前回は,学歴と刑務所入所率の関連を検討したのですが,今回は,対象を少年に限定してみようと思います。20歳に満たない少年による法の侵犯行為は,非行といいます。
少年の刑務所といったら少年院ですが,その一歩手前の少年鑑別所への入所率の学歴差もみてみましょう。後者は,家庭裁判所から送致された非行少年を一定期間収容し,資質の鑑別を行う施設です。
もっとも,家裁で言い渡される処遇決定の大半は「審判不開始」ですから,少年鑑別所に送られる少年というのはそう多くありません。少年院に至ってはさらに少数派です。つまり,かなりのワルをしでかした輩ということになります。
厳しいセレクト?を経て,この2つの施設に入る少年はほとんどが男子ですので,ここでの分析対象は男子少年に限ることとします。
2010年の法務省『少年矯正統計』によると,同年中に少年鑑別所に入った男子新収容者11,699人です。少年院への新収容者は3,285人となっています。これらの者の教育程度は,以下のように記録されています。
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_shonen-kyosei.html
私は,中学校在学者(①),高校在学者(⑤),中卒者(②+④+⑦),および高卒者(⑤+⑨+⑪)の4グループについて,これらの施設への入所確率を計算してみることにしました。
入所率を出すには,各々の数を母数で除す必要があります。中学校在学者と高校在学者については,文科省『学校基本調査』(2010年)から分かる,中学生数と高校生数を充てましょう。中卒者と高卒者の母数としては,2010年の『国勢調査』に載っている,10代後半の中卒人口と高卒人口を使うこととします。『国勢調査』でいう学校卒業人口には,在学者は含まれていません。
各グループの入所者数を母数で除して入所率を出すと,下表のようになります。単位は1万人あたりです。ベース1万人あたり何人か,というように読んでください。
最下段では,少年院に送致可能な12~19歳の男子人口をベースにして入所率を出しています。少年鑑別所は1万人中23.7人,少年院は6.7人です。約分すると順に422人に1人,1,493人に1人。相当の選抜?度ですね。誤弊があるかもしれませんが,東大に入るより難しいのでは。
http://tmaita77.blogspot.jp/2011/04/blog-post_26.html
しかるに,教育程度で分けたグループ別にみると,すさまじい値が出てきます。中卒者です。このグループの場合,少年鑑別所への入所確率は17人に1人,少年院への入所確率は48人に1人です。両施設の入所率を足すと1万人あたり779.7人ですから,13人に1人ということになります。
男子の中卒者では,13人に1人が少年鑑別所ないしは少年院の門をくぐる,という計算になります。
先に述べたように,これらの施設に入るのは,非行少年の中の一部です。警察に検挙・補導された非行少年が,上表の少年鑑別所・少年院入所者の3倍と仮定すると,男子の中卒者では,4人に1人が広義の非行を犯していることになります。
上表のデータをグラフ化しておきましょう。各群の入所率が,最下段の合計値の何倍に当たるかを折れ線にしてみました。
中卒者の少年鑑別所入所率は通常の24.1倍,少年院入所率は31.2倍です。義務教育卒業の学歴しか持たぬ者がいかに不利か,ということが分かります。
前回は,男子人口全体の学歴別刑務所入所率を出したのですが,対象を少年層に絞ると,とてつもない学歴差が出てきます。高校進学率が95%を越えている現在,中卒者は完全なマイノリティーです。それだけに,彼らが被る社会的圧力の大きさというのは,尋常なものではないでしょう。
前回も書きましたが,私は不登校や高校中退はれっきとしたオルタナティヴだと考えています。中卒者はきわめて不利だから高校までは義務化しろとか,高校中退を何が何でも防止しろとかいう主張をするがために,上のデータを使ってほしくありません。四角い空間に長期間閉じ込められるのはご免だ,という者もいるのですから。
大事なのは,四角い空間にしがみつくこととは別のオルタナティヴを整備することでしょう。学びの手段にしても,情報化が進んだ現在,術はいろいろあります。今回の統計は,中卒者の資質云々ということではなく,子ども期の「学校化」が極限まで進んだ現代日本社会の病理を反映したものと読むべきだと思います。