2013年4月3日水曜日

就職に失敗した大学生の自殺率

 就職失敗を苦にした大学生の自殺が社会問題化していますが,就職に失敗した大学生がどれほどの確率で自殺に至るかは,あまりに明らかにされていないようです。警察庁が公表している自殺者の実数はベースを考慮していないので,自殺確率の測度としては使えません。

 私は,文科省と厚労省が毎年実施している『大学等卒業予定者の就職内定状況調査』の結果をもとに,就職に失敗した大学生の数を割り出せることを知りました。警察庁公表の自殺者数をこの数で除して,就職に失敗した大学生の自殺率を試算してみようと思います。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/131-1b.html

 2011年度の上記資料によると,2012年4月1日時点の大学卒業者の状況は,次のように報告されています。就職希望率が68.9%,うち就職率が93.6%です。

 この2つの数字を使って,同年春の大卒者の成分を明らかにできます。まず就職非希望者は,100.0-68.9=31.0%です。就職者は,68.9×0.01×93.6=64.5%です。そして残りの4.4%が,就職を希望しつつも最後まで内定が得られなかった,就職失敗者ということになります。

 この年の大卒者のうち,就職失敗者の比率は4.4%ということが分かりました。文科省『学校基本調査』に掲載されている,同年春の大卒者は55万8,692人。したがって,実数にして2万4,636人の就職失敗者が出た計算になります。*小数点も考慮したExcelでの計算結果です。

 警察庁の『平成24年中における自殺の状況』によると,2012年中における,就職失敗を苦にした大学生の自殺者数は45人。よって,就職に失敗した大学生の自殺率は,45/24,636≒182.7となります。ベース10万人あたりの自殺者数です。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

 私は同じやり方で,他の年についても,就職に失敗した大学生の自殺率を出してみました。下表は,2007年以降の推移をまとめたものです。比較対象として,人口全体の自殺率も掲げました。こちらは,上記の警察庁資料に載っているものです。


 就職に失敗した大学生の自殺率は波動を描いて推移していますが,2012年の値は過去最高となっています。

 「お祈りメール」なるものを何十通,何百通も受け取り,自我を大きく傷つけられ,かつ今後の展望に不安を抱いている集団です。彼らが自殺に傾斜する確率は,通常に比して格段に高いというのも,うなずけるところです。2012年の人口全体の自殺率は21.8ですから,就職に失敗した大学生の自殺確率は通常の8.4倍ということになります。

 本ブログの至る所で書いてますが,こういうのって,わが国に固有の社会病理現象なのではないでしょうか。個々の学生の資質云々の問題ではありますまい。それを象徴しているのが,新卒重視の採用慣行です。

 文科省が,この(奇妙な)慣行の是正を経団連に求めたと聞きますが,状況変化の兆しは一向にありません。新卒時の一本勝負ではなく,再チャンレンジ可能な社会への移行が強く求められます。

 新年度が始まって3日目ですが,先行き不透明なまま大学を卒業し,「今後どうしたものか」と途方に暮れている方もおられるかと思います。所属もなく,自分は社会の一員(社会人)ではないのではないか,と。

 しかるに,工藤啓氏も述べておられるように,「社会的所属の有無とは別に,誰もがこの社会の一員なので『社会人』です。働いていること,就職していることが社会人の要件でも定義でもありません」。
http://ameblo.jp/sodateage-kudo/entry-11503201314.html

 逆にいえば,就職していても,自分が属する組織の生産性や利潤を上げることばかりに邁進して,その外の社会に目配りできない人間は「社会人」ではないと思います。

 年度早々,どんよりとした天候ですが,こんなことを考えています。