2016年8月31日水曜日

2016年8月の教員不祥事報道

 暑かった夏も,暦の上では今日でおしまいです。

 この8月は,身体的に苦しかった。上旬は帯状疱疹に苦しみ,それが治ったと思ったら今度は左奥歯の歯痛です。そういうわけで,月の3分の1くらいは静養し,何回か気晴らしに遠足にも行きました。

 さて,恒例の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上でキャッチした報道は44件です。いつも通り,記事名,処分を受けた教員の基本属性を記録します。件の詳細を知りたい方は,記事名でググってみてください。

 ご覧のとおり,ほとんどが猥褻や盗撮といった性犯罪です。赤字の事案(郷里の鹿児島)はイタイ・・・。

 犯罪の要因は,①push,②pull,③recognize,の3種に大別されます。①は,生活態度が不安定化する過程です。②は,犯罪へと傾く行為環境の問題。③は,犯した行為が「犯罪」と公的機関に認知される段階です。

 教員の犯罪に即していうと,①は過重労働によるイライラ・ストレスなど,当人の生活態度が不安定化すること。②は,若い女子生徒と接する機会が多い,指導も密室というような,独自の就労環境があること。③は,教育委員会などに通報され,行為が明るみに出る過程です。

 近年の教員犯罪の増加は,③のファクターの強まりで説明されることが多いのですが,そうした「ラベリング」論的な考え方だけを強調するのは,あまり生産的ではないでしょう。

 不祥事対策として,教員研修の強化がよくいわれますが,これは②への耐性をつけようという視点です。しかるに,①が強くなると②に反応しやすくなり,よからぬことが起きやすくなります。教員の過重労働を緩和するなど,①の生活態度不安定化要因も除外する必要があります。

 明日から9月です。日も幾分か短くなってきました。バックを,夕暮れの海岸にします。

<2016年8月の教員不祥事報道>
17歳少女に淫行容疑で男性教諭を逮捕 教え子なのに「18歳未満とは知らなかった」
 (8/31,産経,宮城,高,男,47)
淫行の中学校教諭 懲戒免職処分(8/2,CBCテレビ,愛知,中,男,55)
教科書閲覧問題で小学校教頭ら3人処分 池田市教委(8/2,産経,大阪)
ガンダムフィギュア万引、小学校教諭を逮捕(8/3,佐賀新聞,佐賀,小,男,42)
小学校長“隠れたばこ”で減給処分 禁煙校内に「喫煙所」
 (8/5,西日本新聞,福岡,小,男,52)
担任する女子児童にキス 小学校教諭、強制わいせつ容疑
 (8/5,朝日,北海道,小,男,48)
公園で女児2人の体触った疑い…自称高校講師の49歳男を現行犯逮捕
 (8/6,サンスポ,岩手,高,男,49)
市立中教諭が体罰=生徒たたき5針けが(8/9,時事通信,大阪,中,男,33)
女性教諭の更衣室にカメラ、設置容疑の小学校長を聴取(8/10,朝日,兵庫,小,男,50代)
わいせつ高校教諭を懲戒免職 愛知県教委(8/10,鹿児島読売テレビ,愛知,高,男,26)
<宮城県教委>不祥事3教諭を処分
 (8/11,河北新報,宮城,無免許運転:高男29,セクハラ:中男53,体罰:小男58)
買春容疑の教諭を懲戒免職(8/11,中日新聞,愛知,高,男,26)
中学教諭、自宅で少女にわいせつ行為した容疑で逮捕(8/13,サンスポ,富山,中,男,26)
佐賀県白石町で飲酒運転の疑い 県立高校講師の男逮捕
 (8/13,中京テレビ,佐賀,高,男,28)
生徒と淫行容疑、那覇署が教諭の女を逮捕(8/15,沖縄タイムス,沖縄,高,女,40代)
扇風機を万引か、中学講師逮捕(8/15,山陽新聞,岡山,中,男,26)
大阪市の元民間人校長、横領容疑で逮捕 経歴詐称で免職(8/17,朝日,大阪)
57歳高校教諭、女性水着盗もうとした疑いで逮捕(8/18,日刊スポーツ,福岡,高,男,57)
小学校教諭を戒告 千葉県教委(8/18,千葉日報,千葉,小,男,27,交通死亡事故)
公然わいせつの高校教頭に停職12カ月 中学校教諭は体罰で戒告
 (8/20,福島民友,福島,公然わいせつ:高男52,体罰:中男50)
道東の50代教諭、酒気帯びで事故(8/21,北海道新聞,北海道,高,男,50代)
「バイクと衝突、車運転の高校教諭を逮捕」(8/23,TBS,神奈川,高,男,30)
市立中教諭を停職3カ月 平手打ちで顔などケガさせる(8/23,産経,愛媛,中,男,49)
メール返信何度も要求 岐阜の高校教諭処分(8/24,CBCテレビ,岐阜,高,男,33)
窃盗容疑で幼稚園教諭逮捕 デリヘル女性から(8/24,産経,神奈川,幼,男,41)
試験監督中にアダルト動画、教室全体に音声 教諭を処分
 (8/24,朝日,鹿児島,高,男,50代)
PTA会費横領 教頭懲戒免職(8/24,NHK,大阪,中,男,54)
女性のスカートの中を盗撮 小学校教諭2人を懲戒処分(8/25,産経,長野,小男28,男22)
女子生徒の内科検診を盗撮 中学校教諭を懲戒免職処分(8/25,テレ玉,埼玉,中,男)
男性教師が下半身露出した写真を投稿(8/25,日テレ,茨城,中,男)
交通違反キップ破り 小学校の校長減給処分(8/25,鹿児島読売テレビ,岡山,小,男,53)
奈良市の小学校で教頭が女子職員更衣室に侵入(8/25,産経,奈良,小,男,53)
女子生徒を繰り返し抱きしめる 中学教諭を懲戒免職(8/26,朝日,広島,中,男,56)
同じ住宅なぜ繰り返し狙ったのか…女性下着盗んだ疑いで支援学校講師を再逮捕
 (8/26,サンスポ,愛媛,特,男,25)
鳴門市立中学の臨時教員 強制わいせつ容疑で逮捕(8/27,関西テレビ,徳島,中,男,23)
20代女性に抱きつき触る…特別支援学校教諭を逮捕(8/28,産経,福岡,特,男,35)
ホテルに中3少女連れ込み淫らな行為か、特別支援学校教諭を逮捕
 (8/29,TBS,東京,特,男)
県北地区の県立高、生徒にセクハラ 教諭停職3カ月(8/29,茨城新聞,茨城,高,男,20代)
高校教諭が女性の体を触り逮捕(8/29,NHK,北海道,高,男,46)
市立中学教諭を逮捕=女子更衣室で盗撮疑い-(8/30,時事ドットコム,大阪,中,男,32)
小学校の校長が女性教諭にセクハラ 懲戒免職(8/30,NHK,東京,小,男,63)
旅券の写しなど生徒11人の個人情報紛失(8/31,産経,大阪,高,男)
懲戒免職:下着を盗み起訴、小学校講師を処分(8/31,毎日新聞,秋田,小,男,25)
教諭が酒気帯び運転事故 居眠りして民家の竹壁に衝突(8/31,産経,滋賀,中,男,32)

