月末の教員不祥事報道の整理です。今月,私が把握した教員不祥事報道は47件です。暑さでネジが飛んでいるのか,多めです。
季節故か,性犯罪が多くなっています。万引きや横領といった財産犯も多し。信用度が高いのをいいことに,じゃんじゃん借金をし,日頃のストレスをギャンブルで発散し,首が回らなくなる教員がいるそうですが,気をつけてほしいものです。
クイズで正解したら「ベロチュー」発言の教員。冗談のつもりだったのでしょうが,児童の心に与えた傷は深し。私は小2のとき,算数の試験で満点をとった褒美にと,担任の女性教員から頬ずりをされたのを覚えていますが,今だったらアウトかな。
児童の「往来の夢」の作文を紛失し,改竄した女性教員。日本は失敗(恥)への許容度が低い社会ですが,それが高じると,失敗を恐れたり,こんなふうに失敗を隠蔽したりする不正が起きやすくなります。優等生で育ってきた教員には,こういう心性の人が多いでしょう。採用試験では,これまでの人生での失敗経験を問うのもよし。
児童のトイレを制限した教員。殴る・蹴るといった有形力の行使ではないですが,当の児童に肉体的苦痛を与えますので,れっきとした体罰です。肉体的苦痛を与える行為は体罰。これが原則です。2013年に,文科省が体罰の判断の参考となる事例集を出していますので,教員採用試験受験者は見ておきましょう。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1331908.htm
梅雨が長引きましたが,ようやく陽が出るようになってきました。酷暑の日が続いています。夕刻のウォーキングは,5時過ぎに遅らせています。私がお付き合いしている編集者氏は,来週に夏季休暇を取られるそうです。お盆を避ける,賢明な判断ですね。
夏も本番,海辺模様に背景を変えます。
<2019年7月の教員不祥事報道>
・修学旅行の引率中、小樽のすし店で昼酒 高松高校教頭ら
(7/2,朝日,香川,男性50代,40代)
・女子中学生を誘拐、ホテルで乱暴 高校教諭を3回目の逮捕
(7/3,神戸新聞,兵庫,高,男,41)
・「顔も悪い」「運動神経も悪い」顧問が暴言か
(7/3,朝日,埼玉,中,男,30代)
・児童7人個人情報流出 講師がコンビニで買い物中にUSB盗まれ
(7/3,京都新聞,京都,小,女,46)
・岱志高教諭を懲戒免職 部活費使途不明100万円超
(7/3,熊本日日新聞,熊本,高,男,50)
・女性のスカートの中を盗撮 小学校の男性講師を懲戒免職処分
(7/5,瀬戸内放送,岡山,小,男,24)
・大麻所持の疑いで仙台市立中学の男性講師を逮捕
(7/5,産経,宮城,中,男,30)(7/7,産経,
・公立高教諭が部活動手当約72万円を不正受給
(7/9,北海道放送,北海道,高,男,50代)
・30年間無免許運転の疑い、小学校教頭逮捕(7/9,朝日,千葉,小,男,52)
・「小学教諭が体罰」処分へ(7/9,NHK,熊本,小,男,50代)
・生徒にキス 教諭を懲戒免職処分(7/10,NHK,北海道,中,男,40代)
・高校生にみだらな行為か教諭逮捕(7/11,NHK,福島,中,男,34)
・県立学校の教師と講師 酒気帯び運転…2人を懲戒免職
(7/11,FNN,宮城,高男41,特男31)
・少女に性的暴行で高校教諭を逮捕(7/12,NHK,宮崎,高,男,45)
・小4女児、高校教頭の車にはねられる 西脇の国道
(7/14,神戸新聞,兵庫,高,男,55)
・知人女性触った教諭停職 広島、セクハラで戒告も
(7/15,産経,広島,わいせつ:高男55,セクハラ発言:中男52)
・トンネルを逆走し事故 教員が運転、酒気帯びか
(7/14,朝日,広島,女,49)
・盗撮目的で学校侵入、私立小教諭の男逮捕
(7/16,産経,奈良,小,男,31)
・教諭が高1女子に「学校に来る資格ない」 容姿に不適切発言も
(7/17,読売,岩手,高,男,40代)
・列車で胸触った疑い高校教諭逮捕(7/17,NHK,長崎,高,男,57)
・クイズに正解したら「ベロチュー」 40代男性教諭
(7/17,毎日,石川,小,男,40代)
・更衣室侵入、女子中学生の下着触る 男性教諭を停職
(7/17,産経,千葉,中,男,31)
・児童や教諭にわいせつ 男性臨時教諭を懲戒免職処分
(7/18,テレ玉,埼玉,小,男,28)
・みだらな行為で教諭を懲戒処分(7/18,NHK,愛知,特,男,30)
・学校の慰労会の帰りに酒気帯び運転で検挙・中学校教諭を懲戒免職
(7/18,FNN,山形,中,男,20代)
・シャツ万引疑いで教諭逮捕(7/19,産経,沖縄,小,男,24)
・小学校教諭、強制性交未遂容疑で逮捕(7/22,産経,大阪,小,男,31)
・飲酒運転で中学校教諭を逮捕(7/22,熊本テレビ,熊本,中,男,64)
・書店で万引き、児童に体罰の小学校教諭を処分
(7/23,神戸新聞,兵庫,小,男,43)
・「学校の管理甘かったので…」小学校の女性教師が“給食費450万円”着服
(7/23,東海テレビ,愛知,小,女,50)
・卒業アルバム「将来の夢」紛失し改ざん 小学教諭を処分
(7/24,朝日,香川,小,男,29)
・県立高校教諭を懲戒免職 生徒にみだらな行為
(7/24,大分合同新聞,大分,高,男,30代)
・女性を無理やりホテルに…50代男性教師を4カ月の停職処分に
87/24,テレビ西日本,福岡,男,50代)
・長野日大高校女子バレーボール部で体罰 男性顧問「部員3人の首つかみ壁に・・・」(7/24,FNN,長野,高,男,58)
・トイレ訴える小3に担任「今行ったばかりやろ」
(7/25,読売,和歌山,小,男,30代)
・授業中に下半身露出 男性臨時教諭を懲戒免職
(7/25,テレ玉,埼玉,小,男,30)
・教え子に自宅でわいせつ行為=男性教諭を免職
(7/25,時事ドットコム,茨城,高,男,22)
・特別支援学校教員がディズニーシーで万引き
(7/25,日テレ,三重,特,女,42)
・中学校教諭 児童買春容疑で逮捕(7/25,NHK,北海道,中,男,46)
・男子生徒に車中でキス、女性教諭懲戒免職(7/26,京都新聞,滋賀,高,女)
・男性教諭が13歳未満の女児にみだらな行為 (7/25,産経,青森,小,男,44)
・仙台市 市職員と教諭を処分(7/26,NHK,宮城,中,男,50代,体罰)
・教え子にわいせつ行為か講師免職(7/26,NHK,福岡,中,男,20代)
・2歳園児に教諭「死んでしまいなさい」「邪魔」
(7/31,読売,栃木,認定こども園)
・盗撮などで教諭2人を懲戒免職
(7/31,NHK,奈良,盗撮:小男48,飲酒運転:高男28)
・教室で教え子の男児着替えを盗撮 41歳の小学校教諭逮捕
(7/31,神奈川新聞,徳島,小,男41)
・教員免許失効後も静岡の教諭が授業 市教委発表
(7/31,静岡新聞,静岡,小,男,50代)
2019年7月31日水曜日
2019年7月29日月曜日
教科担当のジェンダーの国際比較
参院選が終わりました。投票率は過去最低レベルで50%(半数)を割ったそうですが,それに寄与しているのは若年層でしょう。
デジタルにどっぷり浸かった若者は,投票所に出向き,紙を投票箱に入れるというアナログ選挙に馴染みにくいのもあるでしょうが,一番の要因はやはり,政治的関心が低いことだと思われます。
国立青少年教育振興機構が2016年に実施した調査では,小4~高2の青少年に対し,政治的関心を尋ねています。「政治や選挙に関心がある」という項目にどれほど当てはまるかを,4段階で答えてもらう設問です。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/130/
「とても当てはまる」「少し当てあはまる」の肯定の回答比率を,性別・学年別に出してみると,気になる傾向が見受けられます。下図は,始点の小学校4年生と,終点の高校2年生の率を比較したものです。
男子は,小4では34.8%であったのが,選挙権を得る直前の高2になると40.0%にアップします。しかし女子は逆の動きで,37.8%から30.1%に低下します。同一世代を追跡したわけではないので,加齢による変化とは言い切れませんが,子どもの政治的社会化にジェンダー差があるのを匂わせるデータです。
在学中にかけて,「女子は政治には向ていない」というメッセージを受け取るのでしょうか。目を凝らしてみると,学校内部には,それを発する装置があるように思えます。特別活動の学級活動や生徒会活動は,民主主義の実践を体験させる場ですが,クラス委員や生徒会長といったリーダー的役割が,男子に偏していることはないか。私の中学では,会長は男子,副会長は女子と決まっていましたね。
あと,社会科教員に女性が少ないのもイタイ。学校外で,マイクを握って演説する政治家の大半は男性。せめて学校内では,政治について語る女性のモデルを見せたいのですが,悲しいかな,中高の社会科教員のほとんどが男性。これでは,若き女子生徒が政治と女性のリンクをイメージできず,政治的関心が萎んでいくのも無理からぬことでしょう。
OECDの国際教員調査「TALIS 2013」によると,日本の中学校の社会科担当教員の女性比率は23.3%となっています。数学教員の女性比(29.0%)よりも低いのですよね。
アメリカの中学校の社会科教員の女性比は49.9%となっています。半分が女性じゃないですか。主要国について,中学校の全教員,数学教員,理科教員,社会科教員の女性比率を出してみると,以下のようになります。
予想通り,日本は低いですね。3つの教科とも,女性比率は3割に届きません。対してお隣の韓国では,どの教科も7割近くが女性となっています。
ただこの国では,全教員の女性比が高くなっています(69.8%!)。他の欧米諸国も然り。よって3教科の女性比を評価するに際しては,ベースの女性比を考慮する必要がありそうです。そこで,輩出率という指標を計算してみます。
輩出率=当該教科担当教員の女性比/全教員の女性比
ジェンダーの偏りがないなら,分母の全教員の女性比と等しくなるので,この値は1.0になるはずです。男性に偏るほど1.0から下方に遠のき,女性に偏する場合はその逆です。日本の数学教員だと,29.0%/38.9%=0.746となります。全教員では女性は38.9%なのに,数学教員では29.0%しかいないので,1.0をかなり割ります。
表の下段には,この輩出率を掲げています。うーん,ベースの女性比の影響を除いても,日本の中学校では,女性が3教科の担当になるチャンスは低いようです。理科に至っては0.586,女性が担当になるチャンスは,偏りが一切ない場合の4割以下です。他の国も1.0を下回りますが,その落差は日本よりは小さく,ジェンダーの偏りが少ないことが知られます。
以上は6か国の比較ですが,世界に目を広げると,この輩出率が1.0を上回るケースも見受けられます。以下に掲げるのは,36か国の輩出率の一覧です。3教科の担当に女性がなるチャンス,教科担当のジェンダーの国際比較です。
赤字は1.0を超える数値,すなわち男性より女性が担当につくチャンスが高いケースですが,結構あるじゃないですか。イタリア,マレーシア,ニュージーランド,ポルトガルでは,3教科とも,男性より女性が担当になりやすいようです。
対して,東洋の島国の日本では,3教科の女性輩出率とも,ダントツで最下位となっています(青色マーク)。1.0よりも,下方の振れ幅が大きいことが明らかです。理系教育の2教科,政治的社会化を促す社会科の担当に,女性がなるチャンスが低いと。女性比率の水準が高いのなら問題はないのですが,2番目の表にあるように,数学が29.0%,理科が22.8%,社会科が23.3%という有様ですので,看過し得ることではないです。
社会科教員のジェンダーから話を始めましたので,この教科の担当教員のジェンダーをグラフで視覚化いたしましょう。横軸に社会科教員の女性比率,縦軸にベースの女性比の影響を除去した輩出率をとった座標上に,36の国を配置しました。
十字より右上にあるのは,社会科教員の半数以上が女性で,かつ当該教科の担当に,男性より女性がなりやすい国です。イタリアをはじめ,結構ありますね。欧米の主要国は,輩出率は1.0を下回りますが,女性の率(横軸)が高いので,大きな問題はありません。
日本はというと,左下に置いて行かれてしまっています。女性比率そのものが低く,男性に比して女性がなるチャンスも小さい。事態の改善の余地は大ありです。
数学,理科,社会…。わが国では「男性」向きと思われている教科で,「男性>女性」のジェンダーの偏りが激しいのですが,それは普遍的にあらず。事態は徐々に変わっていくでしょうが,悠長に構えているわけにもいきません。
これらの教科の教員採用試験では,人為的に女性を多く採る政策を施行してもいいでしょう。能力が同等と認められるならば,女性を優先的に採用する。昨今の大学教員公募では定着していることですが,中高でもこれをやっていい。合法の範疇にある,アファーマティブアクションですので。
それは,リケジョを増やすことや,女性の政治参画を促すことにもつながります。教育の効果というのは,個々の教員の心がけや授業の方法というような,精神論や技術論とつなげて論じられがちですが,子どもが日々目にする,客観的な生活環境というのも劣らず重要なんですよね。
残念ながら,学校の外の社会は未だに「オトコ社会」で,男女共同参画社会基本法が掲げるような理想型とは隔たっています。しからば,学校という小社会だけでも,これに近づけたいもの。全体社会を変えるよりも,はるかに少ない労力・費用で済みます。そこで学んだ人間が,社会を変えていくのです。
デジタルにどっぷり浸かった若者は,投票所に出向き,紙を投票箱に入れるというアナログ選挙に馴染みにくいのもあるでしょうが,一番の要因はやはり,政治的関心が低いことだと思われます。
国立青少年教育振興機構が2016年に実施した調査では,小4~高2の青少年に対し,政治的関心を尋ねています。「政治や選挙に関心がある」という項目にどれほど当てはまるかを,4段階で答えてもらう設問です。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/130/
「とても当てはまる」「少し当てあはまる」の肯定の回答比率を,性別・学年別に出してみると,気になる傾向が見受けられます。下図は,始点の小学校4年生と,終点の高校2年生の率を比較したものです。
男子は,小4では34.8%であったのが,選挙権を得る直前の高2になると40.0%にアップします。しかし女子は逆の動きで,37.8%から30.1%に低下します。同一世代を追跡したわけではないので,加齢による変化とは言い切れませんが,子どもの政治的社会化にジェンダー差があるのを匂わせるデータです。
在学中にかけて,「女子は政治には向ていない」というメッセージを受け取るのでしょうか。目を凝らしてみると,学校内部には,それを発する装置があるように思えます。特別活動の学級活動や生徒会活動は,民主主義の実践を体験させる場ですが,クラス委員や生徒会長といったリーダー的役割が,男子に偏していることはないか。私の中学では,会長は男子,副会長は女子と決まっていましたね。
あと,社会科教員に女性が少ないのもイタイ。学校外で,マイクを握って演説する政治家の大半は男性。せめて学校内では,政治について語る女性のモデルを見せたいのですが,悲しいかな,中高の社会科教員のほとんどが男性。これでは,若き女子生徒が政治と女性のリンクをイメージできず,政治的関心が萎んでいくのも無理からぬことでしょう。
OECDの国際教員調査「TALIS 2013」によると,日本の中学校の社会科担当教員の女性比率は23.3%となっています。数学教員の女性比(29.0%)よりも低いのですよね。
アメリカの中学校の社会科教員の女性比は49.9%となっています。半分が女性じゃないですか。主要国について,中学校の全教員,数学教員,理科教員,社会科教員の女性比率を出してみると,以下のようになります。
予想通り,日本は低いですね。3つの教科とも,女性比率は3割に届きません。対してお隣の韓国では,どの教科も7割近くが女性となっています。
ただこの国では,全教員の女性比が高くなっています(69.8%!)。他の欧米諸国も然り。よって3教科の女性比を評価するに際しては,ベースの女性比を考慮する必要がありそうです。そこで,輩出率という指標を計算してみます。
輩出率=当該教科担当教員の女性比/全教員の女性比
ジェンダーの偏りがないなら,分母の全教員の女性比と等しくなるので,この値は1.0になるはずです。男性に偏るほど1.0から下方に遠のき,女性に偏する場合はその逆です。日本の数学教員だと,29.0%/38.9%=0.746となります。全教員では女性は38.9%なのに,数学教員では29.0%しかいないので,1.0をかなり割ります。
表の下段には,この輩出率を掲げています。うーん,ベースの女性比の影響を除いても,日本の中学校では,女性が3教科の担当になるチャンスは低いようです。理科に至っては0.586,女性が担当になるチャンスは,偏りが一切ない場合の4割以下です。他の国も1.0を下回りますが,その落差は日本よりは小さく,ジェンダーの偏りが少ないことが知られます。
以上は6か国の比較ですが,世界に目を広げると,この輩出率が1.0を上回るケースも見受けられます。以下に掲げるのは,36か国の輩出率の一覧です。3教科の担当に女性がなるチャンス,教科担当のジェンダーの国際比較です。
赤字は1.0を超える数値,すなわち男性より女性が担当につくチャンスが高いケースですが,結構あるじゃないですか。イタリア,マレーシア,ニュージーランド,ポルトガルでは,3教科とも,男性より女性が担当になりやすいようです。
対して,東洋の島国の日本では,3教科の女性輩出率とも,ダントツで最下位となっています(青色マーク)。1.0よりも,下方の振れ幅が大きいことが明らかです。理系教育の2教科,政治的社会化を促す社会科の担当に,女性がなるチャンスが低いと。女性比率の水準が高いのなら問題はないのですが,2番目の表にあるように,数学が29.0%,理科が22.8%,社会科が23.3%という有様ですので,看過し得ることではないです。
社会科教員のジェンダーから話を始めましたので,この教科の担当教員のジェンダーをグラフで視覚化いたしましょう。横軸に社会科教員の女性比率,縦軸にベースの女性比の影響を除去した輩出率をとった座標上に,36の国を配置しました。
十字より右上にあるのは,社会科教員の半数以上が女性で,かつ当該教科の担当に,男性より女性がなりやすい国です。イタリアをはじめ,結構ありますね。欧米の主要国は,輩出率は1.0を下回りますが,女性の率(横軸)が高いので,大きな問題はありません。
日本はというと,左下に置いて行かれてしまっています。女性比率そのものが低く,男性に比して女性がなるチャンスも小さい。事態の改善の余地は大ありです。
数学,理科,社会…。わが国では「男性」向きと思われている教科で,「男性>女性」のジェンダーの偏りが激しいのですが,それは普遍的にあらず。事態は徐々に変わっていくでしょうが,悠長に構えているわけにもいきません。
これらの教科の教員採用試験では,人為的に女性を多く採る政策を施行してもいいでしょう。能力が同等と認められるならば,女性を優先的に採用する。昨今の大学教員公募では定着していることですが,中高でもこれをやっていい。合法の範疇にある,アファーマティブアクションですので。
それは,リケジョを増やすことや,女性の政治参画を促すことにもつながります。教育の効果というのは,個々の教員の心がけや授業の方法というような,精神論や技術論とつなげて論じられがちですが,子どもが日々目にする,客観的な生活環境というのも劣らず重要なんですよね。
残念ながら,学校の外の社会は未だに「オトコ社会」で,男女共同参画社会基本法が掲げるような理想型とは隔たっています。しからば,学校という小社会だけでも,これに近づけたいもの。全体社会を変えるよりも,はるかに少ない労力・費用で済みます。そこで学んだ人間が,社会を変えていくのです。
2019年7月28日日曜日
普通に働く労働者の年収分布
ここのところ,労働者の稼ぎ(おカネ)のデータばかりをいじっています。参院選のポスターで見かけた,「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」というフレーズが頭から離れません。
このフレーズが神々しく思えるほど,日本の現状は酷くなっています。労働時間と所得の関連のグラフは,ニューズウィーク記事で出しています。非正規女性の場合,週40時間,60時間働こうが,半分以上が所得200万円未満のワーキングプアです。
他の国はどうなんでしょう。今日は国際比較をやってみようと思います。OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」のデータを使います。この調査では,有業者に週間の労働時間と年収を尋ねていますので,両者をクロスすることで,目的のデータを作れます。*個票データ使用。
http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/
年収は,「国内の有業者全体の中でどの辺と思うか」と問う自己評定ですので,認知の歪みの影響が出るかもしれないですが,参考にはなるでしょう。
各国の普通に働く労働者を取り出し,男女で分けて,年収の分布を比べてみます。週35~44時間働く労働者の年収分布は,以下のようになっています(主要7か国)。年収のカテゴリーは,原資料では6つになってますが,ここでは3つに簡略化しています。
青色は年収が下位25%未満の人の率ですが,日本はこのゾーンが広くなっています。ジェンダーの差が大きいのも特徴。男性は21.2%ですが,女性は53.8%,倍以上の差です。お隣の韓国も似たようなタイプです。
日本の女性の場合,普通に働いても半分がワーキングプア。この有様が,国内統計でもしっかり出ています。
