2021年12月23日木曜日

都道府県別の大学進学率(2021年春)

  今年の文科省『学校基本調査』の確報結果が公表されました。この資料が出たら,私はまず都道府県別の大学進学率を計算することにしています。リンクはコチラ

 大学進学率とは,同世代の何%が4年制大学(以下,大学)に入ったかという指標です。単純なようですが,算出はそう簡単ではありません。高卒者の進路統計に当たって,卒業者のうち大学に進学した生徒の率を出せばいいじゃん,と思われるかもしれませんが,同世代の中には高校に行っていない人もいますし,浪人経由で入る人がオミットされてしまいます。

 文科省で採用されている,公的な計算方法を説明しましょう。分母には,高卒者ではなく推定18歳人口を充てます。3年前の中学校,中等教育前期課程,義務教育学校の卒業者数です。今年(2021年)春の3年前だと,2018年春のデータを取ればいいことになります。『学校基本調査』のバックナンバーによると,2018年春の中学校卒業者は113万3016人,中等教育学校前期課程卒業者は5515人,義務教育学校卒業者は2609人,合わせて114万1140人(a)です。これが今年春の推定18歳人口で,大学進学率の分母に使う数値になります。

 分子には,今年春に大学に入った人の数を使います。昨日公表された確報値によると,2021年春の大学入学者数は62万7040人(b)です。この中には,過年度の高卒者(浪人経由者)も含まれますが,今年春の現役世代からも,同数の浪人経由の大学入学者が出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。

 これで分母と分子が得られましたので,2021年春の大学進学率は,bをaで割って54.9%となる次第です。文科省の公表数値と一致しています。今の日本の大学進学率は50%超,同世代の半分が大学に行くことの数値的な表現です。

 このやり方で性別の大学進学率を出すと,男子が58.1%,女子が51.7%となります。男子が女子より6.4ポイント高くなっています。多くの人が肌身で感じている,大学進学チャンスのジェンダー差です。

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 さて,本題はここからです。文科省の公表統計では,全国の大学進学率は出ていますが,47都道府県別の大学進学率は出ていません。上記の計算方法に沿って,都道府県別の大学進学率を独自に計算してみます。

 都道府県別の場合,分子には,当該県の高校出身の大学入学者数を充てます。私の郷里の鹿児島県を例にすると,今年の春,本県の高校出身の大学入学者は6126人で,推定18歳人口(3年前の中学校,中等教育前期課程,義務教育学校の卒業者数)は1万5625人。よって,2021年春の鹿児島県の大学進学率は39.2%となります。全国値よりだいぶ低いですね…。

 私はこのやり方で,今年春の47都道府県別の大学進学率を計算しました。性差にも興味があるので,各県の性別の数値も出しました。以下に,一覧表を掲げます。このデータは文科省の公表資料に出ているものではなく,舞田が独自に計算したものであることを申し添えておきます。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。男女計をみると,最高は東京の75.1%,最低は山口の38.5%です。同じ国内でも,18歳人口の大学進学率に倍以上の開き。毎年のことですので,データを継続的にウォッチしている私は驚きませんが,初めて目にする人は「!」でしょう。

 しかし東京はスゴイですね。4人に3人が大学に行くと。自宅から通える大学がたくさんあり,親年代の所得も高く,かつ大卒人口も多いので,幼少期から大学に行くのは当たり前という感覚で育つ。地方はその反対で,上表の大学進学率の地域格差は,地域間の社会経済格差の引き写しに他なりません。

 大学進学率の地域格差の要因について,私が考えるところは,ブログの前の記事で書いてますので,ここで繰り返しません。以下の記事を参照ください。県別の平均年収や大卒人口率と大学進学率の相関図も掲げています。

 ・都道府県別の大学進学率(2019年春)

 ・都道府県別の大学進学率(2020年春)

2021年12月16日木曜日

ツイッターのグラフについて

  ツイッターで発信した,国別の大学院修了者率のグラフについて,疑問が寄せられてますので,算出の手続きを書いておきます。

 データは,ISSP(国際社会調査プログラム)が2018年に実施した「宗教に関する意識調査」のものです。メインの主題は年によって違い,2018年調査では宗教の設問に重点が置かれています。ISSP調査の概要は,NHKによるコチラのページが分かりやすいです。

 私は「Religion Ⅳ-ISSP 2018」の個票データに当たって,各国の25~54歳のサンプルを取り出し,自身が持つ最高学歴(DEGREE)の設問への回答を分析しました。



 私は,6「Upper level tertiary(Master, Doctor)」を選んだ者のパーセンテージを出しました。9の無回答は分母から除外しています。

 各国の回答分布の表を掲げておきます。%にする前の人数の表です。


 日本だと,6「Upper level tertiary(Master, Doctor)」を選んだ人は23人で,9の無回答を抜いたベースは636人です。よって大学院修了者率は,23/636=3.6%となる次第です。

 「Upper level tertiary(Master, Doctor)」の定義は,国によって異なることもあり得るので,大学院修了者率というタイトルは不適切でした。当該グラフのツイートは削除します。記録として,スクショを以下に残しておきます。

2021年12月4日土曜日

社会科教員の女性比率

  ジェンダー平等という言葉が,今年の流行語になりました。関心が高まっているのは,これまで不問にされていたこと,肌感覚のレベルで何となく認識されているだけのことが,客観的なデータで可視化されているからだと思います。