2016年8月28日日曜日

世界の富の偏り

 矢野恒太郎記念会『世界国勢図会』の最新版が届きました。毎年,教員採用試験・中高社会の要点整理集のデータ更新に使わせていただいております。


 しかし,用途はそれだけではありません。いろいろな国際比較のデータが満載ですので,とても重宝します。『日本国勢図会』と並んで,データウォッチャーにとって,手元に置いておくべき資料といえましょう。毎年,このような貴重なデータ集を刊行してくださる,財団法人・矢野恒太郎記念会に敬意を表します。

 パラパラと眺めたところ,23ページに「おお」というデータが載っています。人口と所得の分布です。世界銀行の分類により,各国を低所得国,中所得国(下位),中所得国(上位),高所得国に分け,この4群の人口と国民総所得の配分比をとったデータです。


 2014年の統計ですが,人口では全体の2割ほどでしかない高所得国が,世界全体の所得(富)の7割近くをも占有しています。スゴイ偏りです。

 南北問題に象徴されるように,産出される富の量に著しい国際差があるのはよく知られていますが,上図はその可視化です。

 これだけでも富の配分の偏り(不平等)は明白ですが,その程度を数値で表してみましょう。不平等の度合いを測るには,ジニ係数が一番です。下準備として,以下の表を作ります。


 相対度数は,最初のグラフの構成比そのままです。ここでは,全体が1.0になるように換算します。右側の累積相対度数は,下から積み上げたものです。

 これによると,人口では8割を占める,高所得国以外の国には,世界全体の富の3割ちょっとしか届いていません。逆にいうと,残りの7割の富は高所得国に持っていかれているわけです。

 ジニ係数を出すには,ローレンツ曲線を描くのでしたよね。右欄の累積相対度数をグラフにしたものです。横軸に人口,縦軸に所得(富)の累積相対度数をとった座標上に,4つの群のドットを置き,線でつなぎます。


 この曲線の底が深いほど,人口と富の分布のズレが大きいこと,すなわち富の配分の偏りが大きいことを示唆します。

 ここで求めようとしているジニ係数は,図中の色付きの面積を2倍した値です。富の偏りが全くない,人口分布と富量分布が等しい場合,ローレンツ曲線は対角線と重なりますので,ジニ係数は0.0となります。逆に,極限の不平等状態の場合,色付きの面積は四角形の半分(0.5)になりますから,ジニ係数はこれを2倍して1.0となる次第です。

 よってジニ係数は0.0~1.0の値をとることになります。1.0に近いほど,不平等の度合いが大きい,ということです。

 さて,上図の色付きの面積は0.2915となります(面積の求め方は,下記リンク先記事を参照)。よってジニ係数は,これを2倍して0.5830となります。

 現在の世界における富の国際的偏りは,ジニ係数0.5830という数値で可視化されました。先進国から途上国への援助は増えていますし,昔に比したら,この値は下がっていることでしょう。80年代頃までは,0.8くらいあったかもしれません。

 しかし0.5830という数値も,絶対水準では高いと判断されます。持てる国と持たざる国の格差は大きい。われわれは日本人であると同時に,世界市民です。世界規模の貧困・格差の問題を「対岸の火事」とみるのではなく,自らの問題としてとらえる構えが求められるでしょう。持続可能な社会のための教育(ESD)は,そういう人間を育成する実践の総体に他なりません。

 崇高なことを書きましたが,今回のデータは,ジニ係数を教えるにあたっての分かりやすい教材になるかなと思い,実際に係数を出してみました。

 「ジニ係数の計算方法を教えてください」という質問をよく受けますが,時間がないときは,「このブログの記事をみてちょうだい」と言えるので,こういう形にしておくと便利です。

2016年8月27日土曜日

劣悪な労働条件による離職

 労働者の離職理由には,さまざまなものがあります。前に,ニューズウィーク記事にて,正社員の離職理由の内訳を年齢別に示した図を紹介したことがありますが,ライフステージごとの色が実に出ています。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/09/post-3920.php

 若者で最も多いのは,「労働条件が悪かった」という理由です。若者を使いつぶすブラック企業がはびこっている状況を思うと,さもありなん。今回は,この部分に焦点を当て,データをちょっと掘り下げてみようと思います。

 まず,この理由による離職者は,数でみてどれほどいるか。2012年の『就業構造基本調査』によると,2011年10月から2012年9月の1年間において,「労働条件が悪かった」という理由で離職した正規職員は28万9千人となっています(20~50代)。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 性別・年齢層別にみると,下図のようです。


 若者ほど多く,ピークは20代後半となっています。ブラック労働の餌食になるのは,やはり若者が多いようです。

 それにしても,劣悪な労働条件に耐えかねて離職する20代の正社員が,1年間で12万7千人もいることに驚かされます。私が住んでいる多摩市の人口に匹敵する規模です。

 あと一つ,地域別のデータにも驚愕させられます。劣悪な労働条件による若者の離職率が高い県はどこか。県別のデータを計算したところ,クリアーな地域性が出てきました。

 私が計算したのは,25~34歳男性有業者の離職率です。正社員だけの統計は県別には得られませんので,有業者全体としています。まあ男性ですので,大半が正社員とみてよいでしょう。

 2011年10月から2012年9月における,劣悪な労働条件による,25~34歳の男性有業者の離職者は10万6200人(①)。分母には,観察期間の始点の2011年10月時点の有業者数を充てたいのですが,それは得られないので,翌年(2012年)の10月時点のそれで代替します。その数,680万3600人(②)。

 よって離職率は,①/②=15.61‰となる次第です。(パーミル)とは,千人あたりという意味です。

 これは全国値ですが,同じ値を都道府県別に計算し,高い順に並べたランキングにすると,下表のようになります。


 劣悪な労働条件という理由による,若年男性の離職率です。トップは,わが郷里の鹿児島。2位は大阪で,3~6位は九州の県が続きます。九州,ヤバいですね。

 地域性が明瞭であることをお知りいただくため,上記のデータをマップにしましょう。3段階の階級を設け,各県を塗り分けてみました。


 南九州が濃い色になっていますが,このゾーンでは,ブラック労働に苦しむ若者が多いのか。

 こうした地域性が出る理由は思いつきませんが,ツイッターでこのマップを発信したところ,①男尊女卑の風潮と関連しているのではないか,②薩摩は琉球に対する搾取をしてきた歴史的経緯があるが,その土壌が今も生きているのではないか,といった意見が寄せられました。②などは,ユニークですね。
https://twitter.com/gwinjacket/status/768755339080589312