対して欧米諸国では,オレンジ色の「中間」がマジョリティです。明瞭なジェンダー差もありません。週35~44時間,普通に働けば普通の暮らしができる社会ですね。日本と韓国に比して,その実現度合いが高いのは間違いありません。
青色の年収下位25%未満に注目すると,日本は男性が21.2%,女性が53.8%となっています(A)。女性は男性よりも,32.6ポイント高いと(B)。女性の率(A)を横軸,ジェンダー差(B)を縦軸にとった座標上に,データがとれる29か国を配置すると,以下のようになります。
普通に働いても,人並みの暮らしを得られない。こういう問題がどれほど色濃いか,それがどれほど女性に偏しているかを,国別に見て取ることができます。
普通に働く女性のプア率は,日本は53.8%ですが,ギリシャとスロバキアはそれを上回っています(横軸)。ギリシャは,財政破綻の影響でしょうか。
縦軸のジェンダー差は,日本が最も大きくなっています。女性が53.8%,男性が21.2%,その差が32.6ポイントもありますので。対して欧米諸国は,左下の原点付近に位置しています。性別に関係なく,普通の労働で普通の暮らしが得られる社会なり。
日本は,1日8時間労働では普通の暮らしは得難く,その歪みは女性に集中していることが分かります。今日の朝日新聞Web版に「天下の山形屋も時給761円 鹿児島女性のため息」という記事が出ています。2018年の県別の最低賃金ワーストは鹿児島で,県内で一番大きいデパートの時給もこの有様であると。
761円といったら,1日8時間労働の日給は6088円。月25日,年間300日働いても(キツイ),年収は182.6万円で,200万円に及びません。鹿児島は家賃や物価が安いとはいえ,これで普通の暮らしができるかは疑問符が付きます。
7月25日の記事で,労働者の時間給の分布を出したところ,非正規女性の4人に1人は750円未満でした。全県の最低賃金を割る,明らかな違法なレベルです。
http://tmaita77.blogspot.com/2019/07/blog-post_25.html
言うことはただ一つ,最低賃金の遵守,いや引き上げです。それでは会社がもたないというなら,BI(ベーシックインカム)での補填を考えるべし。AIの恩恵で人間が労働から解放される時代はまだ先ですが,1日8時間の普通の労働で事足りる時代は,すぐそこのはず。
それとは程遠い日本の現状は,過剰サービスや,馬車馬のように汗水流して働いて一人前というような,しょーもない精神論がはびこっているためでもあるでしょう。冷静になって無駄や嫉妬を取り除けば,「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会」の実現はできると思うのです。
日本では女性の低賃金が目立ちますが,女性を男性の補助的な労働力と位置付ける考え方の是正も必要。その象徴ともいえる配偶者控除を見直すこと,賃金のジェンダー差をなくすことです。
このフレーズが神々しく思えるほど,日本の現状は酷くなっています。労働時間と所得の関連のグラフは,ニューズウィーク記事で出しています。非正規女性の場合,週40時間,60時間働こうが,半分以上が所得200万円未満のワーキングプアです。
他の国はどうなんでしょう。今日は国際比較をやってみようと思います。OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」のデータを使います。この調査では,有業者に週間の労働時間と年収を尋ねていますので,両者をクロスすることで,目的のデータを作れます。*個票データ使用。
http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/
年収は,「国内の有業者全体の中でどの辺と思うか」と問う自己評定ですので,認知の歪みの影響が出るかもしれないですが,参考にはなるでしょう。
各国の普通に働く労働者を取り出し,男女で分けて,年収の分布を比べてみます。週35~44時間働く労働者の年収分布は,以下のようになっています(主要7か国)。年収のカテゴリーは,原資料では6つになってますが,ここでは3つに簡略化しています。
青色は年収が下位25%未満の人の率ですが,日本はこのゾーンが広くなっています。ジェンダーの差が大きいのも特徴。男性は21.2%ですが,女性は53.8%,倍以上の差です。お隣の韓国も似たようなタイプです。
日本の女性の場合,普通に働いても半分がワーキングプア。この有様が,国内統計でもしっかり出ています。
対して欧米諸国では,オレンジ色の「中間」がマジョリティです。明瞭なジェンダー差もありません。週35~44時間,普通に働けば普通の暮らしができる社会ですね。日本と韓国に比して,その実現度合いが高いのは間違いありません。
青色の年収下位25%未満に注目すると,日本は男性が21.2%,女性が53.8%となっています(A)。女性は男性よりも,32.6ポイント高いと(B)。女性の率(A)を横軸,ジェンダー差(B)を縦軸にとった座標上に,データがとれる29か国を配置すると,以下のようになります。
普通に働いても,人並みの暮らしを得られない。こういう問題がどれほど色濃いか,それがどれほど女性に偏しているかを,国別に見て取ることができます。
普通に働く女性のプア率は,日本は53.8%ですが,ギリシャとスロバキアはそれを上回っています(横軸)。ギリシャは,財政破綻の影響でしょうか。
縦軸のジェンダー差は,日本が最も大きくなっています。女性が53.8%,男性が21.2%,その差が32.6ポイントもありますので。対して欧米諸国は,左下の原点付近に位置しています。性別に関係なく,普通の労働で普通の暮らしが得られる社会なり。
日本は,1日8時間労働では普通の暮らしは得難く,その歪みは女性に集中していることが分かります。今日の朝日新聞Web版に「天下の山形屋も時給761円 鹿児島女性のため息」という記事が出ています。2018年の県別の最低賃金ワーストは鹿児島で,県内で一番大きいデパートの時給もこの有様であると。
761円といったら,1日8時間労働の日給は6088円。月25日,年間300日働いても(キツイ),年収は182.6万円で,200万円に及びません。鹿児島は家賃や物価が安いとはいえ,これで普通の暮らしができるかは疑問符が付きます。
7月25日の記事で,労働者の時間給の分布を出したところ,非正規女性の4人に1人は750円未満でした。全県の最低賃金を割る,明らかな違法なレベルです。
http://tmaita77.blogspot.com/2019/07/blog-post_25.html
言うことはただ一つ,最低賃金の遵守,いや引き上げです。それでは会社がもたないというなら,BI(ベーシックインカム)での補填を考えるべし。AIの恩恵で人間が労働から解放される時代はまだ先ですが,1日8時間の普通の労働で事足りる時代は,すぐそこのはず。
それとは程遠い日本の現状は,過剰サービスや,馬車馬のように汗水流して働いて一人前というような,しょーもない精神論がはびこっているためでもあるでしょう。冷静になって無駄や嫉妬を取り除けば,「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会」の実現はできると思うのです。
日本では女性の低賃金が目立ちますが,女性を男性の補助的な労働力と位置付ける考え方の是正も必要。その象徴ともいえる配偶者控除を見直すこと,賃金のジェンダー差をなくすことです。
2019年7月27日土曜日
正社員とフリーランスの所得分布
「正社員の時代は終わった,これからはフリーランスの時代だ」と随所で言われます。私もそうだと思っており,20世紀は正社員の時代だったが,21世紀はフリーランスの時代になると思っています。
人生100年の時代,高齢期を引退期として過ごすのは経済的にも心理的にも不可能ですが,高齢期の働き方のメインは,会社勤めではなくフリーランスです。ITの普及により,こういう働き方が容易になる条件も整ってきています。
しからば,そのフリーランスというのは,どれくらい稼げるのか,普通の暮らしをするに足る収入を得られるのか? こういう疑問が出てくるのが道理です。
フリーランスは,労働者の従業地位の区分では,自営業の中の「雇人のいない業主」に相当します。自分一人で事業をやっている人,専門的なスキルを切り売りして収入を得ている人です。労働者の稼ぎを知るのに最もいいのは『就業構造基本調査』ですが,従業地位の自営業が,「雇人のある業主」と「雇人のない業主」に分かれていません。両者が一緒くたにされちゃっています。
ですが,2017年調査の公表統計を丹念にみると,全国編の表03001「男女,所得(主な仕事からの年間収入・収益),年間就業日数・就業の規則性・週間就業時間,従業上の地位・雇用形態別人口(有業者)」では,セパレートされています。この表は,前回,雇用労働者の時間給を出すのに使った表です。
これはありがたい。私は早速,雇人のない業主(フリーランス)と正社員のボックスにチェックを入れ,この2群の所得分布を比較することを思い立ちました。賃金のジェンダー差の影響を除くため,男女で分けます。
男性正社員,男性フリーランス,女性正社員,女性フリーランスの4群について,年間の所得分布(税引き前)を出しました。%の母数は順に,2306万人,289万人,1109万人,106万人です。所得の階級区分は,原資料によります。
赤字は最頻値(Mode)で,正社員は男女とも300万円台となっています。「低すぎじゃない」と思われるかもしれないですが,入職して間もない若者や高齢の継続雇用者も含まれますので,こんな所でしょう。
注目のフリーランスはというと,なななんと,男女とも一番下の50万円未満が最多となっています。男性の53.7%,女性の79.7%は,所得200万円未満のワーキングプアです。目を疑うような分布で,何度も資料を確認しましたが,こういう結果です。
フリーランスというと,若いライターやデザイナーとかを思い浮かべますが,数の上では高齢者が大半です(『国勢調査』2015年)。年金の足しに家庭菜園をやっている程度の老人が多く含まれるので,こういう結果になるのでしょうか。
年齢を統制できるといいのですが,それは叶いません。しかし,年間就業日数・週間就業時間でソートすることはできます。そうですねえ。年間300日,週60時間以上働いている,長時間労働者に絞ってみましょうか。これなら,本気でフリーランスをやっている人に近くなるでしょう。
男性のフリーランスは,正社員と同じく,所得300万円台が最も多くなります。しかし女性フリーランスは,全体と同じく50万円未満が最多です。年間300日,週60時間以上働いてコレです。この長時間労働者に限定しても,男性フリーの4割,女性フリーの6割が所得200万円未満のワーキングプアであるとは驚愕です。
フリーランスの場合,報酬は1つの仕事あたりであって,それに費やした時間は考慮されません。残業代という概念もありません。オンとオフの境界が曖昧で,労働時間も際限がなくなりがちですが,もらえるお金は仕事あたり。長時間労働者に絞っても,上記のような結果になるのは分からないではありません。
データは省きますが,就業時間の分布をみると,フリーランスは正社員より長くなっています。それでいて,その対価は上記のごとし。労働時間あたりの時間給にすると,さぞ悲惨な数値が出てくることでしょう。
「年間就業日数×週間就業時間×所得」の統計表から時間給を割り出す方法は,前回の記事で考案しました。それと同じやり方で,正社員とフリーランスの時間給の分布を明らかにしてみました。以下は,その結果です。
ぐうう。フリーランスは男女とも,時給500円未満の階級が最も多くなっています。男性は27.7%,女性は43.0%です。明らかに違法な賃金レベルですが,フリーランスは法の適用外。
労働時間と給与と組み合わせた時間給という指標でみても,フリーランスは正社員に比して明らかに劣悪であるのが分かります。
最近称賛されることの多いフリーランスですが,現実はかなり厳しいようです。最初の所得分布表をみると,所得300万円以上は男性フリーで28.2%,女性フリーで10.5%となっています。これが独り身を養えるレベルかと思いますが,並大抵のことではないですね(とくに女性)。私は幸い,この群に入っていますが,いつ転落するか分からないので,常に気を引き締めて仕事しています。
まあ,「正社員かフリーランスか」というように,労働者を2分して考える必要はありません。正社員の保障,フリーランスの自由(融通)を折衷させた働き方も考えられます。それを導入しているのが,体脂肪計などを作っているタニタです。できる社員は,フリーランスの形で働いてもらい,その才能を存分に発揮していただく。社長曰く「社員とフリーランスのいいとこ取りができる制度だと自負しています」。
働き方を変える,素晴らしい取り組みだと思います。来年のオリンピック開催時の交通混雑を避けるため,大規模なテレワーク(在宅勤務),時差通勤の実験が行われるそうです。これを機に,社会が変わるといい。
今回のデータでみたように,フリーランスは低収入で労働時間も際限がなくなりがち。身体を壊しても,何の保証もなく自己責任です。国保や年金等もキツイ。
一定以上の量を仕事を発注している企業は,当該フリーランスの社会保険を幾ばくか負担する。こういうシステムはどうでしょう。当人の努力や才能に依存して,儲けさせてもらっているのですから。フリーランスにベーシックインカムを支給するという発想も出てきています。
超高齢化,情報化社会では,フリーランス的な働き方を欲する人が増え,それへの需要も高まります。当然,そういう人への生活保障も必要になるわけです。その必要性がきわめて高いことは,今回のデータから嫌というほどお分かりいただけたかと思います。
2019年7月25日木曜日
時間給の分布
昨日のニューズウィーク日本版サイトにて,「非正規女性の半分がワーキングプア,令和日本の悲惨な実態」という記事が出ています。私が書いた記事です。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/07/post-12610.php
問題関心の発端は,「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」という選挙ポスターを目にしたことです。今の日本はそれとは隔たっているのではないか。労働時間と所得のクロス表をグラフにすると,現実は想像以上に酷いものでした。非正規女性にあっては,週40時間,60時間働こうが,半分以上が所得200万未満です。編集者氏がこの点に注目し,上記のタイトルをつけてくださいました。
しかし,週60時間働いて所得が200万未満って,時間給にするとどういうことになるでしょうか。1か月の労働時間は240時間,これが11か月とすると,年間労働時間は2640時間。所得200万の場合,時間給は200万/2640時間=758円ですか。今時の最低賃金を割ってますね。
目を凝らせば,もっと低い,明らかに違法な時給水準で働いている労働者もいるでしょう。私は,労働者の時間給の分布を出してみたくなりました。時間給は労働統計の基本事項ですが,当局の公表統計では平均値や中央値が出されるだけです。分布を出せば,違法な賃金で働いている労働者が何%か,という情報が分かります。
2017年の『就業構造基本調査』では,就業者を「年間就業時間×週間就業時間×年間所得」のクロスで仕分けている表があります。全国編の「男女,所得(主な仕事からの年間収入・収益),年間就業日数・就業の規則性・週間就業時間,従業上の地位・雇用形態別人口(有業者)」(03001)という表です。
年間200日以上の規則的就業をしている雇用労働者を取り出しましょう。年間就業日数,週間就業時間,年間所得のカテゴリーは以下のようになっています。右欄の数値は,各階級の真ん中の値(階級値)です。
計算には階級値を使います。週の就業時間を5日で割って,1日の就業時間を出します。週43~45時間の場合,44時間/5日=8.8時間となります。「年間250~299日,週43~45時間就業,所得400万円台」という,フツーの労働者の場合,時間給は以下のようになります。
450万円/(8.8時間×275日)=1860円
うん,ごく普通ですね。正社員もパートもひっくるめた数値ですので,違和感はないです。このやり方で,「年間就業時間×週間就業時間×年間所得」のクロス表の各セルに該当する労働者の時間給を出しました。その一部をお見せします(所得は4カテゴリーのみ)。
4ケタの時給が多いですね。先ほど述べたように,「年250~299日,週43~45時間労働,所得400万円台」のセルだと,時間給の試算値は1860円となります。
無慈悲な3桁もあります。黄色マークは500円を下回る,明らかに違法なレベルです。年300日以上,週60時間(1日12時間)働いて所得が100万円台後半だと,時給は434円となります(赤字)。非正規には,こういう人は結構いると思われます。
それぞれのセルに該当する就業者の数を使うことで,時間給の分布を出すことができます。時給500円未満は,黄色のセルの人たちです(他の所得階層もあるので,実際はもっと多い)。
私は,3重クロス表(年間就業時間×週間就業時間×年間所得)の各セルの就業者を,16の時間給階級に割り振りました。仕分けの対象となったのは,4314万人の雇用労働者です。その結果をご覧いただきましょう。
3000円までは250円刻み,3000円より先は500円刻みの階級にしました。最も多いのは,1000円以上1250円未満で,全体の13.9%がこの階級に含まれます。このレベルを最低賃金にしろという運動が高まっていますが,的を射ているようです。
ただ,1000円を下回る労働者が23.3%(4人に1人)おり,750円を割るのは11.0%です。これは,全県の最低賃金を割る違法な水準です。その数,473万人。
さらに酷いのは時給500円にも届かない労働者で,その数は111万人,全雇用労働者の2.6%に該当します。どういう人かは,上記の時給換算表の黄色マークをみると分かります。1日12時間,年300日以上働いて,所得が200万円にも達しないような人たちです。ブラック・ワーキングプアといっていいでしょう。
まあ,全体の76.7%が時給1000円以上で,34.8%が時給2000円以上,そこそこ貰っている人が多いじゃん,という印象を受けるかもしれません。ですがこれは,男性・女性,正規・非正規をひっくるめた,雇用労働者全体の分布です。賃金のジェンダー差,雇用形態差があるのは誰もが知っていること。
男女別,正規・非正規別に分けた4群の分布もみていただきましょう。上段は人数で,下段は%値です。
グループによって分布の型が違っています。1000円未満の率は,男性正規が11.6%,男性非正規が37.3%,女性正規が20.4%,女性非正規が53.4%となっています。女性非正規では,時給1000円未満が半分を越えます。
女性非正規では,時給が低い人が多し,750円未満の違法レベルが29.2%,500円未満のブラック・ワーキングプアが5.8%です。なるほど,昨日のNW記事でみたように,週40時間,60時間働いても,所得が200万円に満たない人が半数を超えるわけです。
夫がいる女性が多いでしょうが,これで独り身,さらには子を養っている人もいます。未婚の中高年女性やシングルマザーです。どれほど働いても貧困から抜け出せない。蟻地獄です。これらの人たちの悲惨な生活実態は,よく報じられるところ。最低賃金の遵守を徹底することが,強く求められます。
その額は,地方では時給760円ほどなのですが,このレベルの賃金で,「1日8時間労働で普通の暮らしができる」か。1日8時間労働を年に300日(結構キツイ)やったとすると,年収は760円×8時間×300日=182万円で,200万円に届きません。時給1000円だと240万円です。前者は論外ですが,後者にしても,普通の暮らしができるレベルかは意見が分かれそうです。
随所で言われているように,望まれるのは,時給1500円の実現でしょうか。それができないなら,BI(ベーシックインカム)で補填という手も考えられます。
ですが,今の日本の現実は上記の通りです。違法な時給水準で働いている人が少なくなく,とりわけ非正規女性では惨憺たる状況になっています。上表の上段をみると,非正規女性の数は756万人で,決して少数派にあらず。
参院選が終わりました。民意を託された議員さんは,最低賃金の遵守(引き上げ)やBI等も視野に入れ,普通の労働で普通の暮らしが得られる社会の実現に努めてほしいと願います。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/07/post-12610.php
問題関心の発端は,「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」という選挙ポスターを目にしたことです。今の日本はそれとは隔たっているのではないか。労働時間と所得のクロス表をグラフにすると,現実は想像以上に酷いものでした。非正規女性にあっては,週40時間,60時間働こうが,半分以上が所得200万未満です。編集者氏がこの点に注目し,上記のタイトルをつけてくださいました。
しかし,週60時間働いて所得が200万未満って,時間給にするとどういうことになるでしょうか。1か月の労働時間は240時間,これが11か月とすると,年間労働時間は2640時間。所得200万の場合,時間給は200万/2640時間=758円ですか。今時の最低賃金を割ってますね。
目を凝らせば,もっと低い,明らかに違法な時給水準で働いている労働者もいるでしょう。私は,労働者の時間給の分布を出してみたくなりました。時間給は労働統計の基本事項ですが,当局の公表統計では平均値や中央値が出されるだけです。分布を出せば,違法な賃金で働いている労働者が何%か,という情報が分かります。