 そのデータの最たるものは,国別のジェンダー平等指数です。日本の国際的な位置が無様なのは毎年のことで,分野別にみると政治分野がとくに酷い。国会議員など,政治家の女性比率が著しく低いことを思うとさもありなんです。最近知ったのですが,若者参画意欲にも性差があります。「政策決定に参画したいとは思わない」と考える20代の率は,男性では44%ですが,女性では63%なり(内閣府『我が国と諸外国の若者の意識調査』2018年)。他国では,ここまで大きな性差はありません。

 これがなぜかについて,女子は頭を押さえつけられて育つとか,政治の話を女子がすると変な目で見られるとか,世間一般で言われることを強調しても,あまり生産的ではありません。井戸端談義ではなく,データで可視化でき,かつ政策で変えることができるような要因に注目することが望ましい。

 ここでは,進路選択を控えた女子生徒が目にする職業モデルについて考えてみます。政治や経済について語る女性,具体的に言うと,学校で社会科を教える女性教員です。こういうロールモデルに多く接するならば,女子生徒の政治的関心も高くなるでしょう。はて,社会科教員の女性割合は,現状でどれほどなのでしょうか。おそらく低いと思われますが,具体的なパーセンテージはあまり目にしませんよね。

 文科省の『学校教員統計』に,各教科を担当している教員の割合が出ています。2019年の高校のデータを見ると,本務教員のうち,国語を担当している教員の割合は男性で9.0%,女性で19.2%となっています(こちらのサイトの表55)。ベースの本務教員数は,男性が15万2446人,女性が7万1592人ですので,先ほどの比率をかけて実数にすると,国語担当教員は男性が1万3720人,女性が1万3746人と見積もられます。ほぼ半々ですね。

 では,他の教科はどうか。同じやり方で,各教科の担当教員の実数を男女別に推計し,性別構成のグラフにすると以下のようになります。タテの点線は,全教員でみた女性割合です(32.0%)。


 国語はちょうど半々ですが,教科によって違いますね。男性より女性が多い教科は,音楽,書道,家庭,福祉で,それ以外は男性が多し。よく知られれていることですが,数学や理科教員の女性比率は低くなっています。理系に進む女子を増やすにあたって,これをどうにかしないといけないことは,前から繰り返し申してきました。

 しかし,もっと女性比率が低い教科があります。何と何と,公民ではないですか。公民を教える高校教員のうち女性は14.0%で,どの教科よりも低くなっています。このデータをツイッターで発信したところ,「これは知らんかった」と驚かれましたが,私もそうです。政治や経済について説く女性のロールモデル,学校で女子生徒になかなか見せられない。こういう現実が,データで露わになりました。

 日本よりジェンダー平等が進んでいる海外ではどうでしょう。国際比較は中学校段階でしかできませんが,アメリカの中学校の社会科担当教員に占める女性の割合は61.8%で,日本の26.1%よりだいぶ高くなっています(OECD「TALIS 2018」)。中学校教員全体の女性比率は,アメリカが65.8%,日本は42.2%。アメリカの社会科教員の女性比率は全教員と接近してますが,日本はさにあらず。全教員の女性比率は42.2%なのに,社会科教員だと26.1%でしかない。このズレに,社会科教員に女性がなりにくいことが表れています。

 以下は,主な7か国のデータです。個票データに当たらずとも,こちらのサイトのリモート集計で作れます。ドイツは,「TALIS 2018」には参加してません。


 全教員の女性比と,社会科教員の女性比がどれほどズレているかですが,日本以外の国では接近していますね。女性が社会科教員になりやすい度合いは,後者を前者で割った値で測られます。男女で均等ならば,表のaとbの値は等しくなり,よって1.000となるはずです。日本は0.618で,通常の期待値(1.000)をかなり下回っています。

 7か国だけでは心もとないので,比較の対象をもっと増やしましょうか。以下に掲げるのは,データが得られる48か国について,女性教員輩出度(上記の表の右端)を算出したものです。社会科教員の女性比が,全教員の女性比の何倍か。高い順に並べています。


 女性が,社会科教員にどれほどなりやすいかの指標(measure)です。20の国で1.0を超えていますね。男性よりも女性が,社会科教員になる傾向がある国。首位のニュージーランドは,全教員の女性比率は65.4%ですが,社会科担当教員のそれは72.7%です。

 その対極にあるのは日本で,算出された値は0.618と,48か国の中で最も低くなっています。女性が社会科教員になりにくい国,女子生徒に,政治や経済について説く女性のモデルを見せられない国です。そもそも社会科教員の女性比率が26.1%などというのも,国際標準からすれば異常で,上表の48か国のうち45か国で50%(半数)を越えています。

 こうなるともう,アファマーティブ・アクションの考えのもと,教員採用試験でも,社会科教員への女性の採用者数を意図的に増やす策も必要かもしれません。政治分野でのジェンダー平等を促進するというビジョンにおいてです。

 中高では教科担任制なんですが,各教科について教壇で説く教員の性別構成は,生徒の職業志向に少なからず影響を及ぼす「隠れたカリキュラム」と言えます。最初のグラフで,高校の教科別の教員の性別構成を示しましたが,これが社会の職業構成ときっかり対応してるんですよね。高校生にとって,ロールモデルの影響は大きい。

 ジェンダー不平等の要因はたくさんあり,大きくは社会の文化といった抽象度の高い次元に還元されますが,まずは,政策で変えやすい次元にまで降りてみることです。学校の教員のジェンダーアンバランスはその最たるもので,まずはこの部分から人為的に変えるべきかと思うのですが,どうでしょうか。

 しかし何と言いますか,他国と比較すると,自国の状況が「自然なこと,仕方ないこと」と割り切ってはいけないことが分かりますね。これぞ国際比較の意義で,止めることはできません。