 今回のデータは,各地域の労働行政の参考にもなるかと思いますので,資料として提示しておきたいと思います。

2016年8月24日水曜日

伊豆の城ケ崎海岸

 歯痛もあってか,最近,ちょっと生活が乱れています。夜型になりつつあり,今日の午前深夜も眠れず,八雲星次さんの『職業治験』をキンドルで読んでました。
https://twitter.com/tmaita77/status/768150685003112452

 朝型に戻さないといけない。そのためには,昼寝てはいけない。でも家にいると,眠気がさしたら,つい布団に入ってしまう。しからば,どこかに出かければいい。天気もいいので,そうしました。行先は,伊豆の城ケ崎海岸です。

 新百合ヶ丘始発(8:10)のロマンスカーで小田原に行き,JRで熱海へ。そこから伊豆急で城ヶ崎海岸駅まで下りました。伊豆高原駅の一つ手前です。

 タクシーを呼んで,「ぼら納屋」という有名な食事処に行き,金目鯛の丼を食しました。値は張りましたが,実に美味かった。
http://www.boranaya.com/

 その後,海岸ピクニカルコースをたどり,有名な門脇吊り橋へ。高さ23メートル,結構怖かった。


 でも,見晴らしは最高。橋の上で,シャッターを押すこと数回。上は遠景,下は橋の真下の澄んだ海です。


 その後,ピクニカルコースをさらに下り,伊豆海洋公園へ。名物のマンゴージュースを飲んで休憩。13:35のバスで伊豆高原駅に出て,そこから行きと同じルートで帰ってきました。

 定番のコースをなぞっただけですが,海を見ると,心が広々としていいです。前にも書きましたが,「海の見える街」に住みたい。移住もちょっと考えていますが,まあ今の住所(多摩市)からも,電車にちょっと乗れば海に出れるので(最も近いのは江の島),現段階では思いとどまっています。

 最後に,空と海が触れ合う遠景を一枚。壮大ですねえ。


 今日の遠足の記録です。今夜はぐっすり寝て,生活を立て直したいと思います。

2016年8月20日土曜日

都内23区の生活習慣病死亡率の推計

 昨日,ツイッターにて,都内23区の生活習慣病死亡率のデータを発信しました。各区の経済力(年収)と強く相関しているというもので,見てくださる方が多かったようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/766571255604490240

 しかるに,各区の年齢構成の影響を考慮する必要があるのではないか,という声が多数でした。なるほど,生活習慣病(がん,心臓病,脳梗塞)の死亡率は,年齢によって大きく異なっています。下表は,東京都の年齢層別の生活習慣病死亡率です。


 ご覧のように,生活習慣病の死亡率は,年齢を上がるとともに指数関数的に増加していきます。そうである以上,地域別の生活習慣病死亡率を見る際は,年齢構成の違いも考慮しなければなりますまい。

 といっても,年齢層別の生活習慣病死亡者数を,地域別に知ることはできません。そこで私は,都全体の年齢層別の死亡率(上表)を使って,23区の生活習慣病死亡率の期待値(推計値)を出し,それを実測値と照合してみることにしました。

 生活習慣病の死亡率が,年齢構成からした期待値よりも高いならば,問題であることになります。私は,上表の年齢層別の死亡率を,各区の年齢構成でウェイトづけして,生活習慣病死亡率の期待値を出してみました。

 たとえば,足立区の日本人住民の年齢構成は,0~4歳が4.14%,5~9歳が4.03%,・・・95~99歳が0.16%,100歳以上が0.02%です(2014年1月1日時点)。これを,上表の年齢層別死亡率に乗じて重みづけして,死亡率の期待値を出すと,以下のようになります。

 {(0.32×4.14)+(0.26×4.03)+・・・(939.48×0.16)+(1158.77×0.02)}/100.00=47.61

 年齢構成から期待される,2014年の足立区の生活習慣病死亡率(住民1万人あたりの死亡者数)は47.61です。しかるに,実際の生活習慣病死亡率(2014年中の死亡者数/同年1月1日の日本人人口)は54.56です。

 足立区は,年齢構成から予測される死亡率よりも,実際の死亡率が高くなっています。貧困による食習慣の乱れなどの因子が影響しているのでしょう。

 私はこのやり方で,都内23区の生活習慣病死亡率の期待値(推計値)を出し,実際の死亡率(実測値)と照合しました。下表は,その一覧表です。


 実測値が推計値を上回っている区もあれば,その逆も区もあります。

 足立区,江戸川区,荒川区,台東区は,年齢構成から期待される死亡率よりも,実際の死亡率が5ポイント以上高くなってしまっています。

 逆に,文京区,目黒区,世田谷区,杉並区は,実際の死亡率が理論値よりも5ポイント以上低し。行政にとって,誇ってよいことです。

 しかるに,上表の結果は,各区の健康増進に関わる施策よりも,住民の階層構成のような基底的要因と強く関連しているとみられます。たとえば,上表の生活習慣病死亡率の残差を,各区の平均世帯年収(2013年)と関連付けてみると,下表のようになります。


 年収が高い区ほど,生活習慣病の死亡率が,年齢構成からした期待値よりも低い傾向がみられます。年収が低い区は,その反対です。

 富裕層は健康管理や食習慣に気を遣い,病院にも足繁く通う。貧困層はその逆。上図は,経済力とリンクした「健康格差」現象のマクロ的な表現であるともいえましょう。

 各区の生活習慣病死亡率の年齢調整値は出せませんけど,今回のような残差分析(実測値-推計値)から,住民の健康に影響する地域の要因の存在は指摘できるかと思います。

 年齢構成からした期待値と実測値の照合。こういうデータにも,各区の健康行政の関係者は関心を払うべきかと存じます。

2016年8月18日木曜日

女性からの校長輩出率(都道府県別)

 帯状疱疹が治ったと思ったら,今度は歯痛に苦しんでいます。2年前に神経を抜いた左奥歯の根に膿ができているとのこと。現在,抗生物質を投与して様子見です。

 昨日までは激痛でしたが,やっと抗生物質が効いてきて,ちょっと落ち着いてきました。ブログを何日も放置するのは気分がよくないので,手元にあるネタで記事を書くことにします。

 前々回は,女性が校長になれるチャンスの国際比較をしました。校長の女性比と全教員のそれを照合して,輩出率という指標を計算しました。結果は,日本は最下位。女性から校長が最も出にくい社会です。