2017年の『就業構造基本調査』では,就業者を「年間就業時間×週間就業時間×年間所得」のクロスで仕分けている表があります。全国編の「男女,所得(主な仕事からの年間収入・収益),年間就業日数・就業の規則性・週間就業時間,従業上の地位・雇用形態別人口(有業者)」(03001)という表です。
年間200日以上の規則的就業をしている雇用労働者を取り出しましょう。年間就業日数,週間就業時間,年間所得のカテゴリーは以下のようになっています。右欄の数値は,各階級の真ん中の値(階級値)です。
計算には階級値を使います。週の就業時間を5日で割って,1日の就業時間を出します。週43~45時間の場合,44時間/5日=8.8時間となります。「年間250~299日,週43~45時間就業,所得400万円台」という,フツーの労働者の場合,時間給は以下のようになります。
450万円/(8.8時間×275日)=1860円
うん,ごく普通ですね。正社員もパートもひっくるめた数値ですので,違和感はないです。このやり方で,「年間就業時間×週間就業時間×年間所得」のクロス表の各セルに該当する労働者の時間給を出しました。その一部をお見せします(所得は4カテゴリーのみ)。
4ケタの時給が多いですね。先ほど述べたように,「年250~299日,週43~45時間労働,所得400万円台」のセルだと,時間給の試算値は1860円となります。
無慈悲な3桁もあります。黄色マークは500円を下回る,明らかに違法なレベルです。年300日以上,週60時間(1日12時間)働いて所得が100万円台後半だと,時給は434円となります(赤字)。非正規には,こういう人は結構いると思われます。
それぞれのセルに該当する就業者の数を使うことで,時間給の分布を出すことができます。時給500円未満は,黄色のセルの人たちです(他の所得階層もあるので,実際はもっと多い)。
私は,3重クロス表(年間就業時間×週間就業時間×年間所得)の各セルの就業者を,16の時間給階級に割り振りました。仕分けの対象となったのは,4314万人の雇用労働者です。その結果をご覧いただきましょう。
3000円までは250円刻み,3000円より先は500円刻みの階級にしました。最も多いのは,1000円以上1250円未満で,全体の13.9%がこの階級に含まれます。このレベルを最低賃金にしろという運動が高まっていますが,的を射ているようです。
ただ,1000円を下回る労働者が23.3%(4人に1人)おり,750円を割るのは11.0%です。これは,全県の最低賃金を割る違法な水準です。その数,473万人。
さらに酷いのは時給500円にも届かない労働者で,その数は111万人,全雇用労働者の2.6%に該当します。どういう人かは,上記の時給換算表の黄色マークをみると分かります。1日12時間,年300日以上働いて,所得が200万円にも達しないような人たちです。ブラック・ワーキングプアといっていいでしょう。
まあ,全体の76.7%が時給1000円以上で,34.8%が時給2000円以上,そこそこ貰っている人が多いじゃん,という印象を受けるかもしれません。ですがこれは,男性・女性,正規・非正規をひっくるめた,雇用労働者全体の分布です。賃金のジェンダー差,雇用形態差があるのは誰もが知っていること。
男女別,正規・非正規別に分けた4群の分布もみていただきましょう。上段は人数で,下段は%値です。
グループによって分布の型が違っています。1000円未満の率は,男性正規が11.6%,男性非正規が37.3%,女性正規が20.4%,女性非正規が53.4%となっています。女性非正規では,時給1000円未満が半分を越えます。
女性非正規では,時給が低い人が多し,750円未満の違法レベルが29.2%,500円未満のブラック・ワーキングプアが5.8%です。なるほど,昨日のNW記事でみたように,週40時間,60時間働いても,所得が200万円に満たない人が半数を超えるわけです。
夫がいる女性が多いでしょうが,これで独り身,さらには子を養っている人もいます。未婚の中高年女性やシングルマザーです。どれほど働いても貧困から抜け出せない。蟻地獄です。これらの人たちの悲惨な生活実態は,よく報じられるところ。最低賃金の遵守を徹底することが,強く求められます。
その額は,地方では時給760円ほどなのですが,このレベルの賃金で,「1日8時間労働で普通の暮らしができる」か。1日8時間労働を年に300日(結構キツイ)やったとすると,年収は760円×8時間×300日=182万円で,200万円に届きません。時給1000円だと240万円です。前者は論外ですが,後者にしても,普通の暮らしができるレベルかは意見が分かれそうです。
随所で言われているように,望まれるのは,時給1500円の実現でしょうか。それができないなら,BI(ベーシックインカム)で補填という手も考えられます。
ですが,今の日本の現実は上記の通りです。違法な時給水準で働いている人が少なくなく,とりわけ非正規女性では惨憺たる状況になっています。上表の上段をみると,非正規女性の数は756万人で,決して少数派にあらず。
参院選が終わりました。民意を託された議員さんは,最低賃金の遵守(引き上げ)やBI等も視野に入れ,普通の労働で普通の暮らしが得られる社会の実現に努めてほしいと願います。
2019年7月23日火曜日
「貯蓄-負債」額の分布
社会には富める人もいあれば貧しい人もいますが,その判断によく使われるのは所得です。婚活中の女性や,部屋を貸そうとする大家さんが知りたいのは,「どれくらいの稼ぎがある人か?」です。
しかし,その人が持っている「蓄え」,貯蓄も注目ポイントです。無収入でも貯金が何千万もある老人はたくさんいますが,こういう人は字のごとく「お金持ち」ですよね。
私は収入は少ないですが,貯蓄はあるほうかなと思います。ここのアパートを借りるとき,収入が少ないことと,職業が不安定な文筆業ってことで難色を示されたのですが,通帳のコピーを見せたら,先方の態度が一変したのを覚えています。
しかるに大学院博士課程まで奨学金をどっぷり借りましたので,借金(負債)も多し。貯蓄から負債を差し引いた額にすると「・・・」となります。まあ,今すぐ耳を揃えて返さないといけない借金ではなく,利子もつかないので,そんなに深刻に考えてはいません。
人が持っている「溜め」の量を測るには,正確には,貯蓄から負債を引いた額を用いる必要があります。公的統計では金融資産という言葉が充てられています。総務省の『家計調査年報(貯蓄・負債編)』をみると,この額の世帯分布の表があるではありませんか。
11の階級を設け,それぞれに該当する世帯の数(全世帯を10万とした数)が計上されています。下図は,世帯主の年齢層別のデータをグラフにしたものです。左は2002年,右は最新の2017年の図です。原資料の階級を7つに簡略化していることを申し添えます。
高齢層はスゴいですね。貯蓄はたっぷりで,住宅ローンは返し終わっているので負債はほぼゼロ。前者から後者を引いた額でみても,6割が1000万,4割が2000万を超えています。
対して現役層では,不穏なグレーの色が幅を利かせています。貯蓄から負債を引いた額がマイナスになる世帯の割合です。ローンを組んで住宅を買うためですが,以前よりも広がっており,2017年の30代後半の世帯では,半分以上がマイナスとなっています。
持家率の変化からして,家を買う世帯は減っているように思うのですが,どういうことでしょう。20代の若い世帯でも,「貯蓄-負債」がマイナスの世帯が増えています。20代で家を買う世帯なんて,ほとんどないですよね。車を買う世帯が増えているとも考えにくい。
となると,奨学金の利用増の影響でしょうか。奨学金も立派な借金ですが,これだと合点がいきます。大学進学率の高まりにより,奨学金を借りる人は増えています。1種と2種を併用で借りたら総額500万はザラ。20代では貯金なんてそうそうできないので,「貯蓄-負債」がマイナスになるのは道理です。
昨今,奨学金返済による生活苦のニュースが多いことから,こういう世帯が増えていることも考えられます。というか,他に理由が思いつきません。
20代の世帯だけを取り出して,より仔細な分布をみてみましょう。原資料の11の階級に基づく分布です。世帯数は,調査対象の全世帯を10万とした数です。
貯蓄から負債を引いた額がマイナスの世帯の率が高まっています。2002年では19.8%でしたが,2017年では33.4%です。注目されるのは,マイナス額が700万円を越える世帯が激増していることです。
これはどういうことか。奨学金をフルに借りれば,負債総額700万を越えますが,そこまで無理をする人が20%もいるものか。ここで注意すべきは,調査対象が2人以上の世帯であることです。結婚している世帯ということになるでしょう。
未婚率が高まっている今,20代で結婚する人の階層が以前よりも高くなっているので,2017年の20代の調査対象は「勝ち組」になっているとも考えられます。対象世帯数もかなり絞られていますからね(2002年は3585,2017年は1640)。
この層に絞ったら,ローンを組んでマイホームを買う世帯が多いので,「貯蓄-負債」のマイナス幅が大きい世帯が増えたと。やや苦しいですが,こういう理屈をこねることもできなくはないです。
単身世帯も含む総世帯のデータがあればいいのですが,『家計調査年報』では,「貯蓄-負債」額の分布は,2人以上世帯でしか集計していません。
私としては,奨学金が若者の社会人生活スタートの足かせになっている可能性を強調したいです。朝日新聞で,将来の奨学金返済を憂う女子学生の記事が出てましたが,社会人生活のスタートから数百万円の借金がデフォルトなんて,どう考えてもおかしい。
https://digital.asahi.com/articles/ASM6J01KMM6HUTIL01D.html
日本の若者は希望がないと言われますが,こういう状況で希望を持てというのは,無理な注文です。結婚や出産の足かせにもなっているでしょう。最近の婚活では「奨学金,いくら借りてます?」が定番の質問だそうな。隠していて,後で発覚したら問題になりますからね。
もう一つ気がかりなのは,「**すれば奨学金返済免除」という政策がやたら発せられることです。一見,ありがたい救済策のように思えますが,借金のカタに,若者の人生を国や企業が管理・統制するシステムができつつあるとも読めます。その極地が経済的徴兵です。度が過ぎると,令和の人身売買の装置にも転化しかねません。
昨年度から給付奨学金が導入されていますが,対象は住民税非課税の低所得層に限られています。多くの学生は,これまで通り貸与型を利用することになるのですが,奨学金が莫大な借金であることが,進学を控えた高校生や親御さんには理解しづらい。「奨学金っていうのだから,借金ではないと思っていた」と口にする学生も多し。
前から言っていることですが,今の貸与型を維持するのであれば,名称を「学生ローン」に変えるべきだと思います。実際のところ,紛れもなくローンなんですから。国際統計では,日本でいう「奨学金」は,「Student loan」にバッチリ直されています。
https://tmaita77.blogspot.com/2014/04/blog-post_15.html
これだけでも,苦境に陥る若者がだいぶ減るように思うのですが,どうでしょうか。
若者の「溜め」の統計をみて,奨学金の影を感じたので,データを提示しておきます。「こういうことでは?」という解釈がありましたら,ツイッター等でお寄せ下さいませ。
しかし,その人が持っている「蓄え」,貯蓄も注目ポイントです。無収入でも貯金が何千万もある老人はたくさんいますが,こういう人は字のごとく「お金持ち」ですよね。
私は収入は少ないですが,貯蓄はあるほうかなと思います。ここのアパートを借りるとき,収入が少ないことと,職業が不安定な文筆業ってことで難色を示されたのですが,通帳のコピーを見せたら,先方の態度が一変したのを覚えています。
しかるに大学院博士課程まで奨学金をどっぷり借りましたので,借金(負債)も多し。貯蓄から負債を差し引いた額にすると「・・・」となります。まあ,今すぐ耳を揃えて返さないといけない借金ではなく,利子もつかないので,そんなに深刻に考えてはいません。
人が持っている「溜め」の量を測るには,正確には,貯蓄から負債を引いた額を用いる必要があります。公的統計では金融資産という言葉が充てられています。総務省の『家計調査年報(貯蓄・負債編)』をみると,この額の世帯分布の表があるではありませんか。
11の階級を設け,それぞれに該当する世帯の数(全世帯を10万とした数)が計上されています。下図は,世帯主の年齢層別のデータをグラフにしたものです。左は2002年,右は最新の2017年の図です。原資料の階級を7つに簡略化していることを申し添えます。
高齢層はスゴいですね。貯蓄はたっぷりで,住宅ローンは返し終わっているので負債はほぼゼロ。前者から後者を引いた額でみても,6割が1000万,4割が2000万を超えています。
対して現役層では,不穏なグレーの色が幅を利かせています。貯蓄から負債を引いた額がマイナスになる世帯の割合です。ローンを組んで住宅を買うためですが,以前よりも広がっており,2017年の30代後半の世帯では,半分以上がマイナスとなっています。
持家率の変化からして,家を買う世帯は減っているように思うのですが,どういうことでしょう。20代の若い世帯でも,「貯蓄-負債」がマイナスの世帯が増えています。20代で家を買う世帯なんて,ほとんどないですよね。車を買う世帯が増えているとも考えにくい。
となると,奨学金の利用増の影響でしょうか。奨学金も立派な借金ですが,これだと合点がいきます。大学進学率の高まりにより,奨学金を借りる人は増えています。1種と2種を併用で借りたら総額500万はザラ。20代では貯金なんてそうそうできないので,「貯蓄-負債」がマイナスになるのは道理です。
昨今,奨学金返済による生活苦のニュースが多いことから,こういう世帯が増えていることも考えられます。というか,他に理由が思いつきません。
20代の世帯だけを取り出して,より仔細な分布をみてみましょう。原資料の11の階級に基づく分布です。世帯数は,調査対象の全世帯を10万とした数です。
貯蓄から負債を引いた額がマイナスの世帯の率が高まっています。2002年では19.8%でしたが,2017年では33.4%です。注目されるのは,マイナス額が700万円を越える世帯が激増していることです。
これはどういうことか。奨学金をフルに借りれば,負債総額700万を越えますが,そこまで無理をする人が20%もいるものか。ここで注意すべきは,調査対象が2人以上の世帯であることです。結婚している世帯ということになるでしょう。
未婚率が高まっている今,20代で結婚する人の階層が以前よりも高くなっているので,2017年の20代の調査対象は「勝ち組」になっているとも考えられます。対象世帯数もかなり絞られていますからね(2002年は3585,2017年は1640)。
この層に絞ったら,ローンを組んでマイホームを買う世帯が多いので,「貯蓄-負債」のマイナス幅が大きい世帯が増えたと。やや苦しいですが,こういう理屈をこねることもできなくはないです。
単身世帯も含む総世帯のデータがあればいいのですが,『家計調査年報』では,「貯蓄-負債」額の分布は,2人以上世帯でしか集計していません。
私としては,奨学金が若者の社会人生活スタートの足かせになっている可能性を強調したいです。朝日新聞で,将来の奨学金返済を憂う女子学生の記事が出てましたが,社会人生活のスタートから数百万円の借金がデフォルトなんて,どう考えてもおかしい。
https://digital.asahi.com/articles/ASM6J01KMM6HUTIL01D.html
日本の若者は希望がないと言われますが,こういう状況で希望を持てというのは,無理な注文です。結婚や出産の足かせにもなっているでしょう。最近の婚活では「奨学金,いくら借りてます?」が定番の質問だそうな。隠していて,後で発覚したら問題になりますからね。
もう一つ気がかりなのは,「**すれば奨学金返済免除」という政策がやたら発せられることです。一見,ありがたい救済策のように思えますが,借金のカタに,若者の人生を国や企業が管理・統制するシステムができつつあるとも読めます。その極地が経済的徴兵です。度が過ぎると,令和の人身売買の装置にも転化しかねません。
昨年度から給付奨学金が導入されていますが,対象は住民税非課税の低所得層に限られています。多くの学生は,これまで通り貸与型を利用することになるのですが,奨学金が莫大な借金であることが,進学を控えた高校生や親御さんには理解しづらい。「奨学金っていうのだから,借金ではないと思っていた」と口にする学生も多し。
前から言っていることですが,今の貸与型を維持するのであれば,名称を「学生ローン」に変えるべきだと思います。実際のところ,紛れもなくローンなんですから。国際統計では,日本でいう「奨学金」は,「Student loan」にバッチリ直されています。
https://tmaita77.blogspot.com/2014/04/blog-post_15.html
これだけでも,苦境に陥る若者がだいぶ減るように思うのですが,どうでしょうか。
若者の「溜め」の統計をみて,奨学金の影を感じたので,データを提示しておきます。「こういうことでは?」という解釈がありましたら,ツイッター等でお寄せ下さいませ。
2019年7月22日月曜日
寄付金の変化
困った時はお互い様,助け合いましょう。その術としては,無償で労働力を提供するボランティアのほか,お金を寄付するというのもあります。貨幣経済が浸透した現在では,後者の比重が高まっています。
子どもが難病を患い,海外で高額な手術を受けないといけない。そこで親が募金を手掛け,数千万円もの寄付が寄せられた,というケースは実際にあったこと。日本には1億2千万人の人口がいますが,その100人に1人(120万人)が50円出してくれたら,6000万円のお金が集まります。善意のチカラはもの凄い。
寄付金の額というのは,助け合いのスピリットを「見える化」するのにいい指標だと思います。ググればどっかの団体が調査した数値も出てきますが,時系列変化もみれる公的統計のデータが望ましい。
お金といったら,総務省の『家計調査』です。品目別の支出額の統計表をみたら,品目のカテゴリーに「寄付金」というのがあります。最新の2018年のデータをみると,1世帯あたりの寄付金の年間支出額は4506円となっています(単身世帯は除く)。
普通の家庭の場合,500円の寄付を年間に9回やっている計算ですね。あくまで平均なんで,額が際立って高い世帯に引きずられている可能性もありますが。
はて,この額はどう推移してきているのでしょう。今世紀になってからの推移をグラフにしてみます。
2010年までは3000円近辺を推移してきましたが,2011年には6579円と,ボーンと跳ね上がっています。理由は明確。同年3月に起きた,東日本大震災の被災者への寄付でしょう。私も,コンビニのレジの募金箱に入れさせていただきました。
翌年には元の水準に戻りますが,2015年から上昇に転じ,16年には5000円を超えます。17年には下がりますが18年にはまたアップして4506円。長らく続いた3000円付近から一段上がった水準が定着しつつあります。
返礼品目当てのふるさと納税でしょうか。あるいは,ネット募金やクラウドファンディングが増えているためかもしれません。今では,個人でもこういうことをしやすくなっていますからね。
事態にもう少し迫るべく,どういう層で寄付金の支出が増えているかをみてみましょう。1世帯あたりの年間支出額は,世帯主の年齢層別に知ることができます。最新の2018年と,10年前の2008年を比較してみます。
増えているのは,30~50代となっています。60歳以上の高齢層では減少です。20代は,お金がないためか額は少ないものの,10年間の増加率が高くなっています。
ITの素養がある若年層や壮年層の増加率が高いことから,やはりネット募金やCFの影響の線が強そうですね。余談ですが,2018年の40代(ロスジェネ)で谷ができているのも注目。
昨日,このグラフをツイッターで流したところ,ちきりんさんが「テクノロジーで時代が変わることの好例」と言われてましたが,その通りだと思います。ネットのおかげで,人々の善意を集めやすくなっている。
しからば,他の分野にもこのテクノロジーを適用したらどうか。昨日は参院選の投票日でしたが,投票率は過去最低レベルで50%を割ったそうです。それに寄与しているのは,若年層でしょう。「若者は選挙に行くな,どうせ政治に関心なんてないだろう,お前らは存在しないも同然」。こんなことを言っている,メチャクチャな煽り動画も公開されてましたが,こんなふうに挑発するだけでいいのでしょうか。
投票所に出向き,紙にマルをつけ,四角い投票箱に入れる。こういうアナログなやり方が,時代にそぐわなくなりつつあると感じます。随所で言われていることですが,ネット選挙の導入を検討すべきかと思います。上記のグラフから察せられるように,テクノロジーで事態は変わる可能性は大ありです。
寄付に話を戻すと,ITを介して善意を集めやすくなっているのは,素晴らしいことですね。人々を納得させる有意義なプロジェクトであるならば,その実行に必要な資金を簡単に集めることができます。今は大学も苦しくなっており,研究者も自前で研究費を調達しないといけない時代。自分の研究の意義を,一般人に分かってもらえるよう,分かりやすく説明できるようにならないといけない。科研費の申請書に書くような文書では,とうてい分かってもらえません。
上記の年齢別グラフをもう一度みると,寄付金の支出額が高齢層では下がっています。しかし,貯蓄はスゴイのですよね。ガッツリ溜め込んだところで,振り込め詐欺の被害に遭うこともあるし,自分が死んだあと,相続ならぬ争族(遺族の争い)を引き起こすだけです。はき出すことも考えてほしいなと思います。
