県の分に組み入れたことを申し添えます。
黄色のマークは最高値,青色は最低値です。同じ幼子を抱えるママさんでも,就業率には少なからぬ地域差があり,最高の島根と最低の神奈川では,倍近くもの開きがあります。
続いて保育所供給率をみると,こちらは甚だ大きな都道府県差がみられます。最高の福井では,需要者数を超える定員が用意されていますが,最低の神奈川では,需要者の3分の1ほどしかイスが供されていません。
赤色の数値は,上位5位を意味します。ほう。両者とも,上位県がほとんど重なっていますね。対極をみれば,最下位が神奈川であるのも共通しています。
2つの指標がかなり強い正の相関にあることがうかがわれますが,相関図をつくってみましょう。下図をご覧ください。
保育所供給率が高い県ほど,幼子がいる母親の就業率が高い傾向が明瞭です。都内の49市区データでみた場合よりも,傾向がクリアーです。事実,相関係数は+0.877であり,前回の係数値(+0.618)をかなり上回っています。
図の右上にある北陸や山陰の県は,三世代家族が多いのではないか,といわれるかもしれませんが,ここで出したのは核家族世帯に限定した就業率ですので,そのような要因の影響は除去されています。むろん,同居とはいわずとも,すぐ近くに親(子からすれば祖父母)が住んでいる,という条件があるかもしれませんが・・・。
最後に,母親の就業率と保育所供給率の相関係数を,末子の年齢ごとにみてみましょう。0歳の箇所には,0歳の乳幼児がいる母親の就業率と,上図の保育所供給率の相関係数が示されています。
ほう。都内の地域データでみた場合よりも,相関係数が軒並み高くなっていますね。子が大きくなるにつれて係数値が上がってくるのは,育児休業のような制度の活用が難しくなり,頼みの綱がもっぱら保育所に限定されてしまうためでしょう。
しかし,子が0歳の時点にして相関係数が0.787とはスゴイですねえ。育児休業とか,他の条件の影響はないのかしらん。恐るべし,保育所パワー。
前回も申しましたが,幼子がいる母親の就業率と保育所供給率の相関は,いろいろな視点から読むべきかと思います。育児休業や男性の育児参画のような,保育所とは別の条件の整備が蔑ろにされていることの証左とも読めるでしょう。
上記のデータは,「保育所の増設を!」だけでなく,「育児休業の拡充を!,男性の育児参画の促進を!」というような,別の主張の根拠にも使っていただきたいと思います。「預ける」だけでなく,「休む」,「共に育てる」というような面にも目配りすることです。