 この指標は,国内の時代別・地域別にも出すことができます。教員(校長)の女性比率は,『学校基本調査』からすぐに計算できますので。国内のデータなんていじっても面白くなかろうと思っていましたが,率を出してみると,時代変化や地域差が結構あることに驚きました。ここにて,紹介する価値もあると判断します。

 まずは,時代変化をみてみましょう。男女雇用機会均等法が制定されたのは80年代半ばですが,それより前の時代と現在を比べてみます。私は,1980年と2015年現在について,公立学校の女性校長輩出率を計算しました。

 女性校長輩出率とは,校長の女性比率を,全教員のそれで除した値です。2015年のデータでいうと,公立小学校校長の女性比は19.1%,全教員のそれは62.6%ですので,女性からの校長輩出率は0.305となります。男女に平等にチャンスが開かれている場合は,この値は1.0になりますが,現実はその3分の1であると。

 これは2015年の公立小学校の数値ですが,中高はどうでしょう。また昔はどうか。下表は,結果の一覧表です。


 さすがに,昔に比したら数値は上がっています。35年前では女性校長はほとんどいなかったのですね。比率もさることながら,実数をみても驚かされます。1980年の公立中学校の女性校長は12人,公立高校は6人です(全国で!)。

 しかしそれ以降,男女雇用機会均等法(1985年)や男女共同参画社会基本法(99年)などの法律もでき,女性の社会進出を促す取り組みが進められてきました。指導者層の女性比を増やそうという政策も,よく見られます。それゆえか,学校のトップの女性割合も高まり,ベースを勘案した女性輩出率も上がってきています。

 これは誇っていいことですが,絶対水準はまだまだ低い。先に記したように,校長になるチャンスが男女で平等ならば上表の輩出率は1.0になるはずですが,現実はさにあらず。女性が校長になれるチャンスは,小学校は男性の3分の1,中学校は7分の1,高校は5分の1という有様です。他国と比しても,わが国の女性からの校長輩出率が低いことは,前々回の記事でみた通り。

 なお,この指標は国内の地域によっても違っています。国内の地域比較なんて「どんぐりの背比べ」だろうと思っていましたが,47都道府県の値を出してみると,結構なバリエーションがみられます。

 たとえば2015年の公立小学校でいうと,女性からの校長輩出率は,最高の0.6361(石川)から最低の0.0728(山梨)まで分布しています。女性が校長になれるチャンスは,前者は後者の9倍近くです。

 2015年現在における,女性校長輩出率の都道府県ランキングをみていただきましょう。


 小学校と高校のトップは石川,中学校のトップは神奈川です。この2県は,女性が校長になれるチャンスが相対的に高い。アファーマティブ・アクションのようなことをしているのでしょうか。

 一方,中部の山梨は芳しくない。郷里の鹿児島も,小学校は下から2位です。高校をみると,島根の率は0.0,つまり女性校長ゼロです。何もしないでこうなるならば,人為的なテコ入れ,アファーマティブ・アクションも求められるでしょう。

 あなたの県は,どの辺りですか。資料として,見ていただけたらと思います。ランキングは競争を煽る,レッテル貼りになるなど,否定的な意味合いで取られることが多いのですが,そればかりではありますまい。

 学校の指導者層の属性を多様化しようと,各地域が競うのは結構であり,その集積によって現場もよくなります。それを促すのが,上記のようなデータの公表です。既存統計をちょっといじれば,こういうデータもすぐに出せる,ということをお知りいただきたいと思います。

2016年8月14日日曜日

東京湾フェリーに乗る

 今日も遠足に行ってきました。

 お昼前に,二郎・亀戸店で汁なしを食しました。トッピングは,ニンニクマシマシ。恰幅のいい店主さんが,ドサッと入れてくれました。これくらい入れてくださると,ありがたい。


 しかし,昨日の夜から少しズキズキしていた左奥歯(2年前に抜髄)が痛くなってきて,噛めない事態に。泣く泣く,5分の1ほど残してしまいました。ゴメンナサイ。

 その後,総武線快速(G車)で君津まで行き,内房線の普通(1時間に1本)に乗り継いで,浜金谷へ。駅から10分ほど歩くと,東京湾フェリーが出る浜谷港があります。

 東京湾フェリーは,浜谷港(千葉)と久里浜港(神奈川)を40分ほどで結ぶ航路です。これを機に,乗ってみることにしました。片道720円なり。

 写真を3枚。上は切符,中は遠ざかる浜谷港(千葉側),下は船上から臨む三浦半島(神奈川)です。


 夕刻は,沈む夕日が絶景だそうです。3枚目の写真が,鮮やかな黄金色に染まることでしょう。会社のHPにて,何時の便でそれが拝めるか紹介されていますので,時刻を見計らっていくとよいでしょう。富士山もくっきりして,ダイヤモンド富士が拝めるかも。

 久里浜港に着いたら,京急バスで京急久里浜駅に出て,そこから京急快特で横浜まで。あとは,横浜線と小田急で帰ってきました。

 先日の三崎めぐりがよかったので,また気晴らしにと出かけたのですが,今日は疲労になってしまったかな。左奥歯のズキズキもひどい。行きつけの歯医者さんは盆休みなので,買ってきた市販の鎮痛剤(ロキソニン)でしのぐしかありません。

 やれやれ,帯状疱疹が治ったと思ったら,今度は歯痛です。40になって,体のあちこちにガタがきています。6月初頭には,ギックリ腰にもなりましたしね。

 かといって,家に閉じこもっているばかりではよくない。今月の22~26日の締め切りラッシュを乗り切ったら,今度は伊豆の城ケ崎にでも足を延ばそうと思っています。有名なつり橋を渡ってみたいのです。

追伸:
 今日の北海道新聞にて,子どもの自殺についてちょっとコメントしております。ご覧くださいませ。7月28日の日経デュアル記事でも主張したことです。
http://dd.hokkaido-np.co.jp/lifestyle/education/2-0072833.html
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=8851

2016年8月13日土曜日

女性・若年からの校長輩出率

 教員にはいろいろな職階がありますが,そのトップは校長です。

 校長は「校務をつかさどり,所属職員を監督する」ほか,職員会議を主宰するなど,それなりの権限を持っています。政策文書でも,「校長のリーダーシップ」という文言をよく見かけますが,学校運営の成否は,リーダーの校長の手腕にかかっているといっても過言ではありません。

 その校長ですが,どういう属性の人がなっているのでしょう。私の小・中・高をふりかえると,朝礼でありがたい講話をしてくださったのは,一貫して,白髪のおじいさんばかりでした。全国的にても,校長先生は,たいがい高齢の男性でしょう。

 国際教員調査(TALIS 2013)のデータにて,日本の中学校校長の属性をみると,女性比や若年比はとても低くなっています。女性比は6.1%,若年(50歳未満)比は1.5%です。