子どもが難病を患い,海外で高額な手術を受けないといけない。そこで親が募金を手掛け,数千万円もの寄付が寄せられた,というケースは実際にあったこと。日本には1億2千万人の人口がいますが,その100人に1人(120万人)が50円出してくれたら,6000万円のお金が集まります。善意のチカラはもの凄い。
寄付金の額というのは,助け合いのスピリットを「見える化」するのにいい指標だと思います。ググればどっかの団体が調査した数値も出てきますが,時系列変化もみれる公的統計のデータが望ましい。
お金といったら,総務省の『家計調査』です。品目別の支出額の統計表をみたら,品目のカテゴリーに「寄付金」というのがあります。最新の2018年のデータをみると,1世帯あたりの寄付金の年間支出額は4506円となっています(単身世帯は除く)。
普通の家庭の場合,500円の寄付を年間に9回やっている計算ですね。あくまで平均なんで,額が際立って高い世帯に引きずられている可能性もありますが。
はて,この額はどう推移してきているのでしょう。今世紀になってからの推移をグラフにしてみます。
2010年までは3000円近辺を推移してきましたが,2011年には6579円と,ボーンと跳ね上がっています。理由は明確。同年3月に起きた,東日本大震災の被災者への寄付でしょう。私も,コンビニのレジの募金箱に入れさせていただきました。
翌年には元の水準に戻りますが,2015年から上昇に転じ,16年には5000円を超えます。17年には下がりますが18年にはまたアップして4506円。長らく続いた3000円付近から一段上がった水準が定着しつつあります。
返礼品目当てのふるさと納税でしょうか。あるいは,ネット募金やクラウドファンディングが増えているためかもしれません。今では,個人でもこういうことをしやすくなっていますからね。
事態にもう少し迫るべく,どういう層で寄付金の支出が増えているかをみてみましょう。1世帯あたりの年間支出額は,世帯主の年齢層別に知ることができます。最新の2018年と,10年前の2008年を比較してみます。
増えているのは,30~50代となっています。60歳以上の高齢層では減少です。20代は,お金がないためか額は少ないものの,10年間の増加率が高くなっています。
ITの素養がある若年層や壮年層の増加率が高いことから,やはりネット募金やCFの影響の線が強そうですね。余談ですが,2018年の40代(ロスジェネ)で谷ができているのも注目。
昨日,このグラフをツイッターで流したところ,ちきりんさんが「テクノロジーで時代が変わることの好例」と言われてましたが,その通りだと思います。ネットのおかげで,人々の善意を集めやすくなっている。
しからば,他の分野にもこのテクノロジーを適用したらどうか。昨日は参院選の投票日でしたが,投票率は過去最低レベルで50%を割ったそうです。それに寄与しているのは,若年層でしょう。「若者は選挙に行くな,どうせ政治に関心なんてないだろう,お前らは存在しないも同然」。こんなことを言っている,メチャクチャな煽り動画も公開されてましたが,こんなふうに挑発するだけでいいのでしょうか。
投票所に出向き,紙にマルをつけ,四角い投票箱に入れる。こういうアナログなやり方が,時代にそぐわなくなりつつあると感じます。随所で言われていることですが,ネット選挙の導入を検討すべきかと思います。上記のグラフから察せられるように,テクノロジーで事態は変わる可能性は大ありです。
寄付に話を戻すと,ITを介して善意を集めやすくなっているのは,素晴らしいことですね。人々を納得させる有意義なプロジェクトであるならば,その実行に必要な資金を簡単に集めることができます。今は大学も苦しくなっており,研究者も自前で研究費を調達しないといけない時代。自分の研究の意義を,一般人に分かってもらえるよう,分かりやすく説明できるようにならないといけない。科研費の申請書に書くような文書では,とうてい分かってもらえません。
上記の年齢別グラフをもう一度みると,寄付金の支出額が高齢層では下がっています。しかし,貯蓄はスゴイのですよね。ガッツリ溜め込んだところで,振り込め詐欺の被害に遭うこともあるし,自分が死んだあと,相続ならぬ争族(遺族の争い)を引き起こすだけです。はき出すことも考えてほしいなと思います。
2019年7月21日日曜日
教員採用試験の合格率・人物重視度
陽は出てませんが,蒸し暑く夏らしくなってきました(横須賀)。7月も下旬ですが,多くの自治体で教員採用試験の一次試験が行われていることと思います。東京都は先週でした。受験者のみなさん,お疲れ様でした。
「これから二次試験対策だ」と意気込む人がいる一方で,「どうせ筆記はパスしないだろうから,二次対策は止めだ」と消沈している人もいるでしょう。また,筆記が受かるかどうか予測がつかず,困惑している人もいるはず。
結果がどうなるかは神のみが知りますが,過去のデータ(経験的事実)で見当をつけることはできます。合格者を受験者で割った,合格率という指標です。東京アカデミーが自治体別のデータを調べ,HPで公開してくれています。2017年夏に実施された,2018年度試験のデータです。
http://www.tokyo-ac.jp/adoption/outline/result/hokkaido.html
東京都の小学校教員採用試験の数値は,以下のようになっています。
A)受験者数 = 3544人
B)1次合格者数 = 2581人
C)2次合格者数 = 1979人
これに基づくと,1次の筆記試験合格率は,2581/3544=72.8%となります。筆記の合格率は7割,じゃんじゃん通すのですね。東京都の試験問題は結構難しく,「ダメだろうな」と気落ちしている人もいるでしょうが,案外大丈夫かもしれないですよ。
2次試験の合格率は,1979/2581=76.7%ですか。これも思ったより高いな,という印象です。受験者ベースの最終合格率は,1979/3544=55.8%,半分を超えています。受験者の2人に1人が通ると。
教員採用試験も競争率が低下し,難易度が下がっているといいますが,ホントにそうなのですね。私の世代(ロスジェネ)が新卒だった頃と比べると,隔世の感があります。「まさかあの人が…」という優秀な人がバンバン落とされてましたから。
他の自治体についても同じ数値を計算しましたので,一覧をお見せしましょう。石川県は,1次合格者数が非公表なんで,データを出せませんでした。
どの自治体も合格率が高くなっています。70%,80%を超える数値がちらほら見られます(赤字)。北海道の1次合格率は97.9%(受験者758人,合格者742人)。二次の合格率も82.9%で,受験者ベースの最終合格率は両者をかけて81.1%,「ホントかよ」と目を疑います。
1次と2次の合格率が乖離している自治体もあります。福島県は1次はちょっとばかり難しいようですが,2次で落とされることはほとんどないようです。逆に高知県のように,1次はたくさん通して,2次でバンバン落とす自治体もあり。
筆記重視か人物重視かは,自治体によって異なるようです。高知県の受験者は,1次をパスしたからといって安堵せず,面接対策に本腰を入れる必要がありそうです。
自分が受ける自治体がどれほど人物(面接)重視か? こういう関心をお持ちの学生さんもいるかと思います。まあ,上記の合格率から見当はつきますが,単一のメジャーを作ってみます。2次試験の不合格者が,不合格者全体に占める割合(%)です。
計算式=(1次合格者数-最終合格者数)/(受験者数-最終合格者数)
東京都の場合,(2581-1979)/(3544-1979)=38.5%となります。残念ながら不合格となった人のうち,2次面接で落とされた人が38.5%であったと。私が住んでいる神奈川県だと,57.8%となります。お隣同士ですが,神奈川県のほうが人物重視のようです。
全自治体のデータをご覧いただきましょう。
50%超は赤字にしましたが,結構ありますね。北海道,大阪府,大分県では不合格者の8割以上が面接での脱落者となっています。
この数値は人物重視度を測る尺度であって,2次試験の難易度を示すものではありません。北海道は,2次の合格率も高いですしね(最初の表)。ただ大阪府は,2次の合格率が低いので,対策に万全を期す必要がありそうです。
福島県と沖縄県は,筆記で決まる度合いが高いようです。不合格者のうち,面接で落とされた人はごくわずかです。筆記試験の難易度は高くなっています。福島県の教職教養では,学習指導要領の原文の空欄補充問題が毎年出ます。選択肢なしで,書かせる問題です。拙著『教職教養らくらくマスター』にて,赤シートを使った暗記学習をしておくとよいと思います。
以上,2018年度の小学校教員採用試験の経験データを紹介しました。受験生諸氏の展望を晴らすのに役立てばと思います。「合格率,こんなに高いんだ」と安堵されましたか。自治体によって難易度は違いますけど,普通にやっていれば大丈夫です。これから2次試験対策を始める学生さん,面接では気負いは禁物。肩の力を抜きましょう。
ただ,知的武装はしておいたほうがいいです。最近の教育時事を取り上げ,「あなたはどう思うか」「どうしたらいいか」と,意見を求められることがあります。それに対し,口ごもるようではアウト。最近の政策文書の概要には目を通し,自分なりの考えは持っておきたいものです。
日頃から新聞をマメにチェックしている人は特別の準備は要らないでしょうが,そういう人は少ないでしょう。そこで,拙著『速攻の教育時事・2020年度試験対応』をおススメいたします。新学習指導要領の改訂の答申,教員の働き方改革,第3期・教育振興基本計画等,重要文書のエッセンスを見開きでまとめています(合計71テーマ)。短期間で,教育時事に精通できるよう,工夫を凝らした本です。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b432109.html
健闘を祈ります。
「これから二次試験対策だ」と意気込む人がいる一方で,「どうせ筆記はパスしないだろうから,二次対策は止めだ」と消沈している人もいるでしょう。また,筆記が受かるかどうか予測がつかず,困惑している人もいるはず。
結果がどうなるかは神のみが知りますが,過去のデータ(経験的事実)で見当をつけることはできます。合格者を受験者で割った,合格率という指標です。東京アカデミーが自治体別のデータを調べ,HPで公開してくれています。2017年夏に実施された,2018年度試験のデータです。
http://www.tokyo-ac.jp/adoption/outline/result/hokkaido.html
東京都の小学校教員採用試験の数値は,以下のようになっています。
A)受験者数 = 3544人
B)1次合格者数 = 2581人
C)2次合格者数 = 1979人
これに基づくと,1次の筆記試験合格率は,2581/3544=72.8%となります。筆記の合格率は7割,じゃんじゃん通すのですね。東京都の試験問題は結構難しく,「ダメだろうな」と気落ちしている人もいるでしょうが,案外大丈夫かもしれないですよ。
2次試験の合格率は,1979/2581=76.7%ですか。これも思ったより高いな,という印象です。受験者ベースの最終合格率は,1979/3544=55.8%,半分を超えています。受験者の2人に1人が通ると。
教員採用試験も競争率が低下し,難易度が下がっているといいますが,ホントにそうなのですね。私の世代(ロスジェネ)が新卒だった頃と比べると,隔世の感があります。「まさかあの人が…」という優秀な人がバンバン落とされてましたから。
他の自治体についても同じ数値を計算しましたので,一覧をお見せしましょう。石川県は,1次合格者数が非公表なんで,データを出せませんでした。
どの自治体も合格率が高くなっています。70%,80%を超える数値がちらほら見られます(赤字)。北海道の1次合格率は97.9%(受験者758人,合格者742人)。二次の合格率も82.9%で,受験者ベースの最終合格率は両者をかけて81.1%,「ホントかよ」と目を疑います。
1次と2次の合格率が乖離している自治体もあります。福島県は1次はちょっとばかり難しいようですが,2次で落とされることはほとんどないようです。逆に高知県のように,1次はたくさん通して,2次でバンバン落とす自治体もあり。
筆記重視か人物重視かは,自治体によって異なるようです。高知県の受験者は,1次をパスしたからといって安堵せず,面接対策に本腰を入れる必要がありそうです。
自分が受ける自治体がどれほど人物(面接)重視か? こういう関心をお持ちの学生さんもいるかと思います。まあ,上記の合格率から見当はつきますが,単一のメジャーを作ってみます。2次試験の不合格者が,不合格者全体に占める割合(%)です。
計算式=(1次合格者数-最終合格者数)/(受験者数-最終合格者数)
東京都の場合,(2581-1979)/(3544-1979)=38.5%となります。残念ながら不合格となった人のうち,2次面接で落とされた人が38.5%であったと。私が住んでいる神奈川県だと,57.8%となります。お隣同士ですが,神奈川県のほうが人物重視のようです。
全自治体のデータをご覧いただきましょう。
50%超は赤字にしましたが,結構ありますね。北海道,大阪府,大分県では不合格者の8割以上が面接での脱落者となっています。
この数値は人物重視度を測る尺度であって,2次試験の難易度を示すものではありません。北海道は,2次の合格率も高いですしね(最初の表)。ただ大阪府は,2次の合格率が低いので,対策に万全を期す必要がありそうです。
福島県と沖縄県は,筆記で決まる度合いが高いようです。不合格者のうち,面接で落とされた人はごくわずかです。筆記試験の難易度は高くなっています。福島県の教職教養では,学習指導要領の原文の空欄補充問題が毎年出ます。選択肢なしで,書かせる問題です。拙著『教職教養らくらくマスター』にて,赤シートを使った暗記学習をしておくとよいと思います。
以上,2018年度の小学校教員採用試験の経験データを紹介しました。受験生諸氏の展望を晴らすのに役立てばと思います。「合格率,こんなに高いんだ」と安堵されましたか。自治体によって難易度は違いますけど,普通にやっていれば大丈夫です。これから2次試験対策を始める学生さん,面接では気負いは禁物。肩の力を抜きましょう。
ただ,知的武装はしておいたほうがいいです。最近の教育時事を取り上げ,「あなたはどう思うか」「どうしたらいいか」と,意見を求められることがあります。それに対し,口ごもるようではアウト。最近の政策文書の概要には目を通し,自分なりの考えは持っておきたいものです。
日頃から新聞をマメにチェックしている人は特別の準備は要らないでしょうが,そういう人は少ないでしょう。そこで,拙著『速攻の教育時事・2020年度試験対応』をおススメいたします。新学習指導要領の改訂の答申,教員の働き方改革,第3期・教育振興基本計画等,重要文書のエッセンスを見開きでまとめています(合計71テーマ)。短期間で,教育時事に精通できるよう,工夫を凝らした本です。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b432109.html
健闘を祈ります。
2019年7月20日土曜日
学校の職業教育の評価
日本教育新聞で週1の連載を初めて5年になります。我ながらよく続けているもんだと思います。「毎週,よくネタが尽きませんね」と言われますが,ブログやツイログをちょっと漁れば,ネタなんていくらでも出てきます。
https://blog.goo.ne.jp/tmaita77
本紙は国内唯一の教育専門紙で,全国津々浦々の学校で講読されていると聞きます。私のコラムは2面に格上げしていただき,読者の目に触れやすくなっています。そのせいか,コラムをみたという読者さん(多くが教員)からメールが来ることも増えてきました。
一昨日の夕方,地方の高校の先生からメールがきました。「日本の学校は,職業と直結した職業教育が脆弱であると思う。他国と比較したデータはないか」というものです。うーん,ざっくりしていて答えにくいですが,教育を受けている生徒や学生の評価をうかがい知るデータはあります。
内閣府が2018年に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』では,生徒・学生に対し,「現在通っている学校は,仕事に必要な技術や能力を身に付けるうえで意義があるか」と訊いています。4段階で答えてもらう形式です(Q48の3)。
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h30/pdf-index.html
私は,各国の中学生・高校生・大学生のサンプルを取り出し,この問いに肯定の回答をした生徒・学生の率を出してみました。「意義がある」という,最も強い肯定の回答のパーセンテージです。*個票データの分析による。
結果を簡素なグラフにすると,以下のようになります。
日本はいずれの段階でも,意義を認める生徒・学生の率は低くなっています。中学校は28.3%,高校は28.7%,大学は23.2%です。中高生よりも大学生で低い,という傾向すら出ています。「中→高→大」と,コンスタントに評価が上がっていくアメリカとは対照的ですね。
ドイツは高校で高いですが,教育と職業訓練の2本立て(デュアルシステム)のなせる業でしょうか。
メールをくださった高校の先生は,「やはり…」と肩を落とされているかもしれません。日本の生徒・学生に,学校の職業教育の意義を評価させると,こういう有様になります。まあ日本の生徒の場合,将来就きたい職業なんて未定という子が多いので,「意義がある」という明瞭な評価をしにくかったとも考えられます。
それに,上記の結果をもって学校だけを責めるのは筋違いでしょう。日本の雇用はジョブ型ではなく,メンバーシップ型で,企業は学生が学校で何を学んだかなんて関心を持っていません。面接で,学校で学んだことを訊かれるなんて稀。先方が知りたいのは,性格にクセがないか,組織の和を乱さないか,長く勤めて自社の色に染まってくれるか…。こんなところです。ねらいは,一緒に働くにふさわしいメンバーを迎え入れることです。
対してジョブ型の欧米では,学校で何を学んだか,何ができるかを徹底的に訊かれます。逆にいえば,それを訊かないと侮辱罪として学生の側から訴えられるケースもあるそうです。労働者に期待する職務が明瞭で,それを遂行する能力を有しているか。この点をジャッジすると。学校では,実践的な職業教育に力が入るわけです。
日本では,入社後に職業訓練を行い,長いことかけて自社の色に染めていきます。勤続年数と共に給与をアップさせ,定着のインセンティブを強めるという仕掛けつきです。しかし,そういう「丸抱え」のやり方も綻びを見せ始めています。大企業は40代半ば以降の社員のリストラをしていますし,経団連のトップも「もはや終身雇用の維持は難しい」と口にしています。企業も体力がなくなり,学校にも実践的な職業教育を期待する度合いは高くなっていくでしょう。
そもそも,異国の人にすれば「クレイジー」としか思えないメンバーシップ型を維持していたら,これからますます増える外国人労働者,高度なスキルをもった外国人労働者を採用するなんてできますまい。彼らは,自分の能力に見合った給与を情け容赦なく求めてきますのでね。「新人は,最初はみんなお茶くみと雑巾がけから」。こんなことをしたら,裁判を起こされちゃいます。
今年の春に専門職大学ができましたが,こういう時代の変化に即したものだと思えます。教員の4割は実務家教員とすることとありますが,中等レベルの学校でも,こういう人材がある程度必要になってくるでしょう。実践的な職業教育は,大学を出たての22歳の若者には難しい。産業界の経験のある実務家教員の採用枠を増やすべし。また副業が奨励され,パラレルキャリアの時代になりつつあるので,社会人講師に教壇に立って貰うのもよし。
教育は人なりと言いますが,実践的な職業教育を充実させるには,上記のように教員集団の組成を変える必要も出てきます。その度合いは,民間企業の経験が長い教員,またパート教員の割合で測ることができるかと思いますが,この2つのマトリクス上に世界各国を散りばめるとどうでしょう。下のグラフは,「TALIS 2018」の個票データから作ったものです。
うーん,日本は2つの指標とも低いので,原点付近にあります。パート教員率は9.7%,民間経験10年以上の教員に至っては1.9%なり。学校と社会の敷居が高い故か,教員の多様性が進んでいません。
対して,右上のカナダやブラジルはスゴイですね。教員の8割はパートで,3~4割が民間経験が長い実務家教員となっています。17日公開のニューズウィーク記事でデータを出しましたが,ブラジルでは教員の仕事時間の9割は授業なんですよね。その理由が分かる気がします。
学校とは,勉強をするところ。社会生活に必要な資質や能力を育むところ。これが原点です。社会の変化に伴い,学校も,このような原点回帰が求められるようになっています。思い切ってスリム化を断行し,業務を授業に絞るのはどうでしょう(学校行事等の特別活動は授業です)。そうすれば,教員の多様性を押し進めることもできます。目指すべきは,上記のマトリクスにおいて右上にシフトしていくことです。
少子高齢化に伴い,学校にも人手不足の波が及んでいます。今となっては,教師と子どもが全身全霊で触れ合うことによる全人教育など,学校だけでできることではありますまい。積極的に学校を開放し,外部社会の助けも借りて,社会全体で子を育むという気構えが必要なのです。
そういう分業において,学校は教授・学習活動に専念する。それがどれほどできているかは,最初のグラフで示された,職業教育への評価によって知ることができます。学校の職業教育への評価が低いのは,日本の雇用慣行による部分が大きいのですが,機能を散漫させている学校の問題でもあるように思います。
https://blog.goo.ne.jp/tmaita77
