本日,2012年度の文科省『学校保健統計調査』の確定値が公表されました。この資料から,各種の疾患を患っている児童・生徒の比率を,都道府県別に知ることができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/1268826.htm
2011年3月の東日本大震災により,被災地の子どもの健康に悪影響が及んだといわれます。とりわけ,原発事故が起きた福島の状況が懸念されるところです。
昨年の12月26日の記事では,2010年から2012年にかけて,福島の子どもの肥満傾向児率が高まっていることを明らかにしました。これは,当県に固有の傾向です。おそらく,外出制限に伴う運動不足等の影響によるものとみられます。
さて,上記の資料にはいろいろな疾患の罹患率が掲載されているのですが,生活の「室内化」と関係する代表的な疾患として,喘息があります。気管支の機能狭窄により,発作的に呼吸困難になる症状です。
この病は,大気汚染が進んでいる都市で多いと同時に,室内のハウスダストアレルギーとも関連しているといわれます。この伝でいうと,事故が起きた福島では,子どもの喘息罹患率が高まっているのではないかと思われます。この点をデータでみてみましょう。
私は,2010年と2012年の『学校保健統計』の確定値を比較することで,2011年の震災をはさんで,子どもの喘息罹患率がどう変わったのかを調べました。下図は,全国と福島について,小学生(6~11歳)の罹患率の変化を図示したものです。
小学生の喘息罹患率は,全国統計ではほとんど変化なしですが,福島では,どの年齢でも率が大きく伸びています。伸び幅が最も大きいのは9歳児で,この2年間で2.8%から6.6%へと,3.8ポイントも上昇しています。
こうした傾向は,福島以外の県でもみられるのでしょうか。この年齢に限定して,喘息罹患率を全県分出してみました。下表をご覧ください。△は,この2年間の増減がマイナスであることを意味します。
この2年間で罹患率が増えた県は他にもありますが,伸び幅は福島がダントツで大きくなっています。47県中の相対順位も,33位から一気に2位へと高まっている次第です。
私は視覚人間ですので,上表のデータを可視化しておこうと思います。横軸に2010年,縦軸に2012年の喘息罹患率をとった座標上に,47の都道府県をプロットしてみました。
図中の斜線は均等線であり,この線よりも上にある場合,喘息罹患率が高まっていることを示唆します。伸び幅がどれほどかは,均等線からの垂直方向の距離でみてとることができます。福島の増加幅が最も大きいことがお分かりかと存じます。
原発事故に伴う,子どもの生活の「室内化」の影響と断じることはできませんが,その可能性は高いのではないでしょうか。
今回は喘息の罹患率について検討しましたが,『学校保健統計』から,他の疾患の罹患率がどう変わったかも明らかにできます。より分析を深め問題を検出し,必要な対策を講じることが重要であるのは申すまでもありません。今回の作業は,マクロデータを用いた検討の第一歩です。