 しかし国際標準からしたらこれは特異で,世界を見渡すと,どっちの指標も4割くらいの国が多くなっています。南米のブラジルにいたっては,女性比は72.1%,若年比は67.1%です。両指標のマトリクスに各国を配置したグラフは,昨日ツイッターで発信しました。「日本の校長は,オヤジばっか」です。
https://twitter.com/tmaita77/status/764105003715792897

 しかるに,各国の校長の属性は,教員全体のそれを反映しています。ブラジルの校長の女性比や若年比が高いのは,中学校教員全体のそれが高いからです。そこで,ベースの構成を考慮して,女性や若手からの校長輩出チャンスを数値化してみましょう。

 私は,中学校教員(校長除く)と中学校校長の女性比,若年比を国ごとに計算しました。そして,以下の操作をすることで,女性や若年層(50歳未満)から校長が出る確率を出してみました。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 中学校校長の女性比(若年比)/中学校教員の女性比(若年比)

 簡単にいうと,校長での女性比(若年比)を,教員全体のそれと照合し,割り算をしたわけです。くだくだ口で説明するより,計算表をみていただいたほうが早いでしょう。


 日本では,中学校教員(校長除く)の女性比は39.0%ですが,校長では女性は6.1%しかいません。よって,女性からの校長輩出率は,6.1/39.0=0.156 という数値で測られます。若手(50歳未満)からの輩出率はもっと低く,たったの0.022です。

 お隣の儒教社会・韓国では,50歳未満の校長はゼロですので,輩出率もゼロとなっています。

 アジアの2国はこうですが,世界を見渡すと,高い値がちらほら見られます。ブラジルの女性校長輩出率は1.0を超えています。教員全体の女性比より,校長でのそれが高い。つまり,男性よりも女性のほうが校長になりやすい,ということです。アラブ首長国連邦もそう。これらの国では,「教員は女性の仕事」という考えがあるのかもしれませんが,このような社会もあるのですね。

 若手からの校長輩出率のマックスは,アメリカの0.868です。さすが「チャンス」の国。年齢に関係なく,有能な教員はトップに昇格できるようです。「校長試験の受験はまだ早い」などと,年齢を理由に引き止める日本とは大違いですな。

 女性・若年からの校長輩出率をグラフにしましょう。横軸に女性,縦軸に若年(50歳未満)からの校長輩出率をとった座標上に,35国を配置すると,下図のようになります。


 日本と韓国の外れっぷりがスゴイこと。女性や若手が,トップになりにくい社会の典型です。男性優位,年功序列の風潮がはっきりと表れています。

 どの集団であれ,成員の属性があまりに偏るのは,好ましくないといいます。どの自治体にも「**校長会」という組織があり,教育施策の決定に際して大きな影響力を持っていますが,そのメンバーが高齢男性だらけというのは考えものでしょう。

 トップの属性は多様化したほうがいい。まあ,昔に比したら事態は幾分かマシになっているのでしょうが,国内の時系列や地域別の差なんて「どんぐりの背比べ」で,国際的にみたら,上記のような惨憺たる様です。

 今回のデータをエビデンスにして,学校のトップの登用の在り方について,一考をめぐらすのもよいかと思います。

2016年8月11日木曜日

一般入試を経由した学生の率

 私立学校振興・共済事業団の調査によると,私立大学の44.5%が定員割れになっているそうです。前年度より1.3ポイントの増。少子化により,大変な状況になっていることがうかがえます。
http://this.kiji.is/133843338573678070

 一口に私立大学といっても,ピンからキリまで。いわゆる入試偏差値が低い大学は,もうなりふり構わず学生獲得に走っていることと思われます。面接で志望者が入学に合意すれば合格という,「アグリーメント入試」をやっている大学もあるといいます。
http://www.j-cast.com/tv/2015/02/20228365.html

 正規の学力試験を課すと受験生が来ない,学生を何とか集めるためとはいえ,これはさすがにどうかと思います。文科省もそういう考えのようで,是正指導の対象となっているようです。

 私は,一般入試を経由した学生の比率が,いわゆる大学ランクによってどう違うかを知りたくなりました。まあ結果は想像できますが,これをデータで可視化することは,昨今の大学入試の機能不全を訴える上で,意義あることといえましょう。

 読売新聞社の『大学の実力2016』(中央公論新社)には,2015年5月時点の学生数と,同年春の入学者数が,大学・学部別に掲載されています。試みに埼玉県内の私立大学のデータを使って,上記の課題に接近してみました。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2015/09/004767.html

 分析対象は,同県内の18私立大学・46学部の学生のデータです。たとえば,教員採用試験の合格率が高い文教大学教育学部のデータをみると,2015年5月時点の学生数は1495人(①),同年春の入学者総数は384人(②),うち一般入試経由者は266人(③),となっています。

 よって一般入試を経た学生数は,①×(③/②)=1036人と見積もられます。一般入試以外(AO等)の経由者は,1495-1036=459人です。

 私はこのやり方で,埼玉県内の18私立大学・46学部について,一般入試経由学生とその他の学生の数を計算しました。そして,各学部の偏差値に基づいて,偏差値グループ別の集計表を作成しました。下表がそれです。


 合計5万8022人の学生のデータですが,予想通り,下位ランクの学部ほど,一般入試を経由した学生の率は低くなっています。偏差値40未満の学部では,一般入試経由率はわずか11.1%,1割です。先に述べたように,まともな学力試験を課すと,学生が来ないためでしょう。

 一般入試経由率はランクを上がるほど高くなり,偏差値60以上の学部では,73.8%となります。

 上表のデータをグラフにしましょう。横幅を使って,各グループの量を比重も表現した,モザイク図にしてみました。


 全体的にみて,一般入試(青色)より,その他(白色)の領分が大きいですね。入試の多様化(個性化)といえば聞こえはいいですが,図の左側のほうを見ると,ランクの低い大学がヤケになっている様がよく分かります。

 偏差値45未満の学部は,学生数の上では全体のおよそ半分ですが,学力試験による入試はあまり機能しておらず,40未満の学部では,それは完全に機能不全に陥っています。

 これは2015年時点の断面ですが,2018年問題といわれるように,これからますます18歳人口の減少が進むことで,図の白色の領分はもっと大きくなることでしょう。

 基礎学力が十分でない学生が多く入ってくることから,いわゆるリメディアル教育(補償教育)が必要とされる所以です。この実施率は,入試偏差値ときれいに相関しています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/02/blog-post_03.html

 上記のグラフを,一昨日ツイッターで発信したところ,結構ウケました。「そもそも,底辺大学は必要ないだろ」という声も多数。偏見を承知でいいますが,私も,これに近い考えを持っています。この手の大学で6年間教えた経験からです。

 何と言いますか,学生の教育機関というよりも,希望剥奪機関として機能しているように感じました。在学中にかけて,学生の覇気がなくなってくる。ある学生は「諦めムードに染まる」と言いましたが,言い得て妙だと思いました。