本紙は国内唯一の教育専門紙で,全国津々浦々の学校で講読されていると聞きます。私のコラムは2面に格上げしていただき,読者の目に触れやすくなっています。そのせいか,コラムをみたという読者さん(多くが教員)からメールが来ることも増えてきました。
一昨日の夕方,地方の高校の先生からメールがきました。「日本の学校は,職業と直結した職業教育が脆弱であると思う。他国と比較したデータはないか」というものです。うーん,ざっくりしていて答えにくいですが,教育を受けている生徒や学生の評価をうかがい知るデータはあります。
内閣府が2018年に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』では,生徒・学生に対し,「現在通っている学校は,仕事に必要な技術や能力を身に付けるうえで意義があるか」と訊いています。4段階で答えてもらう形式です(Q48の3)。
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h30/pdf-index.html
私は,各国の中学生・高校生・大学生のサンプルを取り出し,この問いに肯定の回答をした生徒・学生の率を出してみました。「意義がある」という,最も強い肯定の回答のパーセンテージです。*個票データの分析による。
結果を簡素なグラフにすると,以下のようになります。
日本はいずれの段階でも,意義を認める生徒・学生の率は低くなっています。中学校は28.3%,高校は28.7%,大学は23.2%です。中高生よりも大学生で低い,という傾向すら出ています。「中→高→大」と,コンスタントに評価が上がっていくアメリカとは対照的ですね。
ドイツは高校で高いですが,教育と職業訓練の2本立て(デュアルシステム)のなせる業でしょうか。
メールをくださった高校の先生は,「やはり…」と肩を落とされているかもしれません。日本の生徒・学生に,学校の職業教育の意義を評価させると,こういう有様になります。まあ日本の生徒の場合,将来就きたい職業なんて未定という子が多いので,「意義がある」という明瞭な評価をしにくかったとも考えられます。
それに,上記の結果をもって学校だけを責めるのは筋違いでしょう。日本の雇用はジョブ型ではなく,メンバーシップ型で,企業は学生が学校で何を学んだかなんて関心を持っていません。面接で,学校で学んだことを訊かれるなんて稀。先方が知りたいのは,性格にクセがないか,組織の和を乱さないか,長く勤めて自社の色に染まってくれるか…。こんなところです。ねらいは,一緒に働くにふさわしいメンバーを迎え入れることです。
対してジョブ型の欧米では,学校で何を学んだか,何ができるかを徹底的に訊かれます。逆にいえば,それを訊かないと侮辱罪として学生の側から訴えられるケースもあるそうです。労働者に期待する職務が明瞭で,それを遂行する能力を有しているか。この点をジャッジすると。学校では,実践的な職業教育に力が入るわけです。
日本では,入社後に職業訓練を行い,長いことかけて自社の色に染めていきます。勤続年数と共に給与をアップさせ,定着のインセンティブを強めるという仕掛けつきです。しかし,そういう「丸抱え」のやり方も綻びを見せ始めています。大企業は40代半ば以降の社員のリストラをしていますし,経団連のトップも「もはや終身雇用の維持は難しい」と口にしています。企業も体力がなくなり,学校にも実践的な職業教育を期待する度合いは高くなっていくでしょう。
そもそも,異国の人にすれば「クレイジー」としか思えないメンバーシップ型を維持していたら,これからますます増える外国人労働者,高度なスキルをもった外国人労働者を採用するなんてできますまい。彼らは,自分の能力に見合った給与を情け容赦なく求めてきますのでね。「新人は,最初はみんなお茶くみと雑巾がけから」。こんなことをしたら,裁判を起こされちゃいます。
今年の春に専門職大学ができましたが,こういう時代の変化に即したものだと思えます。教員の4割は実務家教員とすることとありますが,中等レベルの学校でも,こういう人材がある程度必要になってくるでしょう。実践的な職業教育は,大学を出たての22歳の若者には難しい。産業界の経験のある実務家教員の採用枠を増やすべし。また副業が奨励され,パラレルキャリアの時代になりつつあるので,社会人講師に教壇に立って貰うのもよし。
教育は人なりと言いますが,実践的な職業教育を充実させるには,上記のように教員集団の組成を変える必要も出てきます。その度合いは,民間企業の経験が長い教員,またパート教員の割合で測ることができるかと思いますが,この2つのマトリクス上に世界各国を散りばめるとどうでしょう。下のグラフは,「TALIS 2018」の個票データから作ったものです。
うーん,日本は2つの指標とも低いので,原点付近にあります。パート教員率は9.7%,民間経験10年以上の教員に至っては1.9%なり。学校と社会の敷居が高い故か,教員の多様性が進んでいません。
対して,右上のカナダやブラジルはスゴイですね。教員の8割はパートで,3~4割が民間経験が長い実務家教員となっています。17日公開のニューズウィーク記事でデータを出しましたが,ブラジルでは教員の仕事時間の9割は授業なんですよね。その理由が分かる気がします。
学校とは,勉強をするところ。社会生活に必要な資質や能力を育むところ。これが原点です。社会の変化に伴い,学校も,このような原点回帰が求められるようになっています。思い切ってスリム化を断行し,業務を授業に絞るのはどうでしょう(学校行事等の特別活動は授業です)。そうすれば,教員の多様性を押し進めることもできます。目指すべきは,上記のマトリクスにおいて右上にシフトしていくことです。
少子高齢化に伴い,学校にも人手不足の波が及んでいます。今となっては,教師と子どもが全身全霊で触れ合うことによる全人教育など,学校だけでできることではありますまい。積極的に学校を開放し,外部社会の助けも借りて,社会全体で子を育むという気構えが必要なのです。
そういう分業において,学校は教授・学習活動に専念する。それがどれほどできているかは,最初のグラフで示された,職業教育への評価によって知ることができます。学校の職業教育への評価が低いのは,日本の雇用慣行による部分が大きいのですが,機能を散漫させている学校の問題でもあるように思います。
2019年7月15日月曜日
中日新聞の非常勤講師の記事
中日新聞のWeb版に「研究者目指したけれど 大学非常勤講師らの嘆き(下)」という記事が出ています。私もちょっとだけ登場しています。
https://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2019071502000002.html
メインは,天池洋介さんという現職の非常勤講師の方です。年齢は39歳,私と同じく氷河期世代ですね。現職の人で,実名・顔出しで出るとは勇気があるなと思います。雇い止めや就職活動への影響を恐れ,尻込みする人が多いのですが,問題を告発したいという気概が勝ったのでしょうか。
内容もリアルです。年収は200万未満,1日1食,コンビニ弁当にも手が出ない…。生活苦を包み隠さずさらけ出しています。東海圏の大学や専門学校4校で非常勤をされていて,今年度は前期6コマ,後期5コマですか。1コマ(半期15回)の対価が15万円ほどですので,年収は15万 × 11コマ=165万円。幾ばくかの雑収入を合わせても,200万には届きそうにありません。
それでも,「1日1食,コンビニ弁当にも手が出ない」というのはオーバーではないかと思われるかもしれません。しかし,奨学金返済や研究費・学会参加費自腹という重荷が加わりますので,あり得ないことではありません。
年間の奨学金返済が30万円,研究費・学会参加費が15万円とすると,手元に残るのは,165-45=120万円。月に10万円で,食費,交際費,家賃,光熱費,税金,国保・年金等を賄わないといけない。「1日1食,友人から恵んでもらったお米でおかずは白菜の漬物」となっても,なんら不思議ではないです。これが,専業非常勤講師のリアルです。
その専業非常勤講師ですが,文科省統計では「本務なし兼務教員」としてカウントされています。4年制大学(以下,大学)の専業非常勤講師数をみると。1989年は1万5689人だったのが,2016年9万3145人に膨れ上がっています。6倍の増加です。同じ期間にかけて専任教員が1.5倍にしか増えてない(12万1105人→18万4273人)ことと比すと,すごい増加率です。
大学の人件費抑制志向が強まっているためですが,上記のような超薄給で,よくもまあなり手がいるもんだと不思議に思われるでしょう。答えは簡単,大学院重点化政策で行き場のないオーバードクターが増えているからです。今や,非常勤講師の職も奪い合いで,採用時に給与すら聞けない状態になっています。需要側の要因(人件費抑制)と供給側の要因(ODの増加)が,絶妙にマッチしているわけです。
様相は専攻によっても違います。大学の専任教員数と専業非常講師数を専攻別に整理すると,以下のようになります。上段は大学院重点化前の1989年,下段は最新の2016年のデータです。文科省『学校教員統計』から採取した数値です。
どの専攻でも,専業非常講師が増えています。増加幅は専任教員を上回り,専業非常勤講師の比重も増しています。2016年でみると,人文科学と芸術では,前者より後者が多くなっています。人文科学は,大半が語学系の授業を持つ非常勤でしょうが,この依存率はすさまじい。
授業の多くを,不安定な生活にあえぐ専業非常勤講師が持ったらどうなるか。研究室がなく,複数校を掛け持ちしている人も多いので,学生の質問に落ち着いて応じるのも難しい。「時間がないから今度ね」「またね」…。こういう拒否反応を何度もされたら,学生も勉学の意欲が萎えるというものです。
首都圏非常勤講師組合のアンケートの自由記述をみると,待遇の悪さに不満を高じさせ,投げやりな態度で授業をする人もいるようです。これも無理からぬこと。真面目に授業準備や質問対応をすればするほど,時給が下がる構造ですので。私自身,2012年頃から「もらえる分しか仕事しない」と割り切るようになりました。学生さんに申し訳ないとは思いつつも。
それだけならまだしも,露骨に有害なことをする輩もいます。たとえば,卒論代行のバイトです。1本請け負えば手取りで15万円ほどもらえます。半期1コマの授業と同じ対価です。自分の専門も活かせるので,これはオイシイ。良心を痛めつつも,背に腹は代えられぬと,こういうバイトに手を染める輩もいるんです。これは,大学教育にとって明らかに有害なこと。
昨今,経営難に苦しむ大学が増えていますが,人件費抑制志向も度が過ぎると,大学教育の質を脅かすことになりそうです。大学教員の専業非常勤化は,高度人材の人権侵害のみならず,学生の教育を受ける権利をも侵害します。
では,どうすべきか。まずは,非常勤講師の待遇改善でしょう。実をいうと,大学によって少なからぬ幅があります。1コマの対価も違いますし,わずかながらボーナスを支給したり,試験採点の手当てを出す大学もあります。この辺は,大学の良識に関わることです。その気になればできること。とくに,授業の多くを非常勤講師に外注している大学は,考えてもらいたいところです。
そもそも,授業の大半を非常勤講師に外注するのも問題。非常勤講師が持つ授業の割合に制限を設けるべきです。授業の半分以上を非常勤講師が担当するなど,言語道断。学生にすれば「何この大学,先生はほとんどバイト?」です。
あとは,大学教員市場に続々と送り込まれるオーバードクターを人為的に減らすこと。供給過剰の状態にある,大学院博士課程の定員の見直しも必要でしょう。まあ,行き場がないことが知れ渡ったためか,博士課程の入学者は2003年をピークに減少の傾向にあるのですが(下図)。
中日新聞記事にて,ご自身の苦境を包み隠さず曝露された,天池洋介さんの気概に敬意を表します。現職の非常勤講師が,実名・顔出しでこの問題に切り込むのは,非常にレアケースです。
現在,39歳とのこと。私は40歳になった2016年に,「若い人に代わって欲しい」と,非常勤講師を軒並み雇い止めになりました(会議や会合に出ない,私の態度が問題になったという話も聞きましたが)。この「40歳の壁」に阻まれないことを祈ります。
最後になりましたが,名古屋から横須賀まで取材に出向いてくださった,中日新聞の細川暁子氏に感謝の意を表します。
https://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2019071502000002.html
メインは,天池洋介さんという現職の非常勤講師の方です。年齢は39歳,私と同じく氷河期世代ですね。現職の人で,実名・顔出しで出るとは勇気があるなと思います。雇い止めや就職活動への影響を恐れ,尻込みする人が多いのですが,問題を告発したいという気概が勝ったのでしょうか。
内容もリアルです。年収は200万未満,1日1食,コンビニ弁当にも手が出ない…。生活苦を包み隠さずさらけ出しています。東海圏の大学や専門学校4校で非常勤をされていて,今年度は前期6コマ,後期5コマですか。1コマ(半期15回)の対価が15万円ほどですので,年収は15万 × 11コマ=165万円。幾ばくかの雑収入を合わせても,200万には届きそうにありません。
それでも,「1日1食,コンビニ弁当にも手が出ない」というのはオーバーではないかと思われるかもしれません。しかし,奨学金返済や研究費・学会参加費自腹という重荷が加わりますので,あり得ないことではありません。
年間の奨学金返済が30万円,研究費・学会参加費が15万円とすると,手元に残るのは,165-45=120万円。月に10万円で,食費,交際費,家賃,光熱費,税金,国保・年金等を賄わないといけない。「1日1食,友人から恵んでもらったお米でおかずは白菜の漬物」となっても,なんら不思議ではないです。これが,専業非常勤講師のリアルです。
その専業非常勤講師ですが,文科省統計では「本務なし兼務教員」としてカウントされています。4年制大学(以下,大学)の専業非常勤講師数をみると。1989年は1万5689人だったのが,2016年9万3145人に膨れ上がっています。6倍の増加です。同じ期間にかけて専任教員が1.5倍にしか増えてない(12万1105人→18万4273人)ことと比すと,すごい増加率です。
大学の人件費抑制志向が強まっているためですが,上記のような超薄給で,よくもまあなり手がいるもんだと不思議に思われるでしょう。答えは簡単,大学院重点化政策で行き場のないオーバードクターが増えているからです。今や,非常勤講師の職も奪い合いで,採用時に給与すら聞けない状態になっています。需要側の要因(人件費抑制)と供給側の要因(ODの増加)が,絶妙にマッチしているわけです。
様相は専攻によっても違います。大学の専任教員数と専業非常講師数を専攻別に整理すると,以下のようになります。上段は大学院重点化前の1989年,下段は最新の2016年のデータです。文科省『学校教員統計』から採取した数値です。
どの専攻でも,専業非常講師が増えています。増加幅は専任教員を上回り,専業非常勤講師の比重も増しています。2016年でみると,人文科学と芸術では,前者より後者が多くなっています。人文科学は,大半が語学系の授業を持つ非常勤でしょうが,この依存率はすさまじい。
授業の多くを,不安定な生活にあえぐ専業非常勤講師が持ったらどうなるか。研究室がなく,複数校を掛け持ちしている人も多いので,学生の質問に落ち着いて応じるのも難しい。「時間がないから今度ね」「またね」…。こういう拒否反応を何度もされたら,学生も勉学の意欲が萎えるというものです。
首都圏非常勤講師組合のアンケートの自由記述をみると,待遇の悪さに不満を高じさせ,投げやりな態度で授業をする人もいるようです。これも無理からぬこと。真面目に授業準備や質問対応をすればするほど,時給が下がる構造ですので。私自身,2012年頃から「もらえる分しか仕事しない」と割り切るようになりました。学生さんに申し訳ないとは思いつつも。
それだけならまだしも,露骨に有害なことをする輩もいます。たとえば,卒論代行のバイトです。1本請け負えば手取りで15万円ほどもらえます。半期1コマの授業と同じ対価です。自分の専門も活かせるので,これはオイシイ。良心を痛めつつも,背に腹は代えられぬと,こういうバイトに手を染める輩もいるんです。これは,大学教育にとって明らかに有害なこと。
昨今,経営難に苦しむ大学が増えていますが,人件費抑制志向も度が過ぎると,大学教育の質を脅かすことになりそうです。大学教員の専業非常勤化は,高度人材の人権侵害のみならず,学生の教育を受ける権利をも侵害します。
では,どうすべきか。まずは,非常勤講師の待遇改善でしょう。実をいうと,大学によって少なからぬ幅があります。1コマの対価も違いますし,わずかながらボーナスを支給したり,試験採点の手当てを出す大学もあります。この辺は,大学の良識に関わることです。その気になればできること。とくに,授業の多くを非常勤講師に外注している大学は,考えてもらいたいところです。
そもそも,授業の大半を非常勤講師に外注するのも問題。非常勤講師が持つ授業の割合に制限を設けるべきです。授業の半分以上を非常勤講師が担当するなど,言語道断。学生にすれば「何この大学,先生はほとんどバイト?」です。
あとは,大学教員市場に続々と送り込まれるオーバードクターを人為的に減らすこと。供給過剰の状態にある,大学院博士課程の定員の見直しも必要でしょう。まあ,行き場がないことが知れ渡ったためか,博士課程の入学者は2003年をピークに減少の傾向にあるのですが(下図)。
中日新聞記事にて,ご自身の苦境を包み隠さず曝露された,天池洋介さんの気概に敬意を表します。現職の非常勤講師が,実名・顔出しでこの問題に切り込むのは,非常にレアケースです。
現在,39歳とのこと。私は40歳になった2016年に,「若い人に代わって欲しい」と,非常勤講師を軒並み雇い止めになりました(会議や会合に出ない,私の態度が問題になったという話も聞きましたが)。この「40歳の壁」に阻まれないことを祈ります。
最後になりましたが,名古屋から横須賀まで取材に出向いてくださった,中日新聞の細川暁子氏に感謝の意を表します。
2019年7月13日土曜日
都道府県別の空き家率の推計
鹿児島の奄美地方では,梅雨明けが発表されたそうです。関東はいつになるのやら。曇天の日が続き,気が滅入ります。
昨日,「2043年の都道府県別の空き家率の推計」という表をツイッターで流したところ,「実感ある数値だ,計算方法を教えて欲しい」という質問がきました。メールでです。
別に,込み入ったことをしているのではありません。中学生でも思いつくような,単純な外挿法です。今のトレンドが続くと仮定した場合,未来はどうなるかを推し量っただけです。使用したのは,2013年と2018年の都道府県別の住宅数,空き家数です。総務省『住宅土地統計』に載っています。
私の郷里の鹿児島県を例に,説明いたしましょう。
2013年から18年にかけて,住宅数は1.017倍,空き家数は1.130倍に増えました。この倍率を18年の戸数にかけて,23年の住宅数・空き家数を出します。同じ倍率を23年の戸数にかけ,5年後の28年の戸数を出す…。この繰り返しです。
分母と分子が今のペースで変化し続けると仮定した場合,どうなるかです。直線的な変化を仮定した乱暴な試算ですが,これによると,20年後の2038年の鹿児島県の住宅数は94万2883戸で,うち空き家が27万991戸と見込まれます。空き家率は28.7%です。さらに20年経った2058年には43.7%になると。
県内の住宅の4割が空き家…。にわかには信じがたいですが,実際はもっと高くなるのではないでしょうか。人口減少の中,さすがに新住居の建設は控えられるでしょうから,分母の増加は緩やかになる,いや減少に転じる可能性があります。対して分子の空き家数は,増加のスピードが高まるとみられます。これから,死ぬ人が増えてきますので。
今から40年後,鹿児島県の空き家率は50%,半分を越えているかもしれません。しかるに,同じやり方で全県の空き家率を予測してみると,このラインを超える県も出てきます。2018年の実測値,2038年と2058年の予測値を高い順に並べたランキング表を掲げます。20年スパンの未来展望です。
全国値はほとんど変わりません。住宅数と空き家数の増加スピードがほぼ同じだからです。しかし前者より後者が大きい県では,空き家率はどんどん上がります。先ほど例示した鹿児島県は,その典型です(18.9% → 28.7% → 43.7%)。
20%を超える県は薄い色,30%を超える県は濃い色をつけました。時代と共に,不穏なゾーンが広がってきます。空き家が今のペースで増え続けるとしたら場合,2058年には,空き家率20%超の県が19県,30%超が11県になると見込まれます。
被災3県(宮城,福島,岩手)は,信じがたい数値になっています。計算に使った,2013~18年の空き家の増加倍率が高いためです。2011年の東日本大震災の影響であるのは明白で,これら3県の数値は割り引いて考える必要があります。
しかし,それとは無関係な西の諸県の空き家率も高く出ています。和歌山県は52%,鹿児島県は44%,徳島県は43%です。少産多死が進む中,分子の空き家数の増加速度は高まるでしょうから,実際はもっと高くなる可能性もあり。
全住宅の2割,3割,4割が空き家…。こういう地域が出てくるわけです。放置しておいたら,ゴーストタウン化するのは必至。堀江貴文さんが予言している通り,「家賃は要らないから,ハウスキーパーとして空き家に住んでください」と懇願される時代になるかもしれません。
前回も書きましたが,先行き不透明な中,長期のローンを組んで新居を建てるのはどうか,という気になってきますね。
