2013年4月14日日曜日

高校の兼務教員率の国際比較

 教員の「バイト化」がいわれますが,日本の現状値は,国際的にみてどうなのでしょう。ネット上でざっと調べたところ,教員の非正規率の国際統計というのは存在しないようです。文科省の『教育指標の国際比較』のような,公的な資料にも載っていません。

 しかるに,PISA2009の学校質問紙調査のデータを加工することで,それに近い数値を国ごとに出せることを知りました。今回は,その結果をご報告しようと思います。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php

 PISA2009の学校質問紙調査では,調査対象の高校の教員数を,本務教員と兼務教員に分けて尋ねています。前者は,「1学年度の勤務時間の90%以上を教師として勤務している」者です(日本語の調査票参照)。後者の兼務教員は,それ以外の教員とされています。

 この基準にはいろいろツッコミ所はあるでしょうが,各国の高校教員を同一の基準で振り分けていることは確かですので,ここでは何も言わないことにしましょう。

 私はこのデータを使って,各国の高校の兼務教員率を計算しました。算出式は,兼務/(本務+兼務)です。

 兼務教員とは,民間人が校長を兼ねるというようなケースも含まれますが,大半は,数時間の授業をするだけの時間講師ではないかと思われます。最近の日本でいうと,高校の兼務教員の8割以上が時間講師です(2012年,文科省『学校基本調査』)。

 わが国を例に,計算方法を説明します。日本の場合,本務教員,兼務教員とも有効回答を寄せているのは186校です。これらの学校の教員数を合算すると,本務教員は10,293人,兼務教員は1,937人となります。よって,兼務教員の比率は,1,937/(10,293+1,937)≒15.8%となります。

 国公私をひっくるめた値ですので,まあ違和感はありません。では,他国はどうなのでしょうか。手始めに,お隣の韓国と欧米4か国の兼務教員率を,国公立と私立に分けて出してみました。*フランスはデータがありません。


 まず国公立をみると,最も高いのはドイツの38.4%です。およそ4割。ドイツでは,後期中等教育段階になると専門系の学校の比重が高くなるといいますが,産業界から特別講師などを多く招いているのでしょうか。その次がフィンランドで,日本の10.8%は3位となっています。

 次に,下段の私立高校のほうに目をやると,すべての国で兼務教員率が上がります。ドイツはさして変わりませんが,日本は,10.8%から25.0%へと大きく伸びます。私立校でみた場合,日本の兼務教員率はドイツに次ぐ高さです。

 以上は6か国比較ですが,比較の対象を広げてみましょう。PISA2009の学校質問紙調査の結果から,72か国の高校教員の兼務率を明らかにできます。横軸に国公立校,縦軸に私立校の兼務教員率をとった座標上に,72の社会を位置づけてみました。点線は,72か国の平均値です。


 世界全体を見渡すと,ドイツよりもスゴイ社会があります。最も右上にあるのはウルグアイですが,南米のこの国では,高校教員の85%ほどが兼務教員です。ほか,右上のゾーンには,アルゼンチン,メキシコ,ブラジル,ヴェネズエラ,いった近辺の社会が位置しています。高校教員の兼務率は,中南米の諸国で高いようです。

 チュニジアやブルガリアでは,国公立校と私立校の差が大きくなっています。北アフリカのチュニジアでは,国公立の兼務教員率はわずか3.9%ですが,私立校では66.5%にもなります。まあ,この国では私立高校のシェアは大きくありませんが。

 先ほど表で比較した主要国はというと,世界的にみれば,兼務教員率は小さい部類に入るようです(左下)。日本の兼務教員率は,私立が国際平均ほどであり,国公立はそれを下回っています。

 日本の教員のバイト化って,大したことないじゃんと思われるかもしれませんが,そう単純な考えは禁物です。そもそも,なぜ兼務教員が雇われるのかを考えてみましょう。

 高校段階になると,教育課程の幅がうんと広がり,選択教科のようなものも多く導入されます。学習指導要領の上では,学校設定教科(科目)のような,特色ある教科・科目を各学校の判断で設置することも推奨されています。

 こうした特殊な教科・科目の担当を外部の教員に委ねるというのは,やむを得ないことです。上図の右上に位置する南米諸国では,後期中等教育段階にもなれば職業教育のウェイトがかなり大きいと思いますが,実地指導等を産業界の専門家に委ねている,というケースも多いのではないでしょうか。

 それならまだいいのですが,困るのは,もっぱら人件費の抑制だけを志向した,教員のバイト化傾向です。推測ですが,わが国の場合,こちらの側面が強いのではないかと思われます。このようなことに由来する,兼務教員率の高まりは,教育実践の効果を阻害する条件として作用することでしょう。

 兼務教員率の国際統計を読むに際しては,こういうことに留意していただきたいと思います。

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