 80年代の高校格差研究の言葉でいうと,「低位同質的社会化」です。私の仮説ですが,「未来に希望がある」という学生の割合は,1年時には分散していたのが,4年時には低い水準に収束する。こういう傾向がみられると思われます。学生の意識変化を,パネル形式で明らかにする調査をやったら面白いでしょう(ランク別に)。武内清教授とかが,されているのかしら。

 むろん,いわゆる下位大学の中にだって,そのラベルを跳ね返し,学生のレベルを入学時からうんと引き上げている大学もあるでしょう。そういう実践には敬意を表しますが,その具体例を私は寡聞にして知りませぬ。知っているのは,上記のようなネガティヴな例だけです。

 給付型奨学金の導入が検討されていますが,大学生のどの層を対象とするか。議論の焦点はココです。私が経験したような,希望剥奪機関として機能している大学に貴重な資源を注入することには,批判も多いでしょう。

 大学も,公的資源の恩恵にあずかるからには,教育の効果を可視化する努力が求められます。いくらでもいじれる就職率などとは別の形でです。第三者機関による,学生の意識のパネル調査などは,そのデータを得るいい方法だと思うのですが,いかがなものでしょうか。

2016年8月9日火曜日

日本教育新聞連載・100回突破

 暑い日が続きますが,いかがお過ごしでしょうか。東京の今日の最高気温は37度! 外に出れません。

 さて,日本教育新聞の拙連載『数字が語る・日本の教育』ですが,昨日の号の記事で,100回に到達しました。我ながら飽きもせず,よく続けてきたなと思います。まあ,ヒマだからですけど。


 2014年の3月から続けています。当初は半年の約束だったのですが,思いのほか好評だということで,現在まで継続させていただいております。ありがたや。

 「480字&図表1つ」のミニコラムです。短い文章を書くのは,意外と難しい。余計なことを書くスペースは一切ないので,無駄を削ぎ落とした,締まった文章が要求されます。短い枠の中で,主張を端的にまとめる。こういう訓練のよい機会となっています。お金もいただけて,ありがたや。

 この連載では,同紙の敏腕記者・上嶋拓也氏にお世話になっております。私のような「自己チュー人間」のお守りは,楽ではありますまい。氏の労に感謝するとともに,今後も,お付き合いいただけたらな,という希望を持っております。

 100回超え記念のささやかな企画も構想されています。来月中旬ごろの紙面に載る予定です。ご覧いただければと思います。

・第100回 若者の死因の変化 2016年8月8日
・第99回 不安定な進路 2016年8月1日
・第98回 結婚・恋愛格差 2016年7月25日
・第97回 書店の減少 2016年7月18日
・第96回 難しくなる社会調査 2016年7月11日
・第95回 2050年の人口ピラミッド 2016年7月4日
・第94回 政治的関心 2016年6月27日
・第93回 保育所在所率と虐待被害率 2016年6月20日
・第92回 数学の学力と得意度 2016年6月13日
・第91回 「生まれ」が重要な社会 2016年6月6日
・第90回 発覚しにくい家族間犯罪 2016年4月25日
・第89回 家事スキルの男女差 2016年4月18日
・第88回 高校就学支援金の効果 2016年4月11日
・第87回 やりがいの搾取 2016年4月4日
・第86回 図書館職員の非正規化 2016年3月28日
・第85回 勉強時間格差 2016年3月21日
・第84回 全入時代の不合格状況 2016年3月14日
・第83回 家族依存型の福祉 2016年3月7日
・第82回 学校の職員数 2016年2月22日
・第81回 年齢別の病気離職率 2016年2月15日
・第80回 若者の創造・冒険志向 2016年2月8日
・第79回 高卒の正社員就職率 2016年2月1日
・第78回 貧困,いじめ,不登校 2016年1月25日
・第77回 大学教育への評価 2016年1月18日
・第76回 幼児の遊び相手 2016年1月11日
・第75回 貧困問題に対する認識 2015年12月21日
・第74回 就学前施設の在所率 2015年12月14日
・第73回 保育士の給料 2015年12月7日
・第72回 父母の睡眠時間 2015年11月23日
・第71回 非行と虐待 2015年11月16日
・第70回 奨学金 2015年11月9日
・第69回 父親を越えられぬ社会 2015年11月2日
・第68回 子どもの貧困問題の現状 2015年10月26日
・第67回 非行は増えていない 2015年10月19日
・第66回 生徒と教師の関係は 2015年10月12日
・第65回 スマホと友人関係 2015年10月5日
・第64回 子どもの自殺 2015年9月28日
・第63回 体力差の分布 2015年9月21日
・第62回 学テ無解答率と通塾率 2015年9月14日
・第61回 年齢別の精神疾患休職率 2015年9月7日
・第60回 キレる老人たち 2015年8月24日
・第59回 教員採用試験の競争率推移 2015年8月10日
・第58回 教員採用試験のタイプ 2015年8月3日
・第57回 朝食と算数学力の相関 2015年7月27日
・第56回 自尊心の凝縮化現象 2015年7月20日
・第55回 外部指導員との意識差 2015年7月13日
・第54回 いじめ目撃時の対応 2015年7月6日
・第53回 教員の女性比 2015年6月22日
・第52回 成人の知的好奇心 2015年6月15日
・第51回 教員給与の相対水準 2015年6月8日
・第50回 若者のスマホ依存 2015年6月1日
・第49回 理系学力と性差 2015年4月27日
・第48回 就学援助率地図 2015年4月20日
・第47回 暴力の低年齢化 2015年4月13日
・第46回 家庭環境と非行 2015年4月6日
・第45回 コンピュータ使用の国際比較 2015年3月23日
・第44回 中退者の将来展望 2015年3月16日
・第43回 同性愛への寛容度 2015年3月9日
・第42回 得意・不得意な教科 2015年3月2日
・第41回 虫歯と貧困 2015年2月23日
・第40回 教員の社会人経験 2015年2月16日
・第39回 戦争体験世代の減少 2015年2月9日
・第38回 共働きと愛情 2015年2月2日
・第37回 子どもの肥満地図 2015年1月26日
・第36回 発達の早期化 2015年1月19日
・第35回 子どもの体力変化 2015年1月12日
・第34回 理科嫌いは都市に多い? 2014年12月15日
・第33回 手伝いの今昔 2014年12月8日
・第32回 学級規模の国際比較 2014年12月1日
・第31回 若者の道徳観の変化 2014年11月24日
・第30回 読書の国際比較 2014年11月17日
・第29回 子育て期の人口増加率地図 2014年11月10日
・第28回 中学生の長期欠席 2014年11月3日
・第27回 児童虐待の概念拡張 2014年10月27日
・第26回 成人の通学率 2014年10月20日
・第25回 部活指導時間の国際比較 2014年10月13日
・第24回 大人のいじめ 2014年10月6日
・第23回 若者の自殺増加 2014年9月22日
・第22回 浪人生の減少 2014年9月15日
・第21回 ケータイ・スマホ利用と学力 2014年9月8日
・第20回 新規採用教員の高齢化 2014年9月1日
・第19回 教員の勤務時間分布 2014年8月25日
・第18回 親の職業を知らない子ども 2014年8月11日
・第17回 教員の学習行動 2014年8月4日
・第16回 大学進学率の地図 2014年7月28日
・第15回 一人親世帯の貧困 2014年7月21日
・第14回 体験格差 2014年7月14日
・第13回 私立小学生,家庭の年収 2014年7月7日
・第12回 家庭の親密度と非行の関連 2014年6月23日
・第11回 少年の犯罪化・成人の非犯罪化 2014年6月16日
・第10回 中学生のいじめ容認率地図 2014年6月9日
・第9回 問題行動の季節 2014年6月2日
・第8回 理科の授業スタイルの国際比較 2014年4月28日
・第7回 貧困と学力の相関 2014年4月21日
・第6回 勉学スタイルの地域比較 2014年4月14日
・第5回 落第の国際比較 2014年4月7日
・第4回 教員の非正規化 2014年3月24日
・第3回 教員勤務時間の国際比較 2014年3月17日
・第2回 病(辞)める教員たち 2014年3月10日
・第1回 教員の年齢ピラミッド 2014年3月3日