空き家は,放置しておくだけなら,朽ち果てたり,犯罪の温床になったりと,社会の安全を脅かす危険因子になります。しかし適切に活用されるなら,全く逆です。若者の「住」支援に使われてもいいでしょう。若者の離家を促し,未婚化・少子化の歯止めになるかもしれません。
私が住んでいる地域にも,空き家と思しき建物がゴロゴロあります。夕刻のウォーキングで,「この平屋いいなあ。あと10年後には,『ハウスキーパー募集,家賃不要』なんていう張り紙が貼られるのかなあ」と,物色を楽しんでいます。
昨日,「2043年の都道府県別の空き家率の推計」という表をツイッターで流したところ,「実感ある数値だ,計算方法を教えて欲しい」という質問がきました。メールでです。
別に,込み入ったことをしているのではありません。中学生でも思いつくような,単純な外挿法です。今のトレンドが続くと仮定した場合,未来はどうなるかを推し量っただけです。使用したのは,2013年と2018年の都道府県別の住宅数,空き家数です。総務省『住宅土地統計』に載っています。
私の郷里の鹿児島県を例に,説明いたしましょう。
2013年から18年にかけて,住宅数は1.017倍,空き家数は1.130倍に増えました。この倍率を18年の戸数にかけて,23年の住宅数・空き家数を出します。同じ倍率を23年の戸数にかけ,5年後の28年の戸数を出す…。この繰り返しです。
分母と分子が今のペースで変化し続けると仮定した場合,どうなるかです。直線的な変化を仮定した乱暴な試算ですが,これによると,20年後の2038年の鹿児島県の住宅数は94万2883戸で,うち空き家が27万991戸と見込まれます。空き家率は28.7%です。さらに20年経った2058年には43.7%になると。
県内の住宅の4割が空き家…。にわかには信じがたいですが,実際はもっと高くなるのではないでしょうか。人口減少の中,さすがに新住居の建設は控えられるでしょうから,分母の増加は緩やかになる,いや減少に転じる可能性があります。対して分子の空き家数は,増加のスピードが高まるとみられます。これから,死ぬ人が増えてきますので。
今から40年後,鹿児島県の空き家率は50%,半分を越えているかもしれません。しかるに,同じやり方で全県の空き家率を予測してみると,このラインを超える県も出てきます。2018年の実測値,2038年と2058年の予測値を高い順に並べたランキング表を掲げます。20年スパンの未来展望です。
全国値はほとんど変わりません。住宅数と空き家数の増加スピードがほぼ同じだからです。しかし前者より後者が大きい県では,空き家率はどんどん上がります。先ほど例示した鹿児島県は,その典型です(18.9% → 28.7% → 43.7%)。
20%を超える県は薄い色,30%を超える県は濃い色をつけました。時代と共に,不穏なゾーンが広がってきます。空き家が今のペースで増え続けるとしたら場合,2058年には,空き家率20%超の県が19県,30%超が11県になると見込まれます。
被災3県(宮城,福島,岩手)は,信じがたい数値になっています。計算に使った,2013~18年の空き家の増加倍率が高いためです。2011年の東日本大震災の影響であるのは明白で,これら3県の数値は割り引いて考える必要があります。
しかし,それとは無関係な西の諸県の空き家率も高く出ています。和歌山県は52%,鹿児島県は44%,徳島県は43%です。少産多死が進む中,分子の空き家数の増加速度は高まるでしょうから,実際はもっと高くなる可能性もあり。
全住宅の2割,3割,4割が空き家…。こういう地域が出てくるわけです。放置しておいたら,ゴーストタウン化するのは必至。堀江貴文さんが予言している通り,「家賃は要らないから,ハウスキーパーとして空き家に住んでください」と懇願される時代になるかもしれません。
前回も書きましたが,先行き不透明な中,長期のローンを組んで新居を建てるのはどうか,という気になってきますね。
空き家は,放置しておくだけなら,朽ち果てたり,犯罪の温床になったりと,社会の安全を脅かす危険因子になります。しかし適切に活用されるなら,全く逆です。若者の「住」支援に使われてもいいでしょう。若者の離家を促し,未婚化・少子化の歯止めになるかもしれません。
私が住んでいる地域にも,空き家と思しき建物がゴロゴロあります。夕刻のウォーキングで,「この平屋いいなあ。あと10年後には,『ハウスキーパー募集,家賃不要』なんていう張り紙が貼られるのかなあ」と,物色を楽しんでいます。
2019年7月12日金曜日
人口当たりの空き家数はどうなるか
今年1月1日の日本人人口は1億2447万6364人で,前年に比して43万3239人減ったそうです。1年間で43万人も減ったのは初めてとのこと。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6329638
どんどん縮んでいくニッポンですが,1年間で43万人も減少とは驚きです。私が住んでいる横須賀市の人口は39万6千人ほどですが,このレベルの都市がごっそり無くなっていることになります。たった1年間で。
高齢化の影響で死亡者数が増え,出生数は減っています。両者の差分が自然減ですが,年々この数が増えていると。厚労省の『人口動態統計』から,両者の長期推移をとれます。また,国立社会保障・人口問題研究所のレポートから,将来推計も得られます。下図は,1900~2060年までのカーブです。
明治期以降,長らく出生数が死亡数を上回る「自然増」の時代が続いてきました。私が生まれた1976年では,出生数183万人,死亡数70万人でした。しかしこの頃から前者が減り,後者が増え始め,2007年には逆転し,「自然減」の時代に突入。その差はじわじわ広がり,2018年の出生数は94万人,死亡数は136万人となっています(推計値)。この年の自然減は42万人。なるほど,冒頭の43万人という数値とほぼ一致しています。
死亡数と出生数の差分,グラフの色付きのゾーンが自然減ですが,2020年以降,毎年50万人以上人口が減っていくと見込まれます。毎年,このクラスの大都市が消失していくわけです。ある論者が「静かなる有事」と言っていますが,言い得て妙です。
気が滅入りますが,さぞ家は余るようになるだろうなと思います。住む人が死んでも,家は残りますので。2018年の『住宅土地統計』によると,総住宅数は6242万戸で,うち空き家が846万戸となっています。同年の人口は1億2618万人ほど。
この3つの数値の推移と,将来予測値を出してみました。『住宅土地統計』の実施年(5年おき)のデータです。2023年以降の予測値は,2013~18年の増加倍率を適用して出しました。2013~18年にかけて住宅数は1.0295倍,空き家は1.0323倍に増えましたが,2018年の戸数にこの倍率をかけて,2023年の戸数を推し量った次第です。同様に2023年の戸数に上記の倍率をかけて2028年の戸数を出す。以下,同じです。人口は,2019年の『日本統計年鑑』に載っている数値を使っています。
2018年のデータだと,人口100人あたりの住宅数は49.5戸,空き家は6.7戸です。これから人口が減るのは分かっていますが,住宅数・空き家数が今のペースで増え続けるとすると,2058年には人口100人あたりの住宅数が83.2戸,空き家数が11.5戸になると見込まれます。
今後,空き家増加のスピードが増すとすると,人口100人につき空き家が20戸(5人に1戸)の時代になるかもしれません。戦後初期の住宅難の時代からすれば,夢のようですね。
これは日本全国の予測値ですが,都道府県別の見積もりもできます。都道府県別の将来推計人口(『国勢調査』の実施年,5年間隔)は,2045年までしか得られません。2045年の推計人口を,2043年の住宅数・空き家数の推計値と照らしわせてみます。
人口当たりの空き家数をみると,100人当たり20戸(5人に1戸)を超える県が5県あります。2013~18年の空き家増加ペースが続くと仮定した見積もりですので,被災3県(岩手,宮城,福島)は割り引いて考えないといけないですが,西の5県はそういう特殊事情とは無縁です。
私の郷里の鹿児島は,2040年代には人口120.4万人,空き家30.6万戸,県民4人に1戸の空き家が出る計算になります。スゴイですね。
皆さんは,このデータをどうご覧になられますか。近未来の日本は,朽ち果てた空き家だらけのゴーストタウンになる,国内外の犯罪者の巣窟になる…。こういう不穏な未来図を思い浮かべる人もおられるでしょう。
家というのは,人が住まないと荒みますからね。しからば,人に住んでもらえばいいだけのこと。先進国ニッポンでも,住居に困っている人はたくさんいます。そういう人たちに安い賃料,ないしはタダで貸し出せばいいのです。ハウスキーパーの役割を果たしていただくと。
今でも,タダで人様の家を借りている人はいます。2013年の『住宅土地統計』によると,家賃0円の借家に住んでいる世帯は36万世帯となっています。間もなく公開される2018年データでは,50万世帯を超えているかもしれません。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/0.php
近い将来,黙っていても家が空から降ってくる時代になりそうですね。2043年の鹿児島県の推計住宅数は96万戸,うち空き家が31万戸,住宅の3分の1が空き家になると。放置しておいたら,地域全体がゴーストタウン化するのは必至。とにかく,人に住んでもらうしかないわけです。
若い世代で,住宅ローンの残高が増えているそうです。住める家が余りまくる時代になるのに,長期ローンを組んでマイホームを建てるというのは,いかがなものでしょう。人口減少社会においては,新たなハコを作るのではなく,今あるハコを活かす。これが基本です。
近未来の日本については悲観的な予測だらけですが,明るい展望もあります。黙っていても,家が空から降ってくるようになることです。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6329638
どんどん縮んでいくニッポンですが,1年間で43万人も減少とは驚きです。私が住んでいる横須賀市の人口は39万6千人ほどですが,このレベルの都市がごっそり無くなっていることになります。たった1年間で。
高齢化の影響で死亡者数が増え,出生数は減っています。両者の差分が自然減ですが,年々この数が増えていると。厚労省の『人口動態統計』から,両者の長期推移をとれます。また,国立社会保障・人口問題研究所のレポートから,将来推計も得られます。下図は,1900~2060年までのカーブです。
明治期以降,長らく出生数が死亡数を上回る「自然増」の時代が続いてきました。私が生まれた1976年では,出生数183万人,死亡数70万人でした。しかしこの頃から前者が減り,後者が増え始め,2007年には逆転し,「自然減」の時代に突入。その差はじわじわ広がり,2018年の出生数は94万人,死亡数は136万人となっています(推計値)。この年の自然減は42万人。なるほど,冒頭の43万人という数値とほぼ一致しています。
死亡数と出生数の差分,グラフの色付きのゾーンが自然減ですが,2020年以降,毎年50万人以上人口が減っていくと見込まれます。毎年,このクラスの大都市が消失していくわけです。ある論者が「静かなる有事」と言っていますが,言い得て妙です。
気が滅入りますが,さぞ家は余るようになるだろうなと思います。住む人が死んでも,家は残りますので。2018年の『住宅土地統計』によると,総住宅数は6242万戸で,うち空き家が846万戸となっています。同年の人口は1億2618万人ほど。
この3つの数値の推移と,将来予測値を出してみました。『住宅土地統計』の実施年(5年おき)のデータです。2023年以降の予測値は,2013~18年の増加倍率を適用して出しました。2013~18年にかけて住宅数は1.0295倍,空き家は1.0323倍に増えましたが,2018年の戸数にこの倍率をかけて,2023年の戸数を推し量った次第です。同様に2023年の戸数に上記の倍率をかけて2028年の戸数を出す。以下,同じです。人口は,2019年の『日本統計年鑑』に載っている数値を使っています。
2018年のデータだと,人口100人あたりの住宅数は49.5戸,空き家は6.7戸です。これから人口が減るのは分かっていますが,住宅数・空き家数が今のペースで増え続けるとすると,2058年には人口100人あたりの住宅数が83.2戸,空き家数が11.5戸になると見込まれます。
今後,空き家増加のスピードが増すとすると,人口100人につき空き家が20戸(5人に1戸)の時代になるかもしれません。戦後初期の住宅難の時代からすれば,夢のようですね。
これは日本全国の予測値ですが,都道府県別の見積もりもできます。都道府県別の将来推計人口(『国勢調査』の実施年,5年間隔)は,2045年までしか得られません。2045年の推計人口を,2043年の住宅数・空き家数の推計値と照らしわせてみます。
人口当たりの空き家数をみると,100人当たり20戸(5人に1戸)を超える県が5県あります。2013~18年の空き家増加ペースが続くと仮定した見積もりですので,被災3県(岩手,宮城,福島)は割り引いて考えないといけないですが,西の5県はそういう特殊事情とは無縁です。
私の郷里の鹿児島は,2040年代には人口120.4万人,空き家30.6万戸,県民4人に1戸の空き家が出る計算になります。スゴイですね。
皆さんは,このデータをどうご覧になられますか。近未来の日本は,朽ち果てた空き家だらけのゴーストタウンになる,国内外の犯罪者の巣窟になる…。こういう不穏な未来図を思い浮かべる人もおられるでしょう。
家というのは,人が住まないと荒みますからね。しからば,人に住んでもらえばいいだけのこと。先進国ニッポンでも,住居に困っている人はたくさんいます。そういう人たちに安い賃料,ないしはタダで貸し出せばいいのです。ハウスキーパーの役割を果たしていただくと。
今でも,タダで人様の家を借りている人はいます。2013年の『住宅土地統計』によると,家賃0円の借家に住んでいる世帯は36万世帯となっています。間もなく公開される2018年データでは,50万世帯を超えているかもしれません。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/0.php
近い将来,黙っていても家が空から降ってくる時代になりそうですね。2043年の鹿児島県の推計住宅数は96万戸,うち空き家が31万戸,住宅の3分の1が空き家になると。放置しておいたら,地域全体がゴーストタウン化するのは必至。とにかく,人に住んでもらうしかないわけです。
若い世代で,住宅ローンの残高が増えているそうです。住める家が余りまくる時代になるのに,長期ローンを組んでマイホームを建てるというのは,いかがなものでしょう。人口減少社会においては,新たなハコを作るのではなく,今あるハコを活かす。これが基本です。
近未来の日本については悲観的な予測だらけですが,明るい展望もあります。黙っていても,家が空から降ってくるようになることです。
2019年7月9日火曜日
労働時間と所得
今月の21日は,参院選の投票日です。夕刻のウォーキングで,候補者のポスターを貼った掲示板に出くわします。思ったより若い人や女性が多く,好感を持ちました。
その中で,「8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」と言っている人がいます。労基法で規定されている法定労働時間(週40時間)ですが,これを満たせば勤労の義務を立派に果たしているわけですので,当然といえばそうですよね。
しかし現実はそうではない。だからこそ,こういうフレーズに「おお」となってしまう。こんな感覚になっている自分が怖くもあります。
労働時間と給与はある程度相関するはずです。昔に比して単純労働や肉体労働が減った今では,他の要素が入り込む余地が多分にありますが,普通に働けば普通の暮らしが保障される社会が望ましい。ごく当たり前のことで,普通に働くの目安が「1日8時間労働=週40時間労働」です。
基礎的なデータを出してみましょう。2017年の総務省『就業構造基本調査』に,週間就業時間と年間所得のクロス表が出ています。全国編,人口・就業に関する統計表の「03001」表です。
年間200日以上の規則的就業をしている就業者を取り出し,週間就業時間と所得のクロスをとってみます。所得は200万円刻みの4カテゴリーにまとめました。
どうでしょう。男性は週35時間で段差があり,それ以降の所得はほぼフラット(変化なし)になっています。年齢や職業などの要素が混ざっているためかもしれませんが,フルタイム(正社員)にあっては,労働時間と給与はあまり関連しないようです。
真ん中の「週35~45時間」あたりをみると,4割ほどが所得400万未満で,600万を超えるのは4人に1人です。男性の場合,普通に働いた対価がこうなのですが,普通の暮らしができるレベルといえるでしょうか。私のような独り身を養う分には十分ですが,そうでないとなると…。判断が割れるところです。
右側の女性をみると,こちらは厳しい印象を持ちます。水色と茶色のゾーンが広く,法定の労働時間働いても,4人に3人が400万円(税引き前!)に達しません。4人に1人は,200万円に満たないワーキングプアです。女性の場合,馬車馬のように働いても600万円稼ぐのは難しい。
現実をみると,候補者がポスターに書いている「8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」というフレーズに魅かれてきますね。今の日本社会では,それが実現されているとは言い難い。女性は特にです。
その女性を正規雇用と非正規雇用に分けてみると,もっと悲惨な状態が露わになります。
正社員に絞ると幾分かマシになりますが,法定労働時間では400万に届くのは並大抵のことではありません。右側の非正規は,もう目を背けたくなる模様で,どれほど働いても半分がワーキングプアで,9割が400万未満となっています。
非正規はマイノリティかというと,そんなことはありません。女性雇用者の4割は非正規雇用です。実数にすると755万人ほど。夫の扶養下に入っていて,就業調整している人が多いでしょうが,この超薄給で生計を立てている人もいます。たとえばシングルマザーです。
法定労働時間どころか,どんなに働いても貧困から抜け出るのは難しい。母子世帯の困窮は,右側のグラフの模様からはっきりとうかがい知ることができます。女性は男性に扶養されるべしという考えが続いてきた結果ですが,21世紀になってもこんな有様とは驚きます。女性の社会進出は,M字カーブの底が浅くなっただの,そんなことでは測れないようです。
こういう社会って,他にあるんでしょうか。OECDの成人学力調査「PIAAC 2012」では,仕事をしている人に週間就業時間と年収を訊いています。年収は,国全体の中でどの辺に当たるかを見積もってもらう形式です。
週35~44時間働いている女性を取り出し,どれほどの年収を得ているかを国ごとに比べてみます。下位25%未満のプアと,上位25%以上のリッチの比重をグラフにすると,以下のようになります。前者が高い順に29の社会を並べてみました。
赤色は,フルタイム勤務をしつつもワーキングプア状態に置かれている女性の率と読めます。首位はスロバキア,2位はギリシャ,3位は日本で,フルタイム就業女性の半分以上がワーキングプアです。普通に働いても,普通の暮らしが得られない社会なり。
対して下方にあるのは,フルタイムで普通に働けば普通の暮らしができる収入を得られる国で,欧米の主要国はこのエリアに位置しています。オランダはいいですね。パート大国と言われ,日本のような正規・非正規なんていう区分はなく,賃金はあくまで労働時間の関数。それが表れています。
日本のように,普通に働いても女性の大半はワープアっていう社会は少数派です。女性は男性に扶養されるべしという考えが強いためですが,それは時代にそぐわなくなっているのは明白。未婚率,離婚率の高まりで,自身の稼ぎで生計を立てている女性は増えています。シングルマザーとして子育てをしている人も多し。
正社員になれたらいいですが,雇用の非正規化により,それも容易ではなくなっています。となると,2番目の図の右側のような蟻地獄でもがき苦しむことになる。メディアで報じられる母子世帯の悲惨な生活実態は,その可視化です。
上記のデータは,独身者と既婚者が混ざったものですが,未婚の非正規女性の稼ぎを見てみましょうか。老後がチラチラ見え始めている,アラフィフ年代(45~54歳)に注目します。下表は,47都道府県の中央値を高い順に並べたものです。
ううう,全県がワーキングプア一色です。単身では生活が難しいと思われますが,これで暮らしている人もいます。さらには,子を養っているシングルマザーもいます。
未婚者ですので,就業調整をしているとは考えられません。独り身を養うべく,フルタイム労働をしている女性が大半でしょう。しかしその対価はこの有様であると。怖くて,老後のことなど考えたくもないはず。日々の暮らしで必死で,そんなことに思いをめぐらす時間もないのでしょうけど。
最近話題になっている,アラフィフ独身女性の貧困の可視化です。繰り返しますが,女性は男性に扶養されるべしという考えが根付いてきた故のこと。しかるに,パートナーがおらず独り身で暮らす女性が増えている中,それは明らかに時代錯誤なり。
普通に働けば普通の暮らしが得られる。この大原則に照らせば,上表のデータはもう,違法とも言い得るレベルです(実際そうなんですけど)。今度の参院選では,こういう歪みを正してくれそうな人に票を投じようと思います。
AIの台頭により,人間が労働から解放される時代がくるといいます。それはずっと先でしょうが,1日8時間の「普通」の労働で済む時代は,すぐそこのはずです。AIとBI(ベーシックインカム)の組み合わせで,普通に働けば普通の暮らしが得られる社会の実現を。
