ジニ係数とは,富の格差の度合いを測る代表指標ですが,用途はそれに限られません。さまざまな現象の偏りの程度を可視化するのに使うことができます。
今回は,有力大学への合格者数が高校間でどれほど偏っているかを,この指標を用いて明らかにしてみようと思います。ジニ係数の応用例の提示です。
サンデー毎日特別増刊号『完全版・高校の実力』(2010年6月12日)から,全国の4,999高校について,2010年春の主要大学の合格者数を知ることができます。以下のような形で数値が示されています。
私は,東京都内の437高校の有力大学合格者数を調査しました。ここでいう有力大学とは,東大,京大,東工大,一橋大,お茶の水女子大,東京外大,早稲田大,慶応大,国際基督教大,上智大,そしてMARCHの5大学を合わせた15大学です。
437高校のうち113校(25.9%)は,これらの大学への合格者を1人も出していません。合格者を最も多く出しているのは私立の開成高校であり,延べ数にして887人の合格者が出ています。2位は海城高校の826人,3位は学芸大附属高校の689人です。
合格者が少ない順に437高校を並べ,各校の卒業生と照合すると下表のようになります。全部の学校を提示することはできませんので,上位10位と下位10位の両端のみを示します。
合格者上位の高校では,合格者が卒業者を上回っていますが,これは前者が延べ数(過年度卒業生も含む)であることによります。
中央の相対度数をみるとどうでしょう。合格者上位10の高校は,卒業生では全体の3.7%しか占めませんが,合格者の上では19.4%をも占有しています。こうした偏りは,右欄の累積相対度数をみるともっとクリアーでしょう。
偏りの程度を可視化するジニ係数を出すために,ローレンツ曲線を描いてみましょう。横軸に卒業生数,縦軸に合格者数の累積相対度数をとった座標上に,437高校をプロットし,線でつないだものです。参考までに,東大・京大の曲線も描いてみました。
ほう。双方とも曲線の底がかなり深くなっていますね。完全平等を意味する対角線から隔たっているわけですから,それだけ学校間の散らばり(格差)が大きい,ということです。
東大・京大の合格者に限ると,偏りの程度は一層大きくなります。これらの最有力大学の場合,全学校の2割ほどしか合格者を出していないことも図から分かります。
では,ジニ係数を計算してみましょう。上図でいうと,対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値に相当します。計算方法の仔細は,2011年の7月11日の記事をご覧ください。
算出された係数値は,有力大学合格者で0.698,東大・京大合格者では0.940です。すさまじい偏りですね。後者は,極限の不平等状態(1.00)に近接しています。前者の係数値もかなり高いと判断されます。
有力大学合格者数を多く出しているのは国・私立高校であり,幼少期からの受験準備も含めて,入学するのに多額の費用を要する学校がほとんどです。これらの学校出身者による寡占傾向が強まるなら,社会的公正の観点からしていかがなものか,という問題が提起されます。1990年代の初頭の頃,こうした偏りを人為的に是正すべきという意見が出た経緯もあります。
『サンデー毎日』のバックナンバーにあたることで,今回出したジニ係数の時系列推移を明らかにすることもできます。この作業は,社会移動の閉鎖性が強まっていないか,逆にいえば,教育という咎められない手段を使って,高い地位が親から子へと密輸される傾向が強まっていないかを吟味することにも通じます。教育社会学の重要課題ともいえましょう。
ジニ係数は,他にもいろいろ使えます。各県の大学進学者数と18歳人口の分布を照合して,この係数を出したらどうなるでしょう。少年院入所者の学歴分布を同年齢の少年全体と比較して,同じ計算をしたらどうでしょう。
やってみたい作業はわんさとあります。私一人の手に負えません。授業の受講生さんの助力を願おうと思います。みんなで自家製の「ジニ係数用途事例集」でもつくろうかしらん。松本良夫先生は,授業の成果を製作物の形にまとめることが大切だと,よくおっしゃっておられたよな。