2019年10月2日水曜日

首都圏211区市町村の年収中央値

 2018年の総務省『住宅土地統計』の結果が公表されました。字のごとく住宅や土地に関わる官庁統計ですが,世帯の年収分布を知れるのがウリです。

 そんなの『就業構造基本調査』でも分かるじゃんと言われるでしょうが,『住宅土地統計』では,都道府県よりも下った区市町村別のデータを得ることができます。

 富の地域格差を露わにするのは,私の主な仕事の一つなんですが,都道府県という括りはいかにも大きい。東京都内でもエリアによる差はありますし,私の郷里の鹿児島では,鹿児島市と離島部ではこれまたえらい違いがあります。

 このほど公開された『住宅土地統計』のデータをもとに,首都圏(1都3県)の区市町村別の年収比較をしようと思い立ちました。古いデータで同じ作業を手掛けたことがありますが,ここでは「夫婦+子」の核家族世帯に限定します。各自治体の関係者に,子育て年代の懐具合を知ってもらいたく思います。

 また年収分布の代表値としては,平均値ではなく中央値(median)を使います。全世帯を年収順に並べた時,ちょうど真ん中のくる世帯の年収です。当該自治体のフツーの世帯の年収を知るにはこれがベスト。

 各地域の年収分布から中央値を計算します。私が住んでいる横須賀市を例に,説明しましょう。


 区市町村別・世帯類型別となると,年収階層の区分が粗くなりますが,これは致し方ありません。横須賀市の場合,真ん中が厚いノーマル分布となっています。最も多いのは年収500~600万円台の階級で,累積%が50ジャストの中央値も,この階級に含まれることが知られます。

 按分比例を使って,中央値を割り出しましょう。本ブログを長く見ている方は,もう慣れっこですよね。

 按分比=(50.0-35.4)/(63.3-35.4)=0.523
 中央値=500万円+(200万円 × 0.523)=604.6万円

 横須賀市の核家族世帯(≒子育て世帯)の年収中央値は605万円と出ました。一番上の子が小・中学生の世帯なら,こんな所でしょうか。

 上記の統計資料から,首都圏211区市町村の核家族世帯の年収分布を呼び出せます。私は同じやり方にて,211区市町村の年収中央値を計算しました。平均値なら計算式が一律なんで一発なんですが,中央値は結構手間がかかりました…。

 211区市町村の値をみると,幅広く分布しています。以下に掲げるのは,3つの階級を設けて塗り分けたマップです。


 予想通り,東京の都心部で高年収のエリアになっています。核家族世帯の年収中央値が800万円を越えるのは12の自治体ですが,そのほとんどが都内23区です。

 川崎市の中原区も濃い色ですが,朝の超混雑で有名な武蔵小杉駅がある区ですね。タワマンが雨後の筍のごとく建っているエリアですが,お金のある世帯を引き寄せているのでしょう。

 先ほど出した横須賀市の中央値は605万円なんですが,600万円台の自治体の数は多し(薄い青色)。この階級の下のほうってことは,首都圏の全区市町村の「中よりちょっと下」という位置でしょうか。

 「地図だけでは分からない。自分の自治体の値と,全体の中での位置を知りたい」。こういう要望があるはず。上述のとおり,本記事の狙いは「各自治体の関係者に,子育て年代の懐具合を知って」いただくことです。資料の意味合いをこめ,211区市町村の核家族世帯の年収中央値をご覧に入れましょう。

 高い順に配列したランキングの形で見ていただきます。100万円ごとに区切りの線を引いています。


 首位は千代田区の1160万円,2位は中央区の925万円,3位は港区の923万円となっています。スゴイですね,中央値でこれです。年収600万円ちょい(横須賀市の中央値)では,ちょっとばかり疎外感を抱きそうです。

 年収中央値800万円超の顔ぶれをみると,さもありなんという感じです。文化人の街,東京の武蔵野市もランクイン。

 黄色マークは,私が住んだことのあるエリアです。母校の学芸大がある小金井市は768万円で,住民の富裕度が高い部類です。私は北門近くの安アパートに住んでましたが,ちょっと自転車を走らせると,目を見張るような高級住宅地でした。

 前に住んでいた多摩市は668万円ですか。ジブリ「耳をすませば」のモデル地,聖蹟桜が丘のいろは坂の上は,ブルジョアエリアになっています。聖地巡礼したことがある人はお分かりでしょう。

 言わずもがな,各地域の住民の富裕レベルは,子どもの教育達成と強くリンクしています。都内23区のデータで,学力テストの成績との相関分析をやったことがありますが,それはもうスゴイ相関でした。
https://tmaita77.blogspot.com/2014/07/23.html

 学力テストの結果を評価するにあたっては,各地域の社会経済条件を勘案することも必要です。不利な条件にあるにもかかわらず,高い地域を出している,がんばっている地域の教員を称えましょう。ここでお見せしたデータは,こういう用途に使ってほしいです。

 今回は中央値をお見せしましたが,下位10%値を出せば,就学援助を基準を設定するのにも使えるのではないでしょうか。同じように按分比例を使うことで,度数分布表から割り出せます。

 今回のデータの元としたのは,2018年の『住宅土地統計』の「家族類型(8区分),世帯の年間収入階級(6区分),住宅の所有の関係(2区分)別普通世帯数-全国,都道府県,市区町村」という統計表です。
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003355489

 ダイレクトに飛べるリンクも張っておきます。政策に活かすべく,官庁統計という公共財を大いに利用しましょう。