その中で,「8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」と言っている人がいます。労基法で規定されている法定労働時間(週40時間)ですが,これを満たせば勤労の義務を立派に果たしているわけですので,当然といえばそうですよね。
しかし現実はそうではない。だからこそ,こういうフレーズに「おお」となってしまう。こんな感覚になっている自分が怖くもあります。
労働時間と給与はある程度相関するはずです。昔に比して単純労働や肉体労働が減った今では,他の要素が入り込む余地が多分にありますが,普通に働けば普通の暮らしが保障される社会が望ましい。ごく当たり前のことで,普通に働くの目安が「1日8時間労働=週40時間労働」です。
基礎的なデータを出してみましょう。2017年の総務省『就業構造基本調査』に,週間就業時間と年間所得のクロス表が出ています。全国編,人口・就業に関する統計表の「03001」表です。
年間200日以上の規則的就業をしている就業者を取り出し,週間就業時間と所得のクロスをとってみます。所得は200万円刻みの4カテゴリーにまとめました。
どうでしょう。男性は週35時間で段差があり,それ以降の所得はほぼフラット(変化なし)になっています。年齢や職業などの要素が混ざっているためかもしれませんが,フルタイム(正社員)にあっては,労働時間と給与はあまり関連しないようです。
真ん中の「週35~45時間」あたりをみると,4割ほどが所得400万未満で,600万を超えるのは4人に1人です。男性の場合,普通に働いた対価がこうなのですが,普通の暮らしができるレベルといえるでしょうか。私のような独り身を養う分には十分ですが,そうでないとなると…。判断が割れるところです。
右側の女性をみると,こちらは厳しい印象を持ちます。水色と茶色のゾーンが広く,法定の労働時間働いても,4人に3人が400万円(税引き前!)に達しません。4人に1人は,200万円に満たないワーキングプアです。女性の場合,馬車馬のように働いても600万円稼ぐのは難しい。
現実をみると,候補者がポスターに書いている「8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」というフレーズに魅かれてきますね。今の日本社会では,それが実現されているとは言い難い。女性は特にです。
その女性を正規雇用と非正規雇用に分けてみると,もっと悲惨な状態が露わになります。
正社員に絞ると幾分かマシになりますが,法定労働時間では400万に届くのは並大抵のことではありません。右側の非正規は,もう目を背けたくなる模様で,どれほど働いても半分がワーキングプアで,9割が400万未満となっています。
非正規はマイノリティかというと,そんなことはありません。女性雇用者の4割は非正規雇用です。実数にすると755万人ほど。夫の扶養下に入っていて,就業調整している人が多いでしょうが,この超薄給で生計を立てている人もいます。たとえばシングルマザーです。
法定労働時間どころか,どんなに働いても貧困から抜け出るのは難しい。母子世帯の困窮は,右側のグラフの模様からはっきりとうかがい知ることができます。女性は男性に扶養されるべしという考えが続いてきた結果ですが,21世紀になってもこんな有様とは驚きます。女性の社会進出は,M字カーブの底が浅くなっただの,そんなことでは測れないようです。
こういう社会って,他にあるんでしょうか。OECDの成人学力調査「PIAAC 2012」では,仕事をしている人に週間就業時間と年収を訊いています。年収は,国全体の中でどの辺に当たるかを見積もってもらう形式です。
週35~44時間働いている女性を取り出し,どれほどの年収を得ているかを国ごとに比べてみます。下位25%未満のプアと,上位25%以上のリッチの比重をグラフにすると,以下のようになります。前者が高い順に29の社会を並べてみました。
赤色は,フルタイム勤務をしつつもワーキングプア状態に置かれている女性の率と読めます。首位はスロバキア,2位はギリシャ,3位は日本で,フルタイム就業女性の半分以上がワーキングプアです。普通に働いても,普通の暮らしが得られない社会なり。
対して下方にあるのは,フルタイムで普通に働けば普通の暮らしができる収入を得られる国で,欧米の主要国はこのエリアに位置しています。オランダはいいですね。パート大国と言われ,日本のような正規・非正規なんていう区分はなく,賃金はあくまで労働時間の関数。それが表れています。
日本のように,普通に働いても女性の大半はワープアっていう社会は少数派です。女性は男性に扶養されるべしという考えが強いためですが,それは時代にそぐわなくなっているのは明白。未婚率,離婚率の高まりで,自身の稼ぎで生計を立てている女性は増えています。シングルマザーとして子育てをしている人も多し。
正社員になれたらいいですが,雇用の非正規化により,それも容易ではなくなっています。となると,2番目の図の右側のような蟻地獄でもがき苦しむことになる。メディアで報じられる母子世帯の悲惨な生活実態は,その可視化です。
上記のデータは,独身者と既婚者が混ざったものですが,未婚の非正規女性の稼ぎを見てみましょうか。老後がチラチラ見え始めている,アラフィフ年代(45~54歳)に注目します。下表は,47都道府県の中央値を高い順に並べたものです。
ううう,全県がワーキングプア一色です。単身では生活が難しいと思われますが,これで暮らしている人もいます。さらには,子を養っているシングルマザーもいます。
未婚者ですので,就業調整をしているとは考えられません。独り身を養うべく,フルタイム労働をしている女性が大半でしょう。しかしその対価はこの有様であると。怖くて,老後のことなど考えたくもないはず。日々の暮らしで必死で,そんなことに思いをめぐらす時間もないのでしょうけど。
最近話題になっている,アラフィフ独身女性の貧困の可視化です。繰り返しますが,女性は男性に扶養されるべしという考えが根付いてきた故のこと。しかるに,パートナーがおらず独り身で暮らす女性が増えている中,それは明らかに時代錯誤なり。
普通に働けば普通の暮らしが得られる。この大原則に照らせば,上表のデータはもう,違法とも言い得るレベルです(実際そうなんですけど)。今度の参院選では,こういう歪みを正してくれそうな人に票を投じようと思います。
AIの台頭により,人間が労働から解放される時代がくるといいます。それはずっと先でしょうが,1日8時間の「普通」の労働で済む時代は,すぐそこのはずです。AIとBI(ベーシックインカム)の組み合わせで,普通に働けば普通の暮らしが得られる社会の実現を。
2019年7月4日木曜日
同性愛への寛容度の年齢差
同性愛指向の外国人を,日本政府が難民認定したそうです。母国に返すと,迫害される恐れがあるためとのこと。
https://digital.asahi.com/articles/ASM723SMMM72UTIL00Y.html
意識や考え方というのは,社会によって大きく違います。社会学という学問が成り立つ所以ですが,とりわけ同性愛(homosexuality)に対する考え方には,大きな国際差があります。上記の外国人は,同性愛への見方が厳しい国から逃れてきた人です。
各国の研究者が共同で実施する『世界価値観調査』では,同性愛をどれほど認められるかを,10段階で自己評定してもらっています。2010~14年に実施された第6回調査のデータによると,日本人の10段階評定の平均は5.14となっています。
はて,この値は高いのか低いのか。調査対象国の中では,どの辺に位置づくのか。58か国の平均点を出し,高い順に並べると以下のようになります。
8.18から1.13までの開きがあります。「同性愛,普通じゃん」という国もあれば,「絶対に許さない」という国もある。首位はスウェーデンで,2位はオランダ,3位はスペインとなっています。
いずれも,同性婚が合法化されている国ですね。赤字は,同性婚が合法の国です。アメリカでも,2015年に同性婚を認める判決が出され,今では合法となっています。
対して右下の国は,同性愛への見方が厳しい社会です。平均点が2.0にいかないのは,21か国あります。多くが中東やアフリカの諸国で,文化的・宗教的要因のためでしょう。同性愛には重い刑罰が科され,極刑に処される国もあるといいます。
日本はというと,58か国中12位で,思ったより高い位置にあります。同性婚が合法の5か国より高いじゃないですか。ブラジルを凌駕するというのは驚きです。
意識は進んでいるのに,何で同性婚が合法化されていないのか。うーん,政策を決める高齢者の頭が固いのですかねえ。実のところ日本は,意識の年齢差が大きな国です。上記の表は成人全体の寛容度の平均点ですが,年齢層別に出してみると,日本の20代は7.25,60歳以上は3.44となっています。倍以上の差です。
年齢による意識の違いがこんなにも大きい国は珍しい。それを見て取れるグラフをお見せしましょう。57か国について,10歳刻みの年齢層ごとに寛容度の平均点を計算し,縦軸上の布置図にしたものです。
57か国の分布幅の中で,日本がどの位置にあるかが分かります。年齢が上がるにつれ,きれいに右下がりに落ちていきます。順位でいうと,20代から5位,6位,11位,11位,16位,という具合です。
対してアメリカは,年齢差はさほど大きくなくフラットです。というか,こういう国のほうがスタンダードです。
最初の表でみた日本の高い位置は,若年層の押し上げによるようですね。20代の若者の意識は欧米と遜色ありません。いや,欧米よりも高いくらいです。しかし高齢層になると,一気にガク落ちすると。
日本は短期間で激しい社会変動を経てきたので,同性愛に限らず,諸々の意識や価値観の世代差が大きくなっています。それはそれでいいのですが,厄介なのは,為政者に世代的な偏りがあることです。政治家の大半が高齢者なのは,誰だって知っています。上記のグラフをみると,その損失が大きいことが分かり残念です。
議場に若者が増えれば,社会は大きく変わるような気がします。もうすぐ参院選ですが,意中の候補者がいない場合は,何も考えずに若い人に入れるのもいいでしょう。私はいつも,そうしています。棄権するよりは,為政者の歪んだ構成を正すのに票を使ったほうがいいからです。
日本の選挙は長年の地盤がモノをいい,新参者は不利になる傾向があります。投票率の低下が進んでいますが,棄権票の一定割合を女性や若手の候補者に上乗せするというのはどうでしょう。為政者の構成を正す必要があることには,コンセンサスができています。そのために民意を使うのは,的外れなことではありますまい。この点については,日本女性学習財団の機関紙『ウィラーン』の7月号でも申しました。
http://www.jawe2011.jp/welearn-publish/2808
最初の表をみると,同性婚が合法化されている国(赤色)の多くが,世界で重要な役割を果たしている国です。日本も同性婚を合法化しないと,これらの国から人材を迎えることができず,経済的にもマイナスの結果になるという警告もあります。
今回のデータから,その素地は十分にできていることがうかがわれます。これを政策や法律の形に具現化するのは,政治の役割です。若い有権者のみなさん,自分たちの意向を代弁してくれる同世代の人を議場に送りましょう。送られてきた選挙票をゴミ箱に捨てたりしないように。
https://digital.asahi.com/articles/ASM723SMMM72UTIL00Y.html
意識や考え方というのは,社会によって大きく違います。社会学という学問が成り立つ所以ですが,とりわけ同性愛(homosexuality)に対する考え方には,大きな国際差があります。上記の外国人は,同性愛への見方が厳しい国から逃れてきた人です。
各国の研究者が共同で実施する『世界価値観調査』では,同性愛をどれほど認められるかを,10段階で自己評定してもらっています。2010~14年に実施された第6回調査のデータによると,日本人の10段階評定の平均は5.14となっています。
はて,この値は高いのか低いのか。調査対象国の中では,どの辺に位置づくのか。58か国の平均点を出し,高い順に並べると以下のようになります。
8.18から1.13までの開きがあります。「同性愛,普通じゃん」という国もあれば,「絶対に許さない」という国もある。首位はスウェーデンで,2位はオランダ,3位はスペインとなっています。
いずれも,同性婚が合法化されている国ですね。赤字は,同性婚が合法の国です。アメリカでも,2015年に同性婚を認める判決が出され,今では合法となっています。
対して右下の国は,同性愛への見方が厳しい社会です。平均点が2.0にいかないのは,21か国あります。多くが中東やアフリカの諸国で,文化的・宗教的要因のためでしょう。同性愛には重い刑罰が科され,極刑に処される国もあるといいます。
日本はというと,58か国中12位で,思ったより高い位置にあります。同性婚が合法の5か国より高いじゃないですか。ブラジルを凌駕するというのは驚きです。
意識は進んでいるのに,何で同性婚が合法化されていないのか。うーん,政策を決める高齢者の頭が固いのですかねえ。実のところ日本は,意識の年齢差が大きな国です。上記の表は成人全体の寛容度の平均点ですが,年齢層別に出してみると,日本の20代は7.25,60歳以上は3.44となっています。倍以上の差です。
年齢による意識の違いがこんなにも大きい国は珍しい。それを見て取れるグラフをお見せしましょう。57か国について,10歳刻みの年齢層ごとに寛容度の平均点を計算し,縦軸上の布置図にしたものです。
57か国の分布幅の中で,日本がどの位置にあるかが分かります。年齢が上がるにつれ,きれいに右下がりに落ちていきます。順位でいうと,20代から5位,6位,11位,11位,16位,という具合です。
対してアメリカは,年齢差はさほど大きくなくフラットです。というか,こういう国のほうがスタンダードです。
最初の表でみた日本の高い位置は,若年層の押し上げによるようですね。20代の若者の意識は欧米と遜色ありません。いや,欧米よりも高いくらいです。しかし高齢層になると,一気にガク落ちすると。
日本は短期間で激しい社会変動を経てきたので,同性愛に限らず,諸々の意識や価値観の世代差が大きくなっています。それはそれでいいのですが,厄介なのは,為政者に世代的な偏りがあることです。政治家の大半が高齢者なのは,誰だって知っています。上記のグラフをみると,その損失が大きいことが分かり残念です。
議場に若者が増えれば,社会は大きく変わるような気がします。もうすぐ参院選ですが,意中の候補者がいない場合は,何も考えずに若い人に入れるのもいいでしょう。私はいつも,そうしています。棄権するよりは,為政者の歪んだ構成を正すのに票を使ったほうがいいからです。
日本の選挙は長年の地盤がモノをいい,新参者は不利になる傾向があります。投票率の低下が進んでいますが,棄権票の一定割合を女性や若手の候補者に上乗せするというのはどうでしょう。為政者の構成を正す必要があることには,コンセンサスができています。そのために民意を使うのは,的外れなことではありますまい。この点については,日本女性学習財団の機関紙『ウィラーン』の7月号でも申しました。
http://www.jawe2011.jp/welearn-publish/2808
最初の表をみると,同性婚が合法化されている国(赤色)の多くが,世界で重要な役割を果たしている国です。日本も同性婚を合法化しないと,これらの国から人材を迎えることができず,経済的にもマイナスの結果になるという警告もあります。
今回のデータから,その素地は十分にできていることがうかがわれます。これを政策や法律の形に具現化するのは,政治の役割です。若い有権者のみなさん,自分たちの意向を代弁してくれる同世代の人を議場に送りましょう。送られてきた選挙票をゴミ箱に捨てたりしないように。
2019年7月2日火曜日
若者の情報機器の所持率(2018年)
内閣府が2018年に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』の結果が公表されました。主要7か国の13~29歳を対象とした,意識や生活実態の調査です。
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h30/pdf-index.html
調査票をみると,興味深い設問が盛りだくさんですが,ありがたいことに,申請すればローデータを送ってくれます。私は早速申請し,ローデータのファイル(エクセル)をメールで送ってもらいました。7か国,7472人のデータです。
昨日,文科省HPをのぞいてみたら,学校教育の情報化の推進に関する法律が制定・施行されたとあります。日本の学校の情報化(ICT化)のレベルは世界最低なんですが,これをどうにかしようということでしょう。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1418577.htm
これからは,学校で大量の紙が配られることはなくなり,庶務連絡や宿題の提出等もネット経由になるかもしれないですね。そうなれば,生徒もパソコンを持たざるをえなくなります。
はて,日本の生徒のパソコン所持率はどれくらいなのか。上記の調査にて,バッチリ尋ねられています。調査票のF18です。スマホ,タブレット,ノートパソコン,デスクトップパソコン,携帯ゲーム機器の所持率を出すことができます。
上述のように調査対象の年齢は13~29歳と広いのですが,10代前半,10代後半,20代前半,20代後半,というように区分してみます。13~15歳,16~19歳。20~24歳,25~29歳の4群に分けましょう。
これら4つの年齢層に分け,5つの機器の所持率を国別に計算してみました。以下に,一覧表を掲げます。個票データから,私が独自に算出した数値であることを申し添えます。
スマホの所持率は高いですね。10代後半以降は,どの国でも9割以上となっています。ただ10代前半では,日本は79.2%で他国と開いています。あまり早くスマホを持たせるのはよくないと,頑なに考えている親御さんもいますからね。しかし海外でそんなことを言ったら,嘲笑されるでしょう。
タブレットは,日本はどの段階でも25%前後で,7か国では最も低くなっています。いわゆるデジタル教科書の普及度の違いでしょうか。中学生段階でみると,イギリスとスウェーデンは6割を超えています。
日本でも,今年度より紙の教科書に代えてデジタル教科書を使用できることになっています。分厚い紙の教科書を何冊も詰め込んだ重いランドセルを背負わせるのは,子どもの健康をも害します。デジタルなら全教科,薄いタブレット1台でOK。音声や動画等の効果も期待でき,とりわけ特別支援教育の現場で重宝するでしょう。
予想通りと言いますか,パソコンの所持率は低いですね。10代前半では,ノートは19.7%,デスクトップに至ってはわずか8.1%で,他国と比して陥落が目立っています。その一方で,携帯ゲーム機器の所持率は49.7%でトップ。むーん,ちょっと寂しい気持ちになります…。
調査票をみると,「あなたは***を持っていますか?」という聞き方なので,自分専用ではないけれど,家にはあるという生徒は多いかもしれません。家族共用で使っていると。OECDの国際学力調査「PISA 2015」では,15歳の生徒に「自宅にコンピュータが何台あるか?」と問うています。上記の7か国にデンマークを加えた8か国の回答を見ると,以下のようになります。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
家に1台もないという生徒は,日本でも少数派です。どうやら,自分専用のPCを持ってないという子が多いようですね。イギリス,ドイツ,スウェーデン,デンマークでは半分以上の生徒が「3台以上」と答えており,専用のPCを持っている子が多いと推測されます。
学校のICT化が進んだ北欧の諸国では,自分専用のPCはほぼ必須でしょう。日本はそうではなく,自宅に鎮座しているPCを家族と共有で使う生徒がどれほどいるか。あまりいないのではないでしょうか。
なぜ,日本の生徒はパソコンを持たないか。子育て世帯の家計が苦しく,お金がないからでしょうか。この要因の寄与が大きいなら,余裕のある家庭では所持率が高く,そうでない家庭では低いという,階層格差があるはずです。
家庭の年収とのクロスがとれるといいのですが,内閣府の調査ではこの変数は盛られていません。次善の策として,父親の学歴との関連をみてみましょう。13~15歳の生徒を,父大卒群とその他の群に分け,ノートパソコンの所持率を出してみました。
どの社会でも,大卒家庭の生徒のPC所持率が高くなっています。韓国は20ポイント以上の開きがあり,階層差が大きいですね。しかし日本は,大卒群が22%,その他が17%で,大きな差ではありません。
日本では,家庭環境にの関係なく,生徒のPC所持率が低いようです。余裕のある家庭であっても,パソコンを買い与えないのでしょうか。私としては,さもありなんという感じです。今時,パソコンはそんなに高い買い物ではないですしね。
大きいのは,パソコンを必須ならしめる環境に置かれていないことでしょう。学校からの庶務連絡は紙で,授業でコンピュータが使われることはほとんどなく,PCでの調べものや解析が必要な宿題も出ません。
私は大学で教えていた時,3年生の調査統計の授業で,エクセルで簡単な棒グラフも作れない学生さんが多いことに驚きました。話を聞くと,「エクセルなんて1年時の情報処理の授業以来,開いたことがない」とのこと。これは,PCを必須ならしめる環境を用意していない大学の責任だな,と強く感じました。IT人材,データサイエンティストの育成を掲げていますが,今も当時と同じままだとしたら,そんなフレーズは聞いて呆れます。