2016年8月7日日曜日

この10年間で増えた産業,減った産業

 8月1日の記事では,「この10年間で増えた職業,減った職業」を明らかにしました。今回は,その産業バージョンです。

 職業と産業は別個の概念で,「最近,この業界は・・・」というとき,多くは産業区分が想定されています。

 参照したのは,『国勢調査』の産業小分類統計です。先日公表された,2015年調査の速報結果では,253の産業の就業者数が集計されています。これを,10年前の2005年の数値と照合してみました。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka.htm

 たとえば,保育所や児童養護施設といった児童福祉事業で働く就業者は,2005年では63万5087人(①)でしたが,2015年では90万2000人(②)に増えています。増加率にすると,(②-①)/①=42.0%,4割の増となります。共働き世帯が増えていることもあってか,増えていますね。

 同じやり方で,それぞれの産業の就業者の増加率を出しました。まずは,この10年間で大幅に増えた産業を見ていただきましょう。下表は,就業者が20%以上増えた産業です。増加率が高い順に並べています。


 トップは,郵便業で,なんと174%(1.74倍)もの増加率です。郵便局で働く人だけでなく,宅配業も含まれるとみられます。ネット通販の普及により,需要が高まっている業種です。

 老人福祉,障害者福祉,児童福祉といった福祉産業も増えていますね。配達飲食サービス業も,4割近くの増。高齢化という時代変化の影響を感じます。

 不動産業も増えていますが,空き家の管理・仲介といった形で,この産業も需要が増えているのでしょうか。

 では逆に,この10年間で就業者が大幅に減った産業は何か。20%以上就業者が減った産業のリストは,以下のようです。


 最も減っているのは,労働者派遣業です。ブラック労働の温床ということで,ハケンへの風当たりが強くなっていますが,その影響でしょうか。

 たばこ製造業も減っていますね。最近は,どこもかしこも禁煙。私も学生の頃は吸っていましたが,2008年に止めました。

 出版不況ゆえか,出版業や印刷業も減っています。最近は,大学の紀要やシラバスも電子化されており,印刷会社への発注も減っていることでしょう。ネットの普及のダメージをもろに被っている業種です。

 本屋や文具業も減っていますね(マイナス24%)。街の書店が全国的に淘汰されていることは,先日ニューズウィーク日本版サイトで公表した拙稿でも触れました。人口当たりの書店数マップの変化は,まるで文化の「生き血」が抜かれているかのような変化です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/08/ga-1.php
 
 大雑把にみて,福祉など,人を顧客とする産業が増えて,製造業など,モノを扱う産業が衰退しているように見えます。産業のソフト化という変化です。少子高齢化が進む中,これから先も,こういう変化は続いていくでしょう。

2016年8月5日金曜日

県別・性別の大学進学率(2016年春)

 昨日,今年の『学校基本調査』の速報結果が公表されました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 朝日新聞では「大卒の就職率,過去最高」,「短大生の減少」といった記事が出ていますが,私は都道府県別の大学進学率に関心を持ちます。『学校基本調査』のデータが公開されたら,最初に明らかにするのはコレです。

 今年春の4年制大学進学率(以下,大学進学率)は,全国値では52.0%となっています。昨年の51.5%より上がっていますね。これは,18歳人口ベースの浪人込みの進学率です。

 分子と分母の数値を引き合いにして,計算の方法を説明しましょう。分子は,今年春の大学入学者数です。その数,61万8424人。分母は推定18歳人口で,3年前(2013年春)の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数(119万262人)です。よって大学進学率は,上述のように52.0%となります。同世代の2人に1人が大学に行く状況の,数値的な表現です。

 分子には浪人も含まれますが,今年春の18歳人口からも,浪人経由の大学入学者が同程度出るものと仮定し,両者が相殺するとみなします。

 これは,公的に採用されている,18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率の計算方法です。私が独断で考えたものではありませぬ。

 県別の大学進学率を出す場合は,分子には,当該県の高校出身の大学入学者数が用いられます。私の郷里の鹿児島を例にすると,今年春の本県の高校出身の大学入学者(浪人込み)は5988人。推定18歳人口(3年前の中卒者数)は1万6724人。よって,今年春の鹿児島の大学進学率は35.8%となります。全国値の52.0%よりだいぶ低い。

 同じやり方で,2016年春の47都道府県の大学進学率を計算しました。ジェンダー差もみるため,男女別の進学率も出しました。下表は,その一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。赤字は上位5位を意味します。


 どうでしょう。男女計の大学進学率をみると,最高は東京の72.7%,最低は鹿児島の35.8%で,倍以上のレインヂがあります。同じ国内でも,大学進学率にこうも違いがあることに驚かされます。毎年のことですけど。

 大学進学率は,大学がたくさんある都市部で高くなっています。地域分布のマップは,昨日ツイッターで発信しました。リンクを貼っておきます。
https://twitter.com/tmaita77/status/761194883566624768

 大学進学率には,ジェンダー差もあります。全国値では男子は55.6%,女子は48.2%で,前者は後者の1.15倍です。昔からのことですが,家庭の事情が許すなら「男子優先」という考えは未だにに残っていると思われます。

