2013年3月18日月曜日

新卒ニート

 3月16日の財経新聞Web版に「新卒ニート3万人」と題する記事が載っています。文科省『学校基本調査』に掲載されている,大学卒業者の進路カテゴリーが詳しくなったことから,この手の人間の数を明らかにすることが可能です。
http://www.zaikei.co.jp/article/20130316/127095.html

 『学校基本調査(高等教育機関編)』では,卒業者の進路カテゴリーとして,8つが設けられています。2012年3月の大卒者55万8,692人の内訳は以下のようになっています。

 ①:進学者 ・・・ 65,683人
 ②:正規就職 ・・・ 335,048人
 ③:非正規就職 ・・・ 21,963人
 ④:臨床研修医 ・・・ 8,893人
 ⑤:専修学校等 ・・・ 11,173人
 ⑥:一時的な仕事 ・・・ 19,569人
 ⑦:その他 ・・・ 86,566人 (=進学準備3,613人+就職準備49,398人+その他33,555人
 ⑧:不詳・死亡 ・・・ 9,797人

 上記の記事がいう「新卒ニート」とは,7番目の「その他」のうち,事由が進学準備でも就職準備でもない33,555人です。なるほど。卒業時の進路が未定で,今後も就職や進学の意志がなく,何もしていない者であるとみられます。「新卒ニート」と呼んでもよいでしょう。

 卒業生全体に占める比率は6.0%なり。およそ17人に1人です。まあこの中には,病気療養中の者や,海外留学の準備中の者なども含まれるでしょうが,先のことを全然考えてない「ボケー」とした者が多くを占めているともとれます。

 学校の卒業時点にして,進学の意志も就職の意志もない「新卒ニート」。こういう者があまりに増えることは,問題を含んでいるといえましょう。大学教育の機能不全の指標とも読めます。

 大卒者の新卒ニート率を,細かい属性別に計算してみました。下表は,性別,設置主体別,および専攻別の数値をまとめたものです。


 全体値(6.0%)を越えている場合,黄色のマークをしています。これに注意すると,新卒ニートの出現率は,男子よりも女子で高いようです。婚約者がいて,花嫁修業を決め込んでいる女子でしょうか。近年,若者の間で伝統的性役割観への回帰が強まっているといいますし・・・。

 設置主体別では,国<公<私,となっています。これは,国公立に理系専攻が多く,私立には文系が多いという,専攻構成の差の反映かもしれません。
 
 下の欄にみるように,新卒ニート率は,理系よりも文系で高くなっています。人文系と社会系では7%超です。一方,医学や看護等の保健専攻ではたったの2.5%です。私が出た教育系も比較的低いですね。教員という,明確な志望職種があるためと思います。

 なお,芸術系の新卒ニート率が13.8%と飛びぬけて高いのですが,これは留学準備とか,腕一本で食べていくための修行志向とかの表れでしょうか。

 あと一点,地域差もみてみましょう。『学校基本調査』から,上記の意味での新卒ニート数を都道府県別に知ることができます。それを各県の大卒者数で除して,県別の大卒者の新卒ニート率を出してみました。結果を地図で示します。


 濃い青色の県は,全国値(6.0%)を超える県です。ある程度分散していますが,なんか,九州に多いですね。最も高いのは大分の11.0%であり,2位の岡山(9.7%)を突き放しています。調べてませんが,この県では,芸術系の専攻が多いのかな。

 上図の地域差は,就業機会の多寡のような要因と関連しているかもしれませんが,ここで明らかにしたのは,就職の意志そのものがない新卒ニートの比率ですから,それだけを強調するわけにはいきますまい。

 専攻構成のような要因を揃えた上で,新卒ニート率の地域差の要因解析をしてみるのも一興です。もしかすると,各県の大学教育の有様が影響していたりして。

 以上,『学校基本調査』から分かる,大卒者の新卒ニートの基礎統計を提示しました。ちなみに,短大や大学院についても,卒業者(修了者)中の新卒ニート率を出せます。大学院の博士課程でやったら,どういう値が出るかなあ。短大の状況にも興味が持たれます。

 面白い結果が出ましたら,ご報告いたします。