なぜパソコンにそんなに拘るのか,情報収集や仲間とのSNSのやり取りはスマホで十分じゃん,と言われるかもしれません。しかしですね,情報化社会を生き抜くには,それだけでは足りないのです。スマホをボケ―と眺めて,面白おかしい記事のシェアボタンをタップしているだけではダメ。収集した情報を組み合わせ(加工し),創作物を生み出し,発信するチカラも必要なのです。
それには,スマホよりもパソコンが適しています(現時点では)。パソコンを持たない日本の生徒が,創作物の発信活動をどれほどしているかは,推して知るべし。下図は,15歳の生徒に「学校外で,コンピュータを使って創作物(created contents)をどれほど発信するか」を訊いた結果です。
朝日新聞流の中抜きグラフにしましたが,日本では「ほとんど,ないしは全くしない」という生徒が8割で,週に1回以上する生徒は1割しかいません。
これでは,情報化社会の荒波を自分の力で泳いでいく力は育たず,情報を受動的に消費するだけの「情報メタボ」が量産されるだけでしょう。そういう人は「自分の頭で考える」習慣がないので,時流に簡単に流される弱さを持っています。
最近,政府与党を支持する若者が多くなっているそうですが,「投げやりな人は,強力な独裁者を希求する」という,何かの本に書いてあったフレーズを思い出します。生きる道を水路づけてもらったほうがラクだからです。
インターネットの普及により,誰もが思うがままの情報を自前で発信できるようになりました。発信する側になるときもあれば,消費する側に回るときもある。もっぱら後者に終始するというのは,あまりに勿体ないことです。いや,ヤバいことだと思います。
20世紀は一つの会社に長く勤続する正社員の時代でしたが,21世紀は,自分のスキルを売りに色々な組織を渡り歩く時代,ないしはフリーランスの時代であると思っています。こういう時代では,ネットを通じて自分を「売り込む」スキルが不可欠です。子どもの頃から,自分の作品をネットで発信するなどは,それを鍛える最良の訓練になります。しかし,日本の現状は上記のグラフの通り。これはよくない。
学校教育の情報化の推進に関する法律もできたことですし,今後は状況が変わっていくものと思います。インターネットという文明の利器を,積極的な意味合いで使う若者が増えることを願います。パソコンの所持率は,それを可視的に見て取る指標であるともいえるでしょう。
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h30/pdf-index.html
調査票をみると,興味深い設問が盛りだくさんですが,ありがたいことに,申請すればローデータを送ってくれます。私は早速申請し,ローデータのファイル(エクセル)をメールで送ってもらいました。7か国,7472人のデータです。
昨日,文科省HPをのぞいてみたら,学校教育の情報化の推進に関する法律が制定・施行されたとあります。日本の学校の情報化(ICT化)のレベルは世界最低なんですが,これをどうにかしようということでしょう。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1418577.htm
これからは,学校で大量の紙が配られることはなくなり,庶務連絡や宿題の提出等もネット経由になるかもしれないですね。そうなれば,生徒もパソコンを持たざるをえなくなります。
はて,日本の生徒のパソコン所持率はどれくらいなのか。上記の調査にて,バッチリ尋ねられています。調査票のF18です。スマホ,タブレット,ノートパソコン,デスクトップパソコン,携帯ゲーム機器の所持率を出すことができます。
上述のように調査対象の年齢は13~29歳と広いのですが,10代前半,10代後半,20代前半,20代後半,というように区分してみます。13~15歳,16~19歳。20~24歳,25~29歳の4群に分けましょう。
これら4つの年齢層に分け,5つの機器の所持率を国別に計算してみました。以下に,一覧表を掲げます。個票データから,私が独自に算出した数値であることを申し添えます。
スマホの所持率は高いですね。10代後半以降は,どの国でも9割以上となっています。ただ10代前半では,日本は79.2%で他国と開いています。あまり早くスマホを持たせるのはよくないと,頑なに考えている親御さんもいますからね。しかし海外でそんなことを言ったら,嘲笑されるでしょう。
タブレットは,日本はどの段階でも25%前後で,7か国では最も低くなっています。いわゆるデジタル教科書の普及度の違いでしょうか。中学生段階でみると,イギリスとスウェーデンは6割を超えています。
日本でも,今年度より紙の教科書に代えてデジタル教科書を使用できることになっています。分厚い紙の教科書を何冊も詰め込んだ重いランドセルを背負わせるのは,子どもの健康をも害します。デジタルなら全教科,薄いタブレット1台でOK。音声や動画等の効果も期待でき,とりわけ特別支援教育の現場で重宝するでしょう。
予想通りと言いますか,パソコンの所持率は低いですね。10代前半では,ノートは19.7%,デスクトップに至ってはわずか8.1%で,他国と比して陥落が目立っています。その一方で,携帯ゲーム機器の所持率は49.7%でトップ。むーん,ちょっと寂しい気持ちになります…。
調査票をみると,「あなたは***を持っていますか?」という聞き方なので,自分専用ではないけれど,家にはあるという生徒は多いかもしれません。家族共用で使っていると。OECDの国際学力調査「PISA 2015」では,15歳の生徒に「自宅にコンピュータが何台あるか?」と問うています。上記の7か国にデンマークを加えた8か国の回答を見ると,以下のようになります。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
家に1台もないという生徒は,日本でも少数派です。どうやら,自分専用のPCを持ってないという子が多いようですね。イギリス,ドイツ,スウェーデン,デンマークでは半分以上の生徒が「3台以上」と答えており,専用のPCを持っている子が多いと推測されます。
学校のICT化が進んだ北欧の諸国では,自分専用のPCはほぼ必須でしょう。日本はそうではなく,自宅に鎮座しているPCを家族と共有で使う生徒がどれほどいるか。あまりいないのではないでしょうか。
なぜ,日本の生徒はパソコンを持たないか。子育て世帯の家計が苦しく,お金がないからでしょうか。この要因の寄与が大きいなら,余裕のある家庭では所持率が高く,そうでない家庭では低いという,階層格差があるはずです。
家庭の年収とのクロスがとれるといいのですが,内閣府の調査ではこの変数は盛られていません。次善の策として,父親の学歴との関連をみてみましょう。13~15歳の生徒を,父大卒群とその他の群に分け,ノートパソコンの所持率を出してみました。
どの社会でも,大卒家庭の生徒のPC所持率が高くなっています。韓国は20ポイント以上の開きがあり,階層差が大きいですね。しかし日本は,大卒群が22%,その他が17%で,大きな差ではありません。
日本では,家庭環境にの関係なく,生徒のPC所持率が低いようです。余裕のある家庭であっても,パソコンを買い与えないのでしょうか。私としては,さもありなんという感じです。今時,パソコンはそんなに高い買い物ではないですしね。
大きいのは,パソコンを必須ならしめる環境に置かれていないことでしょう。学校からの庶務連絡は紙で,授業でコンピュータが使われることはほとんどなく,PCでの調べものや解析が必要な宿題も出ません。
私は大学で教えていた時,3年生の調査統計の授業で,エクセルで簡単な棒グラフも作れない学生さんが多いことに驚きました。話を聞くと,「エクセルなんて1年時の情報処理の授業以来,開いたことがない」とのこと。これは,PCを必須ならしめる環境を用意していない大学の責任だな,と強く感じました。IT人材,データサイエンティストの育成を掲げていますが,今も当時と同じままだとしたら,そんなフレーズは聞いて呆れます。
なぜパソコンにそんなに拘るのか,情報収集や仲間とのSNSのやり取りはスマホで十分じゃん,と言われるかもしれません。しかしですね,情報化社会を生き抜くには,それだけでは足りないのです。スマホをボケ―と眺めて,面白おかしい記事のシェアボタンをタップしているだけではダメ。収集した情報を組み合わせ(加工し),創作物を生み出し,発信するチカラも必要なのです。
それには,スマホよりもパソコンが適しています(現時点では)。パソコンを持たない日本の生徒が,創作物の発信活動をどれほどしているかは,推して知るべし。下図は,15歳の生徒に「学校外で,コンピュータを使って創作物(created contents)をどれほど発信するか」を訊いた結果です。
朝日新聞流の中抜きグラフにしましたが,日本では「ほとんど,ないしは全くしない」という生徒が8割で,週に1回以上する生徒は1割しかいません。
これでは,情報化社会の荒波を自分の力で泳いでいく力は育たず,情報を受動的に消費するだけの「情報メタボ」が量産されるだけでしょう。そういう人は「自分の頭で考える」習慣がないので,時流に簡単に流される弱さを持っています。
最近,政府与党を支持する若者が多くなっているそうですが,「投げやりな人は,強力な独裁者を希求する」という,何かの本に書いてあったフレーズを思い出します。生きる道を水路づけてもらったほうがラクだからです。
インターネットの普及により,誰もが思うがままの情報を自前で発信できるようになりました。発信する側になるときもあれば,消費する側に回るときもある。もっぱら後者に終始するというのは,あまりに勿体ないことです。いや,ヤバいことだと思います。
20世紀は一つの会社に長く勤続する正社員の時代でしたが,21世紀は,自分のスキルを売りに色々な組織を渡り歩く時代,ないしはフリーランスの時代であると思っています。こういう時代では,ネットを通じて自分を「売り込む」スキルが不可欠です。子どもの頃から,自分の作品をネットで発信するなどは,それを鍛える最良の訓練になります。しかし,日本の現状は上記のグラフの通り。これはよくない。
学校教育の情報化の推進に関する法律もできたことですし,今後は状況が変わっていくものと思います。インターネットという文明の利器を,積極的な意味合いで使う若者が増えることを願います。パソコンの所持率は,それを可視的に見て取る指標であるともいえるでしょう。
2019年7月1日月曜日
2019年6月の教員不祥事報道
今日から7月ですね。昨日は記事を書いたので,6月分の教員不祥事報道の整理を今日します。
先月,私が把握した不祥事報道は39件です。生徒の個人情報を流出させてしまった事案が多く見られます。生徒の個人情報をUSB等に入れて校外に持ち出す際は,管理職の許可が要るとされます。
2010年頃までは,学校における個人情報の取り扱いについて,教員採用試験でよく聞かれてましたが,最近は出なくなっています。しかしこうも不祥事が起きていると,再び当局の通知が出題されるようになるかもしれません。受験者は,文科省HPをまめにチェックしておきましょう。
私は,1日1回は見るようにしています。先ほどのぞいてみたら,学校教育の情報化の推進に関する法律が成立したとあるではありませんか。日本の教育の情報化(ICT化)は,世界で最低レベルなんですが,これを改善しようと,法律までできたのは大きな意義があると思います。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1418577.htm
2018年の若者調査で,日本の生徒のPC所持率が格段に低いことが露わになりました。学校の側が,PCを必須ならしめる環境を用意していないことも原因かと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/1145310471664197632
今日から7月です。梅雨明けはまだ先のようで,曇天の日が続き,気が滅入ります。ブログの背景だけでも,晴れ模様にいたしましょう。
<2019年6月の教員不祥事報道>
・高校教諭が酒気帯び容疑 研修会の帰りに運転中スマホ操作
(6/1,河北新報,宮城,高,男,41)
・作新ボクシング部監督資格停止に(6/2,NHK,栃木,高,男)
・少女にみだらな行為疑い 教諭逮捕、愛知県警
(6/4,日経,愛知,特,男,29)
・女子高生にホテルでわいせつな行為 公立中教諭を容疑で再逮捕
(6/4,京都新聞,京都,中,男,34)
・「仕事でストレス」小6女児にわいせつ行為
(6/5,産経,東京,高,男,30)
・SNSで知り合い少女に裸の写真送らせる 高校教諭逮捕
(6/5,神戸新聞,兵庫,高,男,41)
・前日に飲酒で酒気帯び摘発 秋田・北秋田市の小学校教諭 停職1年
(6/5,秋田テレビ,秋田,小,男,54)
・校内で同僚盗撮 講師を懲戒免職(6/6,NHK,秋田,中,男,28)
・静岡の中学教諭逮捕 男子高校生に淫行疑い(6/6,産経,静岡,中,男,27)
・生徒に不適切発言で教諭に戒告(6/6,NHK,鹿児島,高,男)
・修学旅行先で利き酒、校長停職 福岡の中学、主幹教諭も
(6/6,中日新聞,福岡,中,男,50代)
・教え子女児に強制性交疑い 青森、小学校教諭の男逮捕
(6/7,産経,青森,小,男,44)
・部活終えた女子生徒を車に乗せ太ももなど触る
(6/10,東海テレビ,岐阜,高,男,37)
・体罰:児童けが、教諭を減給処分 平生の小学校
(6/11,毎日,山口,小,男,40)
・わいせつなどで教員と教頭処分 県教委
(6/11,岐阜新聞,岐阜,わいせつ:高男37,窃盗:中男53)
・島根県の新人教員2人を懲戒処分 県教委は採用方法検討
(6/12,山陰中央テレビ,島根,盗撮:小男23,住居侵入未遂:男)
・同日に同い年の男性教師2人が同じ理由で懲戒免職 少女に現金渡してみだらな行為
(6/12,東海テレビ,愛知,中男37,高男37 教諭)
・富山西高教諭を書類送検 女子大生にストーカー疑い
(6/14,北日本新聞,富山,高,男,40代)
・体罰で野球部元監督を戒告処分(6/14,NHK,兵庫,高,男,53)
・偽造した印鑑で文書作成の高校教諭を停職(6/15,産経,兵庫,高,女,60)
・懲戒処分:同僚の体触る 39歳教諭停職 県教委
(6/15,毎日,広島,小,男,39)
・「支払ってもらっただけ」恐喝容疑の教諭逮捕
(6/16,神奈川新聞,神奈川,中,男,39)
・県立高校教師の女が”飲酒運転”で逮捕(6/17,九州朝日放送,福岡,高,女,48)
・速度超過繰り返し免許取り消し、報告せず 28歳の中学校教諭を処分
(6/18,神戸新聞,兵庫,中,男,28)
・生徒の個人調査票を紛失…岐阜県立加納高校の女性教諭
(6/18,CBCテレビ,岐阜,高,女,30代)
・四天王寺高校 非常勤講師の男が児童買春疑いで逮捕
(6/19,MBS,大阪,高,男,57)
・高校の男性教諭が男子生徒を道路脇の斜面に突き落とす
(6/21,共同通信,静岡,高,男)
・松戸市の中学校教諭 USBメモリ紛失 在校生822人分の個人情報含む
(6/22,NHK,千葉,中,男,30)
・水泳授業の見学、生理日数を申告させる(6/22,朝日,滋賀,高,男)
・中学校男性教諭が酒気帯び運転で検挙・学校の慰労会後に
(6/23,FNN,山形,中,男,20代)
・個人情報:生徒130人分のファイルを紛失 教諭を減給処分
(6/25,毎日,群馬,中,男,67)
・10代少女を車内に監禁の疑い 教員の27歳男を逮捕
(6/26,朝日,群馬,男)
・中学生に炎天下の校庭を3時間走らせる体罰(6/26,産経,千葉,中,男,32)
・柔道部員と乱取りし骨折、報告も怠る 高校教諭を停職
(6/26,朝日,宮崎,高,男,30代)
・児童福祉法違反の中学校教諭が懲戒免職(6/27,NNN,石川,中,男,27)
・講師が答案書き換え、20人以上の点数上げる
(6/27,京都新聞,京都,高,女,50代)
・大阪府教委が高校教諭を懲戒免職に 女性の胸元を盗撮容疑で逮捕
(6/28,毎日,大阪,高,男,29)
・女子生徒にセクハラ発言、30代男性教諭を懲戒処分
(6/28,日刊スポーツ,大阪,中,男,30代)
・女子学生触ったか 中学教諭逮捕(6/29,NHK,神奈川,中,男,25)
先月,私が把握した不祥事報道は39件です。生徒の個人情報を流出させてしまった事案が多く見られます。生徒の個人情報をUSB等に入れて校外に持ち出す際は,管理職の許可が要るとされます。
2010年頃までは,学校における個人情報の取り扱いについて,教員採用試験でよく聞かれてましたが,最近は出なくなっています。しかしこうも不祥事が起きていると,再び当局の通知が出題されるようになるかもしれません。受験者は,文科省HPをまめにチェックしておきましょう。
私は,1日1回は見るようにしています。先ほどのぞいてみたら,学校教育の情報化の推進に関する法律が成立したとあるではありませんか。日本の教育の情報化(ICT化)は,世界で最低レベルなんですが,これを改善しようと,法律までできたのは大きな意義があると思います。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1418577.htm
2018年の若者調査で,日本の生徒のPC所持率が格段に低いことが露わになりました。学校の側が,PCを必須ならしめる環境を用意していないことも原因かと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/1145310471664197632
今日から7月です。梅雨明けはまだ先のようで,曇天の日が続き,気が滅入ります。ブログの背景だけでも,晴れ模様にいたしましょう。
<2019年6月の教員不祥事報道>
・高校教諭が酒気帯び容疑 研修会の帰りに運転中スマホ操作
(6/1,河北新報,宮城,高,男,41)
・作新ボクシング部監督資格停止に(6/2,NHK,栃木,高,男)
・少女にみだらな行為疑い 教諭逮捕、愛知県警
(6/4,日経,愛知,特,男,29)
・女子高生にホテルでわいせつな行為 公立中教諭を容疑で再逮捕
(6/4,京都新聞,京都,中,男,34)
・「仕事でストレス」小6女児にわいせつ行為
(6/5,産経,東京,高,男,30)
・SNSで知り合い少女に裸の写真送らせる 高校教諭逮捕
(6/5,神戸新聞,兵庫,高,男,41)
・前日に飲酒で酒気帯び摘発 秋田・北秋田市の小学校教諭 停職1年
(6/5,秋田テレビ,秋田,小,男,54)
・校内で同僚盗撮 講師を懲戒免職(6/6,NHK,秋田,中,男,28)
・静岡の中学教諭逮捕 男子高校生に淫行疑い(6/6,産経,静岡,中,男,27)
・生徒に不適切発言で教諭に戒告(6/6,NHK,鹿児島,高,男)
・修学旅行先で利き酒、校長停職 福岡の中学、主幹教諭も
(6/6,中日新聞,福岡,中,男,50代)
・教え子女児に強制性交疑い 青森、小学校教諭の男逮捕
(6/7,産経,青森,小,男,44)
・部活終えた女子生徒を車に乗せ太ももなど触る
(6/10,東海テレビ,岐阜,高,男,37)
・体罰:児童けが、教諭を減給処分 平生の小学校
(6/11,毎日,山口,小,男,40)
・わいせつなどで教員と教頭処分 県教委
(6/11,岐阜新聞,岐阜,わいせつ:高男37,窃盗:中男53)
・島根県の新人教員2人を懲戒処分 県教委は採用方法検討
(6/12,山陰中央テレビ,島根,盗撮:小男23,住居侵入未遂:男)
・同日に同い年の男性教師2人が同じ理由で懲戒免職 少女に現金渡してみだらな行為
(6/12,東海テレビ,愛知,中男37,高男37 教諭)
・富山西高教諭を書類送検 女子大生にストーカー疑い
(6/14,北日本新聞,富山,高,男,40代)
・体罰で野球部元監督を戒告処分(6/14,NHK,兵庫,高,男,53)
・偽造した印鑑で文書作成の高校教諭を停職(6/15,産経,兵庫,高,女,60)
・懲戒処分:同僚の体触る 39歳教諭停職 県教委
(6/15,毎日,広島,小,男,39)
・「支払ってもらっただけ」恐喝容疑の教諭逮捕
(6/16,神奈川新聞,神奈川,中,男,39)
・県立高校教師の女が”飲酒運転”で逮捕(6/17,九州朝日放送,福岡,高,女,48)
・速度超過繰り返し免許取り消し、報告せず 28歳の中学校教諭を処分
(6/18,神戸新聞,兵庫,中,男,28)
・生徒の個人調査票を紛失…岐阜県立加納高校の女性教諭
(6/18,CBCテレビ,岐阜,高,女,30代)
・四天王寺高校 非常勤講師の男が児童買春疑いで逮捕
(6/19,MBS,大阪,高,男,57)
・高校の男性教諭が男子生徒を道路脇の斜面に突き落とす
(6/21,共同通信,静岡,高,男)
・松戸市の中学校教諭 USBメモリ紛失 在校生822人分の個人情報含む
(6/22,NHK,千葉,中,男,30)
・水泳授業の見学、生理日数を申告させる(6/22,朝日,滋賀,高,男)
・中学校男性教諭が酒気帯び運転で検挙・学校の慰労会後に
(6/23,FNN,山形,中,男,20代)
・個人情報:生徒130人分のファイルを紛失 教諭を減給処分
(6/25,毎日,群馬,中,男,67)
・10代少女を車内に監禁の疑い 教員の27歳男を逮捕
(6/26,朝日,群馬,男)
・中学生に炎天下の校庭を3時間走らせる体罰(6/26,産経,千葉,中,男,32)
・柔道部員と乱取りし骨折、報告も怠る 高校教諭を停職
(6/26,朝日,宮崎,高,男,30代)
・児童福祉法違反の中学校教諭が懲戒免職(6/27,NNN,石川,中,男,27)
・講師が答案書き換え、20人以上の点数上げる
(6/27,京都新聞,京都,高,女,50代)
・大阪府教委が高校教諭を懲戒免職に 女性の胸元を盗撮容疑で逮捕
(6/28,毎日,大阪,高,男,29)
・女子生徒にセクハラ発言、30代男性教諭を懲戒処分
(6/28,日刊スポーツ,大阪,中,男,30代)
・女子学生触ったか 中学教諭逮捕(6/29,NHK,神奈川,中,男,25)
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