 その程度は県によって違っているようで,鹿児島では,男子の進学率は女子の1.37倍です。進学率には10ポイント以上の性差があります。「三角関数を女子に教えて何になる」という,昨年の県知事の発言も思い出されますねえ。

 首都の東京では大学進学率の性差はほとんどなく,徳島では,女子のほうが高くなっています。性差に地域的なバリエーションがあることは,人為的な政策によって,大学進学チャンスの性的不平等を解消できるという,希望的な事実とも読めます。

 想像がつくと思いますが,各県の大学進学率は,社会経済指標と非常に強く相関しています。県民所得,住民の高学歴率・・・。この分析は,本ブログでも何回かしましたが,今回紹介した最新のデータを使っての分析は,これから執筆する,プレジデント・オンラインへの寄稿記事でやることにしましょう。公開は,今月の下旬です。ご覧いただければと思います。

2016年8月3日水曜日

三崎めぐり

 一週間前から,帯状疱疹ができて苦しんでいます。原因はストレスとのことですので,気晴らしに,明るい太陽を浴び,きれいな海を見ようと,三浦半島の南端まで足を延ばしてみました。


 町田から横浜線で横浜まで行き,そこから京急の快特で南端の三崎口まで一本です。終点に近づくと,車窓から見える海が素晴らしい。頭の中で,70年代の名曲「岬めぐり」(山本コータロー)がリフレインしました。「みさき」の字が違いますけど。

 駅に着いて,さてどこに行くかと周遊マップを眺めたところ,半島の南端の城ケ島に行こうと決めました。バスで下り,城ケ島大橋を渡って到着です。駅からおよそ30分。

 ちょうど昼でしたので,名物のマグロ丼を食し,城ケ島灯台まで上りました。きれいな夏空が広がり,眺望もよかったです。


 灯台の丘から下りて,海岸の岩場を散策。喉がカラカラになったので,イカの丸焼きで一杯。医者から酒は止められているのですが,ビール一瓶くらいはいいでしょう。


 帰りはバスで橋を渡るのではなく,渡り船で島を後にしました。桟橋でボタンを押せば,5分ほどで迎えにきてくれます。城ケ島~三崎港まで300円です。船の窓から身を乗り出して,往路で渡った城ケ島大橋をパチリ。


 三崎港に着いたとき,ちょうど遊覧船が出る時間でしたが,ちょっと疲れていたので,これに乗るのは止めにしました。またの機会にしましょう。

 帰りは,半島の西海岸をバスで逗子まで上ることも考えましたが,行きと同じく,京急で東海岸を上りました。帰りの三崎口駅で気付いたのですが,三浦半島南端の周遊フリーパスみたいのがあるのですね。横浜駅を起点にすると,往復の京急料金込みで2960円。ああ,これを買えばよかった。
http://www.keikyu.co.jp/information/otoku/otoku_maguro/

 日帰りの遠足でしたが,気晴らしになりました。帯状疱疹は「休め」というサインらしいので,今週は仕事をしないで静養したいと考えています。

 私は,鹿児島の海が見える地域で育ちました。海は,好きです。魔女の宅急便のテーマではないですが,「海の見える街」に住みたい。三浦半島の南端の三浦市に移住してもいいかなと,ちょっと感じました。ここなら,都心の国会図書館や統計図書館にも,入用の場合は行けますしね(片道2時間ほど)。
 
 賃貸サイトで検索してみると,安い物件があるわあるわ。

 私のような文筆業の場合,住むところはどこでもいいわけですし。気晴らしの遠足でしたが,こんなことを考えたりもしました。本日の記録です。

2016年8月1日月曜日

この10年間で増えた職業,減った職業

 帯状疱疹の痛み(違和感)もあり,早く目が覚めました。することがないので,ブログでも書こうと思います。

 社会は,人々の分業から成り立っています。多くの人は何らかの職業に就き,社会的な役割を遂行しているのですが,どういう職業が求められるかは,時代によって違います。

 それを目に見える形で示してくれるのは,官庁統計の職業別の就業者数です。時代の変化に応じて,需要が高まっているとみられる職業を把握するには,ここ数年の変化を観察するのがよいでしょう。

 『国勢調査』の現行の職業小分類では,232の職業カテゴリーが設けられています。先日公表された,2015年の『国勢調査』では,この分類に依拠して,職業別の就業者数が集計されています。同じ分類による就業者数の比較は,2005年調査まで遡ることが可能です。

 私は,232職業の就業者数が,2005年から2015年までの10年間にかけてどう変わったのかを調べました。たとえば,高齢化の進行により需要が高まっているとみられる介護職員をみると,2005年では75万1485人(①)でしたが,2015年では127万9200人(②)にまで膨れ上がっています。増加率にすると,(②-①)/①=70.2%です。10年前に比して7割の増,スゴイですね。

 これは介護職員の増加率ですが,232職業の増加率を同じやり方で出すと,もっと高い値も出てきます。下表は,この10年間で就業者数が20%以上増えた職業です。


 需要が高まっている職業の一覧ですが,いかがでしょう。トップの情報処理・通信技術者は766.7%(77倍)の増です。情報化の進展により,この手の職業の需要が高まっているのでしょう。3位のソフトウェア作成者についても,同じことがいえると思います。

 2位のハウスクリーニング職は,空き家のクリーニング業者かもしれません。空き家の有効活用に際して,求められる仕事ですしね。あるいは,孤独死の現場の特殊清掃のようなものも含まれるかも。

 黄色マークをしましたが,介護職員や保育士も増えていますね。しかし,これらの職業はまだまだ不足。今後,もっと増えることが見込まれます。

 次に,就業者数が大きく減っている職業を見てみましょう。この10年間で,就業者数が30%以上減っている職業をリストアップしてみました。


 最も減っているのは,物品預かり人で,87%の減です。将来的にみても,AIで代替されそうな仕事です。調査員も,『国勢調査』をはじめ,最近の社会調査はネット経由でなされることが多いので,不要になりつつあるのでしょうか。

 ただ大工や航空機操縦士(パイロット)は,需要があるにもかかわらず,なり手が減っているためと思われます。よく言われますが,大工の高齢化率はスゴイ。建設需要もあり,この職業はひっぱりだこです。パイロット不足も,よく指摘されること。

 この10年間で減っている(淘汰されている)職業は,近未来では,機械で代替される可能性が高いといえるかもしれません。「将来なくなる仕事」の目安として,参考になるのではないでしょうか。

 今世紀に入ってからの10年間という短期の観察ですが,ドラスティックな変化が見受けられます。社会とは,変わるもの。「現在,こういう職業の需要が高まっている。だから教育もそれに即したものにすべし」という論は,いささか短絡的です。

 社会の職業需要は常に変わるものであり,今後,社会変化のスピードが速くなる中,その度合いはますます顕著になるでしょう。汎用性と専門性をバランスをとることが,職業教育に求められる